喘息の方がとくに注意したいエアコン使用について
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
エアコンは、暑い夏や寒い冬に欠かせない家電です。日常を快適に保つために、温度調整という大切な役割を担っています。
一方で、喘息の患者さんにとっては、エアコンを使用する際に注意しなければならないことがたくさんあります。
エアコンによる寒暖差や冷気、乾燥、エアコン内部に潜むアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)は、喘息症状を悪化させる原因となることがあるからです。正しい使い方を知らなければ、快適さを求めたはずのエアコンが、逆に健康に悪影響を与えてしまうかもしれません。
この記事では、喘息をお持ちの方がエアコンを安心して使うためのポイントをご紹介します。
ご自身や喘息を抱えている大切な方のために、エアコンを正しく使ってより安全で快適な室内環境を作りましょう。
1. 温度差(寒暖差)
喘息の方がエアコンを使用する際、最も気をつけるべき点のひとつが温度差です。屋外と室内の急激な温度変化は、喘息症状を引き起こす引き金となる可能性があります。
気温が大きく変わることで体内の自律神経が乱れて呼吸器に影響を及ぼし、喘息発作を誘発するためです。
例えば、真夏の猛暑の中から急にエアコンで冷やされた室内に入った場合、からだが寒暖差に対応できず、気道が過敏になりやすくなります。これにより、咳や息苦しさ、喘息発作を引き起こすことが考えられます。
喘息の方は、この温度差に対する対策をしっかりと行うことが必要です。
◆『喘息とはどんな病気か?症状・原因・治療方法を解説!』>>
エアコンの設定温度は、外気温との差があまり大きくならないように調整しましょう。室内の温度と外気温の差を5度以内に保つのが理想的です。
部屋を出入りする際には、ゆっくりと時間をかけて温度に慣れるようにし、急激な温度変化を避けましょう。
また、エアコンを使用している間でも定期的に換気を行うことで、空気を入れ替え、温度差の影響を和らげることができます。
2. 冷気
エアコンの冷気そのものが、喘息を引き起こす原因となることがあります。
エアコンから出る冷たい風が直接肌や呼吸器に触れると、気道が冷えて収縮し、喘息の発作を引き起こすことがあります。
とくに、寝室などでエアコンをつけたまま寝る際には注意が必要です。寝ている間にエアコンの冷気が体に直接当たることは避けましょう。
エアコンの風が体に直接当たらないようにするために、風向きを上に向けたり、風を壁や天井に向かって吹かせるようにしましょう。これにより、冷気が部屋全体にゆっくりと広がり、からだへの影響を少なくすることができます。
また、扇風機やサーキュレーターを併用して、部屋全体の空気を均等に循環させることも有効です。これにより、エアコンの冷気が一箇所に集中せず、自然な空気の流れを作り出すことができます。
冷えすぎによる影響を防ぐためには、エアコンの温度設定にも気を配る必要があります。
冷たい空気を過度に出さないように、適度な温度に設定し、長時間の使用を避けることが大切です。
夜間は特に冷えやすいため、タイマー機能を活用して、必要以上に冷気が部屋にこもらないよう調整するのが良いでしょう。
3. 乾燥
喘息の患者さんにとって、乾燥した空気は大きな発作の要因となることがあります。
とくに気をつけなければならないのは、乾燥した環境が気道に与える影響です。空気が乾燥すると、気道の粘膜も同時に乾燥してしまい、粘膜のバリア機能が低下します。
そのため、気道は刺激を受けやすい状態になります。容易に起きる気道の炎症により、喘息の症状が悪化する可能性が高くなります。
乾燥が進むと、気道がさらに敏感になり、咳が増えたり、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)が強まることが多くあります。
エアコンを長時間使用している場合、室内の空気は非常に乾燥しやすくなります。冷房や暖房を長く使うと、温度調整は快適でも、室内の湿度は下がってしまうのが一般的です。
前述のとおり、乾燥した環境は喘息患者さんにとってリスクを高めるため、室内の湿度を適切に保つことが欠かせません。理想的な湿度は、40%〜60%の間とされています。
エアコン使用時に湿度を保つ方法としては、加湿器の利用が効果的です。
エアコンと加湿器を併用することで、乾燥した空気を加湿することができます。加湿器がない場合でも、濡れタオルを室内に干したり、水を入れた容器を置いたりする簡単な方法でも十分に湿度を保つ効果があります。
これらの方法を取り入れることで、室内環境をより快適に保ち、喘息の症状を予防することが可能です。
加えて、定期的な換気も忘れてはいけません。
エアコンを長時間使用していると、室内の空気がよどんでしまいがちです。新鮮な空気が不足し、空気が乾燥するばかりでなく、空気中の汚染物質も溜まりやすくなります。
その際には、窓を開けて外気を取り入れることで、部屋の空気をリフレッシュし、湿度を保ちやすくしましょう。
また、乾燥した空気が喉や鼻の粘膜を刺激しないように、水分補給も重要です。
室内が乾燥している場合、こまめに水を飲むことが喘息の発作予防に役立ちます。
とくに夜間は、睡眠中に体内の水分が失われやすいため、寝る前や起床時にコップ一杯の水を飲む習慣をつけると良いでしょう。
簡単にできる水分補給が、気道を潤し、喘息症状の悪化を防ぐ手助けとなります。乾燥によるリスクを最小限に抑えるためには、湿度管理と水分補給の両方が不可欠です。
【参照文献】環境再生保全機構『悪化因子の対策 室内環境を見直しましょう』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/measures/indoor.html
4. アレルゲン
エアコン内部に繁殖するカビや、ダニの死骸やフンが引き起こすアレルゲンによる刺激は、喘息の発作を誘発する可能性があります。
ここからは、エアコンが原因となる喘息悪化の要因と、その対策についてご説明しましょう。
【エアコン内部のカビ】
エアコン内部にカビが生えると、運転時にカビの胞子や菌糸が空気中に拡散し、これらが喘息の発作を引き起こす原因となることがあります。
エアコンをつけるたびに咳が出たり、息苦しさを感じたりする場合、カビが原因のひとつかもしれません。カビは、喘息の患者さんにとって重大なアレルゲンであり、気道を刺激して呼吸困難や喘鳴を引き起こします。
「室内はお風呂場ほど湿度が高くないのに、どうしてエアコン内部にカビが生えるのだろう?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、エアコン内部は実際にカビが非常に繁殖しやすい環境が整っているのです。
カビが生えるためには以下の3つの条件が必要とされています。
・温度:20〜25度
・湿度:65%以上
・ほこりや汚れ
夏場、エアコンの設定温度を20〜28度にしている方が一般的ですが、この温度範囲はカビが繁殖しやすい条件に当てはまっています。
エアコンは室内の空気を吸い込んで冷却し、冷たい空気を再び出しますが、この工程でエアコン内部には結露が発生します。
冷たい飲み物をコップに注いだ際にコップ表面に水滴がつくのと同じように、エアコン内部の温度差により水分が生じ、湿度が高くなるのです。
加えて、エアコンに付着したほこりや汚れがカビの栄養源となるため、これらの条件が揃うことでカビが急速に繁殖します。
定期的なメンテナンスが不足している場合、エアコン内部、とくにフィルターやファンにカビがびっしりと生えてしまう可能性があります。
これらのカビはエアコンが稼働している間に空気中に飛び散り、喘息の症状を悪化させる原因となります。
【エアコン使用後のカビ発生リスク】
エアコンを使っているときは風が通っているため、結露しにくくカビが繁殖しづらいですが、エアコンを停止したあとに残った結露が乾くことなくエアコン内部に留まっている場合、カビが生えやすくなります。
もし、「エアコンをつけるとほこりっぽい臭いがする」「吹き出し口から黒い点が見える」と感じたことがある場合、それはカビが発生しているサインです。早急に対策をおこないましょう。
【ダニの死骸・フン】
ダニといえば布団やカーペットなどの繊維製品に関連することが多いと思われがちですが、実はエアコンもダニアレルゲンの拡散に関係しています。
ダニは、とくに高温多湿な環境を好み、梅雨から夏場に繁殖しやすいです。繁殖したダニが死ぬと、その死骸やフンが室内に蓄積し、これが空気中に浮遊することで喘息を悪化させる原因となります。
生きているダニは喘息の直接的な原因ではありませんが、死んだダニやそのフンが非常に細かくなり、ホコリと一緒に空気中に舞い上がることで呼吸器に入り込み、喘息の症状を引き起こします。
「暖房を使う季節になるとくしゃみや喘息がひどくなる」と感じる方は、室内に蓄積されたダニの死骸やフンが原因の可能性があります。
エアコン内部やフィルターに溜まったほこりやダニの死骸は、エアコンを稼働させるたびに空気中に放出され、喘息を悪化させるリスクを高めます。
【参考情報】Mayo Clinic “Asthma”
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653
5.エアコンによる喘息悪化を防ぐための対策
喘息の患者さんがエアコンを安全に使用するためには対策が必要です。ここからは、カビやダニの死骸・フンを防ぎ、エアコンを安全に使うための具体的な方法をご紹介しましょう。
1. 使用後は送風運転または暖房運転を行う
エアコンの使用後に送風運転や暖房運転を1〜2時間行うことで、エアコン内部に残った結露を蒸発させ、湿度を下げることができます。
これにより、カビの繁殖を防ぐことが可能です。とくに冷房を長時間使用したあとは、湿気がエアコン内部に溜まりやすいため、送風や暖房によってしっかりと乾燥させましょう。
2. エアコンの使い始めは窓を開けて換気を行う
エアコンを使用する際は、最初に窓を開けて換気することも重要です。
換気により、エアコン内部に蓄積されたカビの胞子やダニの死骸、フンなどが室外へ排出され、室内の空気が清潔に保たれます。
エアコンを長期間使わなかった場合やシーズンの最初に使うときは、窓を開けての換気が非常に有効です。
3. 定期的なフィルターの掃除
エアコンのフィルターは、ホコリや汚れがたまりやすいです。このホコリがカビやダニのエサとなります。エアコンフィルターの掃除は少なくとも月に1回は行い、必要に応じて内部のクリーニングも検討しましょう。
4. ストリーマ搭載のエアコンを活用する
エアコンのカビやアレルゲンを効果的に除去するために、ストリーマ機能を搭載した製品を使用するのもおすすめです。
ストリーマとは、放出された高速電子でカビやアレルギー物質を分解し、空気をきれいにする技術です。ストリーマ機能を備えたエアコンを使用することで、喘息患者さんにとってより快適で安全な室内環境を作ることができます。
5. ダニ対策としてこまめに掃除機をかける
ダニの死骸やフンが室内に蓄積しないよう、こまめに掃除機をかけることも大切です。その結果、エアコンのフィルターにもホコリや汚れがたまりにくくなります。
とくに布団やカーペットなど、ダニが繁殖しやすい場所を中心に掃除することで、ダニアレルゲンを減らすことができます。
掃除機をかける際は、勢いよく行うとアレルゲンが舞い上がってしまうため、ゆっくりと慎重に行いましょう。
【参照文献】習慣とアレルギー 喘息に関連する生活環境 『専門医のためのアレルギー学講座』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/64/8/64_1117/_pdf
【参考情報】Asthma.net “Asthma and Air Conditioners: What You Should Know”
https://asthma.net/living/air-conditioning-help
6. おわりに
喘息の方がエアコンを使用する際には、温度差や冷気、乾燥、アレルゲンに対する対策をしっかりとおこなうことが大切です。
エアコンは快適な室内環境を作り出すために便利な家電ですが、喘息を悪化させないためには、適切な使い方が必要だといえます。
温度差をできるだけ小さく抑えること、冷気が直接体に当たらないように工夫すること、乾燥を防ぐために加湿器などを併用することが大切です。エアコンの内部やフィルターを定期的に掃除し、カビやホコリの発生を抑えることも忘れずに行いましょう。
エアコンを正しく使うことで、喘息の発作を予防しつつ、快適な環境を維持することができます。適切なエアコン管理は、喘息の方の健康を守るためにも非常に重要です。