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咳が出て息苦しい…どんな病気の可能性があるのか?

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

咳は、肺や気管などから異物を取り除こうとする生体防御反応です。

咳が出ている場合、風邪やアレルギーなどのよくある病気から、喘息やCOPDなどの慢性的な病気、肺がんなどの重篤な病気など様々な可能性が考えられます。

特に2週間以上咳が続き、苦しくて眠れないなど日常生活に支障をきたしている場合は、受診が必要な病気が隠れているかもしれません。

この記事では咳が出て息苦しい場合に考えられる原因や対処法、受診の目安について紹介します。

1.息苦しさを感じる咳が出る病気


咳が出る病気には、風邪、肺炎、喘息、咳喘息、アレルギー、気管支炎、COPD、肺結核、肺がん、胃食道逆流症、副鼻腔炎などがあります。

咳が出る病気の中でも、息苦しさを伴う代表的な病気を4つ紹介します。

1-1.肺炎

肺炎の症状は風邪とよく似ていますが、風邪に比べて症状が重く、長引く傾向にあります。

2022年の原因別死亡順位では5位となっており、治療せず放っておくと命の危険もある病気です。

症状としては38℃以上の高熱や長引く咳、黄色の痰、胸痛、息苦しさなどが特徴的です。
肺炎にかかると、ガス交換を行う肺胞という部位に炎症が起こり、酸素をうまく取り込めない状態になるため息苦しさを感じることがあります。

特に風邪やインフルエンザなどの感染症にかかった後、免疫力が低下していると肺炎を起こしやすい状態になります。

肺炎は原因となる病原微生物によって「細菌性肺炎(肺炎球菌、黄色ブドウ球菌など)」「ウイルス性肺炎(インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、水痘ウイルスなど)」「非定型肺炎(マイコプラズマ、クラミジアなど)」に分けられます。

細菌性の場合は抗菌薬、ウイルス性の場合は抗ウイルス薬など、原因によって治療薬が異なります。市販薬では根本的な治療はできないため、早めに病院を受診しましょう。

肺炎の原因として最も多いのは肺炎球菌です。肺炎球菌にはワクチンがあり、65歳以上の対象年齢の方は公費で受けることができます。

また、高齢者が食べ物や唾液と一緒に細菌を誤嚥してしまうことで起こる「誤嚥性肺炎」も問題になっています。誤嚥性肺炎では口腔内を清潔に保つことが予防に繋がります。

肺炎は放っておくと重症化しやすく、呼吸困難になり入院治療が必要になる場合もあります。高熱や激しい咳、息苦しさなどの症状が長引いている場合は早めに病院を受診しましょう。

【参考情報】厚生労働省 e-ヘルスネット『肺炎について』
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2016/09141321.html

1-2.喘息

喘息は気道に炎症が生じることで狭くなり、発作的に激しい咳や呼吸困難などの症状が現れる病気で、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」のような喘鳴が特徴的です。特に夜や明け方に症状が悪化することが多いです。

喘息の患者さんは、症状がない時でも気道に慢性的な炎症が起きている状態で、少しの刺激でも反応しやすい過敏な状態となっています。

そこに、アレルゲン、タバコ、風邪などの感染症、肥満、運動、気温や気圧の変化などさまざまな刺激が加わることで発作が起こります。
このような刺激によって気管支の炎症が悪化すると気道が狭くなり、空気が通りにくくなるため、息苦しさを感じます。

喘息による息苦しさは、気管支拡張薬を使うと改善されます。
市販の咳止め薬を使うと、「アスピリン喘息」を起こし悪化してしまう場合もあるため注意が必要です。

喘息は、定期的な受診や治療薬の投与、刺激となる物質を避ける日常生活管理などを行えば、発作をある程度コントロールすることができます。
しかし、治療せずに放っておくと、重篤な発作により窒息する「ぜんそく死」に至る可能性もある危険な病気です。

2週間以上咳が続いている場合や、息苦しさを感じる場合は早めに呼吸器内科を受診しましょう。

【参考情報】『気管支ぜんそく』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html

1-3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPDはタバコの煙などの有害物質に長期間さらされることで肺に炎症が起こる生活習慣病です。

症状としては慢性的な咳や痰、労作時の息切れや呼吸困難などがあります。
労作時とは身体を動かした時のことで、階段や坂道を登る際に息切れが起こりやすくなります。

さらに症状が進行すると、安静時でも呼吸困難が生じるようになります。
「溺れるような息苦しさ」と表現されることもあり、日常生活が困難になるほどです。

喫煙歴が長いほどリスクが高く、ゆっくり発症するため中高年以降に多い病気です。
息切れしやすいなどの自覚症状があっても、年のせいかもしれないと思い受診に繋がらないケースもあります。

治療せずに放置すると呼吸困難で寝たきりになり、在宅酸素療法が必要になる場合もありますので、気になる症状がある方は早めに受診しましょう。

また、治療とあわせて禁煙をすることも大切です。喫煙はCOPDだけでなく肺がんや喘息など様々な病気のリスクが高くなります。
「咳が出て息苦しい」という症状がある場合に、禁煙をすれば症状が落ち着くということもあります。

禁煙外来では、専門家のアドバイスや離脱症状を軽減する薬の処方など、禁煙成功のためのサポートを受けることができます。

当院は禁煙治療にも力を入れています。1人で禁煙するのが難しい方は、禁煙外来を受診してみるのもおすすめです。

【参考情報】日本呼吸器学会『COPD(慢性閉塞性肺疾患)』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html

1-4.肺がん

肺がんとは気管や気管支、肺胞にできるがんのことです。

肺がんの種類や発生部位、進行度によっても症状が異なりますが、他の呼吸器疾患とも似たような症状が多いため、自覚しにくいのが特徴です。

また、はじめは無症状のことも多く、検診で偶然発見される場合もあります。

がんがある程度大きくなると咳や血痰などの症状が見られ、さらに進行すると呼吸困難、胸痛、肩の痛み、手のしびれなどの症状が現れます。

「咳が出て息苦しい」という症状の他に、血痰や胸痛もある場合は早めに病院を受診しましょう。

【参考情報】日本呼吸器学会『肺がん』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/e/e-01.html

2.受診に迷ったら


「咳が出て息苦しいけど、ただの風邪かもしれない」「咳や息苦しさ以外の症状はないから様子を見たほうが良いのかな」など、受診するべきかどうか、迷う方もいるのではないでしょうか。

咳が長引いている場合や、睡眠や日中の生活に支障が出ている場合は受診をおすすめします。

咳は症状が続いている期間によって、次の3つに分けられます。

・急性咳嗽(3週間未満):風邪、インフルエンザなどの感染症
・遷延性咳嗽(3週間以上8週間未満)、慢性咳嗽(8週間以上)
:感染後咳嗽、喘息、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆症、副鼻腔炎など

感染症の場合は2週間以内に咳症状が落ち着くことが多いのに対して、2週間以上続いている場合は他の病気が隠れている可能性があります。
2週間以上咳が続いている場合は呼吸器内科を受診しましょう。

また、咳や息苦しさにより次のような症状がある場合は危険な状態ですので、急いで受診しましょう。

・酸素不足によるチアノーゼ(手足の爪や唇が紫色になっている状態)が見られる
・意識障害がある
・喘鳴が強く、咳き込んで動けない
・会話が困難なほどの咳や息苦しさがある
・息苦しく横になることができない

【参考文献】❝Dry Cough and Chest Tightness❞ by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/21888-dry-cough-and-chest-tightness

3.おわりに

咳は風邪などでもよくある症状のため軽く考えがちですが、「息苦しい」と感じる場合喘息やCOPD、肺がんなど大きな病気がかくれている可能性もあります。

激しい咳や息苦しさは重症化すると酸素が足りなくなり、命に関わる危険性もあるため注意が必要です。

苦しい咳が2週間以上続き日常生活に支障が出ている場合や、市販の咳止め薬を服用しても効果が見られない場合は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。

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