たばこと深い関係のある、肺がんとは?
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
肺がんは、気管支や肺胞の細胞が異常増殖することで発生するがんです。
たばことの関連が強く、非喫煙者の方に比べて喫煙者の方は肺がんのリスクが大幅に高まります。
多くのケースで、喫煙が主要なリスクファクターです。
初期の段階では症状が現れにくいため、定期的な検診が重要です。組織型によって大きく4つに分類され、それぞれ特徴や治療法が異なります。
この記事では、肺がんの症状、原因、種類、検査、治療、予防法について詳しくご説明いたします。
1.症状
肺がんの初期症状は非特異的(肺がん特有の症状ではなく、他の病気にも似た症状)で、多くの場合、ほかの呼吸器疾患と見分けがつきにくく発見が遅れる場合があります。そのため、症状がある場合には注意が必要です。
まず、症状として持続する咳が挙げられます。次に、血痰です。咳とともに血が混じることがあります。
また、呼吸困難を感じることもあるでしょう。息切れや呼吸が苦しいと感じる場合、肺がんの初期症状である可能性があります。
さらに、胸痛も重要な症状のひとつです。胸の痛みが続く場合は、医療機関での検査が必要です。
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声のかすれも見逃してはいけません。肺がんが声帯を圧迫することで声がかすれる症状がでることもあります。
また、がんの進行に伴い体重が減少し、食欲がなくなることがあります。
肺がんが原因とは限りませんが、咳が2週間以上続いている場合、呼吸器疾患の可能性があります。念のため、呼吸器内科への受診を早めに検討しましょう。
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【参考情報】日本呼吸器学会『肺がん』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/e/e-01.html
【参考情報】Mayo Clinic “Lung cancer”
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/lung-cancer/symptoms-causes/syc-20374620
2.原因
肺がんにはさまざまな原因が考えられますが、最も大きな要因は喫煙です。
実際、全肺がんの約85%が喫煙によるものであり、たばこに含まれる有害物質が直接的に肺の細胞を傷つけ、がんの発生を促進します。
また、同様に受動喫煙も肺がんのリスクを高める大きな要因です。ほかの方のたばこの煙を吸うことで有害物質にさらされ、肺がんのリスクが増加します。
職業曝露も、肺がんのリスクを増大させる要因のひとつです。
アスベスト、ラドンガス、重金属などの有害物質に長期間曝露されると、肺の細胞にダメージを与え、がんの発生を促進します。これらの有害物質は特定の職業環境でみられることが一般的なため、職場での安全対策が重要です。
さらに、遺伝的要因も肺がんのリスクを高めることがあります。
家族歴がある場合、遺伝的にがんの発生しやすい体質が受け継がれている可能性があり、その結果、肺がんのリスクが増加します。
これらの要因が複合的に作用することで、肺がんの発生リスクが高まると考えていいでしょう。予防と早期発見がなによりも重要です。
【参考情報】国立がん研究センター『肺がん』
https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/index.html
3.種類
肺がんは主に以下の種類に分類されます。それぞれについて特徴をご説明しましょう。
3-1.小細胞肺がん
小細胞肺がんは、増殖が速く転移しやすい特徴があります。
主に肺門部に発生し、喫煙との関連が強いがんです。化学療法や放射線療法に対する感受性が高いとされています。
3-2.肺腺がん
肺腺がんは非小細胞肺がんの一種で、最も一般的な肺がんのタイプです。
主に肺の末梢(肺野部)に発生し、女性や非喫煙者にも多く見られます。比較的ゆっくり進行するとされています。
3-3.肺扁平上皮がん
肺扁平上皮がんは非小細胞肺がんの一種で、主に肺門部に発生します。
喫煙との関連が強く、咳や血痰などの症状が現れやすいのが特徴です。診断時にすでに進行していることが多いとされます。
3-4.肺大細胞がん
肺大細胞がんは非小細胞肺がんの一種で、増殖が速いのが特徴です。
主に肺野部に発生し、他の非小細胞肺がんに比べて予後が悪い傾向があります。
ほかのタイプよりも大きな細胞から構成され、迅速に増殖し広がる傾向があります。
3-5.その他の肺がん
上記以外にも、カルチノイド、腺様嚢胞がん、粘表皮がんなどの稀な肺がんがあります。
これらは発生頻度が低く、それぞれ特有の性質や治療法があります。
【参考文献】Lung Cancer by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/4375-lung-cancer
4. 検査
肺がんの検査は以下のようにおこなわれます。
4-1.スクリーニング検査
スクリーニング検査では次のような検査をおこない、早期発見を目的としています。
・胸部レントゲン検査
胸部のX線写真を撮影し、異常の有無を確認します。
・胸部CT検査
CTスキャンを使用して、詳細な肺の画像を取得します。
・喀痰細胞診
痰の中にがん細胞が含まれているかを調べます。
4-2.確定診断検査
スクリーニングで肺がんである疑いがあると判断された場合、以下の確定診断検査が行われます。
・気管支鏡検査
気管支鏡を使用して肺内部を観察し、生検を行います。
・経皮的肺針生検
皮膚を通して針を挿入し、肺の組織を採取します。
・胸腔鏡検査
胸腔内を観察し、生検を行います。
・外科的肺生検
手術により肺の組織を採取し、詳細な検査を行います。
4-3.その他の検査
医師の判断により、以下の検査が追加されることがあります。
・PET検査
がんの広がりを評価するために、全身の画像を取得します。
・腫瘍マーカー検査
血液中の特定の物質を測定し、がんの有無を確認します。
5.治療
肺がんの治療は、医師の判断のもとさまざまな方法によっておこなわれます。一般的な治療としては、「手術」・「放射線治療」・「薬物療法」の3つがあります。
治療方針は病期(ステージ)に基いて決定されます。つまり、治療方針の決定においては正確な病期診断が重要です。
ここからは、主な肺がんの治療についてご説明いたします。
5-1.手術
早期の非小細胞肺がんでは、手術による切除が標準的な治療法です。
肺がんの大きさや位置に応じて、肺葉切除術や部分切除術などが行われます。近年では、胸腔鏡を用いた低侵襲手術も増えています。
5-2.放射線治療
手術が困難な場合や、小細胞肺がんの治療に放射線治療が用いられます。
がん細胞に放射線を照射して破壊する治療法で、単独または化学療法と併用して行われるのが一般的です。
5-3.薬物療法
肺がんの薬物療法は、大きくは化学療法、免疫療法、分子標的療法があります。
がんの種類や進行度、患者さんの全体的な健康状態に応じて選択されます。
それぞれを詳しくご説明しましょう。
【化学療法】
抗がん剤を用いてがん細胞を直接攻撃する方法です。
抗がん剤は、体内に広がっているがん細胞を殺すために使用されます。
これにより、がんの増殖を抑えることができます。
手術後の再発を防ぐためや、放射線治療と併用して行うこともあります。また、進行がんの場合には、症状の緩和を目的として使用されることもあります。
【免疫療法】
免疫療法は、患者さん自身の免疫システムを強化し、がん細胞を攻撃させる方法です。
免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる薬剤を使用して、がん細胞が免疫システムの攻撃を逃れるのを防ぎます。
免疫療法は、とくに進行した肺がんの治療において重要な役割を果たしており、患者さんの生存期間を延ばす可能性があります。
【分子標的療法】
がん細胞の特定の分子を標的とした薬剤を使用する治療法です。
分子標的療法は、がん細胞の成長や分裂に必要な特定のタンパク質や酵素をブロックすることで効果を発揮します。
特定の遺伝子変異を持つがん細胞に対して非常に効果的です。正常な細胞への影響が少ないため、副作用が比較的軽いことが利点としてあげられます。
【参照文献】国立がんセンターがん情報サービス『各種がん 肺がん』
https://ganjoho.jp/public/qa_links/brochure/pdf/123.pdf
6.予防法
肺がんの予防には、最も効果的なものとして禁煙が挙げられます。喫煙は肺がんの主要な原因であり、禁煙により肺がんのリスクを大幅に低減することが可能です。
長期間喫煙していた方でも、禁煙することでリスクは徐々に低減するとされています。
次に、受動喫煙の回避も重要であるため、受動喫煙を避ける環境を作りましょう。家庭や職場、公共の場での喫煙を制限し、たばこの煙を吸わないようにする努力が求められます。
さらに、定期的な検診受診も肺がん予防には不可欠です。早期発見が可能となることで、治療の成功率が高まります。特に40歳以上の喫煙者の方や肺がんのリスクが高い方は、定期的に検診を受けましょう。
また、バランスの取れた食事と適度な運動も健康の維持に重要です。適度な運動は免疫力を高めるとされています。
職場での有害物質対策も重要な予防策です。
アスベストや重金属などの有害物質に曝露される職場では、適切な防護措置をおこない、定期的な健康チェックを行うことで、肺がんのリスクを減らすことができます。
7.おわりに
肺がんは、喫煙と密接な関係があり、早期発見と治療が重要です。
禁煙を心がけ、定期的な検診を受けることで、肺がんのリスクを減らすことができます。
症状が気になる場合は、早めに医師の診察を受けましょう。