RSウイルス感染症ってどんな病気?
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
RSウイルスは風邪の一種で、子供の頃に少なくとも1度は感染すると言われています。
健康な大人は感染しても軽症で済むことが多い一方、乳幼児や高齢者が感染すると重症化するリスクが高く、呼吸困難によって命の危険もある病気です。
この記事では、RSウイルス感染症の基本的な情報や保育園の登園再開の目安、予防方法、喘息との関連について詳しく紹介します。
1.RSウイルス感染症について
RSウイルス感染症は、「RSウイルス」に感染することによって起こる呼吸器の感染症です。
年齢を問わず感染しますが特に小児に多く、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%が感染すると言われています。
一度感染しても十分な抗体ができるわけではないためその後も感染と発症を繰り返しますが、徐々に免疫ができていき、再感染の場合はかぜのような軽い症状で済むことが多いです。
しかし、次のような方は重症化するリスクが高いため、注意が必要です。
・低出生体重児
・生後24か月以下で免疫不全または心臓や肺の基礎疾患がある小児
・生後6か月以内の乳児
・慢性呼吸器疾患を有する高齢者
【参考情報】厚生労働省『RSウイルス感染症Q&A』
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html
1-1.症状
RSウイルスに感染してから2~8日程度の潜伏期間のあと、発熱、鼻汁、咳などの上気道症状が数日間続きます。
風邪のような軽い症状で自然軽快することも多い感染症ですが、次のような症状が見られた場合は重症化のサインです。必ず病院を受診しましょう。
・咳が長引く、悪化する
・「ゼーゼー」という喘鳴(ぜんめい)がする
・息苦しい、呼吸困難で顔色や唇の色が悪い(チアノーゼ)
・呼吸のたびに胸がペコペコへこむ(陥没呼吸)
・呼吸が速くなっている
「細気管支炎」や「肺炎」などの下気道疾患に発展することもあり、さらに悪化すると無呼吸発作や急性脳症などの重篤な合併症が起こる場合もあります。
また、生後1か月未満の赤ちゃんがRSウイルスに感染すると、非定型的な症状で診断が難しいことも多く、無呼吸発作を起こして突然死に至る可能性もあります。
自分で症状を伝えられない年齢の場合は、呼吸や咳の状態、顔色に注意して症状を観察しましょう。
一方、大人がRSウイルスに感染すると、風邪のような症状で軽く済む事が多いです。
しかし、RSウイルスに感染した子どものお世話をする保護者は、大量のウイルスに触れることになるため症状が重くなることもあります。
【参考情報】国立感染症研究所『RSウイルス感染症とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/317-rs-intro.html
1-2.検査
RSウイルス感染症の検査は、感染が疑われる全ての人に行うものではありません。
1歳未満の乳児など重症化のリスクが高い場合のみ、重症化に備えて保険適応で検査を行います。
検査では鼻に細い綿棒を入れて鼻粘膜のぬぐい液を採取し、15分程度で結果が出る迅速検査キットを使って判定します。
1歳以上の子どもや大人の場合は、通常の風邪と同じように軽い症状で軽快することが多いため、検査の必要はないと判断されます。
1-3.治療
RSウイルス感染症の特効薬はないため、基本的には発熱や咳、鼻水などの症状を和らげるための対処療法を行います。
薬以外では、安静や水分補給、栄養補給をして風邪症状の回復を図ります。
また、鼻水や痰、咳が出てつらい場合は横向きやうつ伏せ、頭側を高くした姿勢で寝ると呼吸が楽になります。
中耳炎の予防のために、鼻水が出ていたらこまめに吸引してあげるなどのケアも大切です。
そのほか、呼吸状態の改善のために酸素投与をしたり、哺乳ができていない場合には点滴を行うなど、状態に応じた治療を行います。
重症化すると入院治療が必要になる場合もあります。
【参考文献】❝Respiratory syncytial virus (RSV)❞ by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/respiratory-syncytial-virus/symptoms-causes/syc-20353098
2.登園再開の目安は?
RSウイルスは主に接触感染と飛沫感染で広がり、感染力が非常に強いため、幼稚園や保育園、高齢者施設で集団感染を起こすことがあります。
接触感染では、ウイルスがついた手指やドアノブ、おもちゃ、タオル、コップ、イスなどを触ったりなめたりすることで感染します。
飛沫感染では、咳やくしゃみ、会話の際に口からでた飛沫によって感染します。
そのため、物品を共用することの多い保育施設や家庭内などでは特に感染が広がりやすい傾向にあります。
秋の終わりから春先までが流行時期とされていますが、流行のピークはその年によって異なります。
潜伏期間から発症後の10~14日間ほどは、症状が治まってもウイルスを排出している状態になります。
法律では出席停止期間は定められていませんが、保育園などの場合は「呼吸器症状が消失し、全身状態が良いこと」が登園再開の目安になっています。
保育園によっては出席停止のルールが決まっていたり、医師による登園許可を必要とする場合もありますので、事前に確認しましょう。
【参考情報】厚生労働省『保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版)』
https://www.mhlw.go.jp/content/001005138.pdf
3.予防方法は?
他の感染症と同様に、手洗いやうがい、マスクの着用などの基本的な感染予防行動が大切です。
接触感染予防のためには、おもちゃやドアノブなどを消毒することも有効です。
また、60歳以上の方を対象にしたRSウイルスのワクチン接種も始まっています。
任意接種のためやや高額ですが、RSウイルス感染症のワクチン「アレックスビー」には発症を防ぐ効果や、重症化を防ぐ効果が期待されています。
特に基礎疾患がある方や老人ホームなどで集団生活をしている方は接種を検討してみてはいかがでしょうか。
1歳以上の子どもや大人の場合、RSウイルスに感染していても通常の風邪と同じような軽い症状で気が付かず、感染を広げてしまうということもあります。
感染を広げないためにも、風邪症状がある場合は、なるべく乳幼児や免疫力の低下した高齢者に近づかないようにしましょう。
4.RSウイルス感染症の後、喘息になることがある
RSウイルス感染症にかかって細気管支炎に発展すると、喘鳴など喘息のような症状が長引く場合があります。
また、もともと喘息になりやすい体質の場合は、RSウイルスなど呼吸器の感染症がきっかけで喘息を発症することもあります。
鼻水や発熱などの症状が落ち着いたにもかかわらず2週間以上咳が続いている場合は、呼吸器内科で咳の原因を調べてみましょう。
◆『喘息とはどんな病気か?症状・原因・治療方法を解説!』>>
5.おわりに
RSウイルスは風邪の一種で、大人は軽い症状で済むことが多いです。
しかし、1歳未満の乳児の場合は重症化する危険性が高く、こじらせて肺炎や細気管支炎になってしまったり、無呼吸発作や急性脳症などの重篤な合併症が起こる可能性もあります。
呼吸困難やチアノーゼが見られたら、すぐに病院を受診しましょう。
乳幼児は自分で予防することができず、症状をうまく伝えることもできないため、周りの大人がうつさない環境を作ることが大切です。
ご家族に風邪症状がある場合は、なるべく近づかず室内でもマスクを着用するなど、うつさないように注意しましょう。