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つらい咳と嘔吐を引き起こす病気とは?

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

激しい咳が原因で吐きそうになったことや嘔吐してしまった経験はあるでしょうか。

症状が長く続けば日常生活に支障をきたすこともあり、とてもつらいものです。
咳や嘔吐があるときには早めに治療が必要な病気が潜んでいることもあります。

症状が現れた時に適切な対応ができるよう、この記事ではつらい咳と嘔吐を引き起こす病気について説明していきます。

1.咳が出て吐いてしまうのはなぜ


激しい咳で吐いてしまう時には呼吸器疾患だけではなく、消化器疾患が原因となることもあります。

1-1.激しい咳が原因

激しい咳が続くことでお腹に力が入り、食べたものが逆流し吐いてしまうことがあります。

これは咳き込み嘔吐と言われ、激しい咳の症状を引き起こす喘息や咳喘息、新型コロナウイルス感染症などの疾患が原因だと考えられます。

1-2.消化器疾患が原因

咳が出ていると呼吸器疾患を疑いますが、胃や食道などの消化器疾患が原因で、咳や吐き気が現れることがあります。

胃食道逆流症(逆流性食道炎)は胃液が逆流することでのどを刺激し咳や吐き気を起こすことが考えられます。

1-3.消化器官が未熟

乳幼児は消化器管が未熟なため、逆流を起こしやすく、飲んだものや食べたものを吐いてしまうことが多くあります。

発熱や下痢などの症状がなく、嘔吐があってもぐったりした様子がなければ問題ないことがほとんどです。

【参考文献】❝ Cough❞ by Boston Children’s Hospital
https://www.childrenshospital.org/conditions/cough#:~:text=Cough%20with%20vomiting%3A,her%20stomach%20and%20causes%20nausea.

2.咳と嘔吐、両方の症状が出る呼吸器疾患


咳と嘔吐の症状が出る場合、呼吸器疾患では以下のような病気が考えられます。

2-1.喘息

喘息は気道に炎症が起きている状態でダニやハウスダストなど、さまざまな刺激で発作を起こす病気です。

発作が起こるとゼーゼー、ヒューヒューと呼吸は苦しくなり、激しい咳が出ることで嘔吐することもあります。

治療は気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬を使用し、発作時には気管支を拡げる即効性のある吸入薬で症状を早めに抑えるようにします。

2-2.咳喘息

咳喘息は喘息のようなゼーゼー、ヒューヒューという息苦しさは見られず、3週間以上続く乾いた咳が特徴です。

原因は不明確ですがアレルギー体質で起こりやすいと考えられています。
冷たい空気や会話など少しの刺激でも咳が出やすいため、嘔吐してしまうこともあります。

治療は喘息と同じく、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬と気管支を拡げ呼吸を楽にする吸入薬を使用します。

【参考情報】『呼吸器Q&A』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q03.html

2-3.新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症は病原体である新型コロナウイルスに感染することで発症する病気で、咳、発熱、倦怠感、味覚異常など、さまざまな症状が報告されています。

感染症が消失した後に症状が残ることもあり、この後遺症でも激しい咳が続き嘔吐してしまうことがあります。

治療は病状に合わせ、抗炎症薬、抗ウイルス薬、中和抗体薬の使用や症状を抑える薬の内服です。

【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の治療薬について』神奈川県健康医療局
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/medicine.html

2-4.RSウイルス感染症

RSウイルスは年齢問わず感染するウイルスですが、2歳までにほぼ100%が初感染するとされています。

多くは軽い風邪の症状ですが、悪化すると細気管支炎や肺炎を起こし、激しい咳が続き、嘔吐してしまうこともある病気です。

RSウイルスに効果のある抗生物質はないため、症状を抑えるお薬を内服します。

【参考情報】『RSウイルス感染症とは』国立感染症研究所
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/317-rs-intro.html

2-5.その他

マイコプラズマ肺炎
気管支炎
慢性閉塞性肺疾患(COPD)

【参考情報】『呼吸器の病気』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html

3.咳と嘔吐、両方の症状が出る消化器疾患


咳と嘔吐の症状が出る場合、消化器疾患では以下のような病気が考えられます。

3-1.胃食道逆流症(逆流性食道炎)

胃食道逆流症(逆流性食道炎)は食道と胃のつなぎ目の逆流防止機能が下がることや胃酸が多く出ることで起こる病気です。

胃酸が逆流することで胸やけや胃もたれ、ゲップの症状が現れ、胃酸が喉を刺激することで咳と嘔吐を起こすこともあります。

治療は胃酸の分泌を抑える薬の内服や生活習慣の改善です。

【参考情報】『健康情報誌 消化器のひろば No15』日本消化器病学会
https://www.jsge.or.jp/citizens/hiroba/backnumbers/hiroba15/hiroba15_03

4.咳込んで吐いてしまった場合の対処法


吐いてしまう時の対処法を知っておきましょう。

4-1.顔を横に向けて寝る

顔を天井に向けて寝た状態で吐いてしまうと、吐いた物がのどに詰まり、窒息を起こす危険性があります。

寝る時は顔を横に向け、吐いた物が外に出るようにし、窒息を防ぐようにすることが大切です。

4-2.吐いた物を処理する

吐いたものにはウイルスを大量に含むことがありますので、適切な処理を行いましょう。

処理をする人以外は近づかないようにし、使い捨てのマスク・手袋・エプロンを着用します。

吐いたものを、ペーパータオルなどで静かに拭き取り、袋に入れ、0.1%次亜塩素酸ナトリウムを染み込む程度に入れ、消毒をした状態でしっかり袋の口を締めてください。

汚染した床と周囲は0.1%次亜塩素酸ナトリウムを染み込ませた布やペーパータオルで覆い、しっかり消毒を行い拭いていきます。

処理後は十分に手を洗うかシャワーを浴びてきれいにしてください。

【参考情報】『ノロウイルス対応標準マニュアル(全文)』東京都保健医療局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/noro/files/nmd.pdf

4-3.飲み物を摂る

吐いてしまうことで体の水分も失われています。

吐き気が治まったら、脱水症状を予防するために水分を意識して摂るようにしましょう。

水分補給は嘔吐により失われた水分や電解質を補給できる、経口補水液がおすすめです。
乳幼児の場合、経口補水液を嫌がる時は少しずつ、こまめに飲めるものから水分を摂るようにしましょう。

牛乳、乳飲料、炭酸飲料、柑橘類(オレンジジュースなど)は胃腸への負担や酸味により、吐き気が出やすくなるため、避けるようにしましょう。

水分を摂ることで気道が保湿され、咳をやわらげる効果もあるので無理せず少量ずつ飲むようにしてください。

5.病院を受診する目安


咳と嘔吐があるときに受診が必要な症状と、受診先は以下のようになります。

5-1.激しい咳が止まらない

嘔吐を引き起こすような激しい咳はウイルスや細菌による呼吸器感染症の疑いがあります。

咳の原因を知り、早めに治療が行えるよう呼吸器内科を受診しましょう。

5-2.咳が2週間以上続いている

2週間以上続く咳の原因として、喘息や咳喘息が疑われます。

治療が遅れることで症状が悪化し、日常生活に支障をきたす可能性もあるため、放置せず、呼吸器内科を受診しましょう。

5-3.胸やけ、胃もたれ、ゲップがある

胸やけ、胃もたれ、ゲップは胃液が逆流することで現れる症状で、胃食道逆流症の疑いがあります。

逆流した胃液の刺激で咳と嘔吐が出ることもあり、このような症状がある時は消化器内科、内科を受診しましょう。

5-4.下痢がある

咳と嘔吐の症状と一緒に下痢があるときはウイルスや細菌が原因となる感染性胃腸炎の疑いがあります。

症状が続くことで脱水症状も起こしやすいため、消化器内科や内科、小児科を受診しましょう。

6.おわりに

咳と嘔吐がある場合、呼吸器疾患あるいは消化器疾患が疑われます。

早めに治療が必要な疾患や日常生活に支障をきたす場合もあるため、症状がある時は受診するようにしましょう。

受診先に迷った時は呼吸器内科、内科、消化器内科、小児科のどれかを受診してください。

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