咳が止まらず夜に眠れない。対処法と予防法
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
夜中にしつこい咳に悩まされ、眠りたくても眠られず困っている方もいらっしゃるかもしれません。
寝不足が続くと日中も体調が悪くなり、さらに咳が悪化するという悪循環に陥ってしまいがちです。
この記事では、夜間の止まらない咳の対処法をご紹介いたします。
夜に咳がひどくなる原因や、対処の方法、咳の予防策まで、日常生活で実践できる方法を解説いたします。
また、市販の咳止め薬を使用する場合の適切な選び方や注意点もご説明します。
咳が長引く場合は、早めに呼吸器内科などの医療機関での受診を検討することが重要です。
【参考文献】❝Nocturnal Cough❞ by National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK532273/
【参照文献】独立行政法人 環境再生保全機構『「もしかしてぜん息?」と思っている方へ』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/check.html
1. 夜に咳がでるのはなぜ?
夜になぜ咳が引き起こされるのかについてご説明します。
1-1.副交感神経が優位になる
夜は副交感神経が優位になります。
副交感神経が優位になると、全身がリラックス状態になります。
この状態は「休息と消化」とも呼ばれます。
心拍数が低下し、消化活動が活発になるなど、からだの活動が全体的に落ち着いている状況です。
副交感神経の活性化は気道の粘膜の分泌を促進し、気道がより敏感になる可能性があります。
本来、気道粘液の機能は気道を潤す役割です。
外部の刺激物や病原体から肺を守るバリアともいえます。
一方で、過剰に分泌された粘液は、気道に留まり喉の奥で刺激となることがあります。
この刺激がリラックスしている夜間や早朝に咳が発生しやすくなる原因です。
とくに睡眠中は副交感神経が活発なため、咳が出やすい状態になります。
1-2.冷気や乾燥は気管支を刺激する
気候やエアコンによる冷たい空気や乾燥は、気管支を刺激し、咳を引き起こす一因です。
加えて、病気や薬の副作用が引き起こすのどの渇きも、咳の主な要因の一つとなります。
たとえば、一部の薬剤には口の渇きを副作用として持ち、これが気管支への刺激となり咳を促すことがあります。
高齢になると筋力の衰えが見られ、うっかりと口が開いてしまうことが多くなります。
口が開くことで内部が乾燥しやすくなり、それが咳の原因になります。
また、高齢者は唾液の分泌も減少するため、気管支が外部刺激に敏感になりがちです。
小さな子どもたちにおいても、口の周りの筋肉がまだ完全に発達していないため、口が開きやすくなります。
これにより、口内が乾燥しやすくなり、咳を引き起こしやすくなるのです。
2.咳がひどく眠れない。応急処置は?
咳がひどくて眠れないときのご自身でできる効果的な3つの対処法をご説明します。
2-1.のどが冷えないように温める
のどを温めると、のどの炎症や刺激を和らげ、咳を軽減する効果があります。
喉が冷えないように、ネッグウォーマーや温めたタオルで首を覆いましょう。
2-2.水分やハチミツの補給をする
水分補給は喉の乾燥を防ぎ、咳の予防に役立ちます。
とくに乾燥した部屋や咳が多いときには、こまめに水分を取りましょう。
飲み物は、ハーブティーや温かい水やお茶などがおすすめです。
これらは喉の粘膜を癒し、のどへの刺激を和らげるのに役立ちます。
また、温かさが血流を良くし、炎症の軽減につながるため、咳の発作を和らげることができます。
ハチミツは、抗菌作用と粘り気のある質感でのどの刺激を和らげ、咳を抑える効果が期待できます。
大人の方やお子様には、就寝前にスプーン1杯のハチミツを舐めさせると良いでしょう。
ただし、1歳未満の子どもにはハチミツを与えてはいけません。
ハチミツに含まれる菌が原因で乳児ボツリヌス症を引き起こす恐れがあり、非常に危険です。
2-3.寝姿勢を変えるとラクになることも
咳が出て苦しいときに寝姿勢を変えると楽になる場合があります。
例えば、半座位と横向きに寝る姿勢です。
半座位とは、寝るときに上半身を少し高くして寝る姿勢です。
枕を二つ重ねたり、クッションを使用したりすることで、胸よりも頭が高くなるように調整します。
半座位と横向きの寝姿勢は胸や喉に痰がたまっている場合にとくに効果的で、呼吸が楽になり咳も抑えられることがあります。
3.5つの方法でのどを守り咳の予防を!
簡単に取り入れられるのどを守る5つの方法をご紹介します。
咳を予防するための対策を日常生活で行いましょう。
3-1.うがいを正しくおこなう
うがいは、喉や口の中の細菌やウイルスを洗い流す効果があり、感染症の予防に役立ちます。
うがいを適切にするには、温かい水や専用のうがい薬を使い、口を大きく開けて「あー」と音を出しながら、喉の奥までうがい薬や水が届くようにしましょう。
この際、頭を少し後ろに傾けると効果的です。1日に数回、特に外出から帰った後や食事の後に行うと良いでしょう。
3-2.寝る環境を見直す
寝室の環境は咳予防に非常に重要です。
掃除をこまめに行い、エアコンのフィルターも定期的に清掃することで、ホコリやアレルゲンが溜まるのを防ぎます。
また、乾燥する季節には加湿器を使用するのもおすすめです。
その際は加湿器の水は清潔に保ち、定期的に清掃を行うことが重要です。カビやバクテリアの発生を防ぎましょう。
3-3.喉に刺激の強い食べ物、飲み物は控える
辛い食べ物、アルコール、極端に熱い飲み物などは喉の粘膜を刺激して咳を引き起こすことがあります。
刺激の強い食べ物や飲み物を控えることで、喉の炎症を軽減し、咳の予防につながります。
3-4.のどを使い過ぎないように注意する
長時間の会話や大声、歌うなど、のどを酷使する行為は喉の疲労や炎症を引き起こす原因となります。
話すときは適切な音量で話し、必要な場合、声を休める時間を意識することが重要です。
3-5.禁煙をする
タバコの煙は、有害な化学物質を含んでおり、直接喉に刺激を与え、慢性的な咳や呼吸器系の疾患を引き起こします。
喫煙者の方の禁煙は、咳予防に非常に重要です。
4.市販の咳止めを使用する際の注意すること
市販の咳止めの使用には、重要な注意点があります。
注意点を理解することで、副作用のリスクを最小限に抑えつつ、咳の治療効果を最大限に引き出すことができます。
4-1. 12歳未満の子どもへのコデイン使用の禁忌
コデインを含む咳止め薬は、12歳未満の子どもには使用禁止です。
コデインは呼吸を抑制する副作用があり、特に小児において重篤な症状を引き起こす可能性があります。
したがって、子どもに対しては、コデイン以外の成分を含む咳止め薬を使い、可能な限り医師の指導のもとで治療を行いましょう。
4-2. 薬剤師に相談
市販の咳止め薬を購入する場合は、ドラッグストアや薬局で薬剤師にご自身の症状を詳しく説明しましょう。
適切な薬剤選びのために、専門家に相談することが非常に重要です。
薬剤師は患者さんの症状や既往歴に基づいて、最も適した薬を推薦することができます。
また、服用している薬との相互作用や、アレルギー反応や副作用についても確認できます。
4-3. 用法・用量を守る
咳止め薬の包装に記載されている用法・用量を守りましょう。
過剰な服用は、副作用が出るリスクがあります。
また、薬の効果を低下させることにもつながります。
咳止め薬は、眠気、めまい、吐き気などの副作用が現れることがあります。
これらの症状が現れた場合は、薬の使用を中止し、医師や薬剤師、医療機関に相談しましょう。
5.おわりに
咳は多くの場合、一時的なものであり、ご自身での対処法や市販の咳止め薬の服用で治る場合がほとんどです。
しかし、これらの方法で改善が見られないときや、2週間以上咳が続いている際は、単なる一時的な症状ではない場合があります。
慢性の呼吸器疾患や他の疾患が原因の可能性です。早めに、適切な診断と治療を受けるために呼吸器内科など医療機関の受診を検討しましょう。