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咳が止まらない。アレルギーが原因かも?

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

「最近、咳が止まらなくて困っている」「熱はないのに、ずっと咳が出ている」このようなお悩みを抱えている方もいらっしゃるでしょう。

咳は体を守る大切な防御反応ですが、長引く咳は生活の質を低下させ、不安を引き起こすことがあります。その咳の原因のひとつに、実はアレルギーがあることをご存知でしょうか。

この記事では、アレルギーが原因となる咳について解説し、対処法についてご説明いたします。

1. アレルギーによる咳とは


「咳が止まらない」という症状で受診される方は少なくありません。その多くの場合は、風邪やインフルエンザなどの感染症が原因ですが、アレルギーが原因で咳が出ていることもあります。

これらの疾患では、アレルギー反応によって気道に炎症が起こり、その結果として咳が引き起こされているのです。

このようにアレルギーが原因で咳が出る代表的な疾患には、以下のようなものがあります。

・気管支喘息
・花粉症
・咳喘息
・アトピー性咳嗽(がいそう)

特に咳喘息やアトピー性咳嗽では、咳が主な症状です。アレルギーによる激しい咳込みによって咳だけではなく息苦しさを感じることもあるでしょう。

◆『喘息』について詳しく>>

◆『咳喘息』について詳しく>>

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それらのアレルギーによる咳には、以下のような特徴があります。

・咳は乾いており、長期間続く
・のどに違和感やかゆみを伴う
・夜間や早朝に悪化しやすい
・通常の咳止め薬が効きにくい

このような咳の症状が続く場合、アレルギーが関与している可能性を考えてみてもいいでしょう。

2. そもそも、アレルギーって何?


咳の原因にもなるアレルギーですが、そもそもアレルギーとはどのようなものでしょうか。

簡単にご説明すると、アレルギーとは本来無害なはずの物質に対して、免疫システムが過剰に反応してしまう現象のことです。この反応によって、様々な症状が引き起こされます。

アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)

アレルギーの原因となる物質は「アレルゲン」と呼ばれています。アレルゲンの代表的なものには以下があります。これらの物質に接触することで、アレルギー反応が引き起こされるのです。

・花粉:スギ、ヒノキ、ブタクサなど、植物の花粉が代表的です。
・ハウスダスト: 家の中にいるダニの死骸やフンなどがアレルゲンとなります。
・動物の毛やフケ:犬、猫、ハムスターなどの動物の毛やフケが原因になることがあります。
・食物:卵、牛乳、小麦、そば、ピーナッツなど、さまざまな食品がアレルゲンとなる可能性があります。
・薬物:特定の薬に対してアレルギー反応を示す場合があります。
・カビ:室内や室外に生えるカビもアレルゲンのひとつです。

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アレルギーによる症状

アレルギー反応によって引き起こされる症状は、人によって様々です。

一般的に多いものとしては、くしゃみ、鼻水、目のかゆみなどの鼻や目の症状、咳や喘息などの呼吸器の症状、皮膚のかゆみや発疹などの皮膚の症状、腹痛や下痢などの消化器の症状などがあります。

それでは以下に、それぞれの症状の詳細をご説明しましょう。
鼻や目の症状

・くしゃみ: 連続して止まらないことが特徴です。
・鼻水: 水のようにさらさらした鼻水が大量に出ます。
・鼻づまり: 鼻が詰まって呼吸がしづらくなります。
・目のかゆみ: 目が強くかゆくなり、こすると悪化します。
・充血: 目の白目が赤くなります。
・涙目: 涙が止まらず、視界がぼやけることがあります。

呼吸器の症状

・咳: 止まらない咳が出ます。
・喘鳴(ぜんめい): 息を吐くときにヒューヒューと音がします。
・息苦しさ: 呼吸が苦しく、息がゼーゼーハーハーと荒くなります。

皮膚の症状

・かゆみ: 全身または一部の皮膚がひどくかゆくなります。
・発疹: 赤いぶつぶつや湿疹が出ます。
・蕁麻疹: 蚊に刺されたような赤い発疹が全身に広がることがあります。

消化器の症状
・腹痛: お腹に痛みを感じます。
・下痢: 水様便が頻繁に出ます。
・嘔吐: 吐き気を感じ、何度も嘔吐します。

これらの症状は、アレルゲンの種類や接触部位によって異なりますが、次のような病状として現れることが多いです。

・アレルギー性鼻炎: くしゃみ、鼻水、鼻づまり
・アレルギー性結膜炎: 目のかゆみ、充血、涙目
・気管支喘息: 咳、喘鳴、息苦しさ
・アトピー性皮膚炎、じんましん: 皮膚のかゆみ、発疹
・食物アレルギー: 腹痛、下痢、嘔吐

【参考文献】”Allergies” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/allergies/symptoms-causes/syc-20351497

アナフィラキシーについて

アレルギー反応のなかでも特に重篤なものに、「アナフィラキシー」があります。これは、突然起こる全身のアレルギー反応です。

アナフィラキシーの発症から、わずか数分で生命に関わる重大な危険にさらされることがあり、まさに「一刻を争う」緊急事態と言えます。

アナフィラキシーの症状は、いくつかの臓器系が同時に、あるいは順番に影響を受け、急速に悪化することが特徴です。

・皮膚症状

突然、全身のかゆみや発疹、皮膚の赤みが出ます。蕁麻疹が体を覆うように広がることもあります。

・呼吸器症状

息苦しさ、咳、喘鳴が現れ、気道が狭くなります。
最悪の場合、喉が腫れ上がり、息が詰まってしまう恐れもあります。

・消化器症状

胃の不快感、激しい腹痛、嘔吐、下痢などが突如として起こることもあります。

・循環器症状

急激な血圧の低下により、めまいやふらつき、冷や汗、意識の混濁が見られます。対応が遅れるとショック状態に陥り、命に関わる危険があります。

アナフィラキシーの対応は、「時間との戦い」です。発症から数分で心停止に至るケースもあるため、迅速かつ的確な対応が必要です。

発症が疑われた時には、迷わず救急車(119番)を呼ぶことが最優先です。

その他、最も効果的な応急処置として、エピペン(アドレナリン自己注射薬)があります。

エピペンは、アドレナリンを素早く体内に注入することで、気道の狭まりや血圧の低下を防ぎ、症状の進行を一時的に抑える効果があります。アナフィラキシーを起こすリスクが高いと診断された方は、エピペンを常に携帯することが推奨されます。

エピペンを使うべきタイミングは、「息苦しい」「喉が締め付けられるような感覚がある」と感じた瞬間です。ためらわずにエピペンを太ももの外側に打ちましょう。ほかの人の判断を待つ必要はありません。打ったあとは、救急搬送される必要があります。

アナフィラキシーを防ぐためには、原因となるアレルゲンを徹底的に避けることが重要です。

例えば、食物アレルギーの場合、レストランや加工食品の原材料表示を必ず確認し、旅行や外出時にはアレルゲンに対する緊急対応策を考えておく必要があります。

また、家族や職場の同僚には、「自分がアナフィラキシーを起こす可能性がある」ということを事前に伝えておきましょう。

【参照文献】日本アレルギー学会『アレルギーについて』
https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=1

3. 気管支喘息を引き起こすのは、アレルギー


気管支喘息は呼吸器疾患の一つで、多くの場合、アレルギー反応が原因となって発症します。ここからは、喘息とアレルギーの関係について見ていきましょう。

気管支喘息とアレルギーの関係

気管支喘息は、気道(空気の通り道)に慢性的な炎症が起こる疾患です。気道の炎症の多くは、アレルギー反応が原因で引き起こされます。

喘息を持つ方の気道は非常に敏感で、特定の物質(アレルゲン)に触れると、過剰に反応し、様々な症状が出ます。

喘息の原因になるアレルゲンは、花粉、ハウスダスト、ダニ、ペットの毛、カビ、食べ物などのアレルギーを引き起こす物質です。アレルゲンは人によって異なります。

喘息の患者さんがこれらのアレルゲンに触れると、以下のような症状が起こります。

【参考文献】”Asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653

1.気道粘膜の腫れ

アレルギー反応によって、気道の内側を覆う粘膜が炎症を起こし、腫れて狭くなります。これが、息苦しさの原因となります。

2.気管支平滑筋の収縮

気管支を取り囲む筋肉(平滑筋)が強く収縮することで、気道がさらに狭くなります。この状態では、息を吸ったり吐いたりするのが困難になり、喘鳴が発生します。

3.粘液の過剰分泌

気道内で大量の粘液が作られ、狭い気道をさらに詰まらせます。これにより、咳が続いたり、息が詰まるような感覚が起こります。

このように気道が狭くなることで、次のような喘息の症状が現れます。

・息切れ、呼吸困難
・2週間以上続く咳
・息苦しさや胸の締め付け感を伴う咳
・咳が止まらない(特に夜間や運動後に悪化することが多い)
・喘鳴

これらの症状のうち、特に咳は喘息の初期症状として現れることが多いです。

喘息は、適切な治療を行うことで症状をコントロールでき、生活の質(QOL)を維持することが可能です。上記のような症状をはじめとする違和感のある咳や息苦しさを感じた場合は、早めに呼吸器内科を受診することを検討しましょう。

◆『喘息とアレルギー』について詳しく>>

【参照文献】日本呼吸器学会『C. アレルギー性肺疾患』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html

【参考文献】”Asthma Symptoms” by Asthma and Allergy Foundation of America
https://aafa.org/asthma/asthma-symptoms/

4. アレルギーが原因の咳の治療について


アレルギーが原因の咳に対する治療は、原因となるアレルゲンの特定と回避、適切な薬物療法が基本となります。ここからは、主な治療法について見ていきましょう。

アレルゲンの特定と回避

まず重要なのは、咳の原因となっているアレルゲンを特定することです。医師による問診や、必要に応じてアレルギー検査(血液検査や皮膚テストなど)を行いアレルゲンを見つけ出します。

アレルゲンが特定できたら、可能な限りアレルゲンを避けることが大切です。例えば、以下のような対応が挙げられます。

・花粉症の場合: 外出時はマスクを着用し、帰宅後はしっかりと顔を洗い、うがいをする
・ハウスダストアレルギーの場合: 定期的に掃除機をかけ、寝具を清潔に保つ
・食物アレルギーの場合: 原因となる食品を食事から除く

一方で、完全にアレルゲンを避けることは難しい場合も多いです。そのため、薬物療法と組み合わせて症状をコントロールします。

薬物療法

アレルギーが原因の咳に対する主な薬物療法には、以下のようなものがあります。

1.抗ヒスタミン薬
アレルギー反応を抑える薬で、くしゃみや鼻水、かゆみなどの症状を和らげます。

2.ロイコトリエン受容体拮抗薬
気道の炎症を抑える効果があり、特に咳喘息などに有効です。

3.吸入ステロイド薬
気道の炎症を強力に抑える薬で、喘息の基本的な治療薬です。

4.気管支拡張薬
気管支を広げる効果があり、呼吸を楽にします。発作時の頓用薬として使用されることもあります。

これらの薬は、症状や原因疾患によって適切に選択され、組み合わせて使用されます。

【参考文献】”Allergy medications: Know your options” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/allergies/in-depth/allergy-medications/art-20047403

咳の原因が喘息である場合の治療

咳の原因が喘息によるものである場合には、吸入薬などを使用しながら喘息に対する専門的な治療を行う必要があります。

喘息はすぐに完治することが難しいため、長期的に症状をコントロールすることが必要です。以下で、主な治療方法のポイントをご紹介します。

1. 長期管理薬

毎日決まった時間に使用することで、気道の炎症を抑える治療を行います。これには吸入ステロイド薬を用いるのが一般的です。吸入ステロイドにより気管支の腫れや過敏な状態を改善し、発作が起きにくくなります。

2. 発作治療薬

症状が悪化したときに使用する気管支拡張薬などです。気管支拡張薬は、狭くなった気道を素早く広げて、息苦しさや喘鳴を緩和します。発作が起きたら、ためらわずに使うことが大切です。

3. アレルゲン免疫療法

特定のアレルゲンに対する過敏性を少しずつ低下させる治療法です。長期間の治療が必要ですが、うまくいけばアレルギー症状の軽減が期待できます。専門医の管理のもと、慎重に進めます。

4. 生活習慣の見直し

日常生活の改善も喘息管理の一環です。禁煙、適度な運動、ストレスの管理などを意識することで、症状が軽くなることがあります。アレルゲンを避けるために、部屋の掃除や空気の管理も重要です。

上記の内容のような喘息の治療は、患者さんの症状や生活スタイルに合わせて計画されます。そのため、定期的な通院と、医師の指示に従って薬を正しく服用することが大切です。

さらに、症状が安定しているときも治療を続けることで、発作を防ぎ、快適な生活を維持することができます。

「調子がいいから薬をやめる」のは禁物です。医師と相談しながら、ご自分に合ったペースで治療を続けていきましょう。

5. おわりに

咳が長引いている場合、それが喘息の初期症状である可能性があります。

熱はないのに咳だけが続く、咳をするたびに胸が痛む、または2週間以上咳が止まらないといった症状が見られる場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。

喘息は早期の診断と適切な治療を受けると、症状をしっかりコントロールすることが可能です。それにより、生活の質(QOL)を維持することができるでしょう。

定期的な治療と生活改善を続ければ、発作を防ぎ、日常生活を快適に過ごすことができるのです。

「たかが咳」と軽く見ず、違和感を感じたときには呼吸器内科に相談し、ご自分の体を守りましょう。

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