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激しい咳が続いてあばら骨が痛いときは

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

激しい咳が続いたときに、おなかや胸が痛む経験をした方も多いでしょう。

咳は、体をウイルスや細菌などから守るための重要な防御反応です。

しかし、長引く咳は体にさまざまな影響を与えます。日常生活にも影響し、精神的にも負担でしょう。

今回の記事では、激しい咳が続いてあばら骨が痛いときの体の状態や骨折のリスク、激しい咳が続くときの対処法について詳しく解説します。

激しい咳が出てなんとかしたいと考えている方や、咳が原因であばら骨に痛みがある方は、ぜひ最後までお読みください。

1.激しい咳が続くと体全体に影響がでる


激しい咳が続くと苦しいだけでなく、体全体にさまざまな影響があらわれます。

体に与える影響は、以下のようなものが考えられます。

・のどや声への影響
・体力の消耗
・筋肉やあばら骨への影響
・精神的な負担

詳しく解説します。

【のどや声への影響】
長期間咳をし続けると、のどの痛みが慢性化し、粘膜にダメージを与えます。その影響で、のどが痛くなったり声がかすれたり声が出にくくなることがあります。

咳が治まれば、時間とともにのどの痛みや声枯れも治るでしょう。それまでは、禁煙はもちろん、温かい飲み物を飲んだり部屋の加湿をしたり、のどに負担をかけないようにしましょう。

なかなか声枯れが治らない場合、咳が原因で声帯付近にポリープや結節ができている可能性があります。
早めに医療機関を受診しておくと安心です。

【体力の消耗】
長引く咳は、体全体のだるさや疲労感にもつながり、体力を消耗します。1回の咳で2~4kcalも消費するといわれています。

10回咳をすれば、20~40kcal消費することになり、10分間の普通歩行や5分間の階段昇降と同程度のカロリー消費です。

また、夜間に咳がでることにより、睡眠の妨げになります。咳で体力を消耗しているのに睡眠不足になり、体力や体調の回復に影響します。

咳が長引けば、それだけ体力を消耗し回復を遅らせてしまいます。

【筋肉やあばら骨への影響】
咳をするときには胸部や腹部の筋肉を使います。そのため、咳が続くと胸やおなかの筋肉に負担がかかり、筋肉が疲労していきます。

胸やおなかに筋肉痛のような痛みを感じることもあるでしょう。

咳が長引くと、普段はあまり意識しない部分の筋肉に負担がかかりやすいため、こうした筋肉の痛みはよく見られる症状です。
また、激しい咳は、骨への負担も大きく、疲労骨折が起こるケースも少なくありません。

【精神的な負担】
体への負担だけでなく、咳をすること自体を苦痛に感じ、精神的なストレスが大きくなります。

咳が止まらず仕事や家事、勉強などに集中できなくなったり、夜間の睡眠が十分とれなかったり、日常生活に大きく支障をきたす可能性が高いです。

十分な睡眠が取れなくなると、睡眠不足からイライラや不安感にもつながります。
また、咳が周囲の人に迷惑をかけていると感じたり、外出先で咳が止まらなくなることで、不安を感じたりする場合もあるでしょう。

長引く咳は、体だけでなく心にも負担がかかるため、精神的なサポートや休息も重要です。

2.激しい咳であばら骨の疲労骨折がおこることも


激しい咳が続くと、あばら骨に負担がかかり、疲労骨折が起こることがあります。

疲労骨折とは、骨に繰り返しストレスがかかることで、小さなヒビが入り、最終的に骨折してしまう状態を指します。

これは一度に大きな力が加わる通常の骨折とは異なり、明らかな外傷がないため、レントゲンでも骨折が確認できないことが多いです。

咳をする際に、私たちは自然とおなかや胸の筋肉を使い、肺に圧力をかけています。
この圧力が何度も繰り返しかかることで、あばら骨に負荷がかかり、微細な損傷が積み重なって、疲労骨折につながります。

あばら骨を疲労骨折している場合、以下のような症状があらわれます。

・咳や深呼吸をすると痛む
・上半身をひねると痛む
・肋骨のあたりを押すと痛む

疲労骨折は、激しい運動や過度な負荷が原因で起こることはよく知られていますが、実は激しい咳が長期間続く場合でも骨折のリスクが高まるのです。

特に、咳が長引く喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性疾患を抱えている場合、骨が強い人でも疲労骨折を引き起こす可能性があります。

咳が続くと、肺や気管だけでなく、骨にも影響を与えることがあるため、咳が長引いている場合はそのリスクを意識することが大切です。
特に高齢の女性は骨がもろくなっており、骨折しやすい状態のため注意しましょう。

もし激しい咳が続いていて、胸や背中に痛みを感じるようであれば、早めに医療機関を受診することをおすすめします。

また、咳による疲労骨折を予防するためには、まず咳そのものを長引かせないことが大切です。

風邪や気管支炎など、咳が続くような症状がある場合は、無理をせず早めに受診し、適切な治療を受けることが骨折の予防につながります。

咳が続いているときに家でできる対策としては、加湿器を使って室内の湿度を保つことや、温かい飲み物で喉を潤すことが効果的です。
喉を乾燥させないよう心がけ、無理をせずに体を休めましょう。

◆気管支炎について>>

◆COPDについて>>

◆喘息とは?について>>

【参考情報】『骨折の解説 疲労骨折』日本骨折治療学会
https://www.jsfr.jp/ippan/condition/ip10.html

3.骨折のリスクが高まる高齢女性


高齢者や閉経後の女性は、特に骨が弱くなっているため、骨折のリスクが高いです。

骨密度が低下していることが多く、骨がもろくなっているため、咳が原因で骨折しやすくなります。

特に、骨粗しょう症になっている方は、わずかな咳でもあばら骨や背骨にダメージを受けやすく、注意が必要です。

骨粗しょう症とは、骨量が減るために骨がもろくなり、ちょっとしたダメージで骨折しやすい病気です。

高齢者や閉経後の女性に多くみられますが、骨粗しょう症自体に痛みはなく、骨粗しょう症になっていることに気づいていない方も多いでしょう。

骨粗しょう症だけでなく骨折を予防するためには、骨を強くするが大切です。
カルシウムやビタミンDを多く含む食品を取り入れ、適度な運動や日光浴を心がけましょう。

閉経後の女性や骨粗しょう症が心配な方は、定期的に骨密度の検査を受けることもおすすめです。

激しい咳が続いていて、骨折を疑う場合には、呼吸器内科だけでなく整形外科も受診しましょう。

【参考情報】『症状・病気をしらべる 骨粗鬆症(骨粗しょう症)』日本整形外科学会
https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/osteoporosis.html

【参考文献】”Osteoporosi” by Mayo clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/osteoporosis/symptoms-causes/syc-20351968

4.激しい咳が止まらない。どうする?


激しい咳が続くと、身体的にも精神的にも疲れてしまいます。

「早くなんとかしたい」と考える方が多いのではないでしょうか。
ここでは、激しい咳が止まらない場合にどうしたらよいかを解説します。

4-1.市販の咳止め薬では喘息を治せない

咳は、さまざまな原因であらわれる症状です。市販薬で対処できる場合もあるでしょう。

しかし、咳の原因が喘息だった場合、市販薬の使用はおすすめできません。

喘息の咳は、市販薬では根本的な改善にはならず、薬の選択を誤ると症状を悪化させる可能性があるからです。

咳止め薬(鎮咳薬)は、中枢性鎮咳薬と末梢性鎮咳薬に分けられます。

末梢性鎮咳薬は、去痰薬や気管支拡張薬が該当します。痰を出しやすくしたり気管支を拡張したりして咳を鎮めます。これらの薬は、喘息にも使われる薬であり、使用しても効果があるでしょう。

一方、中枢性鎮咳薬は、脳の中枢に働きかけ咳を鎮める薬です。このタイプの薬は、喘息の咳には効果がありません。そのなかでも、麻薬性鎮咳薬に分類されるコデイン類の咳止めは、喘息の症状を悪化させ呼吸が苦しくなる可能性があります。

激しい咳が続けば、骨にも持続的に負担がかかり、疲労骨折のリスクが高まります。

市販薬で一時的に対処する方法はありますが、早めに医療機関で適切な治療を受けることが治療の近道です。

【参考情報】『咳嗽・喀痰の診かたと薬物療法』日本内科学会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/6/110_1063/_pdf

4-2.呼吸器内科で適切な治療を

激しい咳が続く場合、原因は一時的なものではなく、何かしらの他の病気が関与している可能性があります。

咳が続く場合は気管支炎や肺炎、喘息といった呼吸器系の病気が疑われることが多いです。

また、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺がんといった深刻な病気も含まれることがあります。

これらの疾患は、早期に診断されることで進行を遅らせる治療が可能ですが、放置すると命にかかわります。

「ただの風邪」「そのうち治るだろう」と放置していると悪化する可能性が高いため、適切な診断と治療が必要です。

激しい咳が続く場合は、一般内科ではなく呼吸器内科の受診をおすすめします。

一般内科は、咳や痰などの呼吸器症状以外にも腹痛や頭痛などさまざまな症状に対応する総合的な内科です。

一方、呼吸器内科は、喘息や慢性閉塞性肺疾患など呼吸器の疾患を専門的に診療している呼吸器のエキスパートです。

呼吸器に特化した診療をおこなうために、一般内科ではできない呼吸器の検査にも対応しています。医師も呼吸器の疾患を専門としているため、スムーズな診療が受けられます。

【参考文献】”Chronic cough” by Mayo clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/chronic-cough/symptoms-causes/syc-20351575

◆肺炎について>>

◆呼吸器内科を受診する目安について>>

5.おわりに

咳は、体をウイルスや細菌などから守るための重要な防御反応ですが、長引くと体にさまざまな影響を与えます。

長引く咳は、体力の消耗や睡眠不足を招き、あばら骨や背骨、おなかや胸の筋肉に痛みが生じる可能性があります。

高齢者や閉経後の女性は骨密度の低下から、咳が原因で疲労骨折を起こすリスクが高いです。

咳は、のどや気管支などの呼吸器だけでなく、全身に影響を及ぼすことを認識しておきましょう。

2週間以上咳が長引いているときや、咳をした後に胸や背中に違和感や痛みがある場合は、すぐに医師に相談し、適切な検査と治療を受けましょう。

◆長引く咳の原因>>

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