診療時間
ご予約・ご相談はこちらから

子どもが咳でつらそう。原因と対処について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

子供の気道は大人に比べて細く柔らかいため、風邪などの感染症にかかると痰が詰まりやすくなります。

気道に痰などの異物があると、異物を排除するための防御反応として咳が出ます。

長引く咳の原因には感染症、アレルギー、喘息など様々なものが考えられます。

この記事では子どもの咳の原因や、病院受診の目安、家でできる咳の対処法について詳しく解説します。

【参考文献】❝Common Children’s Coughs Explained❞ by Children’s Healthcare of Atlanta
https://www.choa.org/parent-resources/everyday-illnesses/common-kids-coughs-explained

1.風邪の咳


子どもの咳で多いのは風邪によるものです。

特に保育園や幼稚園など集団生活が始まると、次から次へ風邪をもらってきて風邪症状が長引いているというお悩みも多いのではないでしょうか。

集団生活が始まることで風邪を引きやすくなる原因には、次のようなものがあります。

・集団のためピンポン感染(同じ空間にいるため子ども同士でうつし合ってしまう)
・細菌、ウイルスへの耐性が低い
・慣れない環境のストレスで免疫が低下している

風邪症状を引き起こすウイルスは何百種類もあるため、一度かかって終わりとはなりません。

しかし成長とともに徐々に抗体を獲得して免疫力が高まれば、風邪を引く機会も少なくなります。

風邪を引いてしまった場合でも安静にして水分を補給していれば、咳や鼻水、発熱などの症状は1~2週間以内に治まることが多いです。

冷たいものを飲むと喉が刺激され、咳が出やすくなってしまうため、水分補給にはお茶や味噌汁、スープなど温かいものがおすすめです。

飲みにくい場合には、常温の経口補水液やりんごジュースを与えても大丈夫です。

咳がつらい場合の対処法として、1歳以上のお子さんであればハチミツを与えてみるのも効果的です。

ハチミツには抗酸化作用や抗菌作用があり、咳を抑える効果があると言われています。

ただし、1歳未満の場合には乳児ボツリヌス症を起こす可能性があるので絶対に与えないでください。

【参考情報】National Library of Medicine『Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18056558/

2.風邪以外の咳


風邪だと思っていたのに、1~2週間経っても咳が止まらない時は、次のような可能性が考えられます。

 ・風邪がきっかけで、気管支炎や肺炎など呼吸器の感染症を合併している場合
 ・風邪以外の呼吸器感染症だった場合
 ・喘息などアレルギーによる呼吸器疾患を発症した場合
 ・副鼻腔炎

2-1.急性気管支炎

急性気管支炎は風邪を引いて抵抗力が低下している時に、気管支に病原体が入り込み炎症を起こす病気です。

原因菌はアデノウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルスなど様々です。

最初は空咳(乾生咳嗽)ですが、気管や気管支粘膜に炎症が起きるため病原体を排出しようとして気管に痰が貯まり、痰を伴った湿った咳(湿性咳嗽)に移行します。

特に2~3歳までの乳幼児では、もともと細い気管支が炎症によってさらに狭くなり、うまく痰を喀出できないため重症化しやすい病気です。

重症化すると「ゼイゼイ」という喘鳴が見られたり、肺炎に移行することもあるため注意が必要です。

治療としては抗生物質の投与や、痰を出しやすくする「去痰薬」や呼吸を楽にする「気管支拡張薬」などが用いられます。

軽症の場合は、風邪の時と同様に安静、保温、部屋の保湿、水分補給をしていれば1週間程度で治ることが多いです。

2-2.肺炎

肺炎は、肺に細菌やウイルスが感染することで咳や発熱、呼吸困難などの症状を起こす病気です。

肺炎にかかると、肺胞内で上手く空気の交換ができない「肺胞低換気」という状態になります。

酸素がうまく取り込めないことで、努力性呼吸(全身を使って大きく呼吸すること)や不機嫌、チアノーゼといった症状が見られることもあります。

特に乳幼児の肺炎は重症化しやすい為、熱が高くなくても顔色が悪く呼吸が苦しそうな時や、短い間に何度も激しく咳をしてぐったりしている時はすぐに病院を受診してください。

2-3.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ肺炎は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」という病原体に感染することで引き起こされる病気です。

症状としては、痰がからまない乾いた咳、発熱、倦怠感、喉の痛み、頭痛などが多く、初期症状は風邪に似ています。

しかしマイコプラズマ肺炎の咳は解熱後も3~4週間ほど続き、特に夜間や早朝に悪化しやすいです。

また、人によっては耳の痛み、吐き気、下痢、湿疹、喘鳴(喘息のようなヒューヒュー、ゼイゼイという呼吸音)などの症状が見られる場合もあります。

自然治癒傾向のある病気ですが、胸膜炎、脳炎、溶血性貧血、ギランバレー症候群などの合併症を起こすこともあるため、早めに治療することが大切です。

【参考情報】国立感染症研究所『マイコプラズマ肺炎とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/503-mycoplasma-pneumoniae.html

2-4.小児喘息

喘息は気管支が慢性的に炎症を起こしている状態で、風邪、運動、天候の変化などが誘因となって発作を引き起こす病気です。

発作が起こると咳や喘鳴、呼吸困難などの症状が起こります。

呼吸困難は命に関わることもあり、長期的な治療や自己管理で発作をコントロールすることが重要です。

治療を続けるのは大変かもしれませんが、子どものうちに適切な治療を開始することで、成長とともに良くなっていく傾向にあります。

【参考情報】国立成育医療研究センター『ぜん息』
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/asthma.html

2-5.クループ症候群

クループ症候群の初期症状は咳、鼻水、くしゃみ、発熱など風邪と似ているため、風邪だと思ってしまうこともあります。

風邪と大きく違うのは特徴的な咳で、犬が吠えるような咳やオットセイが鳴くような咳です。

咳がいつもと違うと感じたときには動画に撮って受診すると、診断の大きな手掛かりとなります。

生後6か月から3歳頃までによく見られ、特に夜間に症状が重くなる傾向にあります。

感染によって喉から気管にかけて浮腫みや腫れが起こるため、声がしゃがれて喋るのがつらい、よだれが飲み込めないなどの症状が起こることもあります。

2-6.副鼻腔炎

副鼻腔炎には「急性副鼻腔炎」と「慢性副鼻腔炎」の2種類があります。

急性副鼻腔炎は風邪を引いた際に炎症が副鼻腔内の粘膜に広がることで起こり、頬の腫れや痛み、膿性鼻汁(黄色い鼻水)、発熱などの症状が見られます。

慢性副鼻腔炎は頬~眉のあたり(上顎洞や篩骨洞)に膿が溜まり、鼻づまりや膿性鼻汁、後鼻漏などの症状が繰り返し起こります。

急性副鼻腔炎の場合、適切な治療を行えば1~2週間で改善しますが、治療せずに放置すると慢性副鼻腔炎に移行することもあります。

3.受診の目安・家での対処法


小さいお子さんの場合、症状を上手く伝えることが難しく病院を受診したほうが良いのか迷うことも多いのではないでしょうか。

病院を受診するか迷った時に判断するポイントと、自宅でできる咳の対処法についてご紹介します。

3-1.病院受診の目安

次のような場合は速やかに病院を受診しましょう。

・呼吸が苦しそうで、眠れない
・ぐったりしている
・食事や水分を摂ることができない
・2週間以上咳が続く

咳の原因が風邪の場合、風邪の原因ウイルスに効く薬はありません。

そのため、頭痛薬や鎮咳薬、去痰薬など症状に応じた処方をすることになります。

咳をしていても元気で食欲もあれば問題なく、安静、食事、睡眠をしっかり取って症状に応じた薬を飲むことで1~2週間以内に治まることが多いです。

ただし、市販の咳止め薬は、喘息の症状をかえってひどくする恐れがある為、喘息が疑われる時は使うのを控えましょう。

また、咳は呼吸に必要な筋肉を総動員して成り立つ運動のため、咳が長引くと体力が消耗してしまいます。

体力の消耗だけでなく、風邪以外の原因や、肺炎などの合併症が隠れていることもありますので、咳が2週間以上続く場合は病院を受診してください。

3-2.家でできることは?

咳が出てつらそうな場合、病院を受診することももちろん大切ですが、家でできる対処法としては次のようなものがあります。

・部屋を加湿する
・上体を起こす
・タバコの煙やハウスダストなど、咳が悪化する原因を取り除く

特に夜間や明け方は咳が悪化しやすいため、温かい水分を飲ませたり、クッションなどで上体を起こして呼吸を楽にしてあげましょう。

4.おわりに

子どもは風邪などの感染症にかかりやすく、咳が続いて眠れないなどつらい症状に悩まされることもあると思います。

咳が出ていても食欲や機嫌が普段通りの場合は、安静・保温・水分補給をしっかりすることで2~3日で治ることも多いです。

しかし、ぐったり苦しそうにしていたり、2週間以上咳が続いていたりする場合は、風邪以外の病気や合併症の可能性もありますので早めに病院を受診してください。

記事のカテゴリー

診療時間
アクセス