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なぜタバコで咳がでる?長引くときの疑う病気3つ

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

「タバコを吸うと咳が出る」「健康に悪いのはわかっていても禁煙できない」というお悩みはありませんか?

この記事では、タバコによって咳が出る理由や疑われる病気、受動喫煙により咳が出るメカニズムや、禁煙のメリットについて詳しく紹介します。

喫煙による健康面のリスクを知ることが禁煙への第一歩となります。周囲の人を受動喫煙の害から守るためにも、ぜひ参考にしてください。

1. タバコを吸うとなぜ咳がでる?


タバコの煙には、約4,000種類以上の化学物質が含まれています。

中でも三大有害物質と言われているのがニコチン、タール、一酸化炭素です。

他にもホルムアルデヒドやアクロレインなどの刺激性物質が含まれており、これらが気道粘膜を刺激して咳が出やすくなります。

喫煙者はこれらの刺激によって、「慢性気管支炎」の状態にあります。

喫煙年数に伴って気道への刺激が蓄積されると「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」など呼吸器の慢性疾患へと発展し、咳がひどくなることもあります。
また、咳は強い香りが刺激となって誘発されることもあるため、タバコの臭いで咳が出る場合もあります。

【参考情報】日本呼吸器学会『禁煙のすすめ』
https://www.jrs.or.jp/citizen/nosmoking/think/

2.その咳は一時的?慢性的?


咳は症状が持続する期間によって次の3つに分けられます。

・急性咳嗽:3週間未満の咳。風邪やインフルエンザなどの感染症が多い。
・遷延性咳嗽: 3週間以上8週間未満の咳。副鼻腔炎、気管支炎、咳喘息、感染後咳嗽などが多い。
・慢性咳嗽:8週間以上持続する咳。喘息、COPDなど感染以外の原因が多い。

風邪などの感染症による咳の場合、ほとんどは2週間以内におさまります。

喫煙習慣のある人が2週間以上咳が続いている場合は、タバコの有害物質に刺激されて慢性呼吸器疾患を発症している可能性があります。

【参考文献】❝Effect of smoking on cough reflex sensitivity in humans❞ by National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19813055/

3.タバコで続く咳。疑うべき3つの病気


喫煙習慣があり、咳が続いている場合は次のような病気が疑われます。

3-1.喘息

喘息は気道に炎症が生じることで気道が狭くなり、発作的に咳や呼吸困難などの症状が現れる病気で、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」のような喘鳴が特徴的です。

症状がない時でも気道に慢性的な炎症が起きているため、少しの刺激でも反応しやすい過敏な状態となっています。

喘息発作のきっかけとなる刺激には、風邪、運動、アレルゲン、気温や気圧の変化などがありますが、タバコもその一つです。

タバコが喘息を悪化させる理由としては次の3つがあります。

・タバコの煙に含まれる化学物質が刺激となり、気道の炎症を悪化させるため
・喫煙が全身の免疫系に作用し、抗原吸入時のアレルギー反応が強く起こるため
・喫煙によって気道過敏性が亢進し、喘息発作が起こりやすくなるという悪循環が生じるため

喘息は治療せずに放っておくと、発作による窒息で「ぜんそく死」を招くこともある危険な病気です。

しかし、早期に禁煙し、薬剤や日常生活管理を行うことで症状をある程度コントロールすることができます。

また、受動喫煙によっても喘息が悪化することがあります。
受動喫煙による喘息発作は、煙を吸い込んだ直後だけでなく、時間が経ってから夜間に起こる場合もあります。

家族の喫煙によって子どもが喘息を発症しやすくなるため、特に子どもがいる空間では吸わないようにしましょう。

3-2.COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPDはタバコの煙などの有害物質を長期にわたって吸いこんだことにより、肺に炎症が起こる病気です。

生活習慣病のひとつで、喫煙習慣のある中高年に多く発症します。

タバコの煙を吸い込むことによって肺の中の気管支に炎症が起こり、気管支が細くなることで空気を取り込みにくくなるため、咳、痰、息苦しさなどの症状が見られます。

さらに症状が進行すると、酸素と二酸化炭素の交換を行う肺胞が破壊され、肺気腫という状態になります。
不可逆的なものであり、治療をしても破壊された肺胞が元に戻ることはありません。

長引く咳や痰の症状に加えて、歩行や階段昇降に伴う息切れを感じたら、一度病院を受診しましょう。

【参考情報】日本呼吸器学会『COPD』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html

また、喘息とCOPDを合併して発症することを「喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)」と呼び、特に予後が悪いとされています。

【参考情報】日本内科学会『喘息とCOPDのoverlap症候群(ACOS:asthma-COPD overlap syndrome)』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/9/105_1815/_pdf

3-3.肺がん

肺がんは、がんの中でも最も死亡数が多い病気で、原因の70%は喫煙によるものです。

タバコには約60種類の発がん物質が含まれており、肺や気管支が繰り返し発がん物質にさらされることにより細胞に遺伝子変異が起こります。

症状は肺がんの種類や進行度によっても異なり、咳、痰、倦怠感、胸痛など様々です。人によっては無症状で、検診で偶然発見される場合もあります。
血痰が出る場合は肺がんの可能性が高いため、気になる場合は早めに病院を受診しましょう。

【参考情報】日本呼吸器学会『肺がん』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/e/e-01.html

4.受動喫煙でも咳はおこる


タバコを吸わない人でも、受動喫煙によって肺がんリスクは約1.3倍になると言われています。

普段タバコを吸わない人は、喫煙習慣のある人に比べてタバコの煙に対する感受性が高いと言われています。
そのため、少しの受動喫煙でも大きな健康被害に繋がることもあります。

また、直接吸い込む主流煙に比べて、火のついた部分から発生する副流煙は2~4倍以上の有害物質が含まれています。
そのため、喫煙者の周囲にいるだけで、空気で多少薄まったとしてもタバコを吸っているのと同じくらいの健康被害を受けることになるのです。

特に妊娠している方や乳幼児にとっては受動喫煙は大きな問題です。
妊娠中の受動喫煙は、低出生体重児、胎児発育遅延、出産後の乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスクが高まります。

【参考情報】国立保健医療科学院『女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-02-003.html

乳幼児の受動喫煙は、乳幼児突然死症候群(SIDS)や喘息、肺炎、気管支炎など様々な病気のリスクが高まります。
将来後悔しないためにも、妊娠している方や乳幼児がいる家庭の方は十分注意しましょう。

喫煙者の方の中には、「別の部屋で吸っているから」「分煙できているから」と思う方もいるかもしれません。
しかし、部屋を分けても煙を100%遮断することはできません。

タバコを吸うと髪や服などにも有害物質がついてしまい、移動に伴って周囲に拡散させている状態です。
分かりやすく言うと、「タバコ臭い」と感じたらもうその時点で受動喫煙の被害にあっているのです。

さらに受動喫煙には「サードハンド・スモーク」という三次喫煙もあり、直接的に近くでタバコを吸われていなくても健康被害が生じる場合があります。
サードハンド・スモークとは喫煙によって発生したタバコの煙が家具や壁紙、エアコンの表面などに付着した後、徐々に空気中に再遊離するものです。

また、近年は加熱式タバコが増えており、紙巻式のタバコに比べて害が少ないと思っている人も多いのではないでしょうか?
加熱式タバコであっても加熱時に有害化学物質が出ているとの報告もあり、近くに子どもや妊婦の方がいる場合には避けたほうが良いでしょう。

【参考情報】日本医師会『受動喫煙のリスク』
https://www.med.or.jp/forest/kinen/loveforthesurroundings/

5.禁煙の難しさと多くのメリット


喫煙による健康被害について理解できても、いざ禁煙をするとなると難しいと思う方も多いのではないでしょうか。

健康面で考えると、禁煙のメリットには次のようなものがあります。

・心臓発作の可能性が低くなる(禁煙24時間後)
・咳や喘鳴が改善し、気道の自浄作用が改善するため免疫機能が回復する(1か月後~)
・肺機能が改善する(1年後)

そして、禁煙10~15年後には、様々な病気にかかるリスクが非喫煙者のレベルまで近づくと言われています。

【参考情報】厚生労働省 e-ヘルスネット『禁煙の効果』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-08-001.html

禁煙は健康面以外にも、生活面では次のようなメリットがあります。

・タバコ代が浮く
・味覚が戻り、食事がおいしく感じられる
・睡眠の質が改善し目覚めが良くなる
・口臭や歯の着色が予防できる
・肌の老化現象を加速させずに済む
・周囲に気を遣う必要がなくなり、ストレスが減る
・家族から喜ばれる

習慣を変えるのはなかなか難しいことですが、禁煙は長期的に考えると大きなメリットがあります。

「禁煙したいけど自分一人では自信がない」という方は、ぜひ一度禁煙外来を受診しましょう。
経験豊富な専門家のアドバイスを受け、場合によっては禁煙補助薬を使用するなどその人に合った禁煙方法が見つかるはずです。

禁煙補助薬を利用すると、ニコチンパッチの場合1.6倍、自力の禁煙に比べて禁煙成功率が高まると言われています。

また、12週間の禁煙治療を5回すべて受けた人では、約8割が治療終了時点で少なくとも4週間以上の禁煙に成功し、約5割が治療終了後9ヵ月間の継続禁煙に成功したという報告もあります。

【参考情報】厚生労働省 e-ヘルスネット『禁煙のおくすりってどんなもの?』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/tobacco/t-06-006.html

6.おわりに

タバコはまさに、百害あって一利なしです。

有害物質は目に見えないため軽く考えがちですが、受動喫煙は喫煙と同程度の健康被害を受けることもあります。

タバコによる咳は放置すると喘息、COPD、肺がんなど、その後の人生に大きく関わる病気に発展する場合があり、咳症状が気になった時が禁煙治療のはじめ時です。

咳の原因によって治療が異なりますので、2週間以上咳が続いている場合は一度呼吸器内科を受診しましょう

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