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百日咳について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

百日咳は、百日咳菌の感染により起こり、特徴的な咳が長く続きます。

予防接種で防ぐことができる病気ですが、予防接種をしていても感染するリスクがあります。

また近年、問題視されているのが、予防接種の効果が弱くなってしまった大人が感染するケースです。

大人の場合、比較的軽い症状で経過することが多く、受診や診断が遅れることがあります。

乳幼児が感染すると重症化するケースがあり、命に関わる状態に陥るため、注意が必要な感染症です。

今回の記事では、百日咳の基本情報や症状、検査、治療、予防について詳しく解説していきます。

咳が長引いている方は、ぜひ最後までお読みください。

1.百日咳って?


百日咳とは百日咳菌に感染して発症する急性の呼吸器感染症です。

咳が治まるまで約100日間と長い時間がかかるため、「百日咳」と病名が付けられました。

最初は、風邪症状から始まりますが、徐々に咳が強くなり百日咳特有のけいれん性の咳症状が続きます。

百日咳菌は、非常に感染力が強く、免疫がない人や弱い人には高確率で感染します。

そのため、感染症法では5類に指定されており、学校保健安全法では「特有の咳が消失するまで、または、5日間の適正な抗菌薬療法が終了するまで」出席停止と決められています。

百日咳の感染経路は、「飛沫感染」と「接触感染」の2つです。

「飛沫感染」は患者のくしゃみや咳で飛んだしぶきによって感染し、「接触感染」は菌が付着した部分を触り、その手で口や目、鼻を触ることで感染します。

患者の多くは乳幼児で1歳以下の乳児が感染すると重症化することがあります。

重症化すると、肺炎や脳症の合併を起こすなど命に関わることもあるため注意が必要です。

◆『咳を引き起こすウイルスと感染を広げないために必要なこと』>>

【参考情報】『百日咳』東京都感染症情報センター
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/survey/kobetsu/j1089.pdf

2.症状


百日咳の経過は、3期にわけられます。

カタル期
    ・約2週間持続
    ・風邪症状
    ・次第に咳の回数が増え激しくなる

痙咳期(けいがいき)
    ・約2~3週間持続
    ・特徴のある発作性けいれん性の咳が出る
    ・発熱はないか微熱程度

回復期
    ・2~3週間で激しい咳は減少する
    ・発作性の咳はまだしばらく残る
    ・全経過2~3か月で回復

痙咳期にみられる発作性けいれん性の咳は、スタッカートと呼ばれる短い咳が連続的に起こり、ヒューという笛のような音が、息を吸うときに聞かれます。

このような咳発作を繰り返す状態を「レプリーゼ」と呼びます。

また、発作が出やすい時間帯として、夜間が多いです。

発作が出ていないときには無症状ですが、なんらかの刺激が加わると発作を誘発します。

【参考情報】『百日咳とは』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/477-pertussis.html

3.検査・治療


百日咳の診断には、いくつか検査をおこないます。

ここでは、百日咳を疑う場合の検査や治療について解説します。

3-1.検査

<遺伝子検査(LAMP法)>
百日咳の診断のため、一般的におこなわれている検査です。

遺伝子検査は、インフルエンザの検査と同様に、鼻から細い綿棒を入れ喉の粘膜をぬぐい、検体を採取します。

検査の結果はインフルエンザのように数分で出るわけではなく、2~4日程度かかってしまいます。

◆『インフルエンザの症状や検査、治療、注意点』>>

<血液検査>
血液検査では、ペア血清という百日咳の抗体価の上がり方を調べます。

遺伝子検査より、検査結果が出るまでに時間がかかりますが、抗体価を調べるため正確な診断が可能です。

急性期と回復期で採血し、抗体価を比較します。

大人の場合、「咳が長引いている」という訴えで受診して、採血をしたら百日咳の抗体価が上がっていたというケースもあります。

3-2.治療

マクロライド系抗生物質の内服で治療をおこないます。

一般的には、エリスロマイシンやクラリスロマイシンといった薬が使われますが、新生児にはアジスロマイシンが使われます。

これは、抗生物質による肥厚性幽門狭窄症が危惧されるためです。

※肥厚性幽門狭窄症・・・胃の出口(幽門)の筋肉が厚くなり、母乳やミルクなどが十二指腸に流れにくくなる病気。胃にたまったミルクを吐いてしまうため、脱水症状などの危険がある。

内服期間は使われる薬により異なります。

医師や薬剤師の指示に従い、決められた期間きっちり内服しましょう。

そのほか、咳や痰、呼吸器症状に対し、鎮咳薬や去痰薬、気管支拡張薬など、対症療法もおこないます。

4.予防


予防には、予防接種が効果的です。

わが国では、百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPT)や、これに不活化ポリオワクチン(IPV)を加えた四種混合ワクチン(DPT-IPV)の接種が定期接種になっています。

2024年4月からは四種混合ワクチンにHibワクチンを加えた5種混合ワクチンが導入されました。

2024年2月以降に生まれた赤ちゃんは、原則5種混合ワクチンの接種をおこないます。

ワクチンの免疫効果は、4年~12年で減弱するとされており、時間の経過とともにさらに抗体は少なくなります。

そのため、心配な方は百日咳のワクチンの追加接種をしておくとよいでしょう。

また、普段から手洗いやうがいをする、マスクをするなど感染予防に努めることで、感染リスクが少なくなります。

小さな子どもにとって、百日咳はとても怖い感染症です。

周囲の大人がしっかりと感染対策をおこない、子どもへの感染を防ぐことが大切です。

【参考文献】Pertussis by World Health Organization (WHO)
https://www.who.int/health-topics/pertussis#tab=tab_1

5.百日咳と似た、激しい咳が出る病気


咳は、さまざまな呼吸器の病気で出る症状です。

百日咳と似た症状の出る4つの病気を紹介します。

5-1.喘息

喘息は、気管支が過敏になっているために少しの刺激で気道が狭くなり、発作を起こします。

症状は、喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒュー)や発作性の咳、呼吸困難などです。

ダニやハウスダスト、花粉、ペットの毛などのアレルギーが原因であることがほとんどです。

アレルギー以外の原因として、運動や喫煙、気候の変化、感染症なども、喘息の原因となります。

治療は、吸入ステロイドを使って気道の炎症を抑え、発作が起こらないようにする治療をおこないます。

普段から、アレルゲンとの接触機会を減らすことも大切です。

発作が起きたときには、短時間作用性吸入β2刺激薬の吸入をおこない、発作を抑えます。

症状の改善がない場合は、医療機関の受診が必要です。

◆『喘息とはどんな病気か?症状・原因・治療方法を解説!』>>

◆『小児喘息とはどんな病気?』>>

5-2.咳喘息

風邪を引いた後、気道が過敏な状態になり、さまざまな刺激に対して反応し、慢性的に咳のみが続く状態が咳喘息です。

8週間以上咳だけが続いている場合、咳喘息の可能性があります。

風邪の後に咳が2~3週間以上咳が治まらない場合には、受診しておくと安心です。

症状は主に咳や痰で、夜間にひどくなる特徴があります。

気管支喘息と症状が似ていますが、喘鳴や呼吸困難を伴わないのは、気管支喘息との違いです。

気道を刺激する要因として、ハウスダストや花粉、冷たい空気、タバコの煙、感染症などです。

治療は、気管支拡張薬や吸入ステロイド薬を使用します。

【参考情報】『慢性咳嗽の病態、鑑別診断と治療-咳喘息を中心に-』日本内科学会雑誌第105巻第9号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/9/105_1565/_pdf

5-3.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマと呼ばれる細菌に感染することで発症する肺炎です。

飛沫感染と接触感染で広がるため、マスクの着用や手洗い、うがいなどが一般的な予防対策です。

頑固な咳と発熱が主な症状で、中耳炎や髄膜炎などの合併症を発症するケースも多い感染症です。

治療は、マクロライド系やテトラサイクリン系の抗生物質で治療します。

◆『マイコプラズマ肺炎の症状や治療、検査、予防について』>>

5-4.喘息性気管支炎

喘息性気管支炎は、気管支炎の一種で、咳や痰、発熱などの症状があらわれます。

悪化すると喘息のような喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼー)が聴かれるような状態になります。

急性気管支炎は、ウイルスや細菌による感染症が原因ですが、慢性気管支炎は、喫煙が最大の原因です。

治療は、症状に合わせた対症療法でおこないます。

原因が細菌感染だった場合、抗生物質の投与もおこないます。

◆『気管支炎ってなに?』>>

6.おわりに

百日咳は、非常に感染力の強い感染症です。

また、乳幼児が感染すると命に関わる状態に陥るケースがあります。

放っておくと周囲に感染を広げてしまう可能性があります。

風邪だと思っていても咳が激しくなったり、長引いていたりしているときは呼吸器内科を受診しましょう。

子どもの場合は小児科でも対応してくれますので、小児科の受診でもよいでしょう。

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