過換気症候群の原因や症状、検査、治療について
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
過換気症候群は、ストレスや不安、過度の運動などによって呼吸が速く深くなり、からだの中の二酸化炭素濃度が低下することで発症する病気です。
過呼吸と呼ばれる場合が多くあります。呼吸が苦しくなり、このままでは息ができなくなってしまうのではないか、という強い不安に襲われた経験がある方もいるかもしれません。
この記事では、過換気症候群の原因、症状、検査、治療方法について詳しく説明します。
1.原因について
過換気症候群の主な原因は心理的なストレスや不安です。
そのほかにも、激しい運動、薬物の影響、代謝異常、パニック障害などが原因として挙げられます。とくに、心理的要因によるものが多く、日常生活におけるストレスや緊張が引き金となることが多いとされます。
過換気症候群の根本的な原因は、からだの中の二酸化炭素レベルの急激な低下です。
通常の状態では、呼吸を通じて酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出しますが、過呼吸が起こると二酸化炭素の排出が過剰になり、血液中の二酸化炭素濃度が急激に低下します。
血液のpHバランスが崩れ、アルカローシス(
血液がアルカリ性になりすぎる状態)と呼ばれる状態が発生します。この状態がさまざまな身体症状を引き起こすのです。
心理的な要因をはじめとした具体的な要因を以下に記載いたしましょう。
ストレスと不安
職場や家庭でのストレス、不安障害、パニック障害などが引き金になることが多いです。
過度の運動
激しい運動や長時間の運動により発症することがあります。
薬物の影響
カフェインや興奮剤などの薬物の摂取が引き金となることがあります。
代謝異常
甲状腺機能亢進症などの代謝異常も原因となり得ます。
【参考文献】❝Hyperventilation❞ by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/003071.htm
2.症状について
過換気症候群の症状はさまざまですが、主に呼吸器系、循環器系、末消神経/筋肉系、精神系、消化器系の5つに分類できます。代表的な症状についてご説明致します。
呼吸器系
・呼吸困難
胸の圧迫感や息苦しさを感じることがあり、強い恐怖感と不安感を感じます。
・過呼吸
呼吸が非常に速く深くなることで、息切れや胸部の不快感を伴います。
循環器系
・動悸
心臓が速く激しく鼓動する感覚で、心拍数の増加を感じることがあります。
・胸痛
鋭い痛みや締め付けられるような感覚を胸部に感じる場合があります。
末消神経/筋肉系
・手足のしびれ
とくに指先やつま先にピリピリとした感覚が生じます。
・筋肉の痙攣
手や足の筋肉が自発的に収縮し、痛みを伴います。
精神系
・不安感
強い不安や恐怖を感じ、パニック発作を引き起こす場合もあります。
・めまい
立ちくらみやバランス感覚の喪失などを感じます。
消化器系
・吐き気
胃の不快感や吐き気を伴うことがあります。
・腹痛
腹部に痛みや圧迫感を感じることがあります。
とくに、気管支喘息の持病がある方が過換気症候群になると、気管支が収縮して喘息症状を悪化させるリスクがあります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんでは、過換気により肺に空気が過剰に溜まり、息苦しさが増す場合があり注意が必要です。
3. 検査
過換気症候群の診断は、ほかの重篤な病気を除外するために行われます。ほかの重大な病気と区別するために、適切な検査や方法を使用することが重要です。
血液ガス分析
血液ガス分析は、動脈血から採取した血液を分析し、酸素と二酸化炭素の濃度、血液のpH値などを測定します。過換気症候群では、血液中の二酸化炭素濃度が低下し、pH値が上昇する(アルカローシス)ことが特徴的です。
呼吸機能検査
スパイロメトリーなどの呼吸機能検査を用いて、肺の機能や呼吸のパターンを確認します。肺活量や一秒量(FVC)などの数値を測定し、呼吸に関する異常を特定します。
心電図検査
心臓の電気的活動を記録する心電図(ECG/EKG)検査を行い、心臓の状態を確認します。過換気症候群によるストレスや不安が心臓に影響を与えているかを確認するために実施されます。
神経学的検査
必要に応じて、神経学的な視点から、過換気症候群が神経系にどのような影響を与えているかを確認します。
4.治療について
過換気症候群の患者さんは、強い不安を感じていることが多く、その結果、症状がさらに悪化し悪循環に陥りやすい状態になります。
しかし、過換気症候群で命を落とすことはないので、まずは安心できるようにすることが重要です。
過換気症候群の治療は、主に以下の方法で行われます。
呼吸法の指導
過換気症候群の治療の基本は、適切な呼吸法を習得することです。患者さんは、ゆっくりと深い呼吸を意識するよう指導されます。
横隔膜を使った腹式呼吸を日常的に練習し、呼吸をコントロールする技術を身につけます。これにより、ストレスの多い状況でも落ち着いて対処できるようになります。
支持的カウンセリング
支持的カウンセリングは、患者さんが安心感を得るために行われます。医師やカウンセラーは、患者さんの話を聞き、不安を軽減するよう働きかけます。精神療法や心理療法も併用する場合があります。
薬物療法
必要に応じて、抗不安薬や鎮静薬が処方されることがあります。ベンゾジアゼピン系の抗不安薬(ロラゼパム、アルプラゾラム、ロフラゼプ酸エチルなど)が使用されることがありますが、漫然と連用することは推奨されません。
とくにパニック症を合併している場合には、抗うつ薬の一つである選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI;パロキセチン、セルトラリンなど)が第一選択となります。
ただし、抗うつ薬は効果発現まで2~4週間を要するので、発作時の頓用としては使用できません。
精神科的アプローチ
過換気症候群を繰り返す患者さんに対しては、心療内科や精神科的アプローチが必要です。認知療法やストレス軽減法、薬物療法(抗不安薬、抗うつ薬、リチウムなど)が効果的です。
ペーパーバッグ法について
発作時の治療法として従来行われてきたペーパーバッグ法は、窒息のリスクもあることから現在では禁忌とされる考えもあります。このため、実施には注意が必要です。
不安・恐怖を取り除くために、声かけをしてリラックスできるように努めることが最も重要です。
生活習慣の改善
ストレスを管理し、リラクゼーション法を取り入れます。
ヨガや瞑想、軽い運動などが効果的です。また、カフェインやアルコールの摂取を控えましょう。規則正しい生活リズムを維持し、十分な睡眠をとることも過換気症候群の予防に役立ちます。
教育とサポート
患者さんとそのご家族には、過換気症候群についての教育を行い、症状が現れた際の対応方法を共有します。サポートグループやオンラインコミュニティへの参加も、精神的な支えとなることがあります。
【参照文献】一般社団法人 日本女性心身医学会『女性の病気について 過換気症候群』
https://www.jspog.com/general/details_54.html
5.おわりに
過換気症候群は、心理的なストレスにより誰にでも起こる可能性がある病気です。
症状が現れた場合は、落ち着いてゆっくり呼吸することを意識し、改善が見られない場合は呼吸器内科やかかりつけの病院などの医療機関を受診しましょう。
過換気症候群の正しい理解と適切な対処法を知っておくことで、発作の予防や対処が可能になります。