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咳が続いている時、生じている炎症とは?

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

咳が長引く時、体内では「炎症」が起きている可能性があります。

炎症とは、細菌やウイルス、異物などに対する防御反応で、腫れや痛み、熱感などの症状を引き起こします。

この記事では、炎症の基本や咳と関連する呼吸器疾患、そして熱が下がっても咳が続く原因について詳しく解説します。

つらい咳の症状で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

【参考情報】「急性呼吸器感染症(ARI)に関するQ&A」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/ari_qa.htm

1. 炎症とは?


炎症は、体が外部からの刺激や損傷に対抗するために起こす【防御反応】です。 例えば、風邪をひいた時や傷口が赤く腫れるのも炎症の一例です。

炎症が発生すると、血管が拡張し、血液が集まることで赤くなります。血液とともに免疫細胞が患部へ送られ、特有のタンパク質(サイトカイン)を分泌して病原体を攻撃します。このプロセスの結果、発熱や痛みが生じることがあります。

1-1.炎症の種類

急性炎症(短期間で収束するもの)
慢性炎症(長期間にわたるもの)
の2種類があります。

風邪やケガによる炎症は急性炎症で、通常は数日から数週間で治まります。一方、慢性炎症は原因が解消されずに続き、長期間に及ぶことがあります。

1−2.炎症の仕組み

炎症は、免疫システムの複雑なプロセスによって引き起こされます。

まず、異物や病原体が体内に侵入すると、白血球がこれを察知し、サイトカインと呼ばれる情報伝達物質を分泌します。

これが血管を拡張させ、免疫細胞が集まりやすい環境を作ります。同時に、炎症を起こすプロスタグランジンが生成され、発熱や痛みの原因となります。

【参考文献】”Inflammation” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/21660-inflammation

2. 炎症が引き起こす症状


炎症が起こると、体には以下の【炎症の5徴候】と呼ばれる症状が現れます。

発赤(ほっせき): 炎症部位の血流が増え、赤みを帯びる。
熱感(ねっかん): 血流増加により患部が温かく感じる。
腫脹(しゅちょう): 組織の腫れ。
疼痛(とうつう): 神経が刺激され、痛みを伴う。
機能障害(きのうしょうがい): 炎症により動かしにくくなる。

例えば風邪では、侵入したウイルスに対する免疫反応によって、上気道に炎症が起こり、発熱や頭痛、のどの痛みが生じます。

これらの症状は、体が修復を進める過程で発生する自然な反応ですが、長引く場合は注意が必要です。

3. 炎症が関与する呼吸器疾患


咳が長引く場合、呼吸器に炎症が生じている可能性があります。

代表的な病気を解説します。

3-1. 気管支炎

気管支炎は、気管支の粘膜に炎症が起こる病気です。

主な症状には「咳・痰・発熱」があり、急性気管支炎はウイルス感染が原因となることが多いです。炎症が続くと気道が狭くなり、咳が悪化する場合があります。

気管支炎には急性気管支炎と慢性気管支炎があります。

急性気管支炎は、 一時的なウイルス感染によるもので、多くは自然に回復します。ただし、重症化すると肺炎を引き起こすこともあります。

慢性気管支炎は、 3か月以上続く慢性的な咳や痰を伴い、長期的な気道の炎症が関与しています。主に喫煙や大気汚染が原因とされ、COPD(慢性閉塞性肺疾患)とも関連があります。

気管支炎の治療は、その原因によって異なります。

ウイルス性の気管支炎の場合、抗生物質は効果がありません。そのため、症状を和らげるために咳止めや去痰薬が処方されることがあり、また加湿器を使用して空気を潤すことで喉や気道の負担を軽減することが推奨されます。十分な水分補給を心がけることも大切です。

一方で、細菌性の気管支炎と診断された場合は、抗生物質が処方されることがあります。特に高熱や膿性の痰が見られる場合には、医師の指示に従い抗生物質を適切に服用することが重要です。

慢性気管支炎の場合、長期間にわたる気道の炎症を抑えるため、禁煙が最も重要な対策となります。タバコの煙や大気汚染物質の影響を減らすため、クリーンな環境を維持することが推奨されます。

また、気道の炎症を抑えるために吸入ステロイドや気管支拡張薬が使用されることもあります。

慢性気管支炎の患者は、風邪やインフルエンザなどの感染症を予防するためにワクチン接種を受けることも有効です。

【参考情報】「急性気管支炎」日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-03.html

【参考文献】”Bronchitis” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/bronchitis/symptoms-causes/syc-20355566

3-2. 気管支喘息

気管支喘息は、気道の慢性的な炎症と狭窄により、喘鳴(ゼーゼー音)、咳、息切れなどの症状を引き起こす疾患です。適切な治療と管理により、発作を予防し、健康な人と同じような生活を送ることが可能です。以下に、喘息に関する重要なポイントをまとめます。

〈喘息が疑われる場合の受診の目安〉
喘息が疑われる症状(喘鳴、咳、息切れなど)がある場合、早期の受診が重要です。特に、症状が夜間や早朝に悪化する、運動後に症状が現れる、アレルゲンへの曝露後に症状が増強するなどの兆候が見られる場合は、専門医の受診を検討してください。

〈慢性疾患としての喘息〉
喘息は慢性的な疾患であり、長期的な管理が必要です。適切な治療と生活習慣の改善により、症状のコントロールが可能となります。治療は患者一人ひとりの状態に合わせて個別化されるべきです。

〈治療のゴール〉
喘息治療の最終的な目標は、「症状のコントロール」と「将来のリスク回避」です。具体的には、急性増悪(発作)や喘息症状がない状態を維持し、気道の炎症の原因となる危険因子を回避・除去することが求められます。

「成人のぜん息/Q&A」日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=3

「小児のぜん息/Q&A」日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=2

「職業性ぜん息/Q&A」日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=15

「アレルギー専門医が行う喘息治療とは?」 日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/stwn/index.php?content_id=3

〈治療中断のリスク〉
治療を途中で中断すると、気道のリモデリング(構造的変化)や、最悪の場合、喘息死などのリスクが高まります。症状が改善しても、医師の指示に従い、治療を継続することが重要です。

〈長期管理薬の重要性〉
発作治療薬に頼らず、長期管理薬の適切な使用が喘息管理の鍵となります。これにより、気道の炎症を抑え、発作の予防と症状のコントロールが可能になります。定期的な受診と治療の見直しが推奨されます。
喘息は適切な治療と管理により、日常生活に支障をきたすことなく過ごすことができます。症状が現れた際は、早期の受診と専門医の指導を受けることが大切です。

「第3章気管支喘息」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-06.pdf

◆『喘息の症状とは?』>>

3-3. 肺炎

肺炎は肺胞に炎症が起こる病気で、発熱・咳・痰・息苦しさなどの症状を伴います。

細菌やウイルスの感染が主な原因で、高齢者や免疫が低下している人では重症化しやすいため注意が必要です。

主な原因として細菌やウイルスが挙げられます。

〈肺炎の種類〉
細菌性肺炎は、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの細菌が原因で、高齢者や基礎疾患を持つ人に多く見られます。

ウイルス性肺炎は、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどのウイルスが原因となることがあります。

また、誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液が誤って気道に入り、細菌感染を引き起こすものです。

「インフルエンザ総合ページ」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/index.html

「高齢者の肺炎球菌ワクチン」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/pneumococcus-senior/index.html

〈治療方法〉
細菌性肺炎の治療には、抗生物質の投与が行われます。
ウイルス性肺炎の場合、インフルエンザウイルスが原因であれば抗ウイルス薬(例:タミフル)の投与が行われます。その他のウイルスが原因の場合は、対症療法(解熱剤や酸素療法)を中心に行います。
誤嚥性肺炎の治療では、口腔ケアや嚥下訓練が重要です。

「摂食・嚥下機能と運動機能、すなわち日常の活動性、ADL」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/07/dl/s0720-10e2.pdf

「肺炎球菌感染症」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/haienkyukin/index_1.html

〈予防策〉
肺炎の予防には、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されます。また、手洗いや消毒が非常に効果的です。
特に流行季節には、こまめに手を洗うことや、ウイルスが感染しやすい場所を避けることで、大きな予防効果が得られます。さらに、栄養バランスの取れた食事を心掛け、定期的な運動や十分な睡眠をとることで免疫力を高め、禁煙を試みることも肺炎の予防には非常に重要です。
これらの予防策を日常生活に取り入れることで、肺炎のリスクを軽減し、健康を維持することができます。

「呼吸器Q&A」日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q01.html?utm_source=chatgpt.com

4. 熱は下がったのに咳が続く理由


発熱が治まった後も咳が続く場合、気道の炎症が完全に回復していない可能性があります。 特にウイルス性気管支炎では、炎症が完全に鎮まるまで数週間かかることがあります。
また、以下の要因も影響していることがあります。

咳喘息: 気道が敏感になり、長期間にわたって咳が続く。
後鼻漏(こうびろう): 鼻水が喉に流れ込み、それが刺激となり咳が出る。

当院のこちらの記事も参考にしてみてください。

◆『2週間続く咳の原因を探る!あなたの咳はただの風邪?それとも…?』>>

◆『咳を止める方法は?しつこい咳、長引く咳から疑われる病気と受診の目安を紹介』>>

◆『咳が止まらない…何科の病院に行く?』>>

5. おわりに

咳が長引く場合、背後には炎症を伴う病気が潜んでいる可能性があります。

早めに呼吸器内科を受診し、適切な治療を受けることが大切です。

体調に不安を感じたら、無理せず医師に相談してください。

咳だけが長く続く場合は、呼吸器内科の受診を検討しましょう。

◆横浜市で呼吸器内科をお探しなら>>

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