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嚢胞性肺疾患の特徴や症状、検査、治療について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

嚢胞性肺疾患は、肺に小さな袋状の嚢胞が形成される疾患です。

嚢胞は、空気や液体を含むことがあり、肺の正常な機能を妨げる可能性があります。

この記事では、嚢胞性肺疾患の特徴や症状、どのように診断されるか、治療方法について詳しくご説明いたします。

1.嚢胞性肺疾患


嚢胞性肺疾患とは、肺の組織内に異常な嚢胞が形成される疾患の総称です。

嚢胞は、単独でできたり多発したりすることがあり、さまざまな原因や病態によって生じます。

遺伝的要因が関わるもの、喫煙や環境因子によるもの、感染症後の後遺症として生じるものなどが主な原因です。

肺の中に形成される嚢胞は、大きさや形状によって異なる特徴があります。

「ブラ」と呼ばれる嚢胞は、1㎝以上の大きさを持ち、壁が1㎜以下の薄さであることが特徴です。ブラは肺の構造上、とくに注意が必要で、自然気胸の原因となることがあります。

自然気胸とは、とくに明らかな外傷や前触れなく肺が破れ、空気が胸腔内に漏れ出してしまう状態を言います。

ブラが巨大化すると、周囲の正常な肺組織を圧迫し、呼吸困難になる可能性があるので、早めの診察と治療が必要です。

【参考文献】❝Cystic lung disease❞ by Radiopaedia
https://radiopaedia.org/articles/cystic-lung-disease-2

1-1.発生異常

嚢胞性肺疾患は、胎児期に肺の発生過程に何らかの異常が生じることで発症することがあります。

肺分画症、先天性嚢胞状腺腫様奇形、気管支原性嚢胞などがその代表例です。

胎児の肺組織の形成過程において、気管支の閉鎖や狭窄が生じると、正常な気道が形成されず、空気の流れが適切に行われなくなります。

この結果、肺内には本来存在しないはずの嚢胞が形成されます。
さらに、肺胞の発生過程にも異常が発生することがあります。

肺胞は、肺内でガス交換を行うところで、発育が障害されると、正常な肺胞構造が形成されません。
また、肺の血管発生に異常が生じると、嚢胞部に異常な血管が流入することもあります。
肺の血管系の異常により肺組織の正常な発育や機能が損なわれることもあります。

1-2.非感染性肺病変

嚢胞性肺疾患には自己免疫が原因で肺に嚢胞が形成されることがあります。

シェーグレン症候群などに伴う肺病変がこれに含まれます。

リンパ脈管筋腫症(LAM)は、主に女性に多く、肺内に多数の嚢胞が形成されるのが特徴です。

LAMの正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、女性ホルモンが病態の発展に何らかの原因があると考えられています。またTSC遺伝子の異常を示す例が多いともされています。

肺ランゲルハンス細胞組織球症(PLCH)の発症メカニズムははっきりしていませんが、喫煙がリスク因子とされ嚢胞の形成がみられます。

1-3.感染性肺病変

嚢胞性肺疾患には、感染性の原因によって引き起こされるものもあります。

例えば、寄生虫などの感染が原因です。
これらの感染は、肺組織に病変を引き起こし、最終的には嚢胞を形成することがあります。

肺寄生虫症では、とくに肺吸虫やエキノコックス嚢虫などの寄生虫が原因となります。
肺組織内に侵入した寄生虫は、肺に嚢胞を形成します。
寄生虫による嚢胞形成は複雑で高度な治療法が必要です。

感染性の嚢胞性肺疾患に対しては、原因となる病原体に応じた適切な抗菌薬治療が重要です。

嚢胞が大きくなったり、合併症を起こしたりする場合には外科的治療が必要になることもあります。

1-4.遺伝性肺病変

マルファン症候群やバート-ホッグ-デュベ症候群(Birt-Hogg-Dubé syndrome:BHD 症候群)といった疾患では、遺伝子的な要因が明らかになっており、肺に嚢胞を形成することがあります。

結節性硬化症はTSC遺伝子の異常が発症に関わっているとされており、一部の人にリンパ脈管筋腫症(LAM)を伴うことがあります。

1-5. 腫瘍性

嚢胞性肺疾患の中には、がんを含む腫瘍性のものもあり、とくに肺癌が進行して転移した結果、嚢胞として現れるケースがあります。

【参照文献】呼吸器系先天異常疾患の診療体制構築とデータベースおよび診療ガイドラインライン に基づいた医療水準向上に関する研究;先天性嚢胞性肺疾患『厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業 分担研究報告』
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202111024A-buntan2.pdf

【参照文献】 リンパ脈管筋腫症(LAM)診療の手引き2022
https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/LAM_GL%202022.pdf

2.症状


嚢胞性肺疾患は初期段階では無症状であることが多く、偶然に胸部X線検査などで発見される場合があります。

肺に嚢胞が形成されますが、嚢胞自体が小さいうちは患者さんは症状を感じないことが一般的なためです。
しかし、嚢胞が成長し大きくなると、周囲の臓器を圧迫し始め、さまざまな症状が現れます。

息苦しさや呼吸時のゼイゼイする音、胸痛、嚥下困難などが代表的な症状です。

これらの症状は嚢胞による物理的な圧迫のためであり、肺の機能が制限されることで起こります。
さらに、嚢胞に細菌感染が起こると、発熱、咳、膿性痰などの感染症状が現れます。

感染は嚢胞内部で発生し、全身状態に影響を及ぼす可能性があります。
最も深刻な状況の一つは、嚢胞が破裂し気胸を起こすことです。

胸腔内に空気が漏れ込み、肺が部分的にまたは完全に虚脱する状態では、急激な呼吸困難を引き起こすおそれがあります。

3.検査


嚢胞性肺疾患の検査には、さまざまな画像診断法が用いられます。

初期の診断には胸部X線検査が有効です。

胸部X線検査では、大きな嚢胞が辺縁明瞭な円形の陰影として描出されることがあります。
また、嚢胞と気管支の間に通り道がある場合、嚢胞内に特殊な陰影が観察されることもあります。

より詳細な評価には、胸部CT検査がおこなわれます。
胸部CTは、小さな嚢胞の検出に非常に有効で、嚢胞の正確な位置、大きさ、数、隣接する臓器との関係などを詳しく確認できます。

さらに、嚢胞の性状(壁の厚さ、内部構造など)を把握することができ、鑑別診断に有効です。

これらの画像診断法に加えて、気管支鏡検査や病理組織検査がおこなわれることもあります。

4.治療


嚢胞性肺疾患の治療は嚢胞の状態や症状によって異なります。

【経過観察】
無症状で小さい嚢胞が見つかった場合は、一般的に経過観察です。定期的な診察や画像診断を通じて変化をみましょう。

【抗生剤の投与】
嚢胞が気道を介して感染症を引き起こすことがあります。この場合は抗生剤が投与が必要になることがあります。

【胸腔ドレナージ】
嚢胞性肺疾患は気胸を引き起こすことがあります。気胸とは、肺と胸壁の間に空気が漏れて溜まる状態で、これにより肺が萎縮します。
気胸に対しては溜まった空気を体外に排出する胸腔ドレナージが行われます。

【外科的手術】
嚢胞が巨大化し、正常な肺組織を圧迫することで呼吸機能に重篤な障害を引き起こす場合、外科的切除が検討されます。
とくに、巨大気種性肺嚢胞や症状が顕著な先天性嚢胞性肺疾患に対しては、外科的切除が検討されます。
感染が改善しない場合や、再発性の気胸の場合も外科手術が必要になることがあります。

5.おわりに

嚢胞性肺疾患は、さまざまな原因で肺内に嚢胞が形成される疾患です。

嚢胞は、肺の機能を阻害し、呼吸困難やがんなどの深刻な健康問題につながる可能性があります。
嚢胞が引き起こす症状はさまざまで、初期には無症状の場合もあるため、定期的に健康診断を受けることが重要です。

呼吸に関連する症状や胸部に不快感を感じた場合には、速やかに呼吸器内科の受診を検討しましょう。

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