喘息の方は要チェック!喘息が悪化する要因
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
喘息発作のきっかけとなる刺激は、身近なところに隠れています。
服薬や通院などの治療を継続することに加えて、喘息悪化の要因を避けて生活することで症状をコントロールすることができます。
この記事では喘息悪化の要因について詳しくご紹介します。喘息と診断された方は日常生活に悪化する要因が無いか、一度見直してみましょう。
1.喘息が悪化する5つの要因について
喘息は気道に炎症が生じることで狭くなり、発作的に咳や呼吸困難などの症状が現れる病気で、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」のような喘鳴が特徴的です。
喘息の患者さんは、症状がない時でも気道に慢性的な炎症が起きている状態で、少しの刺激でも反応しやすい過敏な状態となっています。
そのため、アレルゲン、タバコ、風邪などの呼吸器感染症、肥満、運動、気温や気圧の変化などさまざまな刺激がきっかけとなって発作が起こります。
喘息の悪化を防ぐためには、このような刺激を取り除くことが大切です。
1-1.アレルゲン
アレルゲンとは、ダニ、カビ、ペットの毛、花粉、食物などアレルギーの原因となる物質のことです。
〈アレルギー症状が起こるメカニズム〉
①アレルゲンが体内に入ると、異物を排除しようとする免疫の働きによってアレルゲンに対するIgE抗体が作られます
②IgE抗体が血液を通して皮膚や粘膜にあるマスト細胞(アレルギー反応や炎症に関与する免疫細胞)に結合し、アレルゲンに反応しやすい状態になります。この状態を「感作」と言い、アレルギー体質の人は感作されやすくなります。
③感作が成立した後に再度アレルゲンが侵入しマスト細胞上のIgE抗体に結合すると、ヒスタミンなどが放出され、アレルギー症状が起こります。
【参考情報】国立成育医療研究センター『アレルギーについて』
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/about_allergy.html
〈アレルギーを調べる検査〉
アレルゲンを調べるためには血液検査を行い、IgE、好酸球、アレルゲン特異的IgE抗体などを調べます。
IgEは1型アレルギーを引き起こす免疫グロブリンで、アレルギー体質の人で高くなります。
特にダニや花粉、食物などそれぞれのアレルゲンに対するIgE抗体のことをアレルゲン特異的IgE抗体と言います。
好酸球はアレルギーの炎症を起こす白血球の一種で、アレルギー疾患があると高くなります。
【参考情報】日本アレルギー学会『アレルギー疾患の手引き』
https://www.jsaweb.jp/huge/allergic_manual2022.pdf
〈アレルゲンを取り除くためには〉
ダニなどのハウスダストやカビ、ペットの毛など身近なものが原因となっている場合もあるため、まずは室内環境を見直しましょう。
ホコリをためないようにこまめに掃除をすることや、十分な換気を行い湿気を上げないことが大切です。
特に睡眠中に寝具からダニなどのアレルゲンを吸い込むことがないように、寝室は清潔に保ちましょう。
1-2.喫煙・たばこの煙
喫煙やたばこの煙は呼吸機能を低下させるだけでなく、喘息の原因にもなります。
タバコの煙には約4000種類もの化学物質が含まれていると言われており、刺激となって気道の炎症を引き起こすため、喘息を悪化させます。
受動喫煙による喘息発作は、煙を吸い込んだ直後だけでなく、時間が経ってから夜間に起こる場合もあります。
家族の喫煙によって子どもが喘息を発症しやすくなるため、子どもがいる空間では吸わないようにしましょう。
また、すでに喘息と診断されているかたは禁煙が治療の大前提となります。
禁煙するだけで症状や発作が改善しやすくなりますので、難しい方は禁煙カウンセリングなどを利用してみるのもいいでしょう。
【参考情報】環境再生保全機構『ぜん息などの情報館』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/child/09_09_04.html
1-3.呼吸器感染症
風邪やインフルエンザ、肺炎などの呼吸器感染症は気道に炎症を起こすため、喘息悪化の原因となります。
特に空気が乾燥している冬などは、手洗いうがいやマスクの着用など感染予防行動を徹底しましょう。
また、インフルエンザなどはワクチンを接種するのも感染予防に効果的です。
注意が必要なのは、風邪を引いて市販の風邪薬を飲む場合です。
市販の解熱鎮痛薬などに含まれているアスピリンという成分によってアレルギー反応を引き起こし、発作を誘発する「アスピリン喘息」が起こることがあります。
アスピリン喘息と診断された方は特に、かかりつけ医や薬剤師に相談しましょう。
また、それ以外の喘息の方でも、喘息の人はアレルギー体質の場合が多いため、薬の服用には十分注意しましょう。
【参考情報】厚生労働省『非ステロイド性抗炎症薬による喘息発作(アスピリン喘息)』
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d5.pdf
1-4.ストレス
精神的ストレスが喘息を悪化させるメカニズムははっきりとは分かっていません。
一説では、ストレスを感じた時に分泌されるコルチゾールという物質が原因と言われています。
コルチゾールが分泌されると、免疫細胞を活性化させるサイトカインという物質が放出されます。
サイトカインはアレルギー物質などを体外に排出する役割があり、異物の排除に伴って炎症が起こります。
もともと炎症が起きている喘息患者さんの気道にサイトカインが放出されると、炎症がますます悪化し、喘息発作が起こりやすくなります。
喘息の原因として精神的ストレスが疑われる場合は、ストレスの原因から離れることが大切です。
また、特定の場面で喘息がひどくなる場合は、喘息発作が起きたときの状況などをメモしておくことで症状をコントロールすることができます。
1-5.肥満やメタボリックシンドローム
肥満やメタボリックシンドロームが喘息悪化の要因となる理由は、大きく分けて2つあります。
1つ目は、肥満によるお腹の膨らみが横隔膜を押し上げて肺を圧迫し、呼吸機能を低下させるためです。
肥満には「内臓脂肪型」と「皮下脂肪型」という2つのタイプがあります。
皮下脂肪型肥満は比較的女性に多く、主に皮下組織に脂肪が蓄積されることで下半身が太りやすいため「洋ナシ型肥満」とも呼ばれています。
内臓脂肪型肥満は男性に多く、主に腸の周りに脂肪が蓄積されることでウエスト周りが太りやすいため「リンゴ型肥満」とも呼ばれています。
特に内臓脂肪型は喘息悪化の原因になりやすいと言われています。
2つ目は、脂肪細胞が「レプチン」という物質を分泌するためです。
レプチンはアレルギーに関係する血中IgEを増加させるだけでなく、気道を過敏にするはたらきもあります。
そのため、特に気管支周囲に内臓脂肪が沈着すると、喘息を悪化させやすいと言われています。
肥満の改善は、喘息のコントロールのためだけでなく、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の予防にも役立ちます。
喘息の患者さんで、体重が気になる方はBMI25未満を目標にしましょう。(18.5以上25未満が普通、25以上が肥満)
BMIは「体重(kg)÷身長(m)²」で計算できますので、まずは自分の肥満度を確認してみましょう。
【参考情報】『肥満が喘息に与える影響とその対策』玉置淳
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjiao/33/2/33_20/_pdf
2. その他の要因
これまで紹介したものの他に、喘息を悪化させる要因としては次のようなものがあります。
・季節の変わり目
・気圧の変化
・寒暖差
・冬場の冷たい空気
・運動
・アルコール
喘息症状は季節の変わり目や気圧の変化にも左右されやすいため、特に秋に症状がひどくなりやすいと言われています。
このような気候的な要因を避けることは難しいですが、天気予報などで事前に確認して薬の準備などを行いましょう。
運動した時にも喘息発作が起きることがありますが、過度に運動を制限する必要はありません。
5~10分程度の準備運動を行うことで発作が起こりにくくなります。
また、運動の中でも水泳などは喘息発作が起こりにくいと言われていますので、適度な運動を取り入れて健康に過ごしましょう。
自分がどのような時に喘息が悪化しやすいか、喘息日記などに記録してセルフコントロールを行うことが大切です。
【参考文献】❝Asthma❞ by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/asthma/triggers.html
3.おわりに
喘息は慢性疾患のため、長期的に付き合っていかなければいけない病気です。
しかし、通院、服薬、日常生活管理を行うことで症状をコントロールすることができれば、健康な人と同じような生活を送ることができます。
喘息の方は治療を継続するとともに、症状が悪化する要因を防ぐようにしましょう。