咳が続く高齢者に多い原因とは?誤嚥や夜間の咳を解説
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
ご高齢の方の咳は、風邪などの感染症だけでなく、飲み込み機能の変化による誤嚥(ごえん)が関係している場合があります。
特に夜間や食後に出る咳は、誤嚥や誤嚥性肺炎のサインとして注意が必要です。
この記事では、ご高齢の方にみられる咳の原因や誤嚥との関係、家庭でできる予防方法、受診の目安について解説します。
1. 夜間や食後に咳が増える理由

咳は、出る時間帯や状況によって原因が異なる場合があります。
特に「夜だけ咳が出る」「食後に咳き込む」といった特徴がある場合は、生活の中の動作や体の変化が関係していることがあります。
1-1. 就寝時に咳が出やすくなる理由
夜になると咳が増える背景には、横になる姿勢や夜間の体の変化が関係していることがあります。
就寝時は副交感神経が優位になり、気道が狭くなりやすくなります。
横になることで、日中は気にならなかった鼻水や痰が喉の奥へ流れ、気道を刺激して咳につながる場合もあります。
また、年齢を重ねると、飲み込む力や、異物を外へ出す咳反射が弱くなることがあります。
そのため、夜間に唾液や分泌物が気管へ入りかけた際、体を守る反応として咳が出ることも珍しくありません。
1-2. 食後の咳
食事のあとに咳が出る場合、飲み込みの機能や食事中の動作が関係していることがあります。
特に以下のような変化がある場合には注意しましょう。
・食事中や食後に咳き込む
・水やお茶でむせる
・食後に声がかすれる
・以前より食事に時間がかかる
・食べ物が喉に残る感じがする
食事では、食べ物や飲み物を口から喉、食道へ送る複雑な動作が行われています。しかし、年齢を重ねると飲み込みのタイミングや筋肉の働きが変化し、むせや咳が出やすくなる場合があります。
また、食後の咳は誤嚥だけでなく、胃酸の逆流が原因で起こる場合があります。
【参考情報】『逆流性食道炎ってどんな病気?』国立長寿医療研究センター
https://www.ncgg.go.jp/hospital/navi/06.html?utm_source=chatgpt.com
食事のたびにむせる、以前より咳が増えたなどの変化は、原因を確認するための大切なサインです。
2. 高齢者に多い誤嚥と咳の関係

咳の原因を考えるうえで、誤嚥は確認したい原因のひとつです。
誤嚥とは何か、なぜ咳につながるのかを理解することで、早めの対応につながります。
2-1. 誤嚥とは?

誤嚥とは、食べ物や飲み物、唾液などが、本来通るべき食道ではなく、誤って気管へ入り込むことです。
食べ物を口から胃へ送るためには、「嚥下(えんげ)」という飲み込む動作が必要です。
通常は、喉の周囲の器官が連携して働くことで、食べ物が気管へ入らないように調整されています。
しかし、年齢を重ねると以下のような理由から誤嚥が起こりやすくなります。
・喉の筋肉が弱くなる
・飲み込むタイミングが遅れる
・唾液や痰を飲み込む回数が減る
・咳をする力が弱くなる
誤嚥が起こると、気管に入った異物を排出しようとして咳が起こります。
咳は、体を守るための大切な防御反応のひとつです。
一方で、ご高齢の方では咳をする力が低下し、誤嚥しても症状が目立たない場合があります。
【参考情報】『嚥下障害』日本臨床耳鼻咽喉科医会
https://jibikaikai.or.jp/info/dysphagia/?utm_source=chatgpt.com
2-2. 誤嚥による咳と風邪の咳の違い
咳が出た場合、「風邪をひいたのかな」と考えることも多いですが、咳が出るタイミングを確認することが原因を考える手がかりになります。
例えば、以下のような特徴がある場合は、誤嚥が関係している可能性があります。
・食事中や食後に咳き込む
・水やお茶を飲むとむせる
・寝ている間に咳をする
・痰が増えた
・食後に声がガラガラする
一方、風邪などの感染症では、鼻水や喉の痛み、発熱などを伴うことがあります。
ただし、年齢や体調によっては感染症の症状がはっきり現れない場合もあります。
そのため、「熱がないから問題ない」とは限りません。
咳が続いている場合には、いつから始まったのか、どのような場面で出るのかを確認することが大切です。
2-3. 誤嚥が肺炎につながる仕組み
誤嚥によって、必ず肺炎になるわけではありません。
しかし、口の中の細菌を含んだ唾液や食べ物などが気管から肺へ入り込むと、肺で炎症を起こし、誤嚥性肺炎につながることがあります。
特に、体力や免疫機能の状態によっては、肺炎が重症化する場合があります。
そのため、「年齢のせいでむせるだけ」と考えず、以前と比べた変化に気づくことが重要です。
食事中のむせ、夜間の咳、痰の増加などが続く場合には、早めに医療機関へ相談しましょう。
3. 誤嚥性肺炎の初期サイン

誤嚥が起こっても必ず肺炎になるわけではありませんが、体力や免疫機能の状態によって誤嚥性肺炎につながることがあります。
早めに変化に気づくためには、咳だけでなく、食事の様子や全身状態も確認することが大切です。
3-1. 咳や痰の変化
誤嚥性肺炎では、咳や痰の変化がみられることがあります。
例えば、以下のような症状には注意が必要です。
・以前より咳が増えた
・食後や就寝時に咳き込むことが多くなった
・痰の量が増えた
・痰を自分で出しにくくなった
咳は異物を排出する防御反応ですが、年齢を重ねると咳をする力が変化し、十分に排出できない場合があります。
「以前より痰が増えた」「食後に咳をするようになった」など、普段との違いに気づくことが重要です。
【参考情報】”Dysphagia” by “National Institute on Deafness and Other Communication Disorders (NIDCD), National Institutes of Health (NIH)”
https://www.nidcd.nih.gov/sites/default/files/Documents/health/voice/NIDCD-Dysphagia.pdf?force_isolation=true
3-2. 食事中のむせ
食事中のむせは、飲み込み機能の低下を知らせるサインのひとつです。
特に以下のような変化がある場合には注意しましょう。
・水やお茶などの液体でむせる
・食事中に咳き込むことが増えた
・飲み込んだ後に声がかすれる
・食べ物が喉に残る感じがある
・食事に時間がかかるようになった
水分はさらさらしているため、飲み込むタイミングが合わないと気管へ入りやすいことがあります。
また、以前は問題なく食べられていた食品でむせるようになった場合も、飲み込み機能の変化が関係している可能性があります。
「年齢だから仕方がない」と考えてしまうこともありますが、食事中の変化は誤嚥を予防するための大切なサインです。
一方で、むせは誤嚥だけが原因とは限りません。
喉や気道への刺激、唾液の分泌量の変化、鼻や喉の炎症など、さまざまな原因で起こる場合があるため、注意が必要です。
3-3. 全身症状の変化
誤嚥性肺炎では、咳や痰以外にも体調の変化が現れることがあります。
代表的な変化としては、以下のようなものがあります。
・発熱
・だるさ
・食欲低下
・息苦しさ
・元気がない
・ぼんやりしている時間が増えた
ご高齢の方では、肺炎になっていても高い熱が出ない場合があります。
特に、食事量が減ったり、普段より活動量が落ちたりしている場合には、体の中で何らかの変化が起きている可能性があります。
4. 家庭でできる予防と食事の工夫

誤嚥を完全に防ぐことは難しい場合もありますが、日常生活の工夫によってリスクを減らすことにつながります。
特に食事の姿勢や口の中の清潔を保つことは、誤嚥性肺炎の予防において重要です。
4-1. 食事中の誤嚥を防ぐ工夫
ご高齢の方では、食事中にむせやすくなることがあります。誤嚥を防ぐためには、姿勢と食べ方の両方を工夫することが大切です。
食事中の姿勢の工夫
・椅子に深く座り、背中をまっすぐにする
・あごを軽く引き、足を床につけて体を安定させる
・食後すぐに横にならず、しばらく座った姿勢を保つ
食べ方のポイント
・一口量を少なくしてよく噛む
・食べながら話し続けないようにする
・食べ物の硬さや大きさを調整する
・必要に応じて水分にとろみをつける
これらの工夫によって、誤嚥のリスクを減らし、食事中の咳やむせを防ぐことにつながります。
【参考情報】『誤嚥性肺炎予防のための 食事姿勢と口腔健康管理 』埼玉県歯科医師会
https://x.gd/tCQ8h
4-2. 口腔ケアの重要性
誤嚥性肺炎の予防では、口の中を清潔に保つことも大切です。
口の中には多くの細菌が存在しています。誤嚥によって唾液と一緒に細菌が気管へ入り込むと、肺炎につながる可能性があります。
そのため、
・毎日の歯磨き
・入れ歯の清掃
・舌の清掃
・定期的な歯科受診
などを行い、口腔内を清潔に保つことが重要です。
特に、ご高齢の方では体調や生活状況によって、ご自身だけで十分なケアが難しい場合もあります。
ご家族が状態を確認しながらサポートすることも、予防につながります。
【参考情報】『今、気をつけたい口腔健康管理』日本歯科医師会
https://www.jda.or.jp/hanogakko/vol72/special.html?utm_source=chatgpt.com
5. 受診の目安

ご高齢の方の咳は、年齢による変化だけでなく、誤嚥や呼吸器の病気が関係している場合があります。
特に、食事や睡眠との関連がある咳や、以前とは違う変化がある場合には、早めに医療機関へ相談することが大切です。
5-1. 相談したい症状
以下のような症状がある場合には、一度医療機関へ相談しましょう。
・咳が長期間続いている
・食事中や食後のむせが増えた
・夜間に咳き込むことが多くなった
・痰が増えた
・息切れを感じるようになった
・食欲が低下している
・体重が減ってきた
特に「以前はなかった咳が出るようになった」「むせることが増えた」といった変化は、飲み込み機能の低下や誤嚥が関係している可能性があります。
なお、咳が続く場合、軽い症状では市販薬で様子を見たくなることもありますが 、症状や原因によっては処方薬が必要になる場合もあります。
適切な対応のためには、医療機関に相談することをおすすめします。
5-2. 早めの受診が必要な症状
咳が続く場合、気管支炎や肺炎、咳喘息などが原因になっていることがあります。
特に以下のような症状がある場合は、早めに医療機関で相談することが推奨されます。
・息苦しさがある
・呼吸が速い
・会話が続けにくいほど苦しい
・強い胸の痛みがある
・意識がぼんやりしている
・急激に体調が悪化した
このような症状は、単なる風邪ではなく、呼吸器の病気が隠れている可能性があります。
なお、ご高齢の方では、発熱や強い咳が出にくいこともあるため、症状が軽く見えても注意して観察することが大切です。
咳が長引く場合や、上記の変化がある場合には、早めに原因を確認することが大切です。
【参考情報】『呼吸器Q&A からせき(たんのないせき)が3週間以上続きます』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q01.html?utm_source=chatgpt.com
5-3. 医療機関で確認すること
ご高齢の方の咳を診察する際には、以下のように咳の原因を幅広く確認します。
・誤嚥や飲み込み機能の低下
・誤嚥性肺炎
・胃酸の逆流による咳
・気管支炎や肺炎などの感染症
・喘息や咳喘息
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
そのため、単に咳を抑えるだけではなく、「なぜ咳が出ているのか」を確認することが重要です。
診察では症状の経過や生活状況を確認し、必要に応じて胸部レントゲン検査や呼吸機能検査などを行います。
気になる症状がある場合には、原因を確認し、状態に合った対応につなげることが大切です。
6. おわりに
ご高齢の方の咳は、風邪だけでなく、飲み込み機能の低下による誤嚥が関係している場合があります。
特に「食後にむせる」「夜間に咳き込む」といった変化は、誤嚥や誤嚥性肺炎のサインとなることがあります。
ご家族が普段との違いに気づき、早めに相談することは、重症化を防ぐためにも大切です。咳が続く、食事中のむせが増えたなど気になる症状がある場合には、医療機関へ相談しましょう。
以下の症状がある方は、早めの受診をおすすめします
- 咳が2週間以上続いている
- 夜間や明け方に咳がひどくなる
- 痰に血が混じることがある
- 咳のせいで眠れない日がある
- 市販の咳止めを飲んでも改善しない
当てはまる項目がある方は、呼吸器専門医に相談してみませんか?



