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喘息は完治するのか? 長期的な治療と自己管理の重要性

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

喘息は気道の慢性的な炎症を特徴とする呼吸器疾患です。喘息患者さんの多くが「喘息は完治するのか」と疑問に思われているかもしれません。

しかし残念ながら、現在の医学では喘息を完全に治すことは難しいとされています。

その一方で、適切な治療と自己管理を続けて症状をコントロールすれば、健康な方と変わらない良好な状態で日常を過ごすことが可能です。

この記事では、喘息完治の可能性や治療法、喘息と上手に付き合っていくための日々の自己管理についてご説明いたします。

1. 喘息の完治は難しい


喘息の完治が難しい理由は、気道に、アレルギー反応などによる慢性的な炎症があるためです。この炎症により、気道が非常に敏感な状態になっており、これは「気道過敏性」と呼ばれます。

気道過敏性は、まるでやけどをしたあとに皮膚がヒリヒリするような状態に似ています。このため、寒暖差や季節の変わり目、タバコの煙など、ほんの少しの刺激にも気道が過剰に反応します。

こうした気道の炎症や過敏性は、遺伝的な要因や環境因子、アレルゲンなど複数の要因によって起こります。つまり、患者さん一人ひとりの体質や生活環境が複雑に絡み合って発生するのです。そのため、完全に根本原因を解決することは非常に難しいとされています。

しかし、根本的な治療が難しいとしても、適切な治療と自己管理を通じて、喘息とうまく付き合いながら、良好な状態を維持することが可能です。多くの患者さんが治療によって日常生活を快適に過ごせるようになっています。

喘息の要因は個人差が大きく、一人ひとり異なります。そのため、治療法も個別化される必要があります。大切なのは、医師と相談しながらご自分に合った治療法を見つけ、それを継続していくことだといえるでしょう。

とくに注意が必要なのは、日常的な治療を行わず発作の際にのみ薬を使用することです。このような対処法では、気道の粘膜が固くなり気道が狭くなるリモデリングが起こる可能性があります。

長期的な視点で治療を継続することが大切で、症状のコントロールと良好な状態の維持につながるのです。

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ただし、小児喘息の場合は状況が少し異なります。

お子様の中には、成長とともに症状が改善し、寛解する(病気の症状が一時的に軽くなったり、消えたりした状態)場合があります。

これは、成長とともに気道が太くなり、喘息の症状が出にくくなるためです。全てのお子様が寛解するわけではなく、個人差があります。

また、小児喘息の場合はアレルギー体質との関連性が強いことも特徴です。このため、小児喘息の場合はアレルゲンを特定し、それを避けることが非常に重要です。

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喘息と上手に付き合っていくためには、医師との信頼関係を築き、定期的な通院と自己管理を継続することが大切です。

一人ひとりの状況に合わせた最適な治療と管理方法を見つけることで、喘息があっても充実した日常生活を送ることができます。症状が出ていない状態でも、前向きに治療を継続していきましょう。

【参考文献】環境再生保全機構『 ぜん息を知る』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/#zensoku_area

【参考文献】”Asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/diagnosis-treatment/drc-20369660

2. 成人喘息と小児喘息で異なる特徴


前章でふれたとおり、喘息は、お子様と大人の方のどちらにも発症する呼吸器疾患ですが成人喘息と小児喘息には異なる特徴があります。

これらの違いを理解することで、より適切な治療や管理を行うことが可能です。

ここからは、成人喘息と小児喘息それぞれの特徴をご説明いたしましょう。

2-1.発症年齢について

・小児喘息
多くの場合、5歳以下の幼少期に症状が現れ、15歳までに発症します。

・成人喘息
20歳以降、とくに40〜60歳代での発症が目立ちます。患者さんの70〜80%は、成人になってから初めて喘息の症状を経験します。また、70歳以上で新たに喘息を発症するケースも多く見られます。

2-2.原因について

・小児喘息
アレルギーが主な原因であり、全体の90%以上に及びます。ハウスダスト、ペットの毛、花粉などのアレルゲンが引き金になります。

・成人喘息
アレルギー以外の要因も多く関係します。職場での化学物質などによる職業性喘息、大気汚染、喫煙、精神的ストレスなどが主な原因となることがあります。

◆「喘息とアレルギー」について詳しく>>

2-3.症状の特徴について

・小児喘息
症状は個人によって異なり、すべての症状が同時に現れるわけではなく、程度も軽度から重度までさまざまです。その中でも息を吐き出すときに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という高い音が聞こえる呼気性喘鳴(ぜんめい)が典型的です。

これは、気道の狭窄によって発生する音で、喘息の代表的な症状とされています。とくに夜間や明け方に咳込むことが多く、これにより安眠が妨げられることも少なくありません。

呼吸困難を感じることもあり、胸が締め付けられるような圧迫感を訴える場合もあります。運動後に咳や息苦しさが現れる運動誘発性の症状も見られることがあります。

環境要因によっても誘発されやすく、ホコリ、タバコの煙、花火の煙などにさらされると、発作が引き起こされることがあります。

症状の重さには個人差があり、軽度の場合は咳のみが見られる一方で、重度の場合は呼吸が著しく困難になり、肋骨の動きが大きくなることもあります。

年齢によっても症状の現れ方が異なり、とくに2歳以下の乳幼児は気道が細いため、通常の風邪でも「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という音が聞こえることがよくあり、喘息の診断が難しい場合があります。

・成人喘息
咳が中心的な症状として現れることがあり、このような状態は「咳喘息」とも呼ばれます。発作的には激しい咳が出たり、長引く咳に悩まされることがしばしばあります。

典型的な「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という喘鳴音は、小児喘息ほど顕著ではないことが多く、咳をはじめ呼吸の違和感を中心とした症状が現れるのが特徴です。

息切れや胸の圧迫感、または胸の違和感を感じることがあり、日常生活に支障を来すこともあります。さらに、痰が常に絡んでいるような感覚を覚える患者さんが多く、呼吸が重く感じられます。

症状が夜間や明け方に悪化する傾向が見られ、安眠が妨げられることもあります。

症状は一日の中で変動しやすく、調子の良いときと悪いときの差が激しいのも特徴です。

2-4.予後(病気の経過)について

・小児喘息
成長とともに症状が改善し、適切な治療を行うことで、成人期までに寛解する場合があります。

・成人喘息
完全な寛解はまれで、慢性的に進行する傾向があります。そのため、長期にわたる治療と管理が必要です。

2-5.治療反応性(薬や治療法がどれだけ症状の改善に効果があるか)について

・小児喘息
ステロイド薬への反応が良好で、早期から適切な治療を行うことで症状のコントロールがしやすくなります。

・成人喘息
小児喘息と比べて、ステロイド薬への反応が弱いことがあり、高用量の薬が必要になる場合があります。また、効果が現れるまでに時間がかかることもあります。

2-6.合併症について

・小児喘息
アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患を合併することが多いです。

・成人喘息
慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器疾患を合併するケースがあります。また、肥満や糖尿病などの生活習慣病との関連も指摘されています。

◆「COPD」について詳しく>>

2-7.自己管理とサポート体制について

・小児喘息
保護者の方の協力が不可欠です。アレルゲンの回避、薬の適切な使用、定期的な通院など、ご家族全体で治療に取り組むことが必要です。

・成人喘息
自己管理が重要であり、禁煙や適度な運動、ストレス管理など生活習慣の改善が求められます。また、仕事環境の調整も必要になることがあります。

このように成人喘息と小児喘息は異なる点も多いですが、どちらのケースでも、適切な治療と管理を行うことで、日常生活を快適に過ごすことが可能です。

成人喘息では長期的な管理と合併症予防が重要となり、小児喘息では成長に合わせた治療調整と寛解を目指した管理が行われます。また、小児の場合は保護者の方との連携も重要ですので、一緒に取り組む姿勢が求められます。

【参考文献】厚生労働省『成人喘息の疫学、診断、治療と保健指導、患者教育』
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-07.pdf

【参考文献】”Childhood Asthma” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/6776-asthma-in-children

3. 喘息治療にかかせないこと


喘息の治療には長期的な視点と日々の自己管理が欠かせません。ここからは、喘息治療の要となる2つの要素についてご説明しましょう。

3-1. 長期的な治療

喘息の治療は、症状が出ていない時期でも継続的に行うことが重要です。長期的な治療を続けることで、発作の予防や症状の安定が期待でき、日常生活の質を向上させることができます。主な治療法には以下のようなものがあります。

吸入ステロイド薬
吸入ステロイド薬は、気道の慢性的な炎症を抑える基本的な治療薬で、多くの場合第一選択薬として使用されます。毎日定期的に使用することで、発作の頻度を減らし、症状のコントロールに役立ちます。

急な症状の緩和には向かないため、日常的な予防薬としての使用が必要です。

長時間作用性β2刺激薬(LABA)

気管支を広げる効果があり、呼吸を楽にするために使用されます。

単独の使用による気道炎症の悪化や薬剤耐性などのリスクが指摘されており、必ず吸入ステロイド薬と一緒に服用することが重要です。吸入ステロイド薬と一緒に使うことで効果が高まります。

ロイコトリエン受容体拮抗薬

ロイコトリエンは、気道の炎症を悪化させる物質であり、その作用を抑えるための内服薬です。特にアレルギー体質のお子さまやアレルギーの影響が強い喘息の患者さんに効果的で、吸入ステロイド薬と併用することで、治療効果が向上します。

生物学的製剤

重症の喘息患者さんに対して用いられる新しいタイプの治療法です。従来の治療で十分な効果が得られない場合に使用され、気道の炎症に関与する特定の物質や受容体を標的とすることで、症状の改善を目指します。

生物学的製剤は、患者さんが持つ炎症パターンや体質に応じて異なる薬剤を使用することが特徴です。

代表的な生物学的製剤には、IL-4やIL-13という炎症を引き起こすサイトカインの働きを抑えるもの、好酸球の活動に関与するIL-5やその受容体を阻害するもの、アレルギー反応を引き起こすIgE抗体を抑制するものなどがあります。

投与は通常、注射によって行われ、定期的な通院が必要となります。従来の治療で効果が不十分だった患者にとっては有効性が高く、喘息発作の減少や症状の安定化、生活の質の向上が期待できます。

ただし、全ての患者さんに適用できるわけではなく、使用には慎重な判断が求められます。患者の症状の程度、これまでの治療の効果、血液検査などの結果を総合的に使用の判断をします。

また、治療費が高額になることもあるため、経済的負担も考慮しながら進めることが必要です。

【参考文献】”Asthma medications: Know your options” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/in-depth/asthma-medications/art-20045557

3-2. 日々の自己管理

喘息の症状を安定させ、発作を予防するためには、日々の自己管理もとても大切です。

患者さんご自身や保護者の方が日常生活を意識して過ごすことで、症状をより良くコントロールし、生活の質を向上させることが可能になります。

ここからは、喘息管理でとくに重要な日常生活のポイントをご説明しましょう。

まず、アレルゲンの回避は、喘息の症状を抑えるうえで欠かせません。

ハウスダストや花粉、ペットの毛などが喘息を悪化させる要因となるため、これらをできるだけ避けるように努めましょう。部屋の掃除を定期的に行い、空気清浄機を活用することで、アレルゲンの影響を減らすことが期待できます。

◆「ペットの飼育と喘息」について詳しく>>

感染症の予防も重要です。風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症は、喘息を悪化させる原因になるため、日常的に手洗いやマスクの着用などの感染対策を徹底しましょう。さらに、インフルエンザワクチンなどの接種も検討するといいでしょう。

禁煙は喘息の管理において最も重要な取り組みの一つです。

喫煙は気道を刺激し、喘息を悪化させます。ご自身だけでなく、ご家族や周囲の方の禁煙も必要だといえます。受動喫煙も症状の悪化を引き起こすため、たばこを吸っている環境から離れることが大切です。

【参考文献】”Smoking & Asthma” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/4584-smoking–asthma

また、適度な運動は、肺機能の向上に役立ちます。ただし、運動によって喘息の症状が誘発される場合もあります。

運動前には医師の指示に従い、必要に応じて吸入薬を使用するなど、事前準備をしっかりと行いましょう。無理をせず、体調に合わせた運動を心がけることが大切です。

◆「運動と喘息」について詳しく>>

さらにストレスの管理も欠かせません。精神的なストレスは喘息を悪化させることがあるため、リラクゼーション法や趣味など、ストレスを和らげる方法を見つけることが大切です。日々の生活の中で心の健康にも気を配りましょう。

自己管理の効果的な手段のひとつにピークフローメーターの使用があります。ピークフローメーターで毎日決まった時間に呼吸機能を測定することで、ご自身の状態を把握し、症状の悪化兆候を早期に発見できます。異常が見られた場合は、すぐに医師へ相談しましょう。

服薬の管理は非常に重要です。処方された薬剤は正しく理解し、医師の指示に従って服用することが必要です。薬の効果や副作用について不明な点がある場合は、早めに医師や薬剤師に相談しましょう。服薬スケジュールを守ることも、症状の安定には不可欠です。

そして、症状が安定している場合でも定期的な通院は欠かさないようにしましょう。医師と治療の進捗や副作用について相談し、必要であれば治療方針を調整することができます。発症時の対応についても確認しておくことが大切です。

また、日々の自己管理は患者さんご自身だけでなく、ご家族全体で取り組む姿勢が大切です。お子様の場合は、保護者の方が薬の管理や生活環境を整えることが求められます。

成人喘息では、患者さんご自身が生活習慣を見直し、自己管理を徹底することが症状の安定につながります。ご家族や医師との協力も長期的な治療を成功させるのに必要でしょう。

【参考文献】環境再生保全機構『成人ぜん息Q&A~日常生活について~』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/qa/life.html

◆「喘息発作を起こさない為に大切な6つの習慣」>>

4. おわりに

喘息は完治が難しい病気ですが、適切な治療と自己管理によって十分コントロール可能です。

長期的な治療継続と日々の自己管理によって発作を予防し、管理していきましょう。

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