診療時間
ご予約・ご相談はこちらから

喘息やアレルギー症状の悪化を防ぐ!カビの掃除で気を付けること

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

カビは、喘息やアレルギー症状を悪化させる要因のひとつとして広く知られています。

湿気の多い気候の日本はカビが発生しやすい環境です。カビ対策は健康管理のうえで重要な課題となっています。

この記事では、家のなかで発生しやすいカビの種類や掃除時の注意点、カビが引き起こす健康被害についてご説明いたします。

1.家で発生しやすい3つのカビについて


家でよく見られる主なカビには、黒カビ、赤カビ、青カビの3種類があります。

それぞれ特徴があり、発生場所や人体への影響が異なります。これらのカビについて正しく理解することで、効果的な対策をすることが可能です。

・黒カビ
黒カビは、家庭内で最もよく見られるカビのひとつです。特にアレルギー反応を引き起こしやすく、喘息症状を悪化させる原因となります。

その名の通り、黒や濃い緑色をしており、湿気の多い場所で急速に繁殖します。非常に繁殖力が強く、短期間で広範囲に広がる特徴があります。

浴室の壁やタイルの目地、洗濯機の内部や周辺、エアコンの内部や吹き出し口、窓枠や壁の結露部分などで発生しやすいです。

・赤カビ
赤カビは、名前から想像されるような鮮やかな赤色ではなく、実際にはピンクがかった色をしています。

一般的には食品に発生することが多いです。

湿気と栄養分のある環境を好み、パンやご飯などの穀類、果物や野菜の表面、チーズなどの乳製品で見られることがあります。

赤カビは、食中毒の原因となる可能性があり、一部の赤カビはマイコトキシンと呼ばれる毒素を産生することがあります。

なお、風呂場で見られるピンク色の汚れは、多くの場合「ロドトルラ」という酵母菌であり、赤カビとは異なります。ロドトルラは健康被害のリスクは低いですが、清潔な環境を保つために定期的な清掃が必要です。

・青カビ
青カビは、青緑色をしたカビです。主に食品に発生し、湿気と適度な温度を好みます。

果物(特にみかんやレモンなどの柑橘類)、パンやケーキなどの小麦製品、チーズ(ブルーチーズの製造に使用)などで発生しやすいです。

青カビの中には、ペニシリンなどの抗生物質の原料となるものもありますが、家庭内で見られる青カビはアレルギー反応や呼吸器系などを引き起こす可能性があります。

【参照文献】文部科学省『カビ対策マニュアル』
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sonota/003/houkoku/1211830_10493.html

【参考文献】”Black Mold” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/24862-black-mold

2.カビが発生しやすい家の場所と条件について


カビは湿気を好むため特定の場所で発生しやすい傾向があります。これらの場所を理解し、適切な対策を講じることで、カビの発生を効果的に予防することができます。

浴室
浴室は特にカビが発生しやすい場所です。常に湿度が高く、水滴が残りやすいうえに、換気が十分に行われないことが多いため、カビが繁殖しやすい環境が整っています。

壁やタイルの目地、シャワーカーテン、浴槽のふち、排水口周辺などで発生しやすくなっています。

対策としては、使用後に必ず換気扇を回すこと、シャワーで壁や床の水滴を流すこと、週に1回程度カビ取り剤で清掃すること、浴室乾燥機を利用することなどが挙げられます。

窓周り
窓周りは室内外の温度差による結露が発生しやすくなります。そのため、水が染み込みやすいサッシや壁紙はカビの温床となりやすい場所です。

窓ガラスの縁、サッシの溝、窓際の壁紙などで特にカビが発生しやすくなっています。

結露が発生したらすぐに拭き取ること、除湿機を使用して室内の湿度を下げること、断熱性の高い窓に交換すること、こまめに換気を行うことなどが効果的な対策です。

エアコン内部
エアコンの内部は、カビが繁殖しやすい環境です。原因としては、湿度と温度が一定に保たれていること、清掃が行き届きにくいこと、フィルターにホコリが溜まりやすいことなどがあげられます。

特に、フィルター、内部の熱交換器、ドレンパン(水受け皿)などでカビが発生しやすいため注意が必要です。

対策として、定期的にフィルターを清掃し(2週間に1回程度)、年に1回程度専門業者によるクリーニングを行うといいでしょう。また、使用後は送風運転を行い内部を乾燥させることなどが重要です。

収納スペース
クローゼットや押入れなどの収納スペースも、カビが発生しやすい場所です。特に、壁や天井の隅、衣類や布団の表面、靴箱の内部は注意が必要です。

収納スペースは換気が不十分になりやすく、さらに衣類や布団が湿気を含みやすいため、湿度がこもりやすくなります。

また、暗い環境はカビの繁殖を助長するため、定期的な換気が欠かせん。

除湿剤や調湿材を使用すること、衣類や布団を収納する前に十分に乾燥させること、靴は十分に乾燥させてから収納することなども効果的です。

キッチン
キッチンは湿気が多く、カビが発生しやすい環境が整っています。

主な原因は、調理中に発生する蒸気や、水分を含んだ食べ物のこぼれがカビの栄養源になること、さらにシンク下などの暗く湿った場所があることです。

特にカビが生えやすいのは、シンクの排水口周辺、冷蔵庫の裏側や下、まな板や布巾、食器棚の内部などです。これらの場所は湿気や汚れがたまりやすく、放置するとカビが繁殖しやすくなります。

カビを防ぐためにはこまめな換気を心がけ、調理器具は使用後すぐに洗ってしっかり乾燥させることが大切です。

シンク周りを常に清潔に保ち、冷蔵庫の周りも定期的に掃除することで、カビの発生を防ぐことができます。

【参考文献】”A Brief Guide to Mold, Moisture and Your Home” by United States Environmental Protection Agency
https://www.epa.gov/mold/brief-guide-mold-moisture-and-your-home

3.発作に注意!喘息の方がカビを掃除する場合…


喘息をお持ちの方がカビ掃除を行う際には、特に注意が必要です。

カビの胞子や掃除に使用する薬剤が喘息発作を引き起こす可能性があるため、安全に作業を行うための対策を徹底しましょう。

可能であればご自身で掃除をせず、健康なご家族や専門のクリーニング業者に依頼するのを検討しましょう。

業者に依頼する際は、喘息があることを事前に伝え、使用する洗剤や作業方法について相談すると安心です。

家族に掃除をお願いする場合も、防護具をしっかり着用するよう伝えましょう。

ご自身でカビ掃除をする際は、使用する薬剤に注意が必要です。

カビ取り剤や漂白剤は強い刺激臭を発し、喘息の症状を悪化させる可能性があります。特に、化学物質に敏感な方は、わずかな刺激でも体調が悪化することがあるため、できるだけ刺激の少ない製品を選びましょう。

酢や重曹など自然由来の成分を使用することで、リスクを軽減できます。

薬剤を使用する場合は、短時間で作業を済ませ、事前に少量を試して体調に影響がないか確認してください。

作業中は必ず換気を行い、窓を開けて空気を入れ替え、換気扇を回すことで室内の空気を外へ逃がすようにしましょう。可能であれば空気清浄機を使用するのも効果的です。

また、カビ掃除を行う際は、適切な防護具を着用することが大切です。

マスクは顔にしっかりフィットするものを選び、N95規格のものを使用するとより安心です。ゴーグルをつけることで、カビの胞子や薬剤が目に入るのを防ぐことができます。

ゴム手袋を着用して肌への刺激を防ぎ、長袖・長ズボンの作業着を身につけることで、カビや薬剤が皮膚に触れるのを避けましょう。

掃除の際には、乾いたカビをそのまま拭き取るのではなく、事前に水で湿らせてから拭き取ることが大切です。こうすることで、胞子の飛散を防ぎ、より安全に掃除を進めることができます。

カビ取り剤を使用する場合は、説明書の指示に従い、こすりすぎないよう注意しながらやさしく拭き取るようにしましょう。

掃除に使った布やスポンジはそのままにせず、密閉して捨てることで胞子の拡散を防ぐことができます。掃除道具は熱湯消毒するか、専用のものを用意するとより衛生的です。

作業が終わったら、防護具を慎重に外し、手洗いやうがいを行うことを忘れないようにしましょう。

掃除後も、薬剤やカビの胞子をしっかり排出するために、30分ほど換気を続けることが重要です。

万が一、掃除中や掃除後に喘息の症状が現れた場合は、すぐに作業を中止し、その場から離れて新鮮な空気のある場所へ移動してください。

処方されている発作時の薬(吸入薬など)を使用し、症状が改善しない場合は速やかに医療機関を受診しましょう。

【参考文献】”Mold Clean Up Guidelines and Recommendations” by U.S.CENTERS FOR DISEASE CONTROL AND PREVENTION
https://www.cdc.gov/mold-health/about/clean-up.html

◆『喘息』について詳しく>>

4.カビが原因となる病気とは?


カビはさまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。ここからは、カビが原因となる代表的な病気についてご説明しましょう。

夏型過敏性肺炎
夏型過敏性肺炎は、トリコスポロンというカビによって引き起こされる病気です。

咳や発熱、息切れなど、一見すると風邪に似た症状が現れます。しかし、症状が繰り返し現れることが特徴です。

トリコスポロンは主に木材や畳などに生息するカビで、日本の住宅環境で発生しやすいという特徴があります。とくに湿度の高い夏場に活発に繁殖するため、この時期に症状が悪化しやすくなります。

予防法としては、家の換気を十分に行い、湿度を適切に管理することが重要です。

除湿機の使用や、木材や畳の定期的な手入れも効果的です。

◆『過敏性肺炎』について詳しく>>

肺アスペルギルス症
肺アスペルギルス症は、アスペルギルスというカビが原因で起こる肺の感染症です。

主に免疫力が低下している方(糖尿病患者さんや長期間ステロイド治療を受けている方など)がアスペルギルスを吸い込むことで発症します。

症状としては、咳や痰、呼吸困難、発熱などが現れます。重症化すると、肺に深刻なダメージを与えるため、注意が必要です。

アスペルギルスは自然界に広く存在するため、完全に避けることは難しいですが、室内の清潔を保ち、適切な換気を行うことで、リスクを低くすることができます。

また、免疫力が低下している方は、土いじりや古い建物の清掃など、カビに触れる可能性が高い活動を避けることも大切です。

◆『肺真菌症』について詳しく>>

白癬(水虫)
白癬は、一般的に水虫として知られる皮膚感染症です。

白癬菌という真菌(カビの一種)が原因で起こります。主に足の指の間や足の裏に発生しますが、爪や体のほかの部分にも感染することがあります。

症状としては、皮膚の痒みや赤み、皮膚の剥がれ、爪の変色や肥厚などが現れます。湿気の多い環境や、靴を長時間履いて蒸れた状態が続くと発症しやすくなります。

足はよく洗ってしっかり乾かし、靴下や靴は通気性の良いものを選ぶこと、公共の浴場やプールでは裸足で歩かないことなどが予防法として挙げられます。

また、タオルや靴下はほかの人と共用しないことも重要です。

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症はアスペルギルスに対するアレルギー反応によって引き起こされる肺の病気です。主に喘息や嚢胞性線維症の患者さんに見られます。

症状としては、喘息様の症状(咳や喘鳴)に加えて、発熱、胸痛、血痰などが現れることがあります。重症化すると、肺の機能が低下し、呼吸困難が悪化する可能性があります。

予防には、アスペルギルスへの暴露を最小限に抑えることが重要です。室内の湿度管理や定期的な清掃、エアコンフィルターの清掃などが効果的です。

◆『血痰』について詳しく>>

カビ毒中毒
カビ毒中毒は、カビが産生する毒素(マイコトキシン)によって引き起こされる健康被害です。主に食品を介して体内に入りますが、空気中のカビ胞子を吸い込むことでも発症する可能性があります。

症状はカビ毒の種類や量によって異なりますが、一般的に消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢など)や神経症状(頭痛、めまいなど)が現れることがあります。

長期的な暴露は、肝臓や腎臓への悪影響、さらには発がんリスクの増加につながる可能性もあります。

予防には、食品の適切な保存と管理が重要です。カビの生えた食品は絶対に食べないこと、保存期間に注意すること、適切な温度と湿度で食品を保存することなどが大切です。

また、室内環境の管理も重要で、湿気対策や定期的な換気、清掃を行うことで、カビの繁殖を防ぐことができます。

【参考文献】”Health Problems” by U.S.CENTERS FOR DISEASE CONTROL AND PREVENTION
https://www.cdc.gov/niosh/mold/health-problems/index.html?utm_source=chatgpt.com

【参考文献】”Athlete’s foot” byMayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/athletes-foot/symptoms-causes/syc-20353841

5.とっても仲良し!カビとホコリとダニの関係


カビ、ホコリ、ダニ。これらは一見関係がないように思えるかもしれませんが、実は密接な関係にあります。

この三者の関係を理解することで、より効果的な対策をすることができます。

まず、ホコリについて考えてみましょう。ホコリは単なる埃ではありません。

衣類や寝具から出た繊維くず、髪の毛、ペットの毛、皮膚のアカなど、さまざまな物質が集まってできています。

カビは有機物を分解して栄養を得る生物です。ホコリに含まれる繊維やアカなどは、カビにとって格好の餌となります。

つまり、ホコリが多い環境は、カビの繁殖を促進する環境でもあるのです。

さらに、ホコリはダニの生息にも適した環境を作り出します。ダニは人間やペットの皮膚のアカをエサとして好みます。

ホコリの中にはこれらのアカが豊富に含まれているため、ダニにとっては理想的な環境となります。

また、一部のダニはカビをエサとしています。つまり、カビが繁殖している環境は、これらのダニにとっても住みやすい環境となるのです。

このように、カビ、ホコリ、ダニは互いに関連し合い、お互いの繁殖を促進するという関係にあります。

対策としては、以下のようなものが挙げられます。

・定期的な掃除
掃除機をかけ、拭き掃除を行うことで、ホコリを減らし、カビやダニの繁殖を抑制できます。

・湿度管理
適切な湿度管理(相対湿度50〜60%程度)を行うことで、カビの繁殖を防ぎ、ダニの活動も抑えることができます。

・換気
定期的な換気を行うことで、室内の湿気を減らしカビの繁殖を抑制できます。

・寝具の手入れ
寝具は定期的に日光に当て、掃除機をかけることでダニの繁殖を防ぐことができます。

・ペットの手入れ
ペットがいる家庭では、定期的なブラッシングやシャンプーを行い、ペットの毛やフケがホコリとなることを防ぎます。

・空気清浄機の使用
高性能フィルター付きの空気清浄機を使用することで、空気中のカビ胞子やダニの死骸、ホコリを効果的に除去できます。

これらの対策を総合的に行うことで、カビ、ホコリ、ダニによる悪循環を断ち切り、より健康的な室内環境を作り出すことができます。

6.おわりに

喘息には大きく分けて、アトピー型喘息と非アトピー型喘息があります。このうち、アトピー型喘息は特にカビやホコリ、ダニなどのアレルゲンに敏感に反応し、症状が悪化することがあります。

そのため、日常生活の中でこれらのアレルゲンへの暴露を最小限に抑えることが、症状のコントロールに非常に重要です。

カビ対策は、単に見た目の問題だけではありません。適切な対策を行い、喘息やアレルギー症状の悪化を防ぎましょう。

◆『アレルギーと喘息』について詳しく>>

記事のカテゴリー

診療時間
アクセス