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呼吸器感染症から家族を守る在宅勤務の工夫

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

コロナ禍をきっかけに在宅勤務が多くなった今、家族と過ごす時間が増えて幸せな反面「家庭内で感染症がうつったらどうしよう」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。

風邪やインフルエンザ、新型コロナウイルスなどの呼吸器感染症は家庭内での感染リスクが高く、特に在宅勤務の方が増えたことで家族全員が長時間同じ空間で過ごす場面も増え、より一層注意が必要になっています。

1. 呼吸器感染症とは何か


呼吸器感染症とは、鼻や喉、気管支、肺などの呼吸に関わる器官に起こる感染症のことです。

ウイルスや細菌が原因となり、咳や発熱、鼻水などの症状を引き起こします。在宅勤務が増えた現在、家庭内での感染対策がより重要になっています。

1-1. 身近な呼吸器感染症の種類と特徴

私たちの身近にある呼吸器感染症には、いくつかの種類があります。

<風邪>
最も一般的な呼吸器感染症で、さまざまなウイルスが原因となります。鼻水、咳、喉の痛みなどの症状が現れます。

<インフルエンザ>
高熱や強い倦怠感が特徴的で主に冬の時期に流行しますが、近年は夏や秋にも流行することがあります。

<新型コロナウイルス感染症(COVID-19)>
2020年に世界的に広がった比較的新しい感染症です。発熱、咳、味覚や嗅覚の異常などの症状があります。

<RSウイルス感染症>
特に乳幼児や高齢者で重症化しやすく、気管支炎や肺炎を起こすことがあります。

<マイコプラズマ肺炎>
「非定型肺炎」とも呼ばれ乾いた咳が長く続くのが特徴です。

これらの感染症は、どれも家庭内で感染が広がりやすいという共通点があります。

◆『風邪の基本情報と対処法』について>>

◆『RSウイルス感染症』について詳しく>>

1-2. 在宅勤務が家庭内感染を引き起こしやすい理由

在宅勤務により家族が同じ空間で長時間過ごすようになったことで、家庭内感染のリスクが高まっています。

オフィスであれば、体調不良の人は早退したり休んだりしますが、家庭内では症状が軽いうちは気づかずに過ごしてしまうことが多いでしょう。

また、在宅勤務中は換気を怠りがちになったり、家族みんなが同じトイレや洗面所を使用する頻度が増えたりします。

さらに、運動不足やストレスにより免疫力が低下し、感染しやすい状態になることもあります。

◆『咳を引き起こすウイルスと感染予防』について>>

2. 家庭内での感染経路を知る


呼吸器感染症がどのように家庭内で広がるかを理解することは、効果的な予防対策を立てる上で非常に重要です。

感染経路は主に「飛沫感染」「接触感染」「空気感染」の3つに分けられます。

それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

2-1. 飛沫感染とは

飛沫感染は、感染した人が咳やくしゃみ、会話をした時に口や鼻から飛び出す小さな水滴(飛沫)によって起こる感染です。

この飛沫は比較的大きく重いため、通常は1~2メートル程度で地面に落下します。

家庭内では、食事中の会話、テレビを見ながらのおしゃべり、子供との遊び時間などで飛沫感染が起こりやすくなります。特に向かい合って座る食卓や、狭いリビングでの会話は注意が必要です。

◆『止まらない咳の感染リスク』について詳しく>>

2-2. 接触感染とは

接触感染は、ウイルスや細菌が付いた物に触れた手で、自分の目や鼻、口を触ることで起こる感染です。家庭内には接触感染の原因となる場所がたくさんあります。

ドアノブ、電気のスイッチ、リモコン、スマートフォン、トイレの便座、洗面台の蛇口など、家族みんなが触る共用部分は特に注意が必要です。

また、タオルや食器を共用することでも感染が広がる可能性があります。

2-3. 空気感染とは

空気感染は、感染した人が出す非常に小さな粒子が空気中に長時間漂い、それを吸い込むことで起こる感染です。

飛沫よりも小さく軽いため空気中に浮遊し続け、遠くまで運ばれることがあります。

特に換気の悪い密閉された部屋では感染リスクが高まります。在宅勤務中の書斎や寝室、長時間過ごすリビングなどでは、このタイプの感染に特に注意が必要です。

3. 家庭内感染を防ぐ基本的な対策


家庭内感染を効果的に防ぐためには、日常生活の中で基本的な感染対策を習慣化することが大切です。難しく考える必要はありません。

換気、マスク、手洗い、消毒という4つの基本を押さえれば、家族みんなで安心して過ごすことができます。

3-1. 換気とマスクによる飛沫対策

換気とマスクの着用は、家庭内感染を防ぐための最も重要で効果的な方法です。

<換気>
室内に漂うウイルスや細菌を外に追い出すためには、こまめに換気を行うことが重要です。

理想的な換気方法は、対角線上にある窓を2箇所以上開けて空気の流れを作ることです。窓が1箇所しかない場合は、扇風機やサーキュレーターを使って空気を循環させましょう。

特に、冬場でも1時間に5~10分程度の換気を心がけてください。会議や休憩時間中に換気を行い、湿気が多くなる時(料理中や入浴後)にも換気を意識的に行うことが大切です。

<マスクと咳エチケット>
体調が悪い時や咳・くしゃみが出る時は、家族への思いやりとしてマスクを着用しましょう。

正しいマスクの着け方は、鼻と口をしっかりと覆い顎の下まで伸ばします。使用後のマスクは表面を触らずに耳にかけるゴムの部分を持って外し、すぐに捨てるようにしましょう。

咳エチケットとは、咳やくしゃみをする際にティッシュやハンカチ、衣服の袖で口や鼻を覆うことです。手で直接覆うのは避け、ウイルスが手に付着しないようにしましょう。

◆『咳エチケットについて』はこちら>>

【参考情報】『冬場における「換気の悪い密室空間」を改善するための換気の方法』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15102.html

3-2. 手洗い・手指消毒の徹底

手洗いと手指消毒は、家庭内での接触感染を防ぐための基本かつ効果的な方法です。

〇手洗いのポイント
手洗いは、接触感染を防ぐための基本的な対策です。

・手のひら、手の甲、指の間、指先、親指、手首までしっかり洗う
・30秒以上かけて、流水でよく洗い流す
・指の間や爪の周り、親指は洗い忘れがちなので注意
・外出から帰宅した際、食事の前後、トイレ後、咳やくしゃみ、鼻をかんだ後は必ず手洗い

手洗いができない場合は、アルコール系の手指消毒剤を使用することも効果的です。

〇共用部の消毒
家庭内の共用物は接触感染を広げる原因となるため、以下を定期的に消毒しましょう。

・ドアノブ
・リモコン
・パソコンのキーボード
・スマートフォン
・トイレの便座

また、タオルや食器の共用は避け、使い捨てのペーパータオルや紙コップを利用することをおすすめします。

洗濯物については、通常の洗剤で十分にウイルスや細菌を除去できます。

【参考情報】『正しい手洗い(手指衛生)の方法』国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/kansen/fusegu/tearai.html

4. 在宅勤務中にできる感染予防の工夫


在宅勤務中は、仕事をしながらでも実践できる感染予防の工夫があります。特に家族がいる環境では、お互いの健康を守るために工夫が必要です。

無理をせず、できることから始めて、徐々に習慣化していくことが大切でしょう。

4-1. 仕事部屋のゾーニング

ゾーニングとは、空間を目的別に分けて使うことです。在宅勤務中は、仕事をする場所と家族が過ごす場所を明確に分けることで、感染リスクを減らすことができます。

理想的なのは、専用の書斎や個室を仕事部屋として使うことです。部屋がない場合は、リビングの一角をカーテンやパーティションで仕切って、仕事専用スペースを作りましょう。

この空間は、できるだけ家族との接触を最小限に抑えるようにします。 仕事部屋には、専用の換気扇を回したり空気清浄機を設置することも効果的です。

また、仕事部屋で使う文具やパソコンなどはできるだけ家族と共用しないようにしましょう。

【参考情報】『家庭内でご注意いただきたいこと~8つのポイント~』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601721.pdf

4-2. 家族との接触時間帯を工夫する

家族全員が在宅している時間帯の接触を工夫することで、感染リスクを減らすことができます。特に食事の時間や休憩時間の調整が重要です。

食事は時間をずらして取ったり、同じ時間に食べる場合は十分な距離を保って向かい合わずに座るようにしましょう。

また、家族の中で体調が悪い人がいる場合は、その人だけ別の部屋で食事を取ることも検討してください。

休憩時間も重なりすぎないよう調整し、リビングや共用スペースの使用時間を分散させることが大切です。

お子さんがいる家庭では、昼休みの時間に一緒に遊ぶ時間を作りつつ、適度な距離を保つよう心がけましょう。

4-3. 在宅でもできる感染対策ルーティン

毎日のルーティンに感染対策を組み込むことで、無理なく継続することができます。

朝起きた時、仕事開始前、昼休み、仕事終了後、就寝前など、決まった時間に感染対策を行う習慣をつけましょう。

朝のルーティンでは、起床後の手洗い、仕事部屋の換気、体温測定を行い、仕事開始前にはデスク周りの簡単な消毒を行いましょう。

昼休みには、再度の換気と手洗い、可能であれば軽い運動で免疫力を高めることも大切です。

仕事終了後は、パソコンやデスク周りの消毒、手洗いを行い、就寝前には部屋の最終換気を行います。

これらを習慣化することで、自然と感染対策ができるようになります。

【参考情報】『新型コロナウイルス感染症 都民向け感染予防ハンドブック』東京都福祉保健局
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/tominmukehbver1#page=5

5. 感染後の回復と職場復帰


呼吸器感染症にかかってしまった後、どのように回復期を過ごし、いつから仕事に戻れるのか不安に感じる方も多いでしょう。特に在宅勤務の場合、「少し良くなったからすぐ仕事を再開しよう」と無理をしがちです。

しかし、適切な回復期間を取ることが、完全な回復と再感染予防につながります。

5-1. 回復期の過ごし方と注意点

回復期は、体がウイルスや細菌と戦った後に休息を取る大切な時期です。無理に動くと症状が長引いたり、再感染のリスクが高まります。

解熱後も、少なくとも2~3日は安静にし、急な運動や長時間のデスクワークは避けましょう。

栄養バランスの取れた食事と十分な水分補給を心がけ、消化の良い食事から始めて、徐々に通常の食事に戻します。

軽い運動は回復を助けますが、息切れや疲労感が出ないように注意しましょう。

5-2. 長引く咳への対応

咳が長引くことは、呼吸器感染症の回復過程でよく見られます。通常は2~3週間で治まりますが、それ以上続く場合は要注意です。

咳が続いている間は引き続きマスクを着用し、オンライン会議などで咳が出る場合はマイクをミュートにする配慮が必要です。

乾燥が咳を悪化させるため、部屋の湿度を50~60%程度に保つよう心がけましょう。

咳が3週間以上続く、血が混じる、呼吸が苦しい場合は早めに受診しましょう。

◆『咳が止まらない原因とは?』はこちら>>

5-3. 在宅勤務への復帰タイミング

在宅勤務への復帰は、症状が改善してからが基本です。

解熱後24~48時間経過し、他の症状が改善していれば復帰を考えても良いタイミングです。

新型コロナウイルスの場合、発症から7~10日間は療養期間が推奨されています。

復帰はフルタイムではなく、半日勤務から始めると体調に無理なく適応できます。復帰後も引き続き、マスクの着用や手洗い、換気など基本的な感染対策を行いましょう。

【参考情報】『体調不良の方・新型コロナウイルス感染症に感染された方向け情報(療養終了の目安』東京都福祉保健局
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/shisetsu/jigyosyo/hokenjyo/tamakodaira/kansen/singatakoronauirusu/kansensaretakatahe

5-4. 再感染予防のポイント

回復後も再感染のリスクがあります。特に、免疫が完全に回復していない時期や別のウイルスに感染するリスクが高まります。

再感染を防ぐためには、基本的な感染対策(換気、手洗い、マスク着用、共用物の消毒)を継続しましょう。

免疫力を維持するためには、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレス管理を心がけることが大切です。

また、インフルエンザワクチンや新型コロナウイルスワクチンの接種も検討すると良いでしょう。

【参考情報】『急性呼吸器感染症(ARI)総合対策 Q&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2025.html?utm_source=chatgpt.com

6. おわりに

在宅勤務が続く中で、家庭内での呼吸器感染症対策は、家族全員の健康を守るために欠かせません。

換気や手洗い、マスクの着用、共用物の消毒といった基本的な対策は、特別な準備がなくても日常生活の中で実践できます。

すべてを完璧に行おうとせず、できることから少しずつ習慣化していくことが大切です。

咳や発熱などの症状が長引く場合や不安を感じるときは、早めに呼吸器内科へ相談しましょう。

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