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咳を引き起こすウイルスと感染を広げないために必要なこと

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

風邪をひき、咳が出た経験は多くの人にあると思います。

鼻やのどにウイルスが感染することで風邪をひくことがほとんどですが、ウイルスは種類が多く、場合によっては症状が重くなることもあり、できるだけ感染を防いでいきたいものです。

今回は咳を引き起こすウイルスと感染を広げないための予防法について説明します。
風邪をひきやすい、咳が長く続きやすいと感じる場合はぜひ読んでみてください。

【参考文献】❝Viral Infection❞ by cleveland clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/24473-viral-infection

1.ウイルスとは何か


ウイルスの感染経路や細菌との違いは以下の通りです。

1-1.ウイルスとは

ウイルスは自分で細胞を持たず、生きていくために、他の生物の細胞に入り込み増殖する病原体です。

風邪はウイルスが体に入ることで、鼻の中からのどまでの上気道と言われる部分に炎症を起こす病気で、原因の80~90%がウイルスといわれています。

コロナウイルスだけではなく、RSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルスなどが風邪の原因となります。

1-2.ウイルスはどのように感染するか

ウイルスをもらったり、人にうつしたりしないためには、3つの感染経路を把握しておくことが大切です。

「飛沫感染」は感染者の咳やくしゃみ、会話中に飛んだしぶきから感染することです。通常2メートル以内で感染するため、マスクの着用や咳エチケットを徹底しましょう。

「接触感染」はウイルスが付着した部分に触れた手で口や鼻、目などを触ることで感染します。感染した人が触れた部分は消毒をし、こまめな手洗いをしましょう。

「空気感染」は咳やくしゃみ、会話で飛んだしぶきが乾燥して、空気中を漂う状態であり、空気とともにウイルスを吸い込むことで感染します。広範囲に感染が起こりやすいため、換気をしっかり行うようにしましょう。

1-3.ウイルスと細菌の違い

ウイルスは他の生物の細胞に入らないと増殖できず、細菌は適切な環境と栄養、水があれば自律増殖ができるという部分に違いがあります。

ウイルスには効果の無い抗生物質が細菌では効果があるなど、治療の場面でも違いが出てきます。

風邪や気管支炎、肺炎の原因にはウイルス感染と細菌感染、両方の場合があるため、適切な治療が行われるよう、症状に合わせた検査で正確な原因を知ることが大切です。

2.ウイルスに感染して咳が出る病気


ウイルスが原因の呼吸器感染症は以下の通りです。

2-1. インフルエンザ

冬から春にかけて流行することが多いインフルエンザですが、時には季節外れの流行が起こることもあり、地域の感染状況をしっかり把握するようにしましょう。

インフルエンザウイルスの感染経路は飛沫、接触感染です。潜伏期間は1~3日あり、発症すると38℃以上の高熱、頭痛、関節痛、咳、のどの痛みなどの症状が現れます。

主に対症療法を行いますが、発症後48時間以内では抗インフルエンザ薬が効果的です。

2-2. RSウイルス感染症

RSウイルスは2歳までのほぼ100%の子どもが、1度は感染するウイルスです。初感染では重症になることが多いため、乳児期早期(生後数週間~数か月)の子どもがいる家庭では特に注意が必要です。

感染経路は飛沫、接触感染で潜伏期間は2~8日(多くは4~6日)です。発症すると発熱や鼻水などの症状が続き、多くは軽症ですが、重症化した時にはひどい咳や喘鳴、呼吸困難などの症状が現れます。

RSウイルスに効くワクチンや薬が無いため、治療は症状を緩和する対症療法が中心です。

2-3.新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス感染症の感染経路は飛沫感染、接触感染、エアロゾル感染です。エアロゾル感染は飛沫感染の一種ですが、広範囲に長くウイルスが漂うことで感染を広げやすくします。

潜伏期間は2~7日ほどで、発症すると発熱、頭痛、のどの痛みなどさまざまな症状が現れ、抗ウイルス薬の使用や症状を緩和する対症療法で治療を行います。

後遺症として咳が続くことがあり、長く続く時には咳喘息や喘息の可能性もあるため、再度受診するようにしましょう。

2-4.ヒトメタニューモウイルス感染症

ヒトメタニューモウイルス感染症は3~6月頃に流行し、集団生活の場で多く見られ、10歳までにほぼすべての子どもが発症すると言われています。

感染経路は飛沫、接触感染で、潜伏期間は4~6日です。発症すると咳や鼻水、発熱、息苦しさなどが現れ、乳幼児期や高齢者では重症化する可能性があり注意が必要となります。

ヒトメタニューモウイルスに効く薬が無いため、治療は症状を緩和する対症療法です。

2-5.アデノウイルス感染症

アデノウイルスは感染力が強く、さまざまな型があり、感染する場所により症状が変わります。

飛沫や接触感染、ウイルスを含む便が原因で感染が広がり、潜伏期間は5~7日です。

ウイルスの型と感染場所により変わりますが、発症すると高熱(39~40℃)と微熱(37~38℃前後)が数日間続き、のどの腫れや痛み、咳、頭痛、腹痛、結膜炎などの症状が現れることがあります。

アデノウイルスに効く薬やワクチンは無いため、治療は症状を緩和する対症療法が中心です。

3.ウイルス感染を予防する方法


ウイルス感染を広げないためにできる予防法は以下の通りです。

3-1.手洗い

もっとも効果的な手の洗い方は、石けんでのもみ洗い10秒とすすぎ15秒を2回行う方法です。

洗い残しが多い、手の甲、指の間、親指の付け根を意識して、手首までしっかり洗いましょう。手を洗った後は菌を増やさないために、清潔なタオルでしっかり拭き、乾燥させることも大切です。

【参考情報】『手洗いの時間・回数による効果』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000105095.pdf

3-2.マスク着用

飛沫感染や空気感染の予防にはマスクが効果的です。ウイルスの侵入を防ぐだけではなく、マスクを着けることで、呼気でマスク内の乾燥を防ぎ、ウイルス感染を防ぐことが期待できます。

3-3.部屋の換気

空気感染を防ぐために十分な換気を行いましょう。常時開放が難しい場合は30分に1回以上、数分間、入口と出口となる2か所の窓を全開にしてください。

3-4.咳エチケット

人が集まる場所では3つの正しい咳エチケットを実践し、感染を広げないようにしましょう。
・マスクを着用する
・ティッシュ、ハンカチなどで口や鼻を覆う
・上着の内側や袖(そで)で口や鼻を覆う

【参考情報】『咳エチケット』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html

3-5.予防接種

インフルエンザや新型コロナウイルスは予防接種を受けることで、発症後の重症化を防ぐことが期待できるため、流行前に可能な範囲で受けることをおすすめします。

4.感染したかも?咳の対処法


咳の症状を少しでも楽にできるよう、以下の対症法をお試しください。

4-1.水分を摂る

のどが乾燥すると防御機能が低下するため、吸い込む空気に含まれるほこりや細菌、ウイルスの影響を受け炎症を起こし、痛みや腫れが現れ、咳が出やすくなります。

のどの乾燥を防ぐため、こまめな水分補給でのどを潤し、外出時にはマスクで口内の潤いを保つようにしましょう。

4-2.部屋を加湿する

のどの乾燥により防御機能が低下することを防ぐために、室内の湿度を適度に保つことも効果的です。

ウイルスは乾燥することで空気中を長く漂いやすくなるため、湿度を40~60%に保つようにすることで、感染予防にもなります。

4-3.ハチミツの摂取

ハチミツが子どもの咳の緩和に役立つという研究があります。薬だけでは咳が止まらない時など、ハチミツをお湯に溶かし飲んでみるのもいいでしょう。

ただし、ハチミツにはボツリヌス菌が含まれている可能性があり、1歳未満は乳児ボツリヌス症の危険があるので食べさせてはいけません。

【参考文献】『Honey for acute cough in children』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25536086

5.おわりに

ウイルス感染が原因で咳が出る病気は、新型コロナウイルス感染症だけではありません。

ウイルス感染を広げないために予防法をしっかり実践し、ご自身と周りの人を感染から守っていきましょう。

ウイルスにはさまざまな種類があり、症状もそれぞれです。激しくつらい咳や、持病などがあり心配な場合は、早めに病院を受診してください。

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