喘息と症状が似ている病気。呼吸器内科を受診しよう
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
「咳が出て苦しい…もしかして喘息かも」
咳が続くとそのように感じるかもしれません。しかし、「咳が出る」「息苦しさを感じる」というような喘息と似た症状がでる病気は、ほかにもあります。症状は似ていても、病気が違えば治療方法が異なります。
今回の記事では、喘息と間違いやすい病気について解説します。
喘息の様な症状があり、ほかの病気の不安がある方は、ぜひ最後までお読みください。
1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
慢性気管支炎や肺気腫など、気流の遮断や呼吸関連の問題を引き起こす一連の疾患の総称で、進行すると生命を脅かす肺の病気です。
<COPDの症状>
1日に何度も咳が出る
運動時や動作時に息切れがしやすい
呼吸困難や息苦しさ
透明~白色、黄色、緑色などの痰出る
喘鳴(ゼイゼイ、ヒューヒュー)がきかれる
呼吸器の感染症にかかりやすくなる
チアノーゼが出る
<喘息と似ている点・異なる点>
何度も出る咳や息苦しさ、喘鳴(ゼイゼイ、ヒューヒュー)が聴かれるのは、喘息と似た症状といえるでしょう。気管支が炎症を起こし細くなってしまう状態も、喘息と同様です。
喘息とCOPDの最大の違いは、原因です。喘息はアレルギーが原因であることに対し、COPDを引き起こす一番の原因は、喫煙です。喫煙者本人だけでなく、周囲の受動喫煙も含め、有害物質を長期間にわたって吸入すると、肺に刺激を与え、細い気管支に炎症を起こします。
【参考情報】Chronic Obstructive Pulmonary Disease (COPD) by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/8709-chronic-obstructive-pulmonary-disease-copd
2.アトピー性咳嗽
アトピー性咳嗽とは、中枢気道の炎症が原因で、気道が過敏になり、少しの刺激で咳が出る状態です。アレルギー体質の方が発症しやすく、アレルギーに関する白血球である「好酸球」が中枢気道の粘膜で増えることがわかっています。
<アトピー性咳嗽の症状>
長引く咳(深夜から早朝に症状が出やすい)
のどのイガイガ感
<喘息と似ている点・異なる点>
アレルギーが関連しているため、咳が長引くことや咳のタイミングも、喘息と似ています。気管支喘息よりも咳喘息との鑑別が難しく、「気管支拡張薬が効かない長引く咳」であることはアトピー性咳嗽を疑うひとつのポイントです。
喘息の場合、気管支拡張薬は効果がありますが、アトピー性咳嗽では、気管支拡張薬が効きません。また、喘息は喘鳴や呼吸困難を伴うのに対し、アトピー性咳嗽はこれらの症状はありません。
【参考情報】『アトピー咳嗽/喉頭アレルギー』日本内科学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2137/_pdf
3.肺がん
肺がんは、気管や気管支、肺胞にできた悪性の腫瘍です。「小細胞肺がん」「肺腺がん」「扁平上皮がん」「肺大細胞がん」の4種類があり、できる部位によって分類されています。治療法は主に、手術療法や放射線療法、薬物療法でおこないます。
<肺がんの症状>
咳
痰
血痰
胸の痛み
息苦しさ
動悸
発熱
<喘息と似ている点・異なる点>
喘息と共通する症状は、咳や痰、息苦しさです。
大きな違いは症状を起こす原因です。肺がんの発症には、喫煙が大きく関係しています。そのため、禁煙は治療をする上で、非常に重要です。
4.肺結核
結核は、結核菌に感染して発症する呼吸器感染症です。咳やくしゃみなどによる飛沫感染で広がります。結核菌を吸い込み肺に定着し感染した場合でも、菌が増殖しなければ発病はしません。
初期症状は軽く、ゆっくりと進行し、気づいたときには進行しているケースも多く見られます。重症化すると、呼吸不全や肺炎を繰り返すなどの重い後遺症を残します。
昔、結核は不治の病とされてきましたが、現在ではしっかり治療をおこなうことで完治可能な感染症です。
<結核の症状>
咳
痰
血痰
胸の痛み
発熱
冷や汗
だるさ
<喘息と似ている点・異なる点>
長引く咳や痰は、喘息の症状と共通しています。
異なる部分として、結核の場合、周囲の人にうつす可能性があります。また、予防接種で予防することができるのも喘息との違いです。
【参考情報】『結核』東京都感染症情報センター
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/diseases/tb/
5.急性気管支炎
気管支炎とは、一般的に風邪と言われる上気道炎よりも、より気道の深い部分に炎症が起きている病気です。原因は、ウイルスや細菌による呼吸器感染症がきっかけとなります。そのため、マスクや手洗いなど感染予防策をおこなうことで予防が可能です。
<急性気管支炎の症状>
咳
痰
鼻水
発熱
食欲不振
全身のだるさ
胸の不快感
小さい子どもの場合、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった喘鳴が聴かれる場合もあります。
<喘息と似ている点・異なる点>
咳や痰、喘鳴などの症状は、喘息と共通しています。また、呼吸器感染症をきっかけとして、発症や増悪をするという部分も似ています。
一方、喘息と急性気管支炎では、治療法が異なります。喘息では、継続的な治療をおこない発作のコントロールをしていくことが大切です。急性気管支炎の治療方法は、対症療法を中心におこないます。症状が軽い場合、自然治癒するケースもあります。
6.百日咳
百日咳は、百日咳菌に感染することによる急性気道感染症です。風邪症状から始まり、徐々に咳が増え、特有のけいれん性咳発作を起こすようになります。飛沫感染と接触感染で広がりますが、感染予防の徹底と予防接種で感染を予防することが可能です。
<百日咳の症状>
特有の咳嗽発作
微熱程度の発熱
乾いた咳
そのほか、夜間に発作が出やすく、少しの刺激で発作が誘発されやすいです。また、息を詰めるような咳をするため、静脈圧が上がり、以下のような症状がみられる場合があります。
顔面浮腫
点状出血
眼球結膜出血
鼻出血
年齢が小さいほど、特有の咳症状はなく、非定型的です。無呼吸発作からチアノーゼを起こし、けいれん、呼吸停止と命に関わる状況に陥るケースがあります。百日咳は全年齢で感染の可能性はありますが、特に乳幼児は注意が必要です。
<喘息との似ている点・異なる点>
喘息発作と百日咳の咳発作は、夜間に起こりやすいです。
しかし、百日咳で起こる咳発作は、喘息の咳とは少し違い特徴的です。百日咳では、特徴のある発作性けいれん性の咳で、短い咳が連続的に起こります。その後、息を吸う時にヒューという笛のような音が聴かれます。
7.細菌性肺炎
細菌性肺炎とは、細菌が原因で起こる肺炎です。主な原因菌は、肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、黄色ブドウ球菌です。
<細菌性肺炎の症状>
高熱
悪寒
咳
膿性痰
胸の痛み
呼吸困難
だるさ
<喘息と似ている点・異なる点>
咳が続き、胸の痛みや呼吸困難を感じるなど、一部似た症状があらわれます。
しかし、細菌性肺炎は、細菌の感染をきっかけとしているので、ほかの人にうつす可能性があります。治療も、抗菌薬を中心に投与するため、治療法も喘息とは異なるでしょう。
8.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマ・ニューモニアと呼ばれる細菌に感染することで起こる感染症です。「飛沫感染」と「接触感染」で感染が広がります。一度感染して免疫を得ても、長くは続かないので、再度感染する場合もあり注意が必要です。
有効なワクチンがないため、マスクの着用やうがい、手洗い、消毒など基本的な感染対策をおこないましょう。
<マイコプラズマ肺炎の症状>
発熱
全身の倦怠感
頭痛
その後、痰のない乾いた咳が出始めますが、解熱後も咳がしつこく残るのが特徴です。
<喘息と似ている点・異なる点>
長引く咳は、喘息とマイコプラズマ肺炎と共通の症状といえます。治療法は異なり、マイコプラズマ肺炎を起こした場合、抗菌薬の投与で治療をおこないます。軽症の場合、自宅療養が可能ですが、重症の肺炎を起こしている場合、入院治療が必要です。
9.おわりに
咳の症状は、さまざまな呼吸器の病気であらわれます。ありふれた症状のため、「そのうち治まるだろう」と放置してしまいがちです。
2週間以上咳が続いている場合は、なんらかの病気のサインである可能性が高いです。自己判断はせず、早めに病院、呼吸器内科を受診し医師の診察を受けましょう。