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倦怠感が続くのは年齢のせい?更年期と喘息の見分け方

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

「年齢のせいかな」「更年期だから仕方ない」と思いながら、だるさを我慢していませんか?

実は、そうした不調の背景に「喘息」が隠れているケースがあります。

更年期に重なる体の変化や症状が混ざり合って、見分けがつきにくいのです。

診察では、「更年期のせいだと思っていたけれど、検査で喘息が見つかった」という方も少なくありません。

この記事では、咳と倦怠感の裏に潜むサインを、医師の立場から丁寧に解説します。

1. 更年期と喘息の発症時期が重なる理由


女性の体は40代後半から50代にかけて、ホルモンバランスが大きく変化します。

特に、エストロゲンというホルモンは呼吸器にも影響を与え、気道の炎症を抑える働きを持っています。

そのため、更年期にエストロゲンが減少すると、咳や息苦しさなどの症状が出やすくなるのです。

1-1. ホルモンと気道の関係

エストロゲンやプロゲステロンは、気道粘膜の炎症を抑制し、呼吸をスムーズに保つ働きがあります。それらが減ると、軽い刺激でも気道がむくみ、咳が長引きやすくなるのです。

「子どものころは喘息がなかったのに、閉経前後で初めて発作を起こした」という女性も少なくありません。

このような後発性(こうはつせい)喘息は、更年期世代に特に増加しています。

ホルモンの変化だけでなく、仕事・家庭・介護といった生活ストレスが重なることで、免疫バランスや自律神経も乱れ、気道が過敏に反応しやすくなるのです。

【参考情報】『女性ホルモンと呼吸・循環調節』日本呼吸器学会
https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/037050359j.pdf

【参考情報】”Asthma” by Office on Women’s Health (U.S. Department of Health & Human Services)
https://www.womenshealth.gov/a-z-topics/asthma

1-2. 「年齢のせい」と思いやすい年代の落とし穴

更年期は、不眠・発汗・だるさなど、多様な症状が出やすい時期です。

そのため、「これも更年期の一部だろう」と思い込んでしまう方が多いのです。

しかし、喘息の場合は夜間の咳や息苦しさが強くなる傾向があり、「寝つけない」「朝起きても体が重い」といった訴えの裏に、呼吸の問題が潜んでいることがあります。

◆「朝の咳と夜の咳の違い。咳が出るタイミングを知ろう」>>

1-3. 40代以降に増える後発性喘息

子どもの時に発症する病気と思われがちな喘息ですが、成人以降に初めて発症する後発性喘息も多く見られます。

特に40〜60代の女性は発症率が上昇し、更年期と重なるため「体調のせい」と見過ごされやすいのです。

【参考情報】『成人発症喘息の女性の発症年齢』日本アレルギー学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/58/12/58_KJ00005927986/_pdf/-char/ja

2. 「咳」「だるさ」「眠れない」──それは更年期だけの症状?


更年期の代表的な症状として、倦怠感・不眠・イライラなどがよく挙げられます。

しかし、喘息でも夜間の咳や浅い睡眠、朝のだるさが起こることがあります。 この重なりが、診断を難しくしているのです。

2-1. 夜中に咳で目が覚めるなら気道炎症のサイン

夜間や明け方に咳が出やすいのは、気道の炎症が強まる時間帯だからです。

自律神経の働きが夜に副交感神経優位になることで、気道が収縮しやすくなります。

「夜だけ咳が出る」「朝になると胸が重い」という場合は、更年期だけでなく喘息性の変化も考えるべきサインです。

◆「咳が止まらず夜に眠れない時の対処法と予防法」>>

【参考情報】『夜間や早朝に呼吸が苦しくなる』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q12.html?utm

2-2. 倦怠感と咳の組み合わせに注目を

更年期の不調では、だるさが単独で出ることが多いですが、咳と倦怠感がセットで続く場合は、呼吸機能の低下が背景にある可能性があります。

呼吸が浅くなると睡眠の質も低下し、日中の集中力や気分にも影響します。

「よく寝たのに疲れが抜けない」と感じる場合、呼吸器の異常が関係していることもあるのです。

喘息では慢性的な酸素不足が原因でだるさが起こることがあります。

体が必要とする酸素が足りないと、脳や筋肉が常に軽い酸欠状態になり、「何もしていないのに疲れる」「朝から体が重い」と感じるのです。

「血液検査でも異常がないのにだるい」といった場合も、実際には呼吸機能が低下していたケースも珍しくありません。

軽度の喘息でも、睡眠中に浅い呼吸が続くと疲労が抜けにくくなるのです。

2-3. 当てはまったら要注意、呼吸器症状チェックリスト

更年期症状に隠れている呼吸の乱れに気づいていますか?

「更年期だから仕方ない」と思っていた不調の中に、実は呼吸の乱れが関係していることがあります。

次のチェックリストで確認してみましょう。

□ 夜や明け方に咳が出て目が覚めることがある
□ 朝起きても体が重く、疲れが抜けない
□ 風邪を引いていないのに咳が2週間以上続いている
□ 気温差や冷たい空気で咳き込みやすい
□ 階段や坂道で息切れを感じるようになった
□ 内科や婦人科の治療でも症状が改善しない
□ 「年齢のせいかな」と思いながら我慢している

→ 3つ以上当てはまる場合は、呼吸器内科で一度ご相談ください。

軽い症状のうちに受診することで、早めに改善できることもあります。

◆「咳・倦怠感が強いときの病院受診の目安」>>

【参考情報】『もしかしてぜん息?と思っている方へ』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/check.html

3. 「更年期のせい」と我慢してしまう方に多い傾向


「年齢のせいだから」「更年期なら仕方ない」と思い、咳やだるさを我慢してしまう方は少なくありません。

ですが、頑張っている人ほど症状を抱え込みやすいのも事実です。

体の不調は、怠けではなくSOSのサイン。 「少し休んで」「今の体を確かめて」と、身体があなたに伝えているのかもしれません。

3-1. 我慢が慢性化を招くケース

気道の炎症は、時間とともに粘膜の腫れを引き起こしたり、空気の通り道を細くしていきます。

初期のうちに治療すれば軽快するものが、放置すると呼吸が浅くなり、結果として全身の倦怠感や集中力の低下、睡眠の質の悪化へとつながります。

「なんとなく体が重い」「夜だけ咳が出る」といった軽い症状の段階で相談することが、長期的な健康を守る一番の近道です。

3-2. 「気のせい」ではなく「体の反応」

「もう少し様子を見ます」と帰宅された方が、数週間後に息苦しさを訴えて再度来院されるケースもあります。

病気だと診断されるのが怖いと感じる方もいるでしょうし、「気のせい」だとやり過ごしたくなる気持ちもよく分かります。

ですが、咳やだるさは心の問題ではなく、体が環境の変化に順応しきれていないサインなのです。

病は気からと無理に我慢するより、「今の体を確認する」ことで安心できることもあります。

◆「咳が止まらない…何科の病院に行く?」>>

【参考情報】『よくある女性の病気 動悸息切れ』日本女性医学学会
https://www.jmwh.jp/n-yokuaru13-douki.html

4. 婦人科や内科で改善しないときに考えたい「もう一つの選択肢」


「婦人科でホルモン治療をしているけれど、なんだか調子が悪い」「内科で風邪薬をもらったけれど、治った後もだるさが残る」

そんなときこそ、呼吸器内科という選択肢を思い出してほしいのです。

呼吸器内科では、咳や倦怠感の原因を呼吸の状態や炎症の有無から総合的に調べることができます。

4-1. 呼気NO検査で分かる「見えない炎症」

呼吸器内科では、咳や倦怠感の背景にある炎症を調べるために「呼気NO検査」を行うことがあります。

吐く息に含まれる一酸化窒素(NO)の濃度を測定し、気道の炎症レベルを数値化できる検査です。

痛みもなく数分で終わるため、初めての方でも安心して受けられます。

4-2. 肺機能検査で「呼吸の質」を可視化

肺活量や息を吐くスピードなどを測定し、空気の通り道が狭くなっていないかを確認します。

「軽い咳だけ」と思っていた方が、検査で気道の閉塞を指摘されるケースもあります。

治療方針が明確になることで、咳も倦怠感も改善する可能性があります。

4-3. 診断がつくことで心も体も軽くなる

「年齢のせい」と思っていた不調に明確な原因が見つかることで、心の負担もぐっと軽くなります。診断がつくということは、体の不調に理由が見つかるということです。

それだけで、漠然とした不安が減り、体への向き合い方も変わります。

「年齢のせい」でも「気のせい」でもなく、明確な体の反応として理解できることで、適切な治療やケアにつながります。

5. 咳と倦怠感を和らげる生活習慣の見直し


治療だけでなく、日々の過ごし方を少し見直すことで、喘息症状や倦怠感の改善につながることがあります。

診療では、薬の効果と同じくらい「生活リズム」「睡眠」「環境の調整」を意識していただくことを大切にしています。

◆「喘息発作を起こさないための習慣」>>

5-1. 睡眠の質を整えることが回復の第一歩

浅い睡眠や寝不足は、自律神経の乱れを引き起こし、夜間の咳やだるさを悪化させることがあります。
就寝前のスマホやカフェインを控え、深く呼吸できる姿勢で眠ることがポイントです。
咳で夜中に目が覚める方は、枕を少し高めにするだけでも呼吸が楽になる場合があります。

【参考情報】『健康づくりのための睡眠ガイド』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf

【参考情報】”Sleep and Your Health” by Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/sleep/about/?CDC_AAref_Val=https://www.cdc.gov/sleep/about_sleep/index.html

5-2. ストレスと上手に距離をとる

ストレスは自律神経を緊張させ、気道を狭くする要因になります。

完全になくすことは難しいですが、自分を追い込みすぎない時間を意識的に作るだけでも呼吸は変わります。

「10分だけ外の空気を吸う」「温かいお茶を飲む」といった小さなリセット習慣を取り入れてみましょう。

【参考情報】『ストレスと呼吸器疾患』日本アレルギー学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjmj/56/6/56_529/_pdf?utm_

5-3. 季節・環境の変化を味方にする

気温差や乾燥、花粉などの環境要因も、気道を刺激して咳や息苦しさを悪化させます。

加湿器で適度な湿度を保ち、マスクやスカーフで冷たい空気を直接吸わない工夫も有効です。

環境に合わせて呼吸を守る意識が、症状の安定につながります。

◆「季節の変わり目は喘息予防」>>

6. おわりに

更年期の不調と思っていた咳やだるさが、実は喘息によるものだったケースは少なくありません。どんなに忙しくても、自分の体の声を後回しにしないでください。

咳や倦怠感は、我慢すれば治る症状ではなく、体からの大切なサインです。

婦人科や内科で改善が見られないときは、呼吸器内科で呼気NO検査や肺機能検査を受けてみることで、原因が明確になり、安心して次の一歩を踏み出せることがあります。

「確認してみる」ことは、不安を大きくする行動ではありません。

あなたの不調には、ちゃんと理由があります。 体が出しているサインを見逃さず、専門医と一緒に向き合うことで、安心して過ごせる毎日につながります。

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