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肺真菌症の基本情報と対策

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

真菌(しんきん)とは、カビの総称で、肺真菌症は、カビが肺に感染して起こる病気です。

通常、健康な人は真菌に対する免疫が働くため感染しにくいですが、免疫力が低下している場合には感染しやすくなります。

肺真菌症にはいくつかの種類があり、それぞれ原因となる真菌の種類によって症状や治療法が異なるのが特徴です。

今回の記事では、肺真菌症の種類や基本情報、悪化を防ぐ対策など詳しく解説します。

肺真菌症について詳しく知りたい方は、最後までお読みください。

1.肺真菌症の種類


肺真菌症には、以下のような種類があります。

・肺アスペルギルス症
・肺クリプトコッカス症
・肺カンジダ症
・肺ムコール症

この中で、肺アスペルギルス症がもっとも多く、続いてカンジダ症、ムコール症が多くなっています。

ここでは、一番多くみられる肺アスペルギルス症とその他の肺真菌症について解説します。

1-1.肺アスペルギルス症

肺アスペルギルス症は、「アスペルギルス」という真菌が原因で起こる感染症です。

アスペルギルスは土壌や空気中に存在しており、私たちが日常的に吸い込んでいるカビの一種です。

通常、健康な方であれば免疫機能によって防ぐことができますが、免疫力が低下している場合や基礎疾患がある場合には感染する恐れがあります。

特に、胸部外科手術後や気管支拡張症,間質性肺炎,COPDなど、呼吸器系の基礎疾患がある方は注意が必要です。

肺アスペルギルス症は、以下のような初期症状がみられます。

・発熱
・咳嗽
・喀痰
・血痰
・胸痛

免疫の状態により、症状や進行はさまざまです。

また、無症状のことも少なくなく、たまたま画像検査で発見されるケースもあります。

自然に存在しているカビのため、空気感染で発症しますが、人から人へは感染しません。

◆「血痰」について詳しく>>

【参考情報】『肺アスペルギルス症』日本内科学会雑誌第110巻第9号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/9/110_1808/_pdf

【参考文献】”Aspergillosis” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/aspergillosis/symptoms-causes/syc-20369619

1-2.その他

肺アスペルギルス症以外の肺真菌症もご紹介します。
それぞれ原因が異なるため、特徴も異なります。

【肺クリプトコッカス症】
肺クリプトコッカス症は、「クリプトコッカス」という真菌が引き起こす感染症です。

この真菌は、土壌や鳥の糞、特に鳩の糞に多く存在しています。

肺や皮膚から感染し、基礎疾患や免疫が低下している人だけでなく、健康な方でもかかる可能性が高いのが特徴です。

肺クリプトコッカス症の症状には、咳、発熱、胸痛、呼吸困難などが挙げられます。

健康な方の場合、無症状であることも多く、気づかないまま進行することがあります。

中枢神経系に播種すると重症化し、真菌が脳にまで到達するとクリプトコッカス脳髄膜炎を引き起こすこともあるため、早期の治療が重要です。

免疫力が低下している人やHIV感染者などは特に注意する必要があります。

【参考文献】”Pulmonary Cryptococcosis” by National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9696922/

【肺カンジダ症】
肺カンジダ症は、「カンジダ」という真菌が引き起こす感染症です。

カンジダはもともと体内や皮膚に存在している常在菌ですが、免疫力が低下すると体内で異常に増殖し、感染症を引き起こします。

特に口腔内に存在するカンジダ菌は、誤嚥性肺炎の原因菌のひとつです。

また、長期にわたる抗生物質の使用や、化学療法、糖尿病、免疫抑制剤の使用などは、肺カンジダ症のリスクを高めます。

肺カンジダ症の症状には、咳、発熱、痰、呼吸困難などが挙げられますが、症状が軽度の場合は気づかないこともあります。

カンジダは肺以外にも口や食道、腸などさまざまな臓器に感染するため、全身の健康状態に影響を与えます。

【肺ムコール症】
肺ムコール症は、「ムコール」という真菌によって引き起こされる感染症です。

ムコールは土や腐敗した植物や野菜、果物などに存在し、体内に入ると急速に増殖して感染を引き起こします。

肺ムコール症の症状は、咳、発熱、呼吸困難などです。

感染が進行すると、血管が壊され、肺組織が壊死(えし)することがあり、重症化すると命に関わります。

糖尿病患者や、免疫抑制剤を使用している人はリスクが高く、特に注意が必要です。

【参考文献】”Pulmonary Mucormycosis: What Is the Best Strategy for Therapy?” by National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4066629/#:~:text=Pulmonary%20mucormycosis%20is%20an%20uncommon,1%2C3

2.原因


原因となる真菌は、以下のようなものがあります。

・アスペルギルス
・クリプトコッカス
・カンジダ
・ムコール

これらは普段から土壌や空気中、植物などの自然環境に存在しています。

通常、健康な方であれば免疫機能が真菌を排除するため、真菌が体内に入っても感染することはほとんどありません。

しかし、免疫力が低下していたり基礎疾患があったりすると、これらの真菌が体内で繁殖し、感染を引き起こします。

肺に感染し増殖した場合、肺真菌症を発症します。

がん治療の抗がん剤やステロイド薬、長期にわたる抗生物質の使用などは、免疫力の低下を引き起こす原因です。

また糖尿病やHIVなどの疾患がある場合もリスクが高くなります。

3.症状


肺真菌症では、以下のような症状があらわれます。

・咳
・痰
・血痰
・発熱
・息切れ
・倦怠感
・胸の痛み

症状は一般的な肺の感染症と似ていますが、免疫力が低下している方がかかりやすいため、重症化することが多いです。

緩やかに症状が進行する場合と急激に進行する場合があり、感染する真菌の種類や免疫の状態によって異なります。

初期段階では、風邪や気管支炎に似た症状から始まるため、見過ごされてしまうことも少なくありません。

しかし、症状が続く、または悪化する場合には注意が必要です。

特に、免疫力が低下している方や肺に持病がある方は、症状が重くなりやすく、呼吸困難を起こすことがあります。

また、肺真菌症は進行すると肺以外の臓器にも広がり、全身の健康状態に影響を及ぼします。

例えば、真菌が血液を通じて脳や骨、皮膚などに感染すると、骨髄炎や脳髄膜炎などの合併症を引き起こします。

真菌症は放っておくと命に関わるケースも多いため、注意が必要です。

咳や息切れなどの症状が続く場合には、早めに医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが大切です。

◆「気管支炎」について詳しく>>

4.検査


肺真菌症を診断するためには、いくつかの検査が行われます。

主な検査方法は、画像検査や血液検査、喀痰検査、気管支鏡検査などです。これらの検査を組み合わせて診断を行います。

【画像検査】
画像検査では、胸部X線検査やCT検査が行われます。肺の状態を詳しく確認するために有効です。

肺真菌症では、肺に異常な影が見えることが多く、これによって感染が広がっている範囲や重症度を確認することができます。

特にCT検査では胸部X線検査よりも詳細な画像が得られるため、真菌感染の発見や進行具合を把握するのに役立ちます。

ただし、どの種類の真菌に感染しているか、画像検査だけでは特定はできません。

【血液検査】
血液検査では、真菌に対する抗体や特定の真菌の成分が血中にあるかどうかを調べます。

β-D-グルカンと呼ばれる真菌に特異的に存在する物質を調べます。β-D-グルカンは、ムコールを除くすべての真菌にみられる物質です。

ただし、偽陽性・偽陰性例の存在も否定できないため、症状や他の所見と合わせて判断します。

【喀痰検査】
喀痰検査では痰を採取し、顕微鏡で真菌の存在を確認したり、培養して特定の真菌が増殖するかを調べたりします。

この検査で感染している真菌の種類を特定できれば、より適切な治療法を選ぶことが可能です。

【気管支鏡検査】
気管支鏡検査では、病変部の組織を直接採取し検査します。

そのため、より精度の高い培養検査ができますが、それでも確定診断に至らない場合には、胸腔鏡や肺生検をおこなうことがあります。

肺真菌症の診断は、これらの検査を組み合わせて行います。早期に正確な診断を受けることで、症状が悪化する前に適切な治療を開始できるでしょう。

【参考情報】『真菌および真菌症の検査法』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2619-related-articles/related-articles-528/12532-528r05.html

5.治療


肺真菌症の治療には、主に抗真菌薬が使用されます。

抗真菌薬は、真菌による感染を抑えるための薬で、感染した真菌の種類や症状の重さによって使いわけます。

使用される抗真菌薬は、以下のような薬剤があります。

・フルコナゾール
・カスポファンギン
・イトラコナゾール
・ボリコナゾール
・イサブコナゾール

基本的には内服で治療を行いますが、病状によって点滴治療や病巣に直接注入するケースもあります。

【治療の進め方】
真菌が完全に除去されるまでには時間がかかるため、肺真菌症の治療は、通常数週間から数か月にわたって行われます。

治療中は定期的に医療機関で診察を受け、血液検査や画像検査で治療の効果を確認します。

免疫力が低下している方や糖尿病、がんなどの持病がある方は感染が重症化しやすいため、治療の継続が特に重要です。

場合によっては、免疫力を高める治療が検討されるケースもあります。

【手術が必要な場合】
まれに、抗真菌薬だけでは効果が不十分な場合や、肺の一部に真菌が集まって塊を形成している場合、感染部分を取り除く手術が検討されるケースがあります。

ただし、これは重症例や薬の効き目が見られない場合に限られます。

また、基礎疾患との関係で手術が適応できないケースもあります。

6.悪化させない為には


真菌は、空気や土、水の中などあらゆるところに存在しているため、完全に避けることは不可能です。

しかし、真菌に感染しない、または感染しても悪化させないために、日常生活で気を付けることや対策をすることは大切です。

特に、免疫力が低下している方や糖尿病、呼吸器の基礎疾患がある方など、肺真菌症のリスクがある方は重要でしょう。

自分でできる対策として、以下のようなものがあります。

・農作業や庭いじりをするときにはマスクをし、最後にしっかり手洗いをする
・真菌が繁殖しやすい環境を避ける
・こまめなカビ取りやカビが発生しないよう除湿や換気をする
・エアコンや加湿器を常に清潔にする
・換気をして部屋の通気性をよくする
・工事現場や廃屋などホコリやカビの多いところを避ける
・タバコを吸わない

真菌が多く存在する環境に頻繁に接することは、肺真菌症の可能性が高まります。

また、肺真菌症は免疫力の低下や真菌の多い環境が原因で発症しやすくなる病気です。

免疫力を高めることは肺真菌症の予防に役立つでしょう。

免疫力を高める方法として、以下のような方法があります。

・規則正しい生活
・栄養バランスの取れた食事
・十分な睡眠
・適度な運動
・体を温める
・タバコを吸わない

日常生活の中で無理なく取り組んでみましょう。

7.おわりに

肺真菌症は、カビである真菌が肺に感染することで起こる病気です。

通常、健康な方は免疫機能が働き、真菌が体内に入っても感染しにくいですが、免疫力が低下している方は感染しやすくなります。

特にがん治療を受けている方や糖尿病、HIVなどの持病がある方は、感染リスクが高いため注意しましょう。

肺真菌症にはいくつかの種類があり、原因となる真菌の種類によって症状や治療法が異なります。いずれも早期発見と適切な治療が大切です。

日常生活では、真菌に感染しないようにし、免疫力を高める生活を送りましょう。規則正しい生活や、清潔な環境を保つことが予防に効果的です。

咳や息切れが続く場合や気になる症状があれば、早めに呼吸器内科を受診しましょう。

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