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無気肺の種類や症状、検査、治療について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

無気肺とは、肺の一部または全体に空気が入らなくなった状態です。

痰や異物が原因となり、気管支や肺を閉塞・狭窄させ、肺が押しつぶされたようになります。

無気肺自体に症状はありませんが、空気が入らなくなった部分が広範囲なら、息切れや息苦しさを感じます。

そのまま無気肺を放っておくと、肺はもとに戻らず、深刻な状態を引き起こすでしょう。

今回の記事では、無気肺の種類や症状、検査、治療について詳しく解説します。

気になる症状があるかたは、ぜひ参考にしてください。

1.無気肺の種類


無気肺の種類は、原因や状態によって、以下のような種類にわけられています。

・閉塞性無気肺
・圧排性無気肺
・癒着性無気肺
・瘢痕性無気肺
・荷重部無気肺
・円形無気肺
・板状無気肺
・中葉舌区症候群
・斑状無気肺

ここでは、無気肺のそれぞれの種類や特徴を解説します。

【参考文献】❝Atelectasis❞ by mayo clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/atelectasis/symptoms-causes/syc-20369684

1-1.閉塞性無気肺

閉塞性無気肺は、何らかの要因によって気管支がふさがったり狭窄したりしたために、肺に空気が入らなくなった状態です。

以下のような要因が考えられます。

・癌などの腫瘍によるもの
・痰がうまく出せないことによるもの
・入れ歯や魚の骨などの異物の誤飲によるもの

閉塞性無気肺は、吸収性無気肺とも呼ばれます。

腫瘍が原因の場合、手術で腫瘍を切除したり、放射線療法で腫瘍を小さくする治療をしたりします。

痰や異物による閉塞の場合は、閉塞を起こしている原因物の除去が必要です。

1-2.圧排性無気肺

圧排性無気肺は、肺腫瘍や肺膿瘍(肺に膿が溜まった状態)などの疾患により、末梢肺が圧迫されてつぶされてしまうことが原因で起こる無気肺です。

肺が圧迫されるために、肺の容量が減少し、無気肺が生じるのです。

治療は、圧迫の原因となっているものの除去や治療をおこないます。

胸水や気胸、心肥大などの肺以外の病変による圧迫で起こる無気肺は、受動性無気肺と呼ばれています。

1-3.癒着性無気肺

癒着性無気肺とは、「肺サーファクタント」と呼ばれる肺胞の表面活性物質が減ることで、肺が膨らみにくくなるため生じる無気肺です。

急性呼吸促迫症候群(ARDS)や肺水腫(肺に水が溜まって呼吸が苦しくなる状態)、外傷後肺挫傷(胸部の外傷によって肺の組織が損傷し、出血や腫れが起こる状態)などが原因になります。

閉塞とは異なるため、空気の取り込みは可能です。

粘着性無気肺とも呼ばれます。

1-4.瘢痕性無気肺

瘢痕性無気肺とは、疾患により肺が慢性的な炎症を起こし、線維化して硬くなった状態となり、肺が膨らむことができなくなった無気肺です。

原因は、肺線維症(肺が固くなり、呼吸が苦しくなる病気)や間質性肺炎(肺の間質を中心に炎症を来す疾患の総称)、過敏性肺炎(肺のアレルギー性炎症)、サルコイドーシス(様々な臓器に肉芽腫という固まりができる病気)、じん肺(粉塵を吸い込むことで肺が傷つき、呼吸困難になる病気)などが原因となります。

1-5.荷重部無気肺

荷重部無気肺とは、肺の一部に圧力や負荷がかかり、肺の組織が圧迫され空気が入りにくくなった状態です。

長期間の寝たきりの方が起こしやすい無気肺といえるでしょう。

おなじ体位で長時間の手術を受けた後にも生じる場合があり、その場合は「術後無気肺」と呼ばれることもあります。

術後無気肺の場合、原因は同一体位だけではありません。

これまでの喫煙歴や麻酔による呼吸抑制の影響も関係しています。

荷重部無気肺が背部の肺にできた場合、腹臥位(うつ伏せ)での呼吸管理をおこなうことで改善する可能性があります。

1-6.円形無気肺

円形無気肺は、肺の伸展が悪くなった場合に起こる無気肺です。

胸膜とは薄く弾力がある組織で、肺全体を包み込み、膜の間には少量の胸水が入っています。

胸膜は、肺を守るだけでなく、呼吸をする際の潤滑剤の役割を持っています。

炎症などにより、胸水の貯留や胸膜の肥厚が生じ、胸膜の伸展が悪くなると、呼吸をする際に肺が膨らみにくくなります。

胸部CTなどで円形に映るのが特徴で、腫瘍との鑑別が重要です。

胸膜の炎症や腫瘍の原因として、石綿や鉱物の吸入が大きな原因といわれています。

【参考情報】『長期間持続した気胸に伴った円形無気肺の1例』J-Stage
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacsurg/24/1/24_1_031/_pdf/-char/ja

1-7.板状無気肺

板状無気肺は、末梢の細い気管支の閉塞によって、小さな領域の無気肺が生じた状態です。

胸部レントゲン上で、約2~3㎝の長さ,1~3㎜の厚さで線状にみられるのが特徴です。

水平方向に走るものや垂直方向に走るものもあります。

腹部の腫瘍によって、横隔膜の動きが制限され、肺が十分に膨らまないために生じます。

【参考情報】『無気肺』日本救急医学会
https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/1109.html

1-8.中葉舌区症候群

中葉舌区症候群とは、その部分に無気肺や慢性炎症をきたして生じた一連の症状を指します。

肺の気管支は、右は中葉、左は舌区と分けて呼ばれています。

中葉舌区症候群は、右の中葉と左の舌区、両方に同様の病態が生じたものです。

主症状は、頑固で多量な痰と血痰です。

原因は、気管支拡張症や結核、非結核性リンパ節腫脹(結核菌以外の様々な原因でリンパ節が腫れる病気の総称)、気道内異物などがあります。

治療は、原因となっている疾患の治療をおこないます。

去痰薬や気管支拡張薬での対症療法をおこない、喫煙者は禁煙もおこないましょう。

原因が感染症なら、その感染症に合わせた治療をおこないます。

喀血や感染症を繰り返す場合、肺の部分的な切除も検討される場合があります。

1-9.斑状無気肺

斑状無気肺とは、肺の中で出血や肺のむくみが生じることで起こる無気肺です。

肺の一部分に生じます。

2.症状


無気肺そのものに症状はありません。

症状がある場合、無気肺を起こした原疾患の症状である可能性が高いです。

無気肺を起こすと、その部分での空気の取り込みが難しくなります。

そのため、広範囲で無気肺を起こすと低酸素血症や肺炎を起こすきっかけになります。

低酸素血症が起これば、呼吸困難や呼吸不全をきたし、肺炎が起これば咳や発熱、呼吸困難などの症状があらわれるでしょう。

急激に広がった無気肺では、呼吸困難や呼吸不全といった、深刻な症状を起こす場合があり、注意が必要です。

無気肺が広範囲に広がっている場合、呼吸音の減少や打診での異常音、胸の動きの制限などが確認できます。

3.検査


無気肺を疑う場合おこなう主な検査は以下の3つです。

胸部レントゲン検査
胸部CT検査
気管支鏡検査

<レントゲンやCT>
無気肺を起こした肺は、レントゲンやCTでくさび状(楔状)の陰影が写ります。

無気肺の位置や形を調べるために有用です。

<気管支鏡検査>
肺に気管支ファイバーとよばれるカメラを挿入して中の状態を確認する検査です。

気管支鏡の太さは約3㎜から6㎜くらいの細くて柔らかい管で、鼻または口から挿入して気管支や肺の中の映像を見ることができます。

検査の前に、霧状の麻酔を吸入したりスプレー状の局所麻酔を使ったりすることで、痛みや不快感を軽減する処置をおこないます。

検査中、呼吸はできますがしゃべることはできません。

病変部分の細胞をつまんだりこすったりして採取し、細胞の検査をおこなう場合があります。

映像で病変部分を観察したり、細胞を採取して調べたりすることで、無気肺を起こしている原因を特定します。

【参考情報】『無気肺』メディカルノート
https://medicalnote.jp/diseases/%E7%84%A1%E6%B0%97%E8%82%BA

4.治療


無気肺の治療は、無気肺を起こしている原因を取り除くことが大切です。

また、症状に合わせた対症療法もおこなわれます。

無気肺の原因を取り除くために、以下のような治療をおこないます。

肺内の異物除去
肺の拡張を促す呼吸理学療法
深呼吸の訓練
気管支拡張薬の吸入
腫瘍や慢性肺疾患の治療

原因を取り除けば、徐々に無気肺も改善してくるでしょう。

喫煙者は、禁煙も重要です。

5.おわりに

無気肺は、原因や状態によってさまざまな種類に分類されています。

なんらかの原因により、気管支が閉塞または狭窄し、肺がつぶれた状態が無気肺です。

原疾患の治療をおこなえば、改善してくる場合がほとんどです。

息切れや胸痛などの気になる症状があれば、早めに呼吸器内科を受診しましょう。

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