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肺炎の基本情報

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

肺炎は令和4年(2022年)の死因順位で第5位となっており、特に65歳以上や持病のある方は体の機能や抵抗力の低下により、重症化しやすい疾患です。

主に細菌やウイルスなどの感染によって起こり、咳や発熱などの症状が見られます。

予防するためには、肺炎球菌など原因菌のワクチンを接種すること、感染予防のための手洗いやうがい、喫煙習慣がある方は禁煙するなど生活習慣の見直しが重要になります。

【参考情報】厚生労働省 令和4年 人口動態統計
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf

1.肺炎とは


肺炎は、炎症が起こる場所によって2種類に分類されます。

肺炎のうち炎症が肺胞腔内に起こっているものを「肺胞性肺炎」、肺胞壁(間質)に起こっているものを「間質性肺炎」と呼びます。

病原菌の種類により、肺胞性肺炎と間質性肺炎のどちらを起こしやすいかが異なります。

肺炎の多くは肺胞性肺炎ですが、新型コロナウイルス感染症による肺炎は間質性肺炎が多いと言われています。

間質性肺炎は、肺胞性肺炎に比べて重症化しやすい傾向があります。

【参考文献】❝pneumonia❞ by mayo clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pneumonia/symptoms-causes/syc-20354204#:~:text=Pneumonia%20is%20an%20infection%20that,and%20fungi%2C%20can%20cause%20pneumonia

2.肺炎の原因・種類


肺炎は、その原因によって、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、非定形性肺炎、肺真菌症に分けられます。

2-1.細菌性肺炎

細菌性肺炎の原因には、肺炎球菌、レジオネラ菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌、肺炎桿菌などがあります。

※インフルエンザ菌はインフルエンザウイルスとは別の病原体です。

細菌が原因となって炎症を起こす場合、ほとんどは肺胞性肺炎になります。

肺胞性肺炎は炎症の広がり方によって、「大葉性肺炎」と「気管支肺炎」に分類されます。

大葉性肺炎は炎症が1つの肺葉(肺の区画)全体、もしくはそれ以上に広範囲に広がったものです。

気管支肺炎は炎症が気管支とその周囲の肺胞に広がり、病巣が点在しているのが特徴です。

大葉性肺炎では肺炎球菌が原因になることが多く、肺炎球菌ワクチンを接種することで感染を予防することができます。

また、近年増加傾向にある肺炎として、レジオネラ肺炎があります。

レジオネラ肺炎は、レジオネラ・ニューモフィラが原因となって起こる細菌性肺炎です。

温泉施設や家庭の循環式浴槽などのエアロゾル(細かい霧)を吸い込むことで感染する可能性があり、浴槽内にぬめり(バイオフィルム)ができないように定期的に掃除をすることで感染を予防することができます。

肺炎の感染経路による分類としては「市中肺炎」と「院内肺炎」があります。

肺炎球菌やインフルエンザ菌が原因で起こる場合、病院外で感染して発症する市中肺炎が流行することもあります。

反対に病院内で流行し、入院48時間以降に新たに発症した肺炎を院内肺炎とも呼び、緑膿菌や肺炎桿菌(クレブシエラ ニューモニエ)が原因で起こる事が多いです。

【参考情報】「レジオネラ症」厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_00393.html

2-2.ウイルス性肺炎

ウイルス性肺炎は、インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、麻疹ウイルスなどのウイルスによって起こる肺炎です。

ワクチンを接種して原因となるウイルスの感染を予防することで、肺炎のリスクを下げることができます。

2-3.非定型肺炎

非定型肺炎は、マイコプラズマ、クラミジアなどによって起こる肺炎です。

マイコプラズマ肺炎はマイコプラズマ・ニューモニエが原因となって起こります。

子供に多く見られ、飛沫感染や接触感染で感染します。

初期症状は発熱や痰を伴わない空咳で、風邪との判別が難しいのが特徴です。

最初は軽度でも、咳は時間の経過とともに強くなり解熱後1か月程度続くこともあります。

軽症で済むこともありますが、重症化するとギランバレー症候群などの合併症を起こすことがあります。

治療としては主にマクロライド系の抗菌薬を使用しますが、近年は薬剤に耐性を持つ病原体も現れたためニューキノロン系、テトラサイクリン系の抗菌薬を使用することもあります。

【参考情報】国立感染症研究所『マイコプラズマ肺炎とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/503-mycoplasma-pneumoniae.html

2-4.肺真菌症

肺真菌症は、アスペルギルス、クリプトコッカス・ネオフォルマンスなどの真菌(カビ)やカンジダ・アルビカンスのような皮膚や口腔の常在菌によって起こる肺炎で、いずれも日和見感染症の原因となるものです。

日和見感染症とは、健康な人には害のないような弱い細菌や真菌、ウイルスなどにより感染し、症状がでることです。

そのため、健康な人がかかることは少ないのですが、肺に持病がある方や免疫抑制剤を使用している方はかかることがあります。

3.誤嚥性肺炎


嚥下機能が低下した高齢者に起こりやすい肺炎として、誤嚥性肺炎があります。

誤嚥性肺炎は高齢者以外でも、脳卒中を起こした人や鎮静薬の使用などの理由で意識レベルが低下し、嚥下困難がある人に起こりやすいです。

食べ物や唾液を誤嚥し、口腔内の常在菌(緑色レンサ球菌や嫌気性細菌)が気道に入ってしまうと、肺炎を起こすことがあります。

誤嚥性肺炎では歯磨きなどで口腔内を清潔に保つことが重要になります。

【参考情報】系統看護学講座 病理学/医学書院
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/86298

4.肺炎の検査・治療


症状や状態から肺炎が疑われると、診断と原因の推定のために画像検査や血液検査を行います。

治療としては、肺炎の原因や症状に合わせた薬を使用することが基本になります。

4-1.肺炎の検査

発熱や咳などの症状があり、聴診で呼吸音の異常があると肺炎が疑われます。

胸部X線検査(レントゲン)やCT検査などの画像検査で肺胞の浸潤陰影が認められると、肺炎と診断されます。

正常な肺では空気で満たされているので黒く写るのですが、炎症が起こると肺の組織に水が溜まり、白いもやのような影が写るのが浸潤陰影です。

血液検査では白血球数の増加やCRP(C反応性蛋白)上昇などの炎症反応が見られます。

また、重症度の判定にはA-DROPという5つの指標(年齢、脱水、呼吸、見当識、血圧)が用いられます。

4-2. 肺炎の治療

肺炎の治療としては、原因菌を特定し、原因となる菌やウイルスに有効な治療薬を投与します。

症状やレントゲンの浸潤陰影の特徴から最も疑われる原因菌を推定し、治療薬を選択する「エンピリック療法」が行われることが多いです。

また、原因菌を特定するために喀痰の培養検査が行われる場合もあります。

しかし喀痰検査には結果が出るまで3~4日かかるため、確定診断を待たずに症状や経過から推定される原因菌に対して抗菌薬を投与することもあります。

その他、症状に応じて解熱薬、去痰薬、鎮咳薬などの投与や保温、保湿、栄養補給などの対処療法を行います。

重症の場合は入院が必要になったり、酸素吸入や人工呼吸を行うこともあります。

5.肺炎予防には「歯磨き」が効果あり


肺炎予防のためには、感染予防の他に「歯磨き」も効果的です。

歯磨きを適切に行うことで肺炎の原因となる細菌の繁殖を防ぐことができ、万が一誤嚥してしまっても誤嚥性肺炎を起こすリスクを下げることができます。

また、義歯(入れ歯)を使用している場合は義歯にも細菌が付着しますので、同様に洗浄し清潔に保ちましょう。

起床後や食後の歯磨き、定期的な歯科検診などで口腔内を清潔に保つことが大切です。

6.おわりに

肺炎は咳や発熱など風邪とよく似た症状ですが、特に高齢者や免疫が低下している方は重症化しやすく、命の危険もある病気です。

ワクチン接種、手洗いうがい、生活習慣の見直しなどの基本的な感染予防や、歯磨きで口腔内の細菌を減らすことが予防に繋がります。

高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチンの定期接種もありますので、対象の年齢の方は接種をすることをおすすめします。

肺炎を疑う症状がある場合は、早めに呼吸器内科を受診するようにしましょう。

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