診療時間
ご予約・ご相談はこちらから

お酒を飲むと咳が止まらない。アルコール誘発喘息とは

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

体調も良く、息抜きにお酒を飲みに行ってみたら、急に咳が出て止まらなくなったという経験はあるでしょうか。

喘息はダニやホコリ、天気などが影響し発作を起こしやすくなりますが、飲酒(アルコール)により咳が止まらなくなる場合は、「アルコール誘発喘息」の可能性があります。

今回は少し意外に感じる喘息とアルコールの関係について説明していきたいと思います。

お酒を飲んだときなどに急に咳が出て、なかなか止まらなくなるという経験がある人は、ぜひ参考に読んでください。

【参考文献】❝ Alcoholic drinks: Important triggers for asthma❞ by Alcoholic drinks: Important triggers for asthma
Journal of Allergy and Clinical Immunology
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(00)25009-4/fulltext

1.アルコール誘発喘息ってなあに?


アルコール誘発喘息とは飲酒やアルコールを含む物を摂ったときに、急に咳が止まらなくなるなど喘息の症状が現れる状態です。

持病に喘息がある方や喘息と診断はされていないけど、飲酒により急に咳が出るようになる場合は、アルコールがどのような影響を与えているのかを知っておくことが大切です。

1-1.症状

喘息は空気の通り道(気道)に炎症が起きて狭くなった状態であり、さまざまな刺激を受けやすくなっています。

アルコール誘発喘息の場合、飲酒やアルコールを含む物を摂取したあとに、以下のような、通常の喘息発作と同様の症状が現れるようになります。

おもな症状
・咳や痰
・ヒューヒュー、ゼーゼーとした呼吸音(喘鳴)
・呼吸数の増加
・座っているほうが呼吸が楽になる(起坐呼吸)など

【参考情報】『日常生活におけるぜん息悪化の要因』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/causes.html

1-2.原因

肝臓はいくつかの役割を持っていますが、その中のひとつに解毒作用があります。

解毒作用は体に入った有害な物質を体の外へ出すための仕組みであり、アルコールを摂ったときには、この解毒作用が働くようになります。

この働きによりアルコールは肝臓でアセトアルデヒドという物質に分解されます。

アセトアルデヒドは、飲み過ぎてしまったときに経験しやすい気分の悪さや顔の赤み、頭痛、動悸などを引き起こす、人体に有害な物質です。

さまざまな症状を引き起こす有害物質ですが、他にもヒスタミンという物質を増やしてしまう働きを持っています。

ヒスタミンには気道を狭くする作用があるため、喘息の人など気道に炎症がある人は、さらに気道が狭くなり、咳や息苦しさなどの症状が出るようになります。

日本人は有害物質であるアセトアルデヒドを分解する酵素の働きが弱く、お酒が苦手だということが科学的にも証明されています。そのため、アルコール誘発喘息を起こすリスクが高いので注意が必要です。

【参考情報】『アルコールの吸収と分解』厚生労働省 e‐ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-02-002.html

お酒が弱いとアルコール誘発喘息のリスクが高くなりますが、実はお酒が強い人の場合でも喘息を悪化させる可能性があります。その原因が肥満です。

アルコールが体に入ると肝臓で分解されることを説明しましたが、摂り過ぎた脂質(揚げ物、お肉など)や糖質(ごはん、めん類など)は肝臓で脂肪に替えられてしまいます。

特に、飲酒をした場合はアルコールの分解が優先され、摂り過ぎてしまった脂質や糖質は脂肪として徐々に体のなかにあふれ出て、内臓脂肪や皮下脂肪として溜まっていくようになります。

特に内臓脂肪が溜まるとお腹がふくらみ、横隔膜が押し上げられ肺が圧迫されることと、脂肪細胞から炎症を悪化させる物質が出ることが喘息の悪化につながると考えられています。

内臓脂肪を減らすことで喘息の悪化も防ぐことが期待できるため、食事・運動・飲酒などの生活習慣を見直し、減量を目指すことも、治療としてとても大切です。

【参考情報】『肥満によるぜん息の発症・悪化の危険性をしっかり理解しておきましょう』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202112_1/

2.飲酒で咳が止まらない時は


飲酒により咳が止まらなくなるなど、心配になる呼吸器症状が現れる場合は、早めの対策が必要です。症状が悪化することを防ぐためにも、早めに以下のような対応をしましょう。

2-1.呼吸器内科へ受診しよう

飲酒やアルコールを含む物を摂ることで急に咳が出て、続くような場合は、呼吸器内科を受診するようにしましょう。

なにかのきっかけで咳が出やすいということは呼吸器系に問題が潜んでいるかもしれません。

呼吸機能を詳しく検査することでアルコールが原因ではなく、他の原因を見つけられる可能性もあります。

日常生活の忙しさから、病院に行くことが後まわしになってしまうこともありますが、心配な症状が見られる場合は呼吸器内科を早めに受診してください。

【参考情報】『成人ぜん息の基礎知識』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/index.html

2-2.飲酒習慣を変えてみる

お酒を飲む時間は楽しく、適量の飲酒であればストレスの緩和になったり、コミュニケーションが増えることで人間関係の構築にもなったりと、メリットも多くあります。

お酒が好きな人にとっては、がんばったあとの1杯が1日の楽しみになるほど、とても大切な時間になっていると思います。

適度な飲酒量で調整できる場合は、体への負担も少なくできますが、アルコールが持病を悪化させてしまったり、内臓に負担をかけてしまったりと、悪い影響があることも事実です。

また、飲酒量が多いと体重が増えてしまい、内臓脂肪が原因で喘息を悪化させてしまうこともあります。

体を一番に大切にし、飲酒習慣を見直してみましょう。

お酒を飲まないメリット
・肝臓や胃腸などの内臓の健康を守れる
・寝つきがよく翌朝スッキリ起きられる
・体重コントロールができる
・肌ツヤが良くなる など

最近はノンアルコールの種類も充実し、飲みやすくなり、選択する楽しさも増えています。

アルコールが入っていなくても満足感が得られる物も多いと思うので、お酒を飲まないメリットを意識し、ぜひ、飲酒習慣の見直しに取り入れてみることがおすすめです。

3.おわりに

飲酒やアルコールを含む物を摂取することで、咳が止まらないなどの症状がある場合は、呼吸器内科に相談してください。

咳だけだからと後まわしにせず、正しい診断と治療を早めに受けるようにしましょう。

記事のカテゴリー

診療時間
アクセス