肺水腫ってどんな病気?肺水腫
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
肺水腫とは、肺の毛細血管から水分が漏れ出し、肺に水分が溜まる病気です。
肺胞と呼ばれるガス交換が行われる小さな袋に水分が溜まるため、酸素の取り込みが障害されて低酸素状態になり、息苦しさやチアノーゼ、泡沫状の血性痰などの症状が現れます。
この記事では、肺水腫の原因や症状、検査、治療について詳しく解説しています。
1.原因
肺水腫の原因として最も多いのは心不全です。
そのため、心不全が原因の「心原性肺水腫」とそれ以外が原因の「非心原性肺水腫」に分けられます。
また、機序により静水圧性肺水腫、透過性亢進型肺水腫、混合型肺水腫に分類されます。
それぞれのメカニズムについて分かりやすく説明します。
1-1.静水圧性肺水腫
静水圧性肺水腫とは、肺の毛細血管静水圧(毛細血管から外へ水分を押し出そうとする圧力)の上昇により、血液成分が血管の外に漏れて起こる肺水腫のことです。
静水圧性肺水腫の原因には心原性肺水腫(主に左心不全によるもの)、肝硬変、過剰輸液(点滴などで必要以上に体内に輸液すること)、腎不全などがあります。
〈心不全が肺水腫を起こす理由〉
心不全は心臓のポンプ機能が上手く働かない状態のことです。
正常な場合、肺で酸素を取り込んだ血液(動脈血)は肺静脈を通って左心房に、左心室から大動脈を通って全身に送り出されます。
しかし心臓のポンプ機能が低下すると、血液が渋滞して心室に溜まり、心臓に入りきらなかった血液が肺の血管に溜まっていきます。
この状態を「うっ血性心不全」と呼び、呼吸困難やむくみ、頚静脈怒張(首の静脈が浮き上がる)などの症状が現れます。
肺胞は酸素と二酸化炭素を交換する小さな袋状の組織で、隣接した毛細血管とガス交換を行っています。
心不全により肺の毛細血管にも血液が溜まると、血液が肺胞の中に漏れ出し、ガス交換を障害するため低酸素状態になります。
また、肺胞に溜まった血液が呼吸をする時に押し出されて、「ピンク状の泡沫痰」として喀出されます。
1-2.透過性亢進型肺水腫
透過性亢進型肺水腫とは、血管の透過性が高くなり、血液成分が血管の外に漏れて起こる肺水腫です。
主な原因としては急性呼吸窮迫症候群(ARDS)が挙げられます。
〈ARDSが肺水腫を起こす理由〉
ARDSとは、敗血症、肺炎、誤嚥、溺水、熱傷、外傷、急性膵炎などにより急に発症する低酸素血症のことです。
ARDSでは肺に高度な炎症が起こるため、血管と肺胞の細胞が傷害されます。
すると傷ついた血管から血液が漏れ出しやすくなり、肺胞に血液が入り込んで肺水腫が起こります。
薬剤の副作用として起こる場合もありますので、新しい薬の服用後急に症状が見られた場合にはすぐにかかりつけ医に連絡してください。
【参考情報】医薬品医療機器総合機構『急性呼吸窮迫症候群・肺水腫』
https://www.pmda.go.jp/files/000245301.pdf
1-3.混合型肺水腫
混合型肺水腫は、静水圧性肺水腫と透過亢進圧性肺水腫が混合したものです。
胸腔ドレナージに伴う「再膨張性肺水腫」、てんかん発作や頭部外傷などの神経障害による「神経原性肺水腫」、高原病の一種である「高地性肺水腫(HAPE)」などがあります。
【参考情報】日本救急医学会『再膨張性肺水腫』
https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0916.html
【参考情報】日本呼吸器学会雑誌第40巻第10号『てんかん発作に伴った神経原性肺水腫の1例』
https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/040100817j.pdf
2.症状
肺水腫の症状は突然現れる場合もあれば、時間の経過とともに発症する場合もあります。
特に急性の肺水腫は死亡する危険もあり、緊急に治療が必要です。
肺水腫の代表的な症状には次のようなものがあります。
・労作時の息切れ
・呼吸困難
・横になると悪化する、溺れるような窒息感
・咳
・動悸
・脈が速い、乱れている
・ピンク色の泡沫痰
・喘鳴
肺水腫の呼吸困難感は、身体を動かした時や横になった時に悪化するのが特徴です。
仰向けになると息苦しさを感じるため、起き上がると呼吸が楽になる「起座呼吸」が見られます。
息苦しさ以外には喉の奥で「ゼイゼイ」という喘鳴や、ピンク色の空気を含んだ泡のような痰が見られることもあります。
低酸素状態がさらに進行すると、唇や皮膚が紫色になるチアノーゼや、冷汗、血圧低下などが起こる場合もあります。
【参考情報】Mayo Clinic『Pulmonary edema』
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pulmonary-edema/symptoms-causes/syc-20377009
【参考情報】日本呼吸器学会『肺水腫』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/f/f-03.html
3.検査
肺水腫が疑われる場合、まず画像検査や動脈血ガス分析を行います。
胸部X線検査や胸部CT検査では、血管や気管支の周りに液体成分があるか・心臓や肺血管が通常より大きくなっていないかを確認します。
動脈血ガス分析では、血液中の酸素や二酸化炭素について調べ、低酸素血症かどうかを確認します。
肺水腫が強く疑われる場合は、原因を特定するために血液検査や痰の培養検査、心エコーなどを行うこともあります。
【参考情報】厚生労働省『重篤副作用疾患別対応マニュアル 肺水腫』
https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1b13.pdf
4.治療
肺水腫の治療は心原性、非心原性によって異なりますが、原因疾患に応じて肺胞内の水分を取り除くための利尿薬や、肺の炎症を抑えるための薬などを使って治療を行います。
肺水腫では低酸素状態になっている場合が多いため、まずは体位の調整と安静を保つことで呼吸を楽にします。
半座位(寝た状態から上半身を45度程度上げた状態)になることで静脈還流が減少するため、肺うっ血が軽減し呼吸が楽になることもあります。
SpO₂90%以下、またはPaO₂が60以下の場合、低酸素状態を改善するために酸素療法を行うこともあります。
さらに重症の場合は人工呼吸器を用いて低酸素状態の改善を図ることもあります。
呼吸困難状態に陥ると命の危険を感じ、不安や恐怖も大きくなります。
そのため肺水腫が進行する前に適切な治療を行うことが大切です。
5.おわりに
肺水腫の原因としては心不全が最も多く、心筋梗塞など心臓の病気が原因で起こることがあります。
息切れや呼吸困難、ピンク色の泡沫痰などの症状があれば早めに医療機関を受診しましょう。
症状がひどく呼吸ができない場合は命に関わりますので、迷わず救急車を呼んでください。