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びまん性汎細気管支炎

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

びまん性汎細気管支炎は、細気管支に慢性的な炎症が生じる疾患です。

この疾患は、呼吸器疾患の中でも比較的珍しく、症状や治療法がほかの一般的な呼吸器疾患と異なる特徴があります。

この記事では、びまん性汎細気管支炎の特徴、原因、症状、検査と診断、治療、予後についてご説明します。

【参考文献】❝Diffuse panbronchiolitis❞ by National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17012632/#:~:text=Diffuse%20panbronchiolitis%20(DPB)%20is%20an,bronchiectasis%2C%20respiratory%20failure%20and%20death

1.びまん性汎細気管支炎の疾患解説

びまん性汎細気管支炎は、細気管支に慢性的な炎症が発生する病気です。びまん性汎細気管支炎の「びまん性」とは限局性でなく肺全体広範囲におこるもので、「汎」は細気管支壁内に留まらず周囲にも炎症が及ぶという意味をもちます。

1969年に日本から世界に向けて初めて報告され、現在では世界中で認識されています。ほとんどの患者さんで慢性副鼻腔炎(蓄膿症) を合併し、鼻づまり、色のついた鼻汁、嗅覚低下 などの症状があります。そのほかの症状には、咳や息苦しさがみられます。

症状は徐々に進行し、治療を行わない場合、肺機能のさらなる低下を引き起こす恐れがあるので早めの診断と治療が必要です。

疫学的には、とくに日本や東アジア地域で多く見られる一方で、欧米ではあまり報告されていません。

地域的な差異から、人種や遺伝的要因が病気の発生に関与している可能性が示唆されていますが、具体的な原因はまだ明らかにされておらず、環境因子と遺伝因子の双方が関係していると考えられています。

年齢や性別に関わらず発症する可能性がありますが、主に40代から50代に多く見られます。

1-1. 原因


びまん性汎細気管支炎の原因は完全には解明されていません。

主な原因としては、長期間にわたるバクテリアやウイルスによる感染、遺伝的要因、環境要因(大気汚染や職業上の曝露など)、さらに自己免疫疾患などが挙げられます。

とくに、繰り返し発生する呼吸器感染は、びまん性汎細気管支炎の発症や悪化を引き起こす原因です。

免疫が低下している状態や正常に機能しない場合、細気管支は感染や炎症によって簡単に損傷を受けるとされています。

1-2. 症状


びまん性汎細気管支炎の主な症状には、以下のようなものがあります。

・慢性的な咳
・痰の増加(朝方が顕著にでやすい)
・呼吸困難(とくに運動時に悪化する)
・繰り返し発生する呼吸器感染症
・慢性的な疲労感
・体重減少

これらの症状は、他の呼吸器系疾患と共通しているため、簡単にはびまん性汎細気管支炎と判断できず診断が難しいとされています。

症状の程度は、患者さん一人ひとりによって大きく異なり、疾患の進行に伴って悪化することが一般的です。症状が悪化した場合、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。

1-3. 検査と診断


診断には、患者さんの病歴を詳しく問診することに加え、さまざまな検査が用いられます。検査結果を総合して診断を下し、ほかの呼吸器疾患と区別します。
以下が具体的な検査方法です。

・胸部X線撮影
肺の構造に異常がないかを確認し、炎症の兆候を探します。

・高分解能CT(HRCT)
細気管支や肺の構造をより詳細に観察し、びまん性汎細気管支炎の特徴的な変化を検出します。

・呼吸機能テスト
肺機能の測定を通じて、呼吸に関わるさまざまな要因を評価します。これにより、肺の容量や空気の流れがどの程度影響を受けているかを判断できます。

・痰の培養
呼吸器感染の原因となる菌を特定し、適切な抗生物質の選択に役立てます。

・気管支鏡検査
細かいカメラを使って直接気管支内を観察し、必要に応じて組織の一部を採取します。びまん性汎細気管支炎以外の潜在的な疾患を除外することが可能です。また、炎症の程度を詳細に評価できます。

1-4. 治療


びまん性汎細気管支炎の治療は、主に症状を和らげ、症状の進行を遅らせることに焦点を当てます。病気を完全に治す治療法は今のところ存在しません。

一般的な治療は、長期間(半年〜2年以上服用)にわたる、低用量での抗菌薬投与となります。

抗菌薬はエリスロマイシンやクラリスロマイシンなどのマクロライド系が一般的です。早期発見の方が投薬の効果が高いとされています。

抗菌薬により繰り返し発生する呼吸器感染を予防し、炎症を減らすことが可能で、症状の軽減と肺機能の維持を図ります。肺の損傷を最小限に抑え、患者さんの日常生活の質を上げることが可能です。

抗菌薬に加え、抗炎症による治療が用いられることがあります。

ステロイド薬をはじめとする抗炎症薬は、肺の炎症を抑え、損傷を最小限に留めることで、呼吸機能の低下を遅らせる効果があります。これにより、快適に呼吸ができるようになり、日常活動の範囲が広がります。

生活習慣の見直しも重要な治療のひとつです。喫煙は肺の健康にとって最も有害な習慣の一つといえます。そのため、禁煙することは非常に大切です。
また、バランスの取れた健康的な食生活と適度な運動は健康状態を向上させ、肺機能の状態の改善にも役立ちます。

生活習慣の改善は、症状の進行を遅らせるだけでなく、患者さんの生活の質を大幅に向上させることができるでしょう。

1-5. 予後


びまん性汎細気管支炎の治療において、マクロライド抗生物質の少量長期投与は重要な役割を果たしており、予後を大きく改善するという研究結果が報告されています。
マクロライド抗生物質は、ただ単に細菌感染を抑制するだけでなく、炎症反応にも積極的に働きかける薬剤です。

マクロライドを少量で長期にわたって投与することにより、患者さんの日常生活の質が顕著に向上することがあるとされています。

マクロライド抗生物質は、炎症部分へ好中球が集まるのを抑制することで、炎症を軽減します。また、痰をはじめとする粘液分泌を抑制することで、気道の閉塞を防ぎ、呼吸のしやすさを改善します。

また、生活習慣の改善は治療として重要で、予後に大きく影響します。健康的な生活習慣を取り入れると体力や免疫力を高め、病気の進行を遅らせることが可能になります。
とくに禁煙は治療において極めて重要です。喫煙は症状を悪化させる主な要因の一つといえるでしょう。

【参照文献】日 胸 疾 会 誌 24(10), 1986.『びまん性汎細気管支炎 の予後 に関す る臨床的検討及 び考察』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrs1963/24/10/24_10_1088/_pdf

2.まとめ

びまん性汎細気管支炎は、細気管支に起こる慢性的な炎症が特徴の比較的珍しい呼吸器疾患です。原因や症状がさまざまなため診断が容易ではなく、治療は多岐にわたります。

適切な治療に加え、禁煙や健康的な食生活、適度な運動などの生活習慣の改善は、病気の進行を遅らせ生活の質を向上させる重要な要素です。

気になる症状がある場合、悪化させないためにも早めの呼吸器内科への診察を検討しましょう。患者さん自身が積極的に治療に参加することが、病気のコントロールと生活の質の向上につながります。

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