咳エチケットについて
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
基本的な感染対策としては手洗い、うがい、手指消毒、予防接種、咳エチケットなどがあります。
新型コロナウイルスの流行により、「咳エチケット」という言葉をよく耳にするようになったという方も多いのではないでしょうか。
自分を感染から守るためだけでなく、周りにうつさないためにも、正しい咳エチケットを実践しましょう。
【参考文献】❝Respiratory Hygiene/Cough Etiquette❞ by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/oralhealth/infectioncontrol/faqs/respiratory-hygiene.html#:~:text=Cover%20your%20mouth%20and%20nose,touch%20your%20mouth%20or%20nose
1.咳エチケット
ウイルスや細菌は様々な経路から体内に侵入し、感染を起こします。
感染経路は主に「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」があり、新型コロナウイルスの場合は「エアロゾル(微小飛沫)感染」も原因になっているのではないかと言われています。
【参考情報】日本呼吸器学会『COVID-19 FAQ広場』
https://www.jrs.or.jp/covid19/faq/infection/20220225171851.html
エアロゾル感染と空気感染は違いが分かりにくく、混乱された方もいるのではないでしょうか?
通常、咳やくしゃみ、会話などに伴って飛散する飛沫は直径5㎛以上と大きいため、1~2mほど飛ぶとすぐ地面に落ちます。
しかしエアロゾル感染の場合、直径5μm以下の小さな飛沫のため通常の飛沫よりも空気中に留まる時間が長く、特に換気の不十分な閉鎖空間では感染が広がりやすい傾向にあります。
空気感染は飛沫の水分が蒸発し、軽くなった飛沫核が長時間空気中に留まることで感染を広げます。
飛沫感染や空気感染など、咳が感染源となる病気の拡大を防ぐために特に重要となるのが咳エチケットです。
では、どのような咳エチケットが効果的なのでしょうか。
1-1.正しい咳エチケット
正しい咳エチケットの方法は次の3つです。
・マスクを着用する
・咳やくしゃみをする時はティッシュやハンカチなどで口・鼻を覆う
・マスクがなくハンカチなども間に合わない時は上着の内側や袖で覆う
マスクは鼻から顎までを隙間なく覆うことで最大限の効果が得られます。
口や鼻を覆ったティッシュには飛沫が付着しているので、すぐにゴミ箱に捨てましょう。
また、ティッシュなどを捨てた後は病原体が広がらないように手を洗うことも大切です。
1-2.悪い事例
何もせずに咳やくしゃみをしてしまったり、間に合わず咄嗟に手で押さえてしまうのは感染拡大の原因となってしまいます。
自分は何も病気にかかっていないと思っていても、まだ症状が出ていないだけで病原体を保有している可能性もあります。
電車などの人が多い場所では周りの人が不安に思ってしまい、マナー的にも良くない行動です。
また、手で押さえてしまうと、その手で触ったドアノブなどを介して病原体を拡散してしまう可能性があります。
ウイルスや細菌は眼に見えないので意識しにくいですが、自分が病気を移してしまう可能性があるかもしれないという意識を持って正しい咳エチケットをしましょう。
【参考情報】『3つの正しい咳エチケット』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html
2.啓蒙ポスターを活用しよう
厚生労働省ではこのようなポスターで正しい咳エチケットを推奨しています。
【参考情報】『咳エチケット啓蒙ポスター』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000593495.pdf
街中や会社、学校などで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
感染症は自分がかからないことはもちろんですが、周りにうつさない・社会全体で予防するという意識が重要になります。
もしかしたら、周りに高齢者や持病のある方、赤ちゃんなど免疫が低下して感染症にかかりやすい方がいるかもしれません。
他の人にうつさないためにも、咳エチケットや手洗いうがいなどの基本的な感染対策行動を心がけましょう。
3.マスクの効果とは
マスクは「自分の飛沫を飛ばさない」ために大きな効果があります。
つまり、「自分を感染から守る」というよりは「周りに感染させない」という意味合いが大きいです。
マスクを正しく付けていても、呼吸のための空気が入ってくる隙間があり、外部からのウイルスなどを100%遮断することはできません。
しかし、お互いにマスクを着用していればウイルスの吸い込みを7割以上(双方が布マスクで70%減、不織布マスクで75%減)抑えられるという研究結果があるため、会話をする際はお互いにマスクを付けていたほうが安心できます。
3-1.マスクの素材について
マスクの素材には、不織布マスク、布マスク、ウレタンマスクなどがあります。
理化学研究所のスーパーコンピューター富岳を使ったシュミレーションによって次のことがわかりました。
・不織布マスク:吸い込み飛沫量30%、吐き出し飛沫量20%
・布マスク:吸い込み飛沫量55~65%、吐き出し飛沫量18~34%
・ウレタンマスク:吸い込み飛沫量60~70%、吐き出し飛沫量50%
【参考情報】豊橋技術科学大学Press Release定例記者会見
https://www.tut.ac.jp/docs/201015kisyakaiken.pdf
不織布マスクが最も飛沫の飛散抑制・吸い込み抑制に効果的だとわかります。
また、不織布マスクといっても商品によってフィルターの性能は様々です。
基本的には息がしやすいマスクほど隙間が多く、息がしにくいマスクほど性能が良く効果的です。
ウレタンマスクは通気性が良く呼吸が楽ですが、飛沫を抑える効果は比較的小さいです。
人が少ない場所ではウレタンマスクや布マスクでも、人が密集する場所では不織布にするなど、状況に応じて使い分けるのも良いかと思います。
そしてマスク選びに一番大切なのは、自分の顔にフィットするかどうかです。
性能が良いマスクでも、大きすぎて隙間が空いていたり、正しく付けられていなければ飛沫は飛んでしまいます。
大きさや形など自分の顔に合ったものを選びましょう。
3-2.マスクは感染拡大を防ぐ効果あり!
新型コロナウイルス流行以来、屋内では原則マスク着用が義務付けられていました。
しかし5類移行に伴い、マスク着用は個人の判断に委ねられることとなりました。
【参考情報】厚生労働省『マスクの着用について』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00001.html
マスクの着用は個人の判断に委ねられましたが、着用が推奨される場面もあります。
具体的には次の通りです。
〈マスク着用が推奨される場面〉
・重症化リスクの高い方が混雑した場所に行く場合
・医療機関を受診する時
・高齢者施設などを訪問する時
・通勤ラッシュ時など混雑した電車やバスに乗車する時
・症状がある場合、同居する家族が陽性になった方で通院などのためにやむを得ず外出する場合
・医療機関や高齢者施設などの従事者は勤務中にマスク着用
特に高齢者など重症化リスクの高い方と合う場合は、感染させないためにもマスク着用が良いでしょう。
反対に、①屋外②周りに人がそれほどいない③自分の体調が悪くない の3つか揃っている場合はマスクを外しても良いと言われています。
迷ったら、「誰のためにマスクを着用するのか」「会話の有無や人数など周りの状況」について考えてみてください。
【参考情報】厚生労働省「日常生活における屋外でのマスク着脱について~マスクを外しても良い場面の正しい理解を~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202207_00003.html
4.おわりに
新型コロナウイルスの5類移行後、マスクの着用は個人の判断に委ねられています。
人が多いところや高齢者施設・病院に行く際は着用するなど、周りの状況を考えて判断しましょう。
新型コロナウイルスの感染状況は落ち着いていますが、インフルエンザなど季節性の感染症もあります。
咳エチケット、マスクの着用、手洗いうがいなど、引き続き基本的な感染予防行動を心がけましょう。