肺性心の原因や症状、検査、治療について
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
肺性心とは、肺の病気により肺高血圧が生じて、心臓の右心室に負荷がかかった結果生じる病態です。
肺性心を起こす原因はいくつかありますが、肺性心が進行すると右心不全を起こし命に関わります。
今回の記事では、肺性心を起こす原因や症状、検査、治療について解説します。
COPDや間質性肺炎など、肺性心のリスクがある方は、ぜひ参考にしてください。
1.原因
肺性心は、肺動脈の血圧上昇を原因として発症します。
急性・亜急性・慢性に分類されますが、一般的にいわれる肺性心は、慢性を指すケースがほとんどです。
慢性の肺性心は、原因となる疾患とともに、ゆっくりと進行していきます。
肺動脈の血圧を上昇させる原因となる主な疾患は以下の3つです。
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)
・間質性肺炎(ILD)
・肺高血圧症
この3つの疾患について詳しく解説します。
1-1.慢性閉塞性肺疾患(COPD)
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれている病気の総称で、タバコの煙を主とした有害物質を長期に吸入した結果起こる肺の炎症性疾患です。
COPDでは以下のような症状があらわれます。
・咳
・痰
・息切れ、呼吸困難
・喘鳴(ぜんめい)
【慢性閉塞性肺疾患(COPD)が肺性心を引き起こすメカニズム】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)が進行すると、肺のガス交換が悪くなり低酸素血症を引き起こします。
その結果、肺の血管が収縮し、肺の血液を送り出す強い力が必要になります。
強い力で血液を送り出すために心臓に負荷がかかり肺性心を引き起こすのです。
肺性心の原因として、慢性閉塞性肺疾患は最も多い原因疾患とされています。
1-2.間質性肺炎(ILD)
間質性肺炎(ILD)とは、間質と呼ばれる肺の壁に炎症や損傷が起こることで、酸素が取り込みにくくなる病気です。
間質性肺炎では、以下のような症状があらわれます。
・息切れや呼吸困難
・痰は少なく乾いた咳
【間質性肺炎(ILD)が肺性心を引き起こすメカニズム】
間質性肺炎を起こすと、炎症が起こり肺胞や毛細血管の壁が厚くなります。
その結果、酸素の取り込みが悪くなり、肺の機能が低下します。
肺の機能が低下すると肺動脈の圧が高くなるため、心臓に負担がかかり肺性心を引き起こします。
【参考情報】日本呼吸器学会『特発性間質性肺炎』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/d/d-01.html
1-3.肺高血圧症
一般的によく聞く高血圧症と肺高血圧症は異なる病気です。
肺高血圧症とは、心臓から肺に向かう肺動脈の血圧が高くなる疾患です。原因には肺血管が細くなるもの 血栓によるものなど様々な原因が含まれます。
肺高血圧症では、以下のような症状があらわれます。
・咳や喀血
・動いたときの息切れや呼吸困難
・動悸
・胸の痛み
・足のむくみ
【肺高血圧症が肺性心を引き起こすメカニズム】
肺高血圧症では、肺動脈の血圧が高くなり、心臓への負担が大きくなります。
そのため、右心室が肥大し肺性心を引き起こします。
【参考情報】Mayo Clinic “pulmonary hypertension”
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pulmonary-hypertension/symptoms-causes/syc-20350697
2.症状
初期の肺性心では、無症状のため気づかない人が多いでしょう。
徐々に、肺動脈の血圧が上昇してくると自覚症状があらわれます。
・労作時の息切れ
・胸の痛み
・全身のだるさ
・めまい
・失神
その後、右心不全*を併発すると、むくみやむくみに伴う体重増加、食欲不振、吐き気などの症状もあらわれてきます。
進行すると、安静にしても息切れや息苦しさを感じ、いつも通りの日常生活を送ることが困難になります。
※右心不全:心臓の右側の機能が低下することにより、血液が心臓に戻りにくくなること。
【参考情報】『肺性心』メディカルノート
https://medicalnote.jp/diseases/%E8%82%BA%E6%80%A7%E5%BF%83/%E7%97%87%E7%8A%B6
3.検査
肺性心の検査では、診断のためだけでなく、病状の把握や治療の評価のためにもおこなわれます。
主に以下のような検査をおこないます。
・胸部レントゲン検査
・心電図検査
・血液検査
・心臓超音波検査
・心臓カテーテル検査
胸部レントゲン検査では、心臓や肺の形や大きさを確認できます。肺性心が存在すると心臓が大きくなります。
心電図検査は、心臓がどのように動いているか、正しいリズムで動いているかを確認できます。肺性心では右心系の負荷所見がみられます。
血液検査では、心臓に負担がかかっていると、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)という物質の数値が上がるため、診断に有用です。
動脈血液ガス分析では血中の酸素濃度や二酸化炭素濃度 pHを測定でき、呼吸の状態や酸塩基バランスなどが確認できます。
心臓超音波検査は、超音波を使って心臓の動きや形を映像で確認します。
肺性心の場合、右心室の肥大や動きの異常、さらには心臓内の血流の異常などが確認できます。非侵襲的に感度よく右心系の負荷が確認でき有用な検査です。
心臓カテーテル検査は、カテーテルと呼ばれる細い管を血管に通して、直接心臓の中の圧力を測ったり、血流の状態を詳しく検査したりする方法です。
肺性心を起こす肺高血圧の発症原因や病気の進行具合などの評価のために必須の検査です。
これらの検査を組み合わせて、総合的に診断と治療方針が決定します。
【参考情報】『肺高血圧症』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/pph/
4.治療
肺性心の治療で、まずは原因となる呼吸器疾患の治療をおこなうことが大切です。
原疾患の病状が落ち着いていれば、心臓への負担が軽減され、肺性心も改善されていくでしょう。
肺性心の状態が進行している場合、原疾患の治療と合わせて、肺性心の治療も必要となります。
肺性心の治療では、まずは薬物療法が中心です。
利尿薬*や抗凝固薬*、カルシウム拮抗薬*などを内服し、心臓の負担を減らします。
症状に合わせて、持続点滴や吸入薬での薬物投与、酸素投与なども必要です。
薬物療法や酸素療法でも改善がみられない場合、肺移植が検討されるケースもあります。
※利尿薬:尿量を増やして体内の余分な水分や塩分を排泄し、血圧を下げる薬
※抗凝固薬:血液をサラサラにする薬。肺性心の患者さんは肺塞栓症のリスクが高くなるため、その予防のために用いられる。
※カルシウム拮抗薬:血管を拡張させて血圧を下げる薬
5.おわりに
肺性心は放っておくと右心不全が起こり、死につながる怖い病気です。
COPDや間質性肺炎など呼吸器の疾患がある場合、適切な治療を継続して受けることが肺性心の発症や進行を抑えるために大切です。
息切れや胸の痛みなど気になる症状がある場合には、早めに呼吸器内科を受診しましょう。