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朝の咳と夜の咳の違い。咳が出るタイミングを知ろう

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

咳が出る病気は、風邪などの一般的な感染症から、喘息、COPDなどの慢性呼吸器疾患まで様々です。

適切な治療を行うためには、まずは咳の原因を特定することが大切です。

咳の原因を調べるためには、「症状が続いている期間」「咳の音や痰の有無」の他に、「咳が出るタイミング」も重要な手がかりになります。

この記事では、時間帯別に咳が出る理由や考えられる病気について紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

1.早朝に咳が出やすい場合

「寝起きに咳が止まらない」というお悩みはありませんか?
早朝に激しい咳が出る場合、喘息や咳喘息が考えられます。

喘息は、気道に炎症が生じることで狭くなり、発作的に激しい咳や呼吸困難などの症状が現れる病気です。「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」のような喘鳴が特徴的です。

喘息の患者さんは、症状がない時でも気道に慢性的な炎症が起きている状態で、少しの刺激でも反応しやすい過敏な状態となっています。
そこに、アレルゲン、タバコ、風邪などの感染症、肥満、運動、気圧の変化などさまざまな刺激が加わることで発作が起こります。冷たい空気も刺激となるため、夜間や早朝に激しい咳が見られます。

◆『喘息とはどんな病気か?症状・原因・治療方法を解説!』>>

【参考情報】日本呼吸器学会『呼吸器Q&A 夜間や早朝に咳が出ます』
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q03.html

咳喘息は、喘鳴がなく咳のみが症状として現れる喘息の前段階の状態です。
特に風邪などの後に起こり、その3〜4割は本格的な喘息へと移行します。喘息に移行する前に、早めに治療を開始することが大切です。

【参考情報】『咳喘息』日本内科学会雑誌第109巻第10号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2116/_pdf

喘息・咳喘息のどちらも、夜間から早朝にかけて症状が悪化しやすいという特徴があります。

喘息の場合、市販の咳止め薬では根本的な治療にはならず、かえって「アスピリン喘息*」を誘発する恐れもあります。
早期に治療を開始し、薬や自己管理で適切にコントロールすることができれば、健康な人と同じような生活を送ることができます。気になる症状がある場合は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。

※アスピリン喘息・・・市販の解熱鎮痛薬や風邪薬などに含まれているアスピリンという成分や、その類似成分によって誘発される喘息

2.日中に咳が出やすい場合


日中に咳が出やすい場合は、身体活動に伴う負荷や、アレルゲン、ストレスや緊張などが原因として考えられます。

2-1.活動・運動時に咳が出る場合

歩いたり、階段を登る際に咳や息切れ、痰などの症状が出る場合は「COPD(慢性閉塞性呼吸器疾患)」かもしれません。
COPDはタバコの煙などの有害物質に長期間さらされることで肺に炎症が起こる病気で、中高年に多い生活習慣病のひとつです。
喫煙歴が長く、慢性的な咳や、労作時の息切れ・呼吸困難がある場合はこの疾患が強く疑われます。

進行すると日常生活が困難になるほど息苦しくなり、在宅酸素療法が必要になる場合もあります。
早期に禁煙することが大切ですので、思い当たる症状がある場合は呼吸器内科を受診し、必要に応じて禁煙外来で相談することをおすすめします。

【参考情報】日本呼吸器学会『COPD(慢性閉塞性肺疾患)』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html

運動をした時に激しい咳や喘鳴が出る場合は、「運動誘発性喘息」の可能性があります。
運動をすると呼吸回数が多くなり、気道に負荷がかかります。
また、外の冷たく乾燥した空気や砂埃などを吸い込むことで、喘息発作を起こしてしまう場合もあります。
喘息の治療が必要な場合がありますので、呼吸器内科を受診しましょう。

とはいえ、適度な運動は健康維持や肥満予防、ストレス解消のために効果的です。
「運動前に十分なウォーミングアップを行う」、「運動時にはマスクを着用して冷たい空気を防ぐ」、「激しい運動は避けてこまめに休憩を取る」などに注意すれば、ある程度発作を防ぐことができます。

【参考情報】環境再生保全機構『運動誘発性ぜん息』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/exercise.html

2-2.特定の季節や場所で咳が出る場合

「花粉症の季節に咳が止まらなくなる」「学校や仕事中にほこりっぽい場所に行くと咳が出る」という方は、アレルギーが原因かもしれません。

日中の活動時には、アレルゲン(花粉やハウスダストなどアレルギーの原因となる物質)と接する機会も多くなります。
アレルギーによる咳を「アレルギー咳嗽」と呼び、炎症が起きて敏感になっている気道に刺激が加わることで、咳やのどの違和感、かゆみなどの症状が現れます。

咳を止めるためにはアレルゲンをなるべく避けて生活することが一番ですので、まずは原因となっている物質を特定する必要があります。症状がつらい場合は病院を受診し、採血によるアレルギー検査を受けましょう。

ほこりやダニなどのハウスダストが原因となっている場合は、室内をこまめに掃除してアレルゲンを取り除くことも大切です。

また、アレルギー以外にもタバコの煙が原因になって咳が出ることもあります。

喫煙習慣が無くても、タバコの煙は気道を刺激するため、受動喫煙で咳が誘発されることもあります。
職場環境の問題で完全に避けるのが難しいという方もいるかもしれませんが、そのような環境はなるべく避けるようにしましょう。

2-3.ストレス・緊張する場面で咳が出る場合

「心因性咳嗽」は、ストレスが原因で自律神経が乱れ、脳の咳中枢や気道粘膜を刺激して咳が起こると考えられています。
子どもや女性に多く、発熱など他の症状がないのに咳が長引いていて、検査をしても原因がはっきりとしない場合は心因性咳嗽の可能性があります。
日中は咳が出るものの、睡眠中や何かに集中している時には咳が出ないことが特徴です。

また、ストレスは免疫機能を低下させ、喘息を悪化させる原因にもなると言われています。
なるべくストレスを溜めないようにこころがけ、症状がつらく長引く場合は他の病気の可能性も考えて呼吸器内科を受診しましょう。

3.夜中に咳が出やすい場合


「咳がひどくて眠れない」「咳が出て途中で起きてしまう」など、夜間の咳で悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
激しい咳が続くと体力を消耗し、睡眠不足になって日中の生活にも支障をきたしてしまいます。

喘息は夜間から早朝にかけて悪化しやすいという特徴がありますが、夜間に咳が激しくなるからといって喘息とは限りません。夜は元々、咳が悪化しやすい時間帯です。

夜に咳が悪化する原因として、次の3つが考えられます。

【参考情報】❝Why are you coughing at night?❞ by MedicalNewsToday
https://www.health.harvard.edu/diseases-and-conditions/why-are-you-coughing-at-night

3-1.自律神経の働き

夜は副交感神経が優位になり、リラックスした状態になります。
そのため、身体の緊張がゆるみ、筋肉が弛緩するので、気管支や気道が狭くなって咳が出やすくなるのです。

3-2.冷気や乾燥による刺激

夜の冷えて乾燥した空気や、日中との温度変化も、咳が出る原因の一つです。
冷たい空気が刺激となって気管を収縮させ、気管支の粘膜が乾燥すると炎症を起こしやすくなるために咳が誘発される場合があります。

夏でもエアコンや扇風機をつけっぱなしにして寝ると、温度や湿度が下がりすぎて咳が出やすくなることもあるため注意が必要です。
睡眠中に口が開いているとさらに口の中が乾きやすくなり、喉がイガイガして咳が出やすくなります。

室内の温度や湿度を適切に保ち、マスクを着用して吸い込む空気を加湿するなど、就寝環境の見直しを行いましょう。

3-3.寝る姿勢

特に風邪や鼻炎、副鼻腔炎の人の場合、仰向けで寝てしまうと鼻水や痰が喉の奥に流れやすくなり、咳が誘発される場合があるため、横向きやうつ伏せ、上半身を少し起こした姿勢がおすすめです。

横向き寝は気道が確保されやすく、上半身を少し起こした姿勢は横隔膜が下がるため、呼吸がしやすくなります。

上半身を起こす場合は、クッションなどを背中の下に入れて高さを調整するとより楽な姿勢になります。

4.おわりに

咳の原因を調べるためには、咳が出るタイミングも診断の重要な手がかりとなります。

「どれくらい咳が続いているのか」「痰や他の症状はあるのか」「どんな時間帯に症状が出るのか」など事前にメモしておくと、受診の際にスムーズです。

喘息やCOPDなど治療が必要な病気が隠れている可能性もありますので、咳が長引く場合は早めに呼吸器内科を受診しましょう。

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