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風邪とは?基本情報や対処法、病院受診について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

「また風邪を引いてしまった……」という経験は、誰しもがあるのではないでしょうか? 寒い冬だけでなく、一年を通してみられ日常生活において一般的な病気です。
突然発症し鼻水や咳、熱といった不快な症状を引き起こします。
なぜ風邪をひくのか、どうすれば予防できるのか、といった疑問は多くの方が抱いているでしょう。
この記事では、風邪についての基本情報や対処法、病院受診のタイミングについてご説明いたします。

1. 風邪ってどんな病気?


風邪は「風邪症候群」とも呼ばれ、主にウイルス感染によって引き起こされる上気道の炎症です。

風邪を引き起こすウイルスには数百種類もあり、最も一般的なものにライノウイルス、コロナウイルス、アデノウイルスなどがあります。

このようなウイルスに感染すると、体内ではこれを排除するために免疫システムが活性化します。

免疫細胞が活発に働きウイルスの侵入した組織に集まります。そして、サイトカインという炎症物質を放出し、さまざまな風邪の症状を引き起こします。

炎症はウイルスを効果的に排除するための重要な防御反応です。

症状は、体がウイルスと戦う過程で生じる自然な反応といえます。

主に症状には以下のようなものがあります。

・鼻水: 初期では透明な鼻水が出ることが多く、進行すると黄色や緑色になることがあります。

・咳: 軽い咳から始まり、徐々に強くなることがあります。喉の痛みを伴うことが多いです。

・喉の痛み: 風邪の初期症状として一般的で、飲み込み時に痛みを感じることがあります。

・発熱: 軽い熱から高熱までさまざまですが、通常は38度程度でおさまります。

・全身の倦怠感: 疲れやすくなり、だるく感じることがあります。

これらの症状は、たいてい風邪をひいてから2〜3日目に一番ひどくなりますが、その後は少しずつ治まり、1週間から10日ほどで自然に良くなります。

ただし、症状の重さや回復の速さには個人差があります。とくに高齢者の方や免疫力が弱っている方は、症状が長引いたり、重くなったりすることがあるため注意が必要です。

【参照文献】日耳鼻感染症エアロゾル会誌 (8 3):172–175,2020『風邪の鑑別診断』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsiao/8/3/8_172/_pdf/-char/ja

【参考文献】”Common cold” by Mayo cliinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/common-cold/symptoms-causes/syc-20351605

2.風邪のひき始めの対処法について


風邪は初期段階の引き始めの適切な対応が、症状の悪化を防ぎ、回復を早めるために非常に重要です。

以下の方法を実践することで風邪の進行を抑え、体の負担を軽減する効果が期待できます。

2-1.十分な睡眠で、体を休める

風邪を早く治すためには十分な睡眠が欠かせません。睡眠中に体が回復するためのホルモンが分泌され、免疫機能も高まります。

風邪のときは体力を消耗しやすいため、普段よりも多くの休息を取るよう心掛けましょう。

ここでは、睡眠の質を上げる効果的な方法をご紹介します。

1.温度管理

適切な寝室の温度管理が重要です。

・寝室の温度を16°C〜20°Cに保つ
・10°C以下にならないよう注意する(免疫力低下や睡眠の質の低下を招く可能性がある)

2.湿度管理

適切な湿度を保つことで、のどの乾燥を防ぎ、ウイルスの侵入を抑制できます。

・部屋の湿度を60~80%に保つ
・加湿器を使用する、または濡れたタオルを部屋に干す

3.衛生的な空気

衛生的な空気は免疫システムの負担を軽減し、ウイルスと戦う力を高めます。

・空気清浄機を使用する
・定期的に換気を行う

4.寝具の管理

寝具内のダニアレルゲンは免疫システムに負担をかけるため、清潔に保つことが重要です。

・寝具を定期的に洗濯・乾燥させる
・布団乾燥機を使用する

5.睡眠姿勢

適切な睡眠姿勢も睡眠の質向上に役立ちます。

・上体を少し起こした姿勢で寝る(鼻づまりの軽減に効果的)
・横向きで寝る(呼吸がしやすくなる)

6・睡眠時間の確保

通常よりも多めの睡眠時間を確保することが大切です。

・普段より1~2時間多く睡眠時間を取る
・短い昼寝(20-30分程度)を取り入れる

2-2.胃腸に負担をかけない、消化によい食事をする

風邪のときは、体力の回復を助けるために消化の良い食事を心がけることが大切です。

食欲が低下することも多いため、胃腸への負担が少なく、必要な栄養素を効率よく補給できるものを選ぶと良いでしょう。

まずおすすめなのが「おかゆ」、とくに「卵がゆ」です。

おかゆは消化が良く、体に無理なくエネルギーを補給できるため、風邪で弱っている胃腸に適しています。

さらに、卵を加えることでタンパク質も摂れ、早期回復を助けます。また、温かいおかゆを食べることで体を内側から温める効果も期待できます。

次に、「野菜たっぷりのスープ」も風邪のときにおすすめのメニューです。

スープは水分補給がしやすいだけでなく、ビタミンA、B2、Cなどの栄養素も含まれており、免疫機能の向上に役立ちます。体を温める効果もあるため、寒気を感じるときにもいいでしょう。

また、「卵入りの煮込みうどん」も風邪のときに適した食事です。うどんはのどごしが良く、消化しやすいため、食欲がないときでも無理なく食べられます。

また、卵を入れることでタンパク質を補給でき、温かい汁物で自然と水分を摂取することも可能です。

さらに、「湯豆腐」も風邪で胃腸が弱っているときにやさしい食事です。豆腐は消化が良く、胃への負担が少ないため、体調がすぐれないときにぴったりです。

また、タンパク質やビタミンB1を含んでいるため、体力回復に役立ちます。湯豆腐のような温かい食事は、体を温める効果があり、冷えを防ぐ助けにもなります。

このように、風邪のときは、消化が良くて栄養価の高い食事を心がけることが大切ですが、食欲がない場合は無理をせず、フルーツゼリーや経口補水液などで水分や最低限の栄養を補うことも大切です。

少しずつ体調や症状に合わせて食べられるものから摂取し、無理なく回復を目指しましょう。

2-3.体を温める

風邪の初期段階では、体を温めることが回復を早める効果的な方法です。体温が上がることで免疫システムの働きが活発になり、ウイルスの増殖を抑制できます。

とくに効果的な温め方として、首、手首、足首の「3つの首」を重点的に温めるのがおすすめです。

なぜなら、それぞれ大きな血管が集中しており、これらを温めることで効率的に体全体の温度を上げることができるからです。

マフラーや腹巻き、厚手の靴下などを使用して、重点的に保温しましょう。

入浴も体を温める有効な方法ですが、風邪で38度以上の高熱がある場合は入浴を控えめにしましょう。

代わりに、ぬるめのお湯(38〜40度程度)で部分浴や足湯を行うことで、体への負担を減らしつつ血行を促進し、温めることができます。

熱が38度未満の場合は、ぬるめのお湯(38〜40度程度)に10〜15分程度浸かり、体を温めましょう。ただし、長時間の入浴は避け、体力を消耗しすぎないように注意しましょう。

入浴後は体をしっかりと拭き、暖かい部屋で休息を取りましょう。就寝する際は、体が冷えないよう注意し、適度な保温を心がけてください。

また、温かい飲み物や食事も効果的です。生姜湯やハーブティー、温かいスープなどを摂取することで、体を内側から温めることができます。とくに生姜をおすすめします。

就寝時には、必要に応じて毛布や電気毛布を使用し、快適な温度を保つことが大切です。

ただし、汗をかくと体が冷えてしまうので、快適と感じる程度の温め方を心がけましょう。汗をかいた場合はすぐに着替えます。

これらの方法を組み合わせることで、効果的に体を温め、風邪の回復を早めることができます。

なお、発熱が進み、熱が上がりきって汗をかき始めたら、逆に体を冷やす対策に切り替える必要があります。

体調の変化に注意しながら、適切な温め方を選択することが重要です。

3. こんな時は病院を受診しましょう


風邪と思っていた症状が実は別の病気である場合もあります。以下のような場合には早めに症状に適した病院受診を検討しましょう。

3-1. 呼吸器や鼻、耳などに症状が及んだとき

激しい咳や呼吸困難がある場合は気管支炎や肺炎の疑いがあります。また、中耳炎や副鼻腔炎など耳鼻科的な問題も考えられます。

ここでは、それぞれの症状と受診すべき診療科について説明します。

呼吸器に関する症状

激しい咳や呼吸困難がある場合には、単なる風邪ではなく、気管支炎や肺炎の可能性も考えられます。

痰を伴う咳が長引く場合や、胸の痛み、圧迫感を伴う場合、微熱が続く際は気管支炎の疑いがあります。

一方、38度以上の高熱の状態が続き、呼吸が苦しい、息切れや胸の痛みを感じる場合は、肺炎の可能性があります。

これらの症状がある場合は速やかに呼吸器内科を受診することが重要です。レントゲンやCTスキャン、血液検査などの詳細な診断が必要になります。

◆『気管支炎』とは?>>

◆『肺炎の基本情報』とは?>>

耳鼻咽喉に関する症状

耳や鼻の奥に痛みや詰まるような感覚がある場合は、中耳炎や副鼻腔炎が疑われます。

このような場合は、耳鼻咽喉科の受診を検討しましょう。

中耳炎では、耳の痛みや圧迫感を感じるほか、聴力の低下や耳鳴りが伴うこともあります。また、発熱する場合も少なくありません。

【参考文献】”Ear infection (middle ear)” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/ear-infections/symptoms-causes/syc-20351616

副鼻腔炎の場合、鼻づまりが続き、黄色や緑色の鼻水が出ることがあります。これに加えて、のどに粘液が流れ込むような感覚(後鼻漏)があり、顔面の痛みや圧迫感、さらには頭痛が伴うことも多いです。

耳鼻科では耳や鼻の内部を詳しく診察し、必要に応じて画像検査を行います。

【参考文献】”Sinus Infection (Sinusitis)” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/17701-sinusitis

3-2. 風邪ではない感染症を疑うとき

風邪以外の感染症が疑われる状況では、特に注意が必要です。

高熱や発疹が見られる場合、また周囲の方が感染症にかかっている場合には、風邪とは異なる病気の可能性を考慮しましょう。

例えば、39度以上の高熱がでたり38度以上の高熱が3日以上続いたりする場合、風邪以外の感染症を疑う必要があります。通常の風邪では発熱は2〜3日で下がり、これほどの高熱になることは少ないためです。

インフルエンザの場合は、風邪に比べて重症化するリスクが高く、38度以上の高熱がでることが多いです。また、関節痛や筋肉痛、全身の倦怠感、悪寒といった全身症状がでるのが特徴です。

とくに高齢者の方や基礎疾患を持つ方は注意が必要です。

この病気には、抗インフルエンザウイルス薬が有効です。

また、溶連菌感染症では、のどの強い痛みや高熱、特徴的な発疹である「イチゴ舌」が見られることがあります。

溶連菌感染症は扁桃炎や咽頭炎を引き起こし、放置すると腎炎やリウマチ熱といった合併症につながることもあるため、早めの治療が重要です。

発熱とともに発疹が現れる場合も、風邪以外の感染症を考える必要があります。

例えば、突発性発疹では高熱が2〜3日続いた後に解熱し、その後全身に赤い発疹が出るのが典型的です。これは主に1歳未満の乳児に見られます。

麻疹(はしか)は、高熱に加えて咳や鼻水、目の充血が現れ、体全体に広がる赤い発疹が特徴です。麻疹は感染力が非常に強く、合併症を引き起こすリスクもあるため、症状が見られた場合には早急な対応が必要です。

【参考文献】”Measles” by cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/8584-measles

新型コロナウイルス感染症も注意が必要です。症状は微熱から高熱、咳、関節痛や筋肉痛、倦怠感など多岐にわたり、特徴的な味覚・嗅覚異常も見られることがあります。

無症状のまま経過することもあれば、急激に重症化することもあるため、疑わしい場合はPCR検査などを受けて確認することが重要です。

とくに最近ご家族や身近な方がインフルエンザや新型コロナウイルスなどの感染症にかかっている場合、ご自分も感染している可能性があるため、早めに医療機関で診察を受けることが大切です。

◆『インフルエンザ』とは?>>

【参考文献】”Coronavirus disease 2019 (COVID-19)” by Mayo clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/coronavirus/symptoms-causes/syc-20479963

3-3. 咳が2週間以上続いているとき

2週間以上続く咳は「遷延性咳嗽」または「慢性咳嗽」と呼ばれ、単なる風邪とは異なり、より深刻な疾患の可能性があります。

長引く咳が見られる場合、呼吸器内科での検査と適切な診断が必要です。ここからは、咳が長引く代表的な原因とその特徴をご紹介しましょう。

まず、喘息の可能性が考えられます。喘息が原因の場合、咳は夜間や早朝に悪化しやすく、運動や冷たい空気によって誘発されることがよくあります。

喘鳴という喘息特有のゼーゼー、ヒューヒューという音を伴う場合もあります。

◆『喘息』とは?>>

次に、慢性閉塞性肺疾患の可能性も考えられます。長年の喫煙歴がある方に多く見られ、痰を伴う咳が特徴です。息切れや運動時の呼吸困難を感じる症状がでます。

◆『COPD』とは?>>

【参考文献】”Chronic obstructive pulmonary disease (COPD)” by World Health Organization
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/chronic-obstructive-pulmonary-disease-(copd)

また、咳のみが症状として現れる「咳喘息」も長引く咳の原因の一つです。咳は夜間に悪化することが多く、咳以外の喘息の症状が見られないため見過ごされやすい疾患だといえます。

◆『喘息と咳喘息』について>>

さらに、逆流性食道炎も長引く咳を引き起こすことがあります。食後や横になると咳が悪化し、胸焼けや胸の痛みを伴うことがあります。
また、感染症の後に咳が長引く「感染後咳嗽」というケースもあります。風邪やインフルエンザなどの感染症が治った後も咳だけが残る症状で、通常は3〜8週間のうちに自然に改善します。

4. おわりに

風邪はどなたにとっても身近な病気ですが、その症状や経過は個人差が大きく適切な対応が回復を左右します。

日常的な病気だからこそ、正しい知識を持ち早めの対処を心掛けることが大切です。

風邪をひいたときは、十分な睡眠や消化の良い食事、体を温めることを意識しながら、体力を回復させましょう。とくに、高齢者の方や免疫力が低下している方は、風邪が長引いたり重症化する可能性があるため注意が必要です。

また、風邪と思われる症状でも、長引く咳や高熱、発疹が見られる場合には、他の感染症や疾患が隠れている可能性があります。

自己判断に頼らず、症状が改善しない場合や悪化した場合は、早めに医療機関を受診することが大切です。呼吸器や耳鼻咽喉の症状が強い場合は、それぞれの専門科の診察を受け、適切な治療を行うことで早期の回復が期待できます。

風邪は完全に避けることは難しいものの、普段からの予防が重要です。手洗いやうがい、十分な休養を心掛け、免疫力を高めておくことで、感染のリスクを減らすことができます。

また、周囲の方が感染症にかかっている場合には、ご自身も注意を払い早めの対策を取りましょう。日常生活のなかで風邪や感染症に正しく対応し、健康的な毎日を過ごすための心掛けをすることが大切です。

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