咳が止まらない…何科の病院に行く?
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

咳が止まらない状態が続くと、日常生活に支障が出ることがあります。また、周囲の方々にも気を遣うことになり、精神的にも辛い思いをされることでしょう。
特に2週間以上も咳が続く場合、単なる風邪ではなく、より深刻な呼吸器の病気が隠れている可能性があります。
このように長い間咳が治らない場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。
この記事では、長引く咳の原因や種類、適切な診療科の選び方についてご説明いたします。
1. 咳が2週間以上続く場合に考えられる病気
咳は体を守るための重要な防御反応ですが、2週間以上の間続く場合は注意が必要です。
長引く咳の原因として、さまざまな呼吸器の疾患の可能性があります。ここからは、代表的な3つの疾患について詳しく見ていきましょう。
1-1. 気管支喘息
気管支喘息は、気道の慢性的な炎症によって引き起こされる疾患です。主な症状として、咳、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)、息切れ、胸の締め付け感などが挙げられます。
気管支喘息の特徴は、症状が繰り返し起こることです。多くの場合、夜間や早朝に症状が悪化する傾向があります。
また、運動や冷たい空気に触れること、ストレスがかかる場面、アレルギーを引き起こすものに接することなどが、発作のきっかけになり得ます。
治療の主な目的は、症状のコントロールと将来的な発作リスクを減らすことです。治療の基本は以下の2つになります。
・長期管理薬:吸入ステロイド薬が中心です。気道の炎症を抑え、症状を長期的にコントロールします。症状の程度に応じて、長時間作用性β2刺激薬(LABA)やロイコトリエン受容体拮抗薬を併用することもあります。
・発作治療薬:短時間作用性β2刺激薬(SABA)が主に使用されます。これは気管支を速やかに拡張させ、急な発作を緩和します。
また、重症度に応じて、抗IgE抗体薬や生物学的製剤などの新しい治療法も選択肢となります。さらに、患者さんの生活環境の改善、アレルゲンの回避、禁煙指導なども重要な治療の一環です。
喘息は適切な治療を受けることで、多くの方が症状をしっかりコントロールし、喘息でない方と変わらない生活を送れるようになります。
ただし、治療をしないまま放置してしまうと症状が悪化して重症化することもあるため、早めの診断と治療が大切です。
【参照文献】帝京大学医学部内科学講座 呼吸器・アレルギー学『気管支喘息』
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000121253.pdf
【参考文献】”Asthma” byCleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/6424-asthma
1-2. 咳喘息
咳喘息は気管支喘息の一種で、咳だけが主な症状として現れる病気です。
通常の喘息でよく見られる喘鳴音や息切れはほとんどなく、乾いた咳が特徴とされています。
咳喘息の方の主な症状は、次のようなものです。
・夜間や早朝に悪化する咳
・会話や笑い、運動をきっかけに起こる咳
・季節の変わり目や寒暖差で悪化する咳
・風邪をきっかけに始まり、長引く咳
咳喘息は適切な治療を行わない場合、通常の気管支喘息に移行するリスクがあります。
気管支喘息の治療法と類似していますが、咳に特化した対応が必要です。
・吸入ステロイド薬:気道の炎症を抑えるため、基本的な治療として使用されます。
・気管支拡張薬:β2刺激薬やテオフィリン製剤が用いられ、咳を抑制する効果があります。
・ロイコトリエン受容体拮抗薬:咳の抑制に効果があり、吸入ステロイド薬と併用されることが多いです。
・抗ヒスタミン薬:アレルギー性の要因がある場合に使用されます。
治療期間は通常3〜6ヶ月程度ですが、個人差があるため、医師の指示に従うことが重要です。
【参照文献】日本内科学会雑誌 109 巻 10 号『咳喘息』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2116/_pdf
1-3. COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、主に長年の喫煙習慣によって引き起こされる肺の慢性炎症性疾患です。
気管支が狭くなったり、肺胞が破壊されたりすることで、徐々に呼吸機能が低下していきます。
COPDの主な症状には以下のようなものがあります。
・慢性的な咳と痰
・息切れ(とくに運動時)
・喘鳴
・胸部の圧迫感
COPDの特徴は、症状が徐々に進行することです。治療は、症状の緩和、生活の質の向上、疾患の進行抑制を目的としています。
・禁煙:最も重要な治療法です。喫煙を続けると症状が悪化し、治療効果も低下します。
・薬物療法:以下が主な治療薬です。
・気管支拡張薬:長時間作用性抗コリン薬(LAMA)や長時間作用性β2刺激薬(LABA)が主に使用されます。
・吸入ステロイド薬:重症例や増悪を繰り返す場合に使用されます。
・酸素療法:重症例で血中酸素濃度が低下している場合に行われます。
・リハビリテーション:呼吸リハビリテーションにより運動耐容能や生活の質を改善します。
・ワクチン接種:インフルエンザや肺炎球菌のワクチン接種により、感染症による増悪リスクを低減します。
症状があっても、多くの方が、「年のせいだろう」と考えて軽視してしまいがちですが、早期発見・早期治療が非常に重要です。
適切な治療を受けることで、症状の進行を遅らせ、生活の質を維持することができます。
【参照文献】環境再生保全機構 『慢性閉塞性肺疾患(COPD)基礎知識』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/copd/index.html
【参考文献】”Chronic obstructive pulmonary disease (COPD)” by World Health Organization
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/chronic-obstructive-pulmonary-disease-(copd)
2. 咳の種類、見分け方
咳にはさまざまな種類があり、その特徴を知ることで、どのような病気の可能性があるかを推測することが可能です。
ここからは、咳の種類と見分け方についてご説明致します。
2-1. 痰はある?ない?乾いた咳・湿った咳について
咳は大きく分けて、「乾いた咳」と「湿った咳」の2種類に分類されます。それぞれの特徴と、関連する可能性のある疾患について見ていきましょう。
【乾いた咳(空咳)】
乾いた咳は、痰を伴わない咳のことを指します。喉のイガイガ感や、胸のムズムズ感とともに現れることが多いです。
乾いた咳が見られる主な疾患には、以下のようなものがあります。
・気管支喘息
・咳喘息
・百日咳
・間質性肺炎
・胃食道逆流症(GERD)
乾いた咳は、気道の炎症や刺激が原因で起こることが多く、特に夜間に症状が悪化しやすい傾向があります。そのため、睡眠を妨げてしまい、体が十分に休まらないと感じる方も多いです。
【湿った咳】
湿った咳は、痰を伴う咳のことを指します。
痰の量や性状(色、粘り気など)によって、原因となる疾患を推測することができます。例えば、黄色や緑色の痰が出る場合、細菌感染の可能性が考えられます。
また、血が混じった痰(血痰)は、肺炎や肺がんなどの疾患の可能性があるため、早めに医療機関を受診して確認することが大切です。
以下は、湿った咳が見られる主な疾患です。
・急性気管支炎
・肺炎
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・気管支拡張症
・副鼻腔炎(後鼻漏)
【参考文献】”Four types of coughs and when to seek treatment” by Allina Health
https://www.allinahealth.org/healthysetgo/heal/4-types-of-coughs-and-when-to-seek-treatment
2-2. どれくらい咳が続いてる?急性の咳・慢性の咳
咳の持続期間によっても、その原因や重症度を推測する手がかりになります。
一般的に、咳は持続期間により「急性の咳」と「慢性の咳」に分類され、それぞれ異なる原因が考えられます。
【急性の咳】
急性の咳は、通常3週間未満で治まる咳のことを指します。多くの場合、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染が原因です。
急性の咳が見られる主な疾患
・普通感冒(いわゆる風邪)
・インフルエンザ
・急性気管支炎
・肺炎(初期)
急性の咳の多くは急に発症し、比較的短期間で自然に治まります。一方で、高熱が続く、呼吸困難がある、胸痛があるなどの場合には、重症な感染症の可能性もあるためすぐに医療機関を受診する必要があります。
【慢性の咳】
慢性の咳は、8週間以上続く咳のことを指します。長期間続く咳は、生活の質を著しく低下させる可能性があるため、早期の適切な診断と治療が重要です。
慢性の咳が見られる主な疾患
・気管支喘息
・咳喘息
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・胃食道逆流症(GERD)
・慢性副鼻腔炎(後鼻漏)
・薬剤性咳嗽(ACE阻害薬などによる)
・遷延性咳嗽
慢性の咳の場合、原因が複数重なっていることも少なくありません。そのため、呼吸器内科をはじめとする専門医による詳細な検査と診断が必要です。
しかし、咳の種類や持続期間をご自分で判断するのは難しい場合もあります。
もし、心配な症状がある場合は、迷わず呼吸器内科を受診しましょう。
【参考文献】”Chronic cough” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/chronic-cough/symptoms-causes/syc-20351575
3. 何科に行くべき?
咳が止まらない場合、どの診療科を受診すべきか迷われる方も多いでしょう。ここでは、一般内科と呼吸器内科の違いをご説明しましょう。また、なぜ呼吸器内科の受診をおすすめするのかについて解説いたします。
3-1. 一般内科と呼吸器内科の違いについて
一般内科と呼吸器内科は、診療の対象や目的が異なるため、患者さんの症状や疾患に合わせて選ぶことが大切です。ここでは、両者の役割と特徴についてご紹介します。
【一般内科】
一般内科は、内科全般の幅広い症状や疾患に対応する診療科です。風邪やインフルエンザ、胃腸炎など、日常的によくある病気の診断と治療を行います。
一般内科の特徴として、以下が挙げられます。
・幅広い内科疾患に対応
・初期症状の診断と治療
・必要に応じて専門科への紹介
・予防接種や健康診断なども実施
一般内科は、いわば「かかりつけ医」的な役割であり、患者さんの健康状態を総合的に診察・治療します。その上で、専門的な検査や治療が必要な場合には、各専門科への紹介を行います。
【呼吸器内科】
呼吸器内科は、呼吸器系の疾患を専門的に診断・治療する診療科です。気管、気管支、肺などの呼吸に関わる器官の病気を対象としています。
以下は、呼吸器内科の特徴です。
・呼吸器疾患の専門的な診断と治療
・高度な検査機器を用いた精密検査
・慢性呼吸器疾患の長期的な管理
・呼吸リハビリテーションの実施
呼吸器内科では、気管支喘息やCOPDなどの慢性呼吸器疾患、肺炎や肺がんなどの重篤な疾患まで、幅広い呼吸器の症状に対応します。
また、睡眠時無呼吸症候群をはじめとする睡眠関連呼吸障害の診断・治療も行います。
3-2. 迷ったら呼吸器内科へ
長引く咳でお悩みの方の場合は、呼吸器内科への受診をおすすめします。ここからは、一般内科ではなく呼吸器内科の方がどうして適切なのか、その理由をご説明いたします。
・呼吸器のプロが診断
呼吸器内科の医師は、咳や呼吸器系の病気についての専門知識が豊富です。微妙な咳の違いや肺の音を丁寧に聞き取り、原因をしっかりと見極めることが可能だと言えます。
・専門的な検査ができる
呼吸器内科では、肺や気道の状態を詳細に評価するための専門的な検査機器が整備されています。主には以下のようなものがあります。
・スパイロメトリー: 肺活量や1秒率を測定し、喘息やCOPDの診断に有用です。
・胸部CT検査: 肺がんや肺炎など、詳細な診断が可能です。
・呼気NO検査: 喘息の気道炎症を評価します。
・あなたに合った治療を
咳の原因によっては、長期的に症状を管理する必要があります。呼吸器内科では、患者さん一人ひとりに合った治療計画を立て、生活に支障が出ないように治療方針を立てます。
・早期に発見・治療ができる
咳が続く背景には、思わぬ病気が隠れていることもあります。呼吸器内科を受診することで、原因となる病気を早期に発見して、正しい治療を受けられる可能性が高まります。
・生活習慣の指導
呼吸器疾患の多くは、日常生活習慣と密接に関連しています。そのため、症状改善には、毎日の生活習慣が大切です。呼吸器内科では、疾患に応じた生活指導や禁煙支援なども行います。
咳が2週間以上続く場合、少しでも気になることがあれば呼吸器内科への受診を検討しましょう。
また、のど飴などをなめると唾液も出やすく、それを飲み込むことで喉の刺激を和らげる効果があります。ただし、のど飴を頻繁に摂取すると糖分の過剰摂取につながる可能性があるので、適度な利用を心がけましょう。
喫煙は咳を悪化させる大きな要因となります。喫煙者の方は、この機会に禁煙を検討しましょう。
受動喫煙も咳を誘発する原因となるので、周囲の方の協力も得ながら、喫煙環境を避けるようにしましょう。
繰り返しにはなりますが、長引く咳は、単に不快な症状というだけでなく、より深刻な呼吸器疾患の兆候である可能性があります。そのため、早期の専門的な診断と適切な治療が非常に重要です。
呼吸器内科では、先ほどご説明した各種検査を通じて、咳の原因を特定し、適切な治療方針を立てることができます。
例えば、咳喘息と診断された場合は、吸入ステロイド薬などによる治療を行います。COPDの場合は、気管支拡張薬の使用や禁煙指導、呼吸リハビリテーションなどを組み合わせた総合的な治療を行います。
また、咳の原因が感染症である場合は、適切な抗生物質の投与や対症療法を行います。胃食道逆流症による咳の場合は、制酸薬の処方や生活習慣の改善指導を行います。
このように、咳の原因は多岐にわたるため、それぞれの原因に応じた適切な治療を受けることが、症状の改善につながります。
【参考文献】“Pulmonologist” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/22210-pulmonologist
4. おわりに
咳は、体を守るための大切な防御反応です。一方で、2週間以上にわたって続く咳は、単なる風邪ではなく深刻な呼吸器疾患の症状であるかもしれません。
長引く咳の原因となる可能性のある疾患は多岐にわたります。ご自身の咳の種類を把握し、適切な診療科の選んで受診しましょう。
呼吸器内科では、専門的な知識と高度な検査機器を用いて、的確な診断と適切な治療を行うことができます。また、慢性的な呼吸器疾患の場合、長期的な管理や生活指導も可能です。
「たかが咳」と軽視せず、体からのSOSサインとして捉え、呼吸器内科をはじめとする医療機関での診断を検討しましょう。早期発見・早期治療が、より良い治療成果につながります。