高齢者や持病がある人は注意!安全に使うインフルエンザ治療薬の選び方
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
高齢者や持病がある人がインフルエンザにかかると、脱水や肺炎などを起こしやすく、重症化することがあります。
普段の薬との飲み合わせや、腎臓・肝臓の働きによっては治療薬の種類に注意が必要です。自己判断で市販薬を重ねると副作用の恐れも。
この記事では、安全にインフルエンザ治療薬を使うための選び方と、家族ができるサポートのポイントを解説します。
1.高齢者・持病がある人で注意したいインフルエンザの特徴

インフルエンザは同じ病気でも、年齢や持病の有無で症状の出方が大きく変わります。
特に高齢者や慢性疾患のある人は、軽症に見えても肺炎や心不全などの合併症を起こしやすく、早めの気づきが重要です。
ここでは、重症化しやすい理由と家庭での注意点をまとめます。
1-1. 高齢者が重症化しやすい理由
高齢者は免疫機能が低下しており、典型的な発熱が出にくいのが特徴です。
「食欲が落ちた」「元気がない」など小さな変化が初期サインになることがあります。
また、脱水や栄養低下が重なると肺炎・心不全を起こしやすく、短期間で悪化することがあります。
【参考情報】”Flu and People 65 Years and Older” by Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/flu/highrisk/65over.htm
1-2. 基礎疾患がある人の感染リスク
糖尿病では血糖が上がり回復が遅れ、心不全では発熱が心臓の負担を増やします。
呼吸器疾患では少しの咳でも酸素不足に陥ることがあります。
COPDなど持病のある人は軽い発熱や倦怠感でも早めの受診が必要です。
1-3. 発熱が出ない「隠れインフルエンザ」にも注意
高齢者では熱が出ないまま感染することがあり、咳・食欲低下・だるさだけで進行する場合があります。
食事量や尿の回数、ふらつきなど日常の変化を観察し、流行期は微熱や倦怠感だけでも医療機関に相談しましょう。
1-4. 家族ができる初期対応
食欲・水分・排泄・意識の明瞭さなど、発熱以外の変化を毎日確認します。
感染が疑われる場合は、部屋を分ける、マスク、手指衛生で家庭内感染を防ぎます。
「昨日まで元気だったのに急に動かない」などの変化があれば受診を検討しましょう。
2. 治療薬の種類と選び方(飲み薬・吸入・点滴の違い)
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インフルエンザ治療薬は、早く使うほど症状を抑え、合併症のリスクを下げられます。
高齢者や持病がある人は、薬の種類によって体への負担が変わるため、適切な選択が重要です。
2-1. 主な抗インフルエンザ薬の特徴
タミフル:最も一般的な飲み薬。腎機能が弱い人では量の調整が必要。
リレンザ/イナビル:吸入薬で胃腸への負担が少ない。イナビルは1回で完了。ただし吸入操作が難しい場合あり。
ゾフルーザ:1回で済むが耐性化の課題があるため、全員に適するわけではない。
ラピアクタ:点滴薬で、飲めない・吸えない人にも使用できる。
2-2. 吸入・内服・点滴の違いと使い分け
飲み薬は手軽ですが、腎臓・胃腸への負担がかかる場合があります。
吸入薬は副作用が少ない一方、吸入操作に慣れが必要です。
点滴は体力が落ちている人や重症化している人に適しています。
医師は年齢・腎機能・服薬状況・介助体制などを踏まえて選択します。便利さより「その人の体に合うか」が優先されます。
【参考情報】『抗インフルエンザウイルス薬に関するガイドライン』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/090217keikaku-06.pdf
【参考情報】”About Influenza Antiviral Medications” by Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/flu/hcp/antivirals/index.html
2-3. 発症からの時間と効果の関係
ウイルスは48時間以内に急増するため、この時間内に治療薬を始めることが効果の分かれ目です。
高齢者は発熱に気づきにくいことがあるため、食欲低下やだるさなど「発熱前の異変」で早く受診につなぐことが大切です。
2-4. 家族がサポートできること
高齢者や体が弱っている人は、自分で薬を吸入したり、正しい時間に服用したりするのが難しい場合があります。
家族ができるサポートとしては、次のような点が挙げられます。
・服薬時間をメモやスマートフォンで記録する
・吸入の手順を一緒に確認し、吸えているか観察する
・食後・就寝前など、生活リズムに合わせて声かけを行う
・薬を飲んだあとに水分をしっかり取らせる
また、服薬中に「ふらつき」「食欲不振」「意識のぼんやり」などが見られた場合は、薬が体に合っていない可能性もあります。
症状を記録して医師に相談し、必要であれば薬の種類を変更しましょう。
3. 他の薬との飲み合わせ・相互作用で注意すべき点

高齢者や持病がある人は、複数の薬を普段から服用しているため、インフルエンザ治療薬を追加すると相互作用が起こりやすくなります。
ここでは、注意したい組み合わせと家族が気づけるポイントをまとめます。
3-1. 飲み合わせで注意すべき薬
● 血液をサラサラにする薬
ワルファリン・DOACなどは、発熱や脱水で血中濃度が変わりやすく、出血リスクが上がることがあります。
● 糖尿病薬
食事量が減ると低血糖を起こす可能性があり、食事・水分の状況の確認が重要です。
● 睡眠薬・抗不安薬
感染による脱水や体力低下と合わさり、ふらつきや転倒が増えることがあります。
● ステロイド薬
免疫が下がり重症化しやすいため、早めの受診が必要です。
どの場合も、普段の薬を勝手に中止せず、飲んでいる薬の一覧を医療機関に見せることが最も安全です。
3-2. 市販薬やサプリとの相互作用
● NSAIDs(ロキソニン・イブプロフェン)
腎臓に負担がかかりやすく、高齢者では脱水が進むことがあります。基本はアセトアミノフェンが安全です。
● 総合感冒薬
成分が多く、眠気・ふらつきなどの副作用が重なりやすいことがあります。
● サプリ
ハーブ系などはエビデンスが弱く、安全性が明確でないため、飲んでいる場合は医師と共有を。
3-3. 薬剤師・医師に伝えるべき情報
・普段飲んでいる薬・市販薬・サプリの一覧
・腎臓・肝臓の持病や検査値
・最近の体重減少・脱水の有無
・飲み込み・吸入のしにくさ
こうした情報は薬の選択や量の調整に直結します。
高齢者では小さな体調変化が薬の効き方を大きく左右するため、家族の情報整理が重要です。
3-4. 家族が注意すべき“相互作用サイン”
飲み合わせの問題が起きると、次の変化が出やすくなります。
・急なふらつき
・意識がぼんやりする
・食欲低下
・息苦しさ
・強い眠気
・尿量の減少
感染中は体の機能が落ち、副作用が出やすいため、こうした変化に早く気づくことが大切です。
異変があれば、「薬の種類」「飲んだ時間」「症状が出たタイミング」を記録し、早めに医療機関へ相談しましょう。
【参考情報】『医薬品の相互作用』PMDA(医薬品医療機器総合機構)
https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/adr-info/0001.html
4. 飲み込みづらい人・腎機能が低下している人の薬選択

高齢者では、飲み込みの力や腎臓の働きが低下していることが多く、薬の種類や量を調整する必要があります。
自己判断で普段の薬を続けると誤嚥や副作用の原因になるため、状態に合わせた薬選びが重要です。
4-1. 飲み込みづらいときの薬の工夫
飲み薬が飲みにくい場合は、吸入薬または点滴薬が選択肢になります。
● 吸入薬(リレンザ・イナビル)
飲み込みが不要で体への負担が少ない一方、吸う力や操作が必要です。認知症や呼吸機能が弱い人では難しいことがあります。
● 点滴薬(ラピアクタなど)
飲めない・吸えない場合に確実に投与できます。重症化の疑いがあるときにも有効です。
● 軽度の飲み込みづらさへの対応
水分と一緒に飲む、ゼリー状オブラートを使うなどで改善することがありますが、無理をすると誤嚥につながるため家族の観察が必要です。
4-2. 腎機能に応じた薬の選択
抗インフルエンザ薬の多くは腎臓から排泄されるため、腎機能が低い人では量の調整や薬の変更が必要になります。
● タミフル:腎機能が低下している場合は減量が必要
● イナビル:比較的影響は少ないが、重度の腎障害では注意
● ゾフルーザ:腎機能の影響は少ないが、耐性化の点で使えない場合もある
腎機能の低下は自覚しにくく、普段元気に見える人でも影響が出るため、持病や検査値を医師に伝えることが欠かせません。
4-3. 服薬時に注意すべきポイント
飲み込み・腎機能が低下している場合、次の点を家族が確認すると安全です。
・薬が口の中に残っていないか
・吸入がうまくできているか
・ふらつき・食欲低下・意識のぼんやりなどの副作用が出ていないか
・水分が十分に取れているか(脱水は副作用を悪化させる)
薬そのものより「体の状態に合わせて使えているか」が安全性の鍵になります。
4-4. 薬を安全に使うための家族の関わり方
家族の見守りは、副作用の早期発見にもつながります。
・服薬スケジュールを記録
・飲み込みや吸入の様子を確認
・症状や副作用の変化をメモ
・食事・水分のサポート
一人暮らしの高齢者では、家族の“気づき”が重症化を防ぐ大きな力になります。
5. 家族ができるサポート(薬の管理・脱水予防・再診の目安)
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高齢者や持病がある人がインフルエンザになると、薬の飲み忘れや脱水、急な悪化が起こりやすくなります。
家族が「薬・水分・体調」の3つを見守ることで、重症化を防ぎやすくなります。
5-1. 飲み忘れ・重複を防ぐ管理方法
体調が悪いと時間感覚がずれやすく、飲み忘れや重複服用が増えます。
● 服薬スケジュールを見える化
メモ・アプリで飲んだ時間を記録し、家族内で共有するだけでも管理が安定します。
● 薬は手元に置かない
1日分を家族が預かり、必要なタイミングで渡す方が安全です。
● 吸入薬は見守りが必須
吸えていないと効果が出ないため、姿勢・息を吸う力などを確認しながらサポートします。
【参考情報】『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11125000/0000162475.pdf
5-2. 脱水を防ぐ水分補給のコツ
高齢者は脱水が起こりやすく、薬の副作用も強く出やすくなります。
● 1〜2時間おきに少量ずつ
喉が渇いてからでは遅いので、家族がこまめに声かけします。
● 食事が取れない時は経口補水液
水分と塩分を一緒に補えます。
● 尿の回数・色のチェック
濃い尿や回数が少ない場合は脱水のサイン。水分量を増やす目安になります。
5-3. 再診が必要なサイン
インフルエンザは、治療を始めていても途中で悪化することがあります。次のような変化が見られた場合は、再診を検討してください。
● 再診の目安
・熱やだるさが続いて改善しない
・咳が日に日に強くなる
・食事や水分が十分に取れない
・動くと息切れやふらつきが出る
・「いつもより元気がない」「様子がおかしい」と感じる
体調の悪化はゆっくりではなく、急に変わることもあります。
少しでも不安があれば、早めに医療機関へ相談しましょう。
【参考情報】『脱水症』健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/rounensei/dassui.html
5-4. 家庭内感染を防ぐための環境づくり
家庭内で感染が広がると、介助者まで体調を崩してしまうことがあります。
● 部屋を分けて動線を分離
可能であれば、感染者の生活スペースを固定します。
● マスクと手指衛生
介助の前後で手洗い・消毒を徹底します。
● 加湿でウイルスを飛びにくくする
湿度40〜60%を保つと感染リスクが下がります。
● 食器・タオルの分離
共有は避けた方が安全です。
【参考情報】 『インフルエンザの感染を防ぐポイント』政府広報オンライン
https://www.gov-online.go.jp/article/200909/entry-8422.html
【参考情報】”Preventing Seasonal Flu” by Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/flu/prevention/index.html
6. おわりに
高齢者や持病がある人にとって、インフルエンザは症状が軽く見えても重症化しやすく、薬の選び方や使い方がとても重要です。
普段の薬との飲み合わせや、飲み込み・腎機能の状態によって治療薬が変わるため、自己判断で市販薬を重ねたり、飲みづらいまま服用したりするのは危険です。
家族が症状の変化を観察し、薬の管理や水分補給をサポートすることで、重症化を防ぐことができます。
異変を感じたらためらわずに医療機関へ相談し、安全に回復できる環境を整えましょう。



