診療時間
ご予約・ご相談はこちらから

マイコプラズマ肺炎の症状や治療、検査、予防について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

マイコプラズマ肺炎は子どもや若い人に多く、風邪によく似た症状が見られ、特に痰を伴わない乾いた咳が長引くのが特徴です。

この記事ではマイコプラズマ肺炎の症状や特徴、検査、予防方法について詳しく解説しています。
「マイコプラズマ肺炎という名前は聞いたことがあるけど、他の肺炎とどう違うの?」
「激しい空咳が長期間続いてつらい」
という方は、ぜひ参考にしてください。

1.マイコプラズマ肺炎の症状・特徴


肺炎は、その原因によって「細菌性肺炎」、「ウイルス性肺炎」、「非定型性肺炎」、「肺真菌症」に分けられます。

種類 原因となる病原体
細菌性肺炎 肺炎球菌、レジオネラ菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎桿菌など
ウイルス性肺炎 インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、麻疹ウイルスなど
非定型性肺炎 マイコプラズマ、クラミジアなど
肺真菌症 アスペルギルス、クリプトコッカス・ネオフォルマンスなどの真菌(カビ)やカンジダ・アルビカンスのような皮膚や口腔の常在菌

マイコプラズマ肺炎は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」という細菌に感染して起こる非定型性肺炎です。

細菌性肺炎などの一般的な肺炎は高齢者に多いのに対して、マイコプラズマ肺炎は小児や若い人に多く見られます。

マイコプラズマ肺炎では次のような症状が見られます。風邪の症状と似ているため判別が難しいのが特徴です。
・発熱
・全身の倦怠感(だるさ)
・頭痛
・乾性咳嗽(痰を伴わない咳)

他の肺炎では痰が出ることが多いですが、マイコプラズマ肺炎では痰が見られず乾いた咳が特徴的です。咳は熱が下がった後も3~4週間続くことがあります。

多くの人はマイコプラズマに感染しても軽い症状で済みますが、本格的な肺炎へと移行し重症化することもあります。

また、まれに次のような合併症が起こる場合もあります。命に関わる合併症もあるため注意が必要です。

・中耳炎(中耳が炎症を起こし、耳の痛みや発熱などの症状が現れる病気)
・無菌性髄膜炎(脳や脊髄を覆う髄膜が炎症を起こし、頭痛や発熱、嘔吐などの症状が現れる病気)
・脳炎(ウイルスなどによって脳の組織が炎症を起こし、頭痛、発熱、意識障害などの症状が現れる病気)
・肝炎(肝臓が炎症を起こし、疲労感や腹痛、黄疸などの症状が現れる病気)
・膵炎(膵臓が炎症を起こし、腹痛や吐き気、発熱などの症状が現れる病気)
・溶血性貧血(赤血球が異常な速さで破壊されることによって起こる貧血)
・心筋炎(心臓の筋肉が炎症を起こし、胸痛や息切れ、不整脈などの症状が現れる病気)
・ギラン・バレー症候群(感染症などが原因で免疫システムが異常をきたし、急に筋力が低下する病気)
・スティーブンス・ジョンソン症候群(薬剤や感染症などが原因で免疫システムが異常をきたし、全身の皮膚に紅斑やびらんができる指定難病)

マイコプラズマ肺炎と診断を受けた後に発熱や頭痛、嘔吐等の症状が悪化した場合は、髄膜炎などの合併症の可能性がありますのですぐに受診しましょう。

【参考情報】国立感染症研究所『マイコプラズマ肺炎とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/503-mycoplasma-pneumoniae.html

2.マイコプラズマ肺炎の検査


症状や周囲での流行状況からマイコプラズマ肺炎が疑われる場合、次のような検査を行います。

2-1.画像検査

画像検査には、胸部X線検査(レントゲン)やCTがあります。
CT検査は、レントゲンでは見えにくい部分も写すことができるため、レントゲンで異常が見られた場合により詳しい検査として行います。

どちらも放射線(X線)を照射して内部を写し出すもので、骨などの密度が高いものは白く、空気などの密度が低くX線を透過しやすいものは黒く映ります。

通常、肺は大量の空気を含んでいるため黒く写ります。
しかしマイコプラズマ肺炎の場合、空気だけでなく肺胞の一部に分泌液があるため、胸部レントゲンやCTでは「すりガラス陰影(やや透過性が低下して灰色の部分がある状態)」が見られる場合があります。

【参考情報】日本呼吸器学会『呼吸器Q&A』
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q19.html

2-2.血液検査

一般的には感染症にかかると、白血球(病原体など異物の侵入から体を守る免疫細胞)やCRP(体内で炎症が起きると上昇するタンパク質)が高値になります。しかし、マイコプラズマ肺炎ではこれらの数値は正常範囲内であることが多いです。

マイコプラズマ肺炎にかかっている場合、「マイコプラズマ抗体」が作られます。そのため、血液中にこの抗体が存在するかどうかを調べます。
正確な検査方法としては、発症初期と回復してきた時期に血液検査を行う「ペア血清」というものがあります。しかし、検査結果が出るまでに3週間程度かかるというデメリットもあります。

2-3.迅速検査

治療を早期に開始するためには、迅速検査キットが役立ちます。
迅速検査キットを使った「プライムチェック」は、綿棒でのどの奥の粘膜をぬぐい、採取した咽頭ぬぐい液にマイコプラズマ抗原が含まれているかを調べる検査です。
30分程度で結果が出るというメリットがありますが、検査のタイミングによって結果が左右されることもあるため、他の検査結果も加味して総合的に判断します。

同じように咽頭ぬぐい液を使って、マイコプラズマに特徴的な遺伝子を検出する「LAMP法」という方法もあります。LAMP法はプライムチェックに比べて精度が高いものの、結果が出るまでに少し時間がかかります。

【参考文献】Mycoplasma pneumoniae Infection by CDC
https://www.cdc.gov/mycoplasma/about/index.html

3.マイコプラズマ肺炎の治療


基本的にはマクロライド系の抗菌薬(抗生物質)を使って治療を行います。

しかし、近年ではこのマクロライド系抗菌薬が効かない「マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎」が増えていると言われています。このような場合は「ニューキノロン系」や「テトラサイクリン系」など他の抗菌薬を使って治療を行います。

軽症の場合は1週間程度の治療で済みますが、重症の肺炎や合併症を発症している場合などは1か月以上入院が必要になる場合もあります。

4. マイコプラズマ肺炎の予防


マイコプラズマ肺炎は「飛沫感染」や「接触感染」で広がるため、家族間での感染や、学校などでの集団感染を起こしやすい病気です。
1年を通して感染する可能性がありますが、比較的冬に多くなります。

学校保健安全法では「第三種学校伝染病」に指定されていて、出席停止の期間は明確には決まっていませんが「急性期は出席停止、全身状態が良くなり感染の恐れがないと認められれば登校可能」となっています。
保育園や幼稚園、会社などでは独自のルールが決められている場合もありますので、確認しましょう。

「過去に一度かかったことがあるから大丈夫」と思っている方もいるかもしれませんが、マイコプラズマ肺炎の免疫は長く続きません。一度かかってもまた感染する可能性があるため注意が必要です。

現時点で有効なワクチンはないため、手洗いやマスク着用、消毒など基本的な感染対策を徹底しましょう。

5.おわりに

マイコプラズマ肺炎は風邪によく似ていますが、「しつこく長引く空咳」が特徴です。

比較的軽症で済むことも多い病気ですが、受診せずに放っておくと咳が長引いて体力を消耗するだけでなく、重症化や合併症を起こして入院が必要になる場合もあります。

2週間以上咳が続く場合は、風邪だと思って放置せず、早めに呼吸器内科を受診しましょう。

記事のカテゴリー

診療時間
アクセス