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気管支拡張症について解説します

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

気管支拡張症は、気管支が異常に拡張し、機能が低下する病気です。気管支が拡張した状態では拡張した場所に細菌やカビが増殖しやすくなり、炎症の悪化やさらなる気管支拡張につながる可能性があります。

症状としては慢性的な咳や痰などが一般的です。悪化すると呼吸困難を引き起こします。

この記事では、気管支拡張症の原因と症状、検査と治療についてご説明します。

【参考文献】❝bronchiectasis❞ by National Institutes of Health
https://www.nhlbi.nih.gov/health/bronchiectasis

1.原因

気管支拡張症の原因は多岐にわたりますが、主に以下のような要因が関係しています。

遺伝性・先天性要因

特定の遺伝的条件や先天性の異常が、気管支の構造に影響を及ぼし、気管支拡張症を引き起こす場合があります。

感染症

幼少期にかかった重度の肺炎や百日咳などの感染症は、肺組織への損傷を引き起こし、気管支拡張症を発症する要因となることがあります。

そのほかの肺の疾患

結核や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、リウマチ性疾患など、肺に影響を及ぼす疾患にかかったことがある方、呼吸器が弱っている方も気管支拡張症のリスクが高まります。

免疫系の問題

免疫力が低下している方は、感染症にかかりやすくなっている状態です。その結果、気管支拡張症を発症するリスクが高くなります。

2.症状


症状として、慢性的な咳や痰が挙げられ、痰は血痰を伴うこともあります。症状が進行するにつれ、呼吸困難になる場合もみられます。

また、肺炎や気管支炎などの感染症にかかりやすく、繰り返しやすい傾向も症状のひとつです。感染症により呼吸器系にさらなる負担がかかり、症状を悪化させる可能性があります。

気管支拡張症は、慢性的な咳の症状を引き起こします。気管支の炎症や感染が繰り返し発生するためです。

咳はとくに早朝や夜に増える傾向があり、多くの場合、痰が絡んだ重く湿った咳が特徴的です。

また、気管内の痰が増加するため、咳と一緒に痰の排出がより頻繁になります。

さらに、一度損傷を受けた気管支の内壁は弱くなり、少しの炎症や傷でも出血しやすくなるため、痰に血が混じる喀血が現れることがあります。

気管支拡張症は、病気の範囲によって肺の1〜2箇所のみで起こる「限局性」と、肺の広範囲にわたって影響を及ぼす「びまん性」の二つに分類されます。

病気になった箇所が多く範囲が広いほど肺機能は低下して、息切れ・疲労感などの症状が現れるでしょう。

3.検査


気管支拡張症の診断は、はじめに胸部のX線撮影をするのが一般的です。初期の診断や病状の概観を得るための手段として使われます。

ただし、胸部のX線撮影では軽度の変化を捉えることが難しいため、より詳細な検査の胸部CTスキャンを行います。

胸部CTスキャンは、気管支拡張症の検査において中心的な役割を果たします。胸部CTスキャンにより、気管支の拡張や病変など、疾患に特有の変化をはっきりと確認することが可能です。

結核、非結核性抗酸菌症、びまん性汎細気管支炎など、ほかの病気でも気管支拡張が生じるため、さまざまな検査を行い見きわめることが必要です。

胸部CTスキャンは、患者さんへの負担も比較的少なく、診断の精度を大きく向上させるため、非常に有効な方法といえます。

さらに気管支拡張症の原因が感染症であると考えられる場合、喀痰培養検査が行われることがあります。喀痰培養検査によって、感染を引き起こしている菌種を特定し、それに基づいた適切な治療を行うことができます。

【参照文献】一般社団法人 日本呼吸器学会『呼吸器の病気 気管支拡張症』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-01.html

4.治療

治療は、症状の軽減と炎症の抑制を主な目的とします。

4-1.薬物療法

気管支拡張症の薬物療法には、さまざまな薬が用いられています。

炎症を抑えるためには、マクロライド系抗菌薬が使用されるのが一般的です。長期間の低用量投与で、気管支の炎症を減少させるとともに、感染のリスクを低下させます。

また、痰を薄め排出を容易にするため、粘液溶解剤や去痰薬も処方されます。

細菌感染が疑われる場合には、患者さんの症状や培養結果に基づいて選択された抗生物質が使用されます。

血痰や喀血がある場合には、止血剤が用いられることもあります。

4-2.リハビリテーション

気管支拡張症の治療のひとつにリハビリテーションがあります。呼吸機能を向上させ、日常生活での活動能力を高めることが目的です。

リハビリテーションには呼吸法の訓練、体力をつけるための運動療法、呼吸筋の強化訓練などがあります。

患者さん一人ひとりの状態に応じてリハビリテーションの内容は調整され、継続的な実施により、呼吸困難の軽減や健康状態の改善を目指します。

4-3.酸素療法

進行した気管支拡張症の患者さんにおいては、酸素療法が必要となる場合があります。

血中の酸素濃度を正常範囲内に保つことが目的です。携帯型や家庭用の酸素供給装置が使われ、患者さんの呼吸が楽になるようにサポートします。

とくに活動時や睡眠時に呼吸困難を感じる患者さんに対して、生活の質の向上に役立つでしょう。

4-4.外科的療法

保存的治療法で十分な改善が見られない場合、外科的療法が検討されることがあります。

外科的療法では拡張した気管支や損傷した肺組織部分の肺切除が行われます。適応となるのは通常、症状が一部の肺に限定されている場合や、生命を脅かすほどの重度の喀血が見られる場合です。

このような外科的介入は、ほかの治療法で効果が見られなかったり、患者さんの生活の質が著しく低下したりしている場合に慎重に検討されます。

5.おわりに

長引く咳、とくに黄色から緑色の痰が伴う場合、血痰や喀血が見られる場合、幼少期に肺炎を経験したことがある場合、または副鼻腔炎(蓄膿症)の診断を受けたことがある場合、呼吸困難や発熱がある場合などは、気管支拡張症の可能性があります。

これらの症状が見られるときは、早めに呼吸器内科など医療機関の受診を検討しましょう。早期に適切な診断を受け、必要な治療をすることで、症状の悪化を防げます。

気管支拡張症は慢性的な疾患のため、長期的な治療やフォローアップが必要です。適切な対応をすることにより、生活の質を上げることができるでしょう。

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