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胸膜炎の原因や症状、検査、治療について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

胸膜は、肺を包む二重構造の膜です。薄くて弾力があり袋状になっており、肺を感染症や物理的に保護する役割があります。

肺と胸膜の間には「胸膜腔(きょうまくくう)」と呼ばれるわずかな空間があり、呼吸をする時に肺と胸壁がスムーズに動くよう少量の潤滑液で満たされています。

胸膜炎(きょうまくえん)とは、「肋膜炎(ろくまくえん)」とも呼ばれ、胸膜が炎症を起こした状態です。炎症が起きると胸膜の働きが障害され、痛みや不快感が生じます。

今回の記事では、胸膜炎を起こす原因や症状、検査など、胸膜炎について詳しく解説します。

息苦しさや胸の痛みなど、気になる症状がある方は、ぜひ参考にしてください。

1.原因


胸膜炎は、多くの場合、他の病気が関連して発症するため、単独での発症はまれです。

胸膜炎は、以下のようなさまざまな原因で発症します。

・感染症
・悪性腫瘍
・外傷や手術
・自己免疫疾患
・肺血栓塞栓症
・薬の副作用

なかでも、感染症と悪性腫瘍は胸膜炎を起こす原因として多いものとされています。

感染症が原因で起こる胸膜炎は急激に症状が進行し、悪性腫瘍が原因の胸膜炎は緩やかに進行するのが特徴です。

胸膜炎を起こす原因をそれぞれ解説します。

1-1.感染症

感染症が原因の場合、ウイルスや細菌、結核菌、真菌(カビ)などの感染が、胸膜にまで広がることで胸膜炎を生じます。

感染症が原因の胸膜炎では、発熱を伴いやすいのが特徴です。

胸膜炎が重症化すると胸水が溜まり、肺が圧迫されて息苦しさや呼吸困難があらわれます。心臓が圧迫されると、頻脈や血圧低下を起こす原因です。

感染が原因の胸膜炎は、以下の3つに分けられます。

【細菌性胸膜炎】
細菌感染が原因の胸膜炎です。原因となる菌は、肺炎球菌や連鎖球菌などが多く、感染後の肺炎をきっかけとして胸膜炎を発症します。

治療には、抗生物質が用いられます。検査で細菌を特定し、感染の種類や菌の特性に合わせて、飲み薬や点滴などで治療します。

胸水が多く溜まっている場合には、胸腔ドレナージなどの胸水を抜く処置が必要です。

【結核性胸膜炎】
結核菌感染が原因の胸膜炎です。感染が原因の胸膜炎のなかで、日本では結核性胸膜炎が多くみられます。

結核性胸膜炎の治療には、抗結核薬を複数組み合わせて行います。

放置すると胸膜の肥厚や癒着を引き起こし、呼吸機能の低下を招く場合があり注意が必要です。

治療期間が長くなることが多いため、医師の指導を守りながら継続的に治療を受けましょう。

【ウイルス性胸膜炎】
ウイルス感染が原因の胸膜炎です。コクサッキーB群ウイルスによる感染が最も多い原因ウイルスだとされています。

特定の治療薬はない場合が多く、必要に応じて経口非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)や経口オピオイドを服用します。

そのほかは、症状に合わせた対症療法が治療の中心です。

ウイルス性の胸膜炎は、比較的軽症の場合もあり、数日で自然回復するケースも多いとされています。

しかし、重症化しないわけではないので、症状があれば早めの受診が必要です。

1-2.悪性腫瘍

悪性腫瘍が原因の場合、「がん性胸膜炎」と呼ばれ、肺がんや転移性腫瘍、悪性リンパ腫、悪性胸膜中皮腫などにより胸水が溜まることで胸膜炎を起こします。

なかでも悪性胸膜中皮腫は、胸膜を構成する中皮細胞にできる悪性腫瘍のため、胸膜炎を起こすケースがほとんどです。

悪性胸膜中皮腫は、アスベスト(石綿)への長期的な暴露が原因とされています。

治療は、対症療法を行いつつ、原因となるがんに対する根本的な治療が必要です。

◆「肺がん」について詳しく>>

1-3.外傷や手術

胸膜が直接的に外部からの刺激を受けると炎症を起こすことがあります。

交通事故や転倒などによる胸部外傷や、胸部手術や胸腔ドレナージなどの医療行為でも胸膜炎を生じるケースがあります。

1-4.自己免疫疾患

自己免疫疾患とは、体の免疫機能が正常に作用しなくなり、自分の組織を攻撃してしまう病気です。

全身性エリテマトーデス(SLE)や関節リウマチなどは、胸膜炎を合併しやすいことが知られています。

これらの病気は、胸膜だけでなく、関節や皮膚、神経、腎臓など、全身に炎症が起こることも特徴です。

そのほか、強皮症や多発性筋炎も胸膜炎を合併する可能性があります。

1-5.肺血栓塞栓症

肺血栓塞栓症は、肺の血管に血栓(血の塊)が詰まる病気です。エコノミークラス症候群とも呼ばれています。

血栓が詰まることで胸膜への血流が不足し、胸膜炎を起こします。

1-6.薬の副作用

薬の副作用で胸膜炎を発症するケースもあります。

胸膜炎を起こす可能性がある主な薬は以下のとおりです。

・アミオダロン塩酸塩(抗不整脈薬)
・ブレオマイシン(抗がん剤)
・パルプロ酸ナトリウム(抗てんかん薬)

これらの薬を服用していて、息苦しさや胸の痛みを感じる場合には早めに医師に相談しましょう。

その際、服用している薬の種類や服用期間なども伝えると、診察がスムーズです。

【参考情報】『胸膜炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/file/disease_g01.pdf

【参考文献】】”Pleurisy” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pleurisy/symptoms-causes/syc-20351863

2.症状


胸膜が炎症を起こすと、胸膜同士が摩擦を起こすようになり、さまざまな症状があらわれます。

以下は、胸膜炎の主な症状です。

・胸の痛み
・呼吸困難
・息切れ
・発熱
・咳
・胸水

チクチク、ピリピリした胸の痛みを感じ、深呼吸をしたときに痛みが強くなります。深く呼吸をすると痛みを感じるため、呼吸が浅くなりやすい傾向です。

また、痛みがあるのは胸水が溜まっている側の肺のみです。

呼吸困難や息切れは、胸水の貯留が多くなると肺が圧迫されるため顕著になります。

◆『胸の痛み』について詳しく>>

◆『咳が出て息苦しい病気』について詳しく>>

【参考情報】『胸膜炎 胸水貯留』医薬品医療機器総合機構
https://www.pmda.go.jp/files/000245302.pdf

3.検査


胸膜炎を疑う場合、以下のような検査を行います。

・画像検査
・胸水検査
・胸膜生検
・血液検査

それぞれの検査について解説します。

3-1.画像検査

画像検査では、胸部X線検査や胸部CT検査を行います。胸水貯留や肺炎の有無、程度など、肺全体の状態を把握するために必要な検査です。

胸水が溜まっている部位や量などを確認します。

胸水が少ないと、立位での胸部X線撮影では確認が困難な場合があります。その場合、横になった状態での胸部X線撮影や胸部CTが必要です。

CT検査では、胸膜炎の原因特定までできるケースもあります。

3-2.胸水検査

胸膜炎の原因を特定するために胸水の色や臭い、胸水に含まれる細菌や白血球、腫瘍マーカーなどの検査を行います。

胸腔穿刺と呼ばれる方法で胸水を採取します。局所麻酔を行いますが侵襲が伴う検査です。

胸腔穿刺とは、胸水が貯留している方の胸腔に針を刺し、胸水を検査に必要な量採取します。

胸水は、胸膜炎によって生じる炎症性の「滲出性胸水」と、非炎症性の「漏出性胸水」に分けられます。

それぞれの原因や特徴は以下のとおりです。

【滲出性胸水】
原因:細菌や結核などの感染
   肺がんや悪性中皮腫などの悪性腫瘍
   膠原病

特徴:悪性の場合には胸水は血性
   タンパク質が多く含まれる

【漏出性胸水】
原因:心不全
   肝硬変
   ネフローゼ症候群
   腎不全

特徴:胸水は淡黄色透明
   肺以外の病気が原因である場合が多い

胸水検査は、確定診断や治療方針を決めるためにも必要な検査です。

3-3.胸膜生検

胸膜生検とは、胸膜の組織の一部を採取し、顕微鏡で検査します。

胸・肋膜生検針(コープ針)と呼ばれる器具を用いて検査を行いますが、胸水貯留の原因がわからない場合、胸腔鏡を使用するケースもあります。

胸腔鏡は太さが1㎝程度の内視鏡を胸に挿入するため、侵襲が大きい検査です。

胸膜生検は、胸水が十分に採取できないケースや、胸水だけでは原因の特定ができない場合に行われる検査です。

医師が必要と判断した場合に行う検査のため、必ず行うものではありません。

3-4.血液検査

血液検査では、採血を行い、白血球の増加や炎症反応の有無、炎症の程度を確認します。

また、胸膜炎の原因となる膠原病のマーカーである自己抗体や、腫瘍マーカーも確認し、原因を特定します。

4.治療

胸膜炎の治療は、症状を軽減するための対症療法と、胸膜炎を起こす原因になった病気の治療を行います。

たとえば、感染症が原因の場合は抗生物質や抗結核薬が使用されますが、自己免疫疾患や悪性腫瘍が原因の場合はそれに応じた治療が必要です。

4-1.対症療法

対症療法とは、症状に対する治療です。

胸膜炎の症状を緩和するためには、主に以下のような治療を行います。

【痛み止めの使用】
呼吸時や咳をするときの胸の痛みを軽減するために、鎮痛剤が処方されることがあります。

これにより、痛みによる苦痛が減るため呼吸が楽になり、日常生活が送りやすくなります。

【胸水の除去】
胸水が多い場合、胸腔ドレナージや胸腔穿刺と呼ばれる方法で胸水を抜きます。

胸腔ドレナージは、胸腔にドレーンと呼ばれるチューブを留置して溜まった胸水を抜く方法です。チューブの先を排液バックに接続し、持続的に胸水を抜きます。

胸腔穿刺は、胸腔に針を刺して胸水を抜く方法です。

多量の胸水を抜く場合には、血圧が変動する可能性があるため、モニタリングをしながら慎重に行います。

どちらの方法も局所麻酔を行いますが、侵襲が伴う処置です。

胸水を抜くと、肺の圧迫が軽減され、息苦しさが改善されるため呼吸がしやすくなります。

【酸素療法】
酸素療法とは、血液中の酸素が低下した状態を改善するために、酸素を補う方法です。

胸膜炎では、溜まった胸水により、肺が圧迫され正常に膨らまなくなります。正常に肺が膨らまないと十分な換気ができなくなり、息苦しさや呼吸困難を生じます。

酸素投与をすることで、血液中の酸素濃度が保たれ、呼吸症状が改善されます。

酸素療法中は、必ず医師の指示を守り、呼吸促迫や頻脈、頭痛などの症状に注意しましょう。

酸素の過剰投与されている状態は、CO2ナルコーシスを起こす危険があります。

気になる症状は早めに医師に相談しましょう。

4-2.原因に応じた治療

胸膜炎は、なんらかの病気が原因となり発症するケースがほとんどです。そのため、胸膜炎の対症療法と同時に、原因となった病気の治療が必要です。

感染が原因なら、抗生物質や抗結核薬の投与をします。悪性腫瘍が原因なら、化学療法(抗がん剤の投与)や放射線治療など、病状に合わせた治療を行います。

【参考情報】『胸膜炎 治療』メディカルノート
https://medicalnote.jp/diseases/%E8%83%B8%E8%86%9C%E7%82%8E/%E6%B2%BB%E7%99%82

【参考文献】”Pleurisy” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/21172-pleurisy

5.おわりに

胸膜炎は、さまざまな原因により胸水が溜まり、胸膜が炎症を起こした状態です。

炎症が起きると胸膜の働きが障害され、ピリピリチクチクとした胸の痛みや息苦しさが生じます。

持病の有無に関わらず、放置すると長引いたり重症化したりすることもあるので、早めに適切な治療を受けることが大切です。

胸の痛みや呼吸困難、息切れなど、気になる症状がある場合には呼吸器内科を受診しましょう。

◆『呼吸器内科を受診する目安』について>>

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