咳・倦怠感が強いときに考えられる病気や対処法、病院受診の目安
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
咳や倦怠感が続くと、不安に思われたりつらいと感じたりする方が多いのではないでしょうか。
このような症状は、日常生活に大きな影響を与えるだけでなく、ときには見逃してはいけない病気の前兆であることもあります。
この記事では、咳や倦怠感が強く出たときに考えられる病気や、少しでも楽になるための日常でできる対処法、病院を受診するべきタイミングなどについてご紹介いたします。
1. 咳と倦怠感が強い時に考えられる病気
咳と倦怠感が同時に現れる場合、さまざまな感染症や慢性疾患が原因である可能性があります。ここでは、その代表的な病気についてご説明します。
1-1. インフルエンザ
インフルエンザは、突然の高熱、咳、倦怠感、筋肉痛などが特徴的なウイルス感染症です。特に冬季に流行しやすく、体力が低下している時に症状が重くなることがあります。早期に適切な治療を受けることが重要です。
1-2. 新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症は、咳や倦怠感、発熱、呼吸困難などを引き起こすウイルス感染症です。
咳と倦怠感が数週間以上続く場合や、重症化リスクが高い方は注意が必要な感染症です。
◆『新型コロナは咳が出る?対処法や後遺症、受診の目安も解説』>>
1-3. コロナ後遺症
新型コロナウイルス感染症から回復後も、長期間にわたって咳や倦怠感が続く場合があります。これを「コロナ後遺症」と呼び、場合によっては数か月以上症状が続くこともあります。
1-4. 肺炎
肺炎は、細菌やウイルス、真菌などによる肺の感染症で、咳や倦怠感が主な症状として現れます。高熱や呼吸困難、胸の痛みも伴うことが一般的です。
高齢者の方や免疫力が低下している方では重症化しやすく、入院治療が必要になる場合もあります。咳が長引いたり、呼吸が苦しく感じたりする場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。
1-5. 結核
結核は、肺に細菌が感染する病気です。咳が2週間以上続く場合や、夜間の寝汗、体重減少が見られます。
特に免疫力が低下している方は注意が必要です。
1-6. 花粉症
花粉症は、季節性のアレルギー反応です。症状として、鼻水、目のかゆみ、咳が現れます。倦怠感も伴うことがあり、特に花粉の多い季節には症状が悪化しやすくなります。
1-7. 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾患は、喫煙や大気汚染などによって引き起こされる慢性的な呼吸器疾患です。倦怠感とともに、咳や痰が長期間続き、息切れが顕著になります。
1-8. 心不全
心不全は心臓が血液をうまく送り出せない状態で、咳とともに倦怠感が生じます。
安静時でも息切れが悪化する場合は、心不全の可能性が高いため、早期の受診が重要です。
2. 咳でつらい時におすすめの対処法
咳が続くと、夜に眠れなかったり、外出先で咳が出ないかと不安になったりして、日常生活に大きな支障を感じる方も多いかと思います。こうした状況が続くと、心身ともに疲弊し、生活の質が低下してしまうこともあるでしょう。
咳がひどい場合には、病院での適切な治療が必要ですが、日常生活の中で少しでも咳を和らげるためにできる対処法があります。
ここからは、どなたでも簡単に取り入れられる咳の対処法をご紹介します。
◆『咳を止める方法は?しつこい咳、長引く咳から疑われる病気と受診の目安を紹介』>>
2-1. 温かい飲み物の摂取
咳が出始めた時や、のどの乾燥が気になるときには、温かい飲み物を摂ることが非常に効果的です。
のどを温め、潤すことで乾燥による刺激を和らげます。その結果、咳が自然に収まることが期待できます。
夜中に咳が止まらず眠れない場合、温かい飲み物を少しずつ飲むのもおすすめです。
例えば、しょうが湯やハーブティー、白湯などが挙げられます。
のどの粘膜が潤い、咳の症状が和らぎ、炎症を鎮める効果が得られます。
具体的には、以下のような効果です。
1. のどの潤い維持
温かい飲み物を摂取することで、のどの粘膜を潤すことができます。
のどの乾燥を防ぎ、イガイガ感が軽減されます。
乾燥による刺激で起こる咳を和らげる効果が期待できます。
2. 唾液分泌の促進
こまめに水分を摂取すると、唾液の分泌が促進されます。唾液には自然な殺菌作用があり、のどの防御機能を高め、細菌やウイルスからの攻撃を防ぐ働きを助け、咳の軽減につながります。
3. 粘膜の保護
適度な水分補給は、のどの粘膜を保護する効果もあります。粘膜が潤っていると、ウイルスや細菌が体内に侵入するのを防ぐ働きが強化され、のどの健康を維持し咳が出るのを防ぎます。
2-2. 部屋の加湿
空気が乾燥すると、のどの粘膜が刺激され、咳が悪化しやすくなります。特に、冬の時期やエアコンを使う季節には、部屋の湿度が低くなりがちです。部屋を適度に加湿することが、咳の対策に重要です。
そのためには、加湿器の使用がおすすめです。加湿器により空気中の湿度を50〜60%程度に保つことを心がけましょう。
湿度が適度に保たれると、のどや気道が潤い、咳を和らげる効果が期待できます。
もし加湿器がない場合でも、濡れタオルを干したり、コップにお湯を注いで置いておくことで手軽に加湿することが可能です。
特に寒い季節には、暖房と同時に加湿も行うと、快適な環境を保てます。
【参照文献】東京都健康安全研究センター『冬季の快適な室内環境の確保について』
https://www.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/files/top/kurashinokenkou44.pdf
2-3. ハチミツの摂取
ハチミツは、昔から咳の予防や症状の緩和に効果があるとされてきました。実際、ハチミツには抗菌作用や保湿効果があり、のどを保護し、咳を和らげる助けになるとの研究結果があります。
乾燥したのどの粘膜を潤し、炎症を抑える効果が期待できるため、咳が出始めたときや、のどがイガイガする際に摂取すると効果的です。
【参考情報】National Library of Medicine『Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18056558/
ハチミツが咳に効果的な理由
1.抗炎症作用
ハチミツには、のどの炎症を鎮める成分が含まれており、咳やのどの痛みを軽減します。とくに乾燥や炎症が原因の咳に対しては、そのすぐれた効果が期待されています。
2.殺菌作用
ハチミツの抗菌性により、のどの粘膜に存在している細菌の繁殖を抑える効果があり、感染症の予防に役立ちます。
3.保湿効果
乾燥からくる咳を予防し、既に発症している咳も軽減します。
4.免疫力向上
ハチミツに含まれる栄養素は、免疫機能を高める可能性があります。日常的に摂取することで、健康維持にも役立つと考えられています。
ただし、1歳未満のお子さまには、ハチミツを絶対に与えないよう注意が必要です。ハチミツは、乳児ボツリヌス症を引き起こす危険性があります。
適切な治療を受ければ回復することが多いですが、重症化すると命に関わることもあるため、ハチミツの摂取は絶対に避けるようにしましょう。
【参考情報】厚生労働省『ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html#:~:text=
【参照文献】消費者庁『ハチミツによる乳児のボツリヌス症』
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/food_safety/food_safety_portal/microorganism_virus/contents_001/
3. 咳と倦怠感が強い時におすすめの食べ物
咳や倦怠感が続くと、体力が落ち、食欲も低下してしまうことがあります。
しかし、そんなときこそ、体力を回復させるために適切な栄養を摂取することが大切です。
ここからは、体調がすぐれないときでも摂りやすい、消化に良い食べ物や口当たりの良い食品をご紹介しましょう。
3-1. 汁物
咳が出ると、のどが乾燥してつらいだけでなく、体全体も冷えてしまうことがあります。そんなときは、スープや味噌汁といった温かい汁物がおすすめです。
これらは、体を温めるだけでなく、水分補給もでき、のどの潤いを保つことができます。
例えば、野菜や肉、魚を煮込んだ栄養たっぷりのスープは、消化が良く、体力を回復させるのにぴったりです。
また、鶏ガラスープや味噌汁にはミネラルやビタミンが豊富に含まれているため、咳や倦怠感があるときにも負担をかけずに栄養を摂取することができます。
3-2. 消化に良い食事
体調が優れないときには、胃腸に負担をかけない食事を選ぶことが大切です。おかゆやうどんは、消化が良く、咳や倦怠感があるときに最適です。
柔らかくて食べやすいだけでなく、のどを刺激しないので、咳がつらいときでも無理なく食べることができます。
さらに、水分も多く含まれているため、のどの乾燥を防ぎつつ、体内の水分補給もできるというメリットがあります。
溶き卵や豆腐を加えることで、必要なタンパク質も一緒に摂ることができ、体力回復に役立ちます。
3-3. 口当たりが良いもの
咳や倦怠感で食欲が落ちているときは、固いものや味が濃い物が食べにくいことがあります。そんなときは、プリンやゼリー、茶碗蒸しなどの口当たりが良く、のどごしの良い食べ物を選択するのがいいでしょう。
これらの食品は、咳がひどいときでも無理なく栄養を摂取できるため、体力を回復させるのに最適です。
特に茶碗蒸しは卵を使用しており、タンパク質が豊富に含まれています。少量でもしっかりと栄養を補給できる点が魅力です。
食欲がわかないときでも、これらの食品なら比較的食べやすいので、無理せず食べてみてください。
咳や倦怠感で体力が落ちているときには、無理をせず、体に優しい食べ物や飲み物で体調を整えていくことが重要です。
体調が少しでも良くなるよう、食事に工夫を取り入れてみましょう。
4. 病院受診の目安
咳や倦怠感が続くと、「いつまで我慢すればいいのか」「これは本当に風邪なのか」と不安に思う方も多いかもしれません。
ときには「もう少し様子を見よう」と自己判断で対応することもあるでしょう。
しかし、症状が長引いたり、他の症状もある場合には、放置してしまうと病気が悪化する可能性もあります。健康を守るために、どのタイミングで病院を受診すべきか知っておくことが大切です。
次のような症状がある場合は、自己判断は避け、できるだけ早く医療機関への受診を検討しましょう。
4-1. 高熱が出た時
突然の高熱(38度以上)が出た場合は、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などの感染症の疑いがあります。
高熱に加え、呼吸困難や胸の痛みがある場合や、強い倦怠感や意識の低下が見られる時、水分を摂ることが難しくなった際には注意が必要で、危険な兆候です。すぐに受診を検討しましょう。
また、持病がある方は特に注意が必要です。例えば、糖尿病、呼吸器疾患、心臓病などを抱えている方は、通常よりも重症化するリスクが高いため、発熱が見られた時点で早めに医療機関を受診しましょう。
感染症の早期発見と適切な治療が、症状の悪化を防ぐために必要です。
4-2. 特定の場所や季節で症状がひどくなる時
症状が特定の場所や季節に悪化する場合、アレルギー性疾患の可能性があります。
アレルギーは、環境や季節に左右されるため、日常での工夫と早期の対応が大切です。
このような場合は、専門医に相談し、適切な診断と治療を受けましょう。
4-3. 症状が2週間以上続いている時
通常の風邪であれば、1〜2週間程度で症状が改善しますが、咳や倦怠感が2週間以上にわたって続く場合は、慢性の病気や感染症の可能性があります。
このような場合は、放置せずに早めに病院を受診し、詳しい検査を受けるようにしましょう。
◆『この咳はただの風邪じゃない?呼吸器内科を受診する目安』>>
4-4. 動悸、息切れ、むくみがある時
咳や倦怠感に加えて、動悸や息切れ、足のむくみが見られる場合は、心不全などの心臓の病気が原因である可能性があります。これらの症状は命に関わる可能性もあるため、できるだけ早く病院を受診するようにしてください。
5. おわりに
長引く咳や倦怠感は、ただの風邪ではなく、実はさまざまな病気の前兆であることがあります。咳や倦怠感の症状が2週間以上続いたり、発熱や息苦しさなど、他の症状が加わったりする場合は、無理をせずに呼吸器内科で診察を検討しましょう。
日常生活の中で一時的に症状が和らぐこともあるかもしれませんが、正確な診断を受けることが、症状の根本的な改善には不可欠です。
適切な治療を受けることで、長引く不調を早めに解消し、安心して健康な生活を取り戻せます。ご自分や大切な人の健康を守るために、適切な判断を心がけましょう。