インフルエンザ感染と喘息患者の重症化リスクと対策
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
毎年冬になると猛威を振るうインフルエンザですが、喘息を持つ方やご高齢の方、妊娠中の方などにとっては特に注意が必要です。
「インフルエンザにかかったら喘息の発作が悪化しないか?」「肺炎など重い合併症にならないためにはどうすれば?」と不安に感じる方も多いでしょう。
この記事では、喘息患者さんが知っておくべき重症化リスクの考え方と予防策、そして万一発症してしまった場合の初期対応や合併症のサインについて、わかりやすくまとめます。
1. 重症化リスクを左右する要因

喘息患者さんは、インフルエンザに感染すると症状が急激に悪化しやすく、重症化のハイリスク群とされています。特に重症化しやすい人には共通の特徴があります。
まず押さえておきたいのは、年齢や喘息の管理状況といった要因です。それぞれ詳しく見てみましょう。
1-1. 高齢者・乳幼児のリスク
高齢の喘息患者さんは特に注意が必要です。
高齢になると肺や免疫の機能が低下し、インフルエンザ感染時に肺炎など重い合併症を起こしやすくなります。
実際、インフルエンザの大流行時には高齢者の肺炎による死亡者数が増加することが知られています。
高齢者では、年齢が上がれば上がるほど、そしてもともと持っている病気が多ければ多いほど重症になりやすく、死亡率も増加するため一層の注意が必要です。
また、小児喘息患者さんも重症化リスクが高いことが知られています。
新型インフルエンザ流行時の全国調査では、喘息の既往がある小児が重症肺炎を起こすケースが相次ぎ、重症肺炎患者の約27~30%を喘息児が占めたとの報告があります。
日本アレルギー学会は、小児喘息は喘息の重症度にかかわらずインフルエンザ重症化のハイリスク群に属し、急速に悪化することがあると指摘しています。
高齢者や小さなお子さんで喘息をお持ちの方が身近にいる場合は、周囲の家族も感染させないよう十分注意しましょう。
◆「子どもの気管支喘息 受診の目安と対応」について詳しく>>
【参考情報】『新型インフルエンザと喘息(改訂版)』日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/important/index.php?content_id=6
1-2. 基礎疾患
喘息などの慢性呼吸器疾患を持つ方は、インフルエンザに感染すると症状が悪化しやすいと報告されています。
インフルエンザウイルスが気道に感染すると、もともと炎症を起こしている気道がさらに悪化し、喘息発作を引き起こしやすくなります。
日頃、喘息がきちんとコントロールできていても、インフルエンザ感染によって喘息の症状が悪化し、インフルエンザそのものも重症化する場合が少なくありません。
こうした基礎疾患を有する方は、インフルエンザに感染すると肺炎などの重い合併症を起こす危険性が高いので、特に警戒しましょう。
【参考情報】『新型インフルエンザ対策(A/H1N1)ぜんそくなどの呼吸器疾患がある人へ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/09-18-01.pdf
1-3. 妊娠中・免疫低下状態・肥満 など
妊婦さんもインフルエンザが重症化しやすいハイリスク群です。
妊娠中は体の免疫機能や肺機能に負担がかかるため、肺炎を併発したり症状が悪化する恐れがあります。
また、ステロイド薬の服用や免疫抑制剤の使用による免疫機能不全の方も、ウイルスへの防御力が落ちているため重症化のリスクがあります。
さらに、肥満もインフルエンザ重症化のリスクになるとの強い危惧が多くの研究で表明されています。
肥満は糖尿病との関連が強いため、肥満と糖尿病のどちらが重症化の要因となっているか、明確には明らかになっていませんが、十分な注意が必要です。
【参考情報】『新型インフルエンザ対策(A/H1N1)妊娠中の人や授乳中の人へ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/ninpu_1217_2.pdf
【参考情報】『新型インフルエンザの発生動向』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/pdf/091225-01.pdf
【参考情報】“Influenza (Seasonal)” by World Health Organization
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/influenza-(seasonal)
2. 予防の優先順位~ワクチン、感染対策、生活習慣~

重症化リスクが高い人ほど、インフルエンザに「かからないこと」そして「かかっても重症化させないこと」が何より重要です。
予防策はいくつもありますが、ここでは優先順位の高いものから順に押さえましょう。
2-1. ワクチン接種の重要性
インフルエンザワクチンは、重症化や合併症の発生を予防する効果が科学的に証明されています。
特に、高齢者ではワクチンを接種しない場合に比べて死亡リスクを1/5に、入院リスクを約1/3~1/2に減少させる効果が期待できるというデータもあります。
また、それ以外の年齢でも、喘息などの基礎疾患がある方は毎年のワクチン接種が強く推奨されています。
接種後、抗体ができるまで約1~2週間かかるため、インフルエンザ流行のピーク前である12月中旬までに接種完了が望ましいです。
なお、喘息の患者さんは同居のご家族もワクチン接種すると安心です。
周囲の人も予防接種を受けることで家庭内感染の連鎖を防ぎ、大切な家族を守ることにつながります。
2-2. 日常的な感染対策(手洗い・マスク 等)
ワクチン以外にも、インフルエンザウイルスを「もらわない・広げない」ための日常対策を徹底しましょう。
インフルエンザは飛沫や接触で非常に感染力が強いため、一人ひとりが注意することが流行抑制につながります。
具体的には以下の点を心がけてください。
・手洗い:外出先から帰宅した時や食事の前後など、こまめに石けんで手を洗いましょう。
・マスク着用:流行期には人混みをなるべく避け、やむを得ず外出する場合はマスクを正しく着用します。特に咳やくしゃみの症状がある時は「咳エチケット」として必須です。咳やくしゃみをする際にティッシュや袖で口鼻を覆い、飛沫を拡散させないようにしましょう。
・うがい・消毒:帰宅時のうがいやアルコール手指消毒も有効です。のどの粘膜についたウイルスを洗い流し、手指からの感染を防ぎます。
これら基本的な予防策はシンプルですが、ウイルスの体内侵入を減らすうえで非常に効果的です。
【参考情報】『インフルエンザかからないために広めないために』岐阜県感染症対策推進課
https://www.pref.gifu.lg.jp/page/490.html
2-3. 生活習慣の見直し
日頃の生活習慣もインフルエンザ予防に大きく影響します。
十分な睡眠とバランスの良い栄養で体調を整えることは、免疫力の維持に欠かせません。
特に冬場は寒さと乾燥で喉の防御機能も低下しがちです。
部屋の温度や湿度を適切に保つことも大切です。湿度は50~60%程度を目安に加湿し、ウイルスが活動しにくい環境にしましょう。
また、室内の清潔も見直してみてください。埃っぽい環境やカビの繁殖は、喘息を悪化させるだけでなくウイルス感染のきっかけにもなります。
こまめな掃除・換気でホコリやダニを減らし、寝具類も定期的に洗濯するよう心がけましょう。
掃除の際は最初に湿った布で拭き掃除をしてから掃除機をかけるとホコリの舞い上がりを抑えられます。また加湿器やエアコンのフィルターにもカビが繁殖しやすいため、定期的な手入れが必要です。
喘息をお持ちの方は、日頃から環境を整えて気道への刺激を減らすことが、インフルエンザ予防だけでなく、発作悪化の防止につながります。
◆「季節の変わり目に喘息が悪化する原因と対処法」について詳しく>>
【参考情報】『ぜん息、COPD患者さんが知っておきたい「インフルエンザ」の基礎知識』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202212_1/
【参考情報】“Preventing Seasonal Influenza” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/flu/prevention/?CDC_AAref_Val=https://www.cdc.gov/flu/prevent/index.html
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3. いつもの喘息管理の底上げ

インフルエンザ流行期に備えては、「いつもの喘息コントロール状態を良く保っておく」ことも重要です。
喘息が安定しているかどうかで、万一インフルエンザに感染した際の重症度が大きく変わり得ます。
日頃の治療の質を底上げしておくことで、いざという時のリスクを減らすことができます。
ここでは、喘息患者さんが見直しておきたいポイントを3つ挙げます。
3-1. 吸入薬の正しい使い方を再確認
喘息治療では吸入ステロイド薬などの吸入薬を使っている方が多いでしょう。
せっかくの薬も、正しく吸入できていなければ十分な効果を発揮しません。今一度、自分の吸入器の使い方をおさらいしてみましょう。
吸入器の種類ごとに適切な使い方があります。自己流で間違った使い方をしていないか、医師や薬剤師に確認したり、製品ごとの指導動画を見るなどして正確な手技を身に付けておきましょう。
また、ステロイド薬の場合、うがいをしないと口腔カンジダ症などの副作用リスクが高まります。
「吸入後は必ずうがい」を習慣づけ、副作用なく治療効果を最大限得られるようにしてください。
3-2. 治療薬をきちんと継続・管理する
インフルエンザ流行期でも、喘息の治療薬は自己判断で中断せず継続することが大切です。
喘息は慢性の炎症疾患なので、「症状が落ち着いているから」と薬をさぼってしまうと、知らないうちに気道の炎症が悪化してしまいます。
医師に指示されたとおりの吸入回数・用量を守り、アドヒアランス(服薬遵守)を高めておきましょう。
特にステロイドの内服治療中の方は、自己判断での減量・中止は厳禁です。
勝手にやめると喘息自体が悪化することはもちろんのこと、低血糖や血圧低下など様々な症状を引き起こす可能性があります。
担当医と相談しながら安全な範囲で喘息を安定させておくことが、インフルエンザによる重篤化を防ぐ土台となります。
4. 喘息患者がインフルエンザを発症したら

万全の対策をしていても、残念ながらインフルエンザにかかってしまう場合があります。
いざ発症した時に慌てないために、「初動対応」と「事前準備しておくべき情報」を押さえておきましょう。
喘息をお持ちの方は特に、早め早めの行動と周到な準備が重症化防止の鍵になります。
4-1. インフルエンザを疑う症状と初期対応フロー
まず、インフルエンザの初期症状を把握しておきましょう。
典型的には38℃以上の急な高熱、悪寒、関節痛・筋肉痛、全身の倦怠感といった強い全身症状が突然あらわれ、その後に咳やのどの痛み、鼻水などの呼吸器症状が出てきます。
もし「風邪にしては症状が重い」「急に高熱が出た」という場合はインフルエンザを疑いましょう。 発症が疑われたら早めに行動を開始します。
以下が基本的な初動フローの一例です。
1.外出を避け安静に:まず他人にうつさないよう職場や学校を休み、自宅で安静にします。体を温かくして十分な睡眠・休養をとりましょう。水分もこまめに補給し、脱水を防ぎます。
2.医療機関に連絡・受診:高熱や強い症状がある場合、できるだけ早く医療機関に相談します。特に喘息持ちであること、使用中の薬があることを電話で伝え、適切な診療科(まずは内科やかかりつけ医)に指示を仰ぎましょう。インフルエンザ発症後48時間以内に抗インフルエンザ薬(タミフル等)を開始すると症状悪化を防ぎやすいとされています。早めの受診が肝心です。
3.マスク着用と咳エチケット:受診の際や家族に看病してもらう時は必ずマスクを着用し、咳やくしゃみの飛沫を防ぎます。看病する家族もマスク・手洗いを徹底し、部屋を分けて過ごすようにしましょう。
4.喘息治療の継続:インフルエンザにかかったからといって喘息の治療(吸入薬など)を中断しないでください。症状がつらい時でも、喘息のコントローラー薬は指示通り続けましょう。必要に応じて主治医に電話で相談し、吸入の回数追加など指示を仰ぐことも検討してください。
以上が初期対応の流れです。特に喘息患者さんは、“少し様子を見よう”と受診を先延ばしにしないことが大切です。
高熱や息苦しさを無理に我慢せず、早めに医療の力を借りてください。
4-2. 受診前に準備しておくべきことチェックリスト
喘息患者さんがインフルエンザに感染した疑いがある場合、適切な準備をして早めに受診することが重要です。
喘息患者さんは重症化リスクが高いため、スムーズに診察を受けられるよう、以下のチェックリストを参考に準備しましょう。
<受診前の準備チェックリスト>
必須の持ち物
・診察券
・健康保険証(2025年12月1日まで使用可能)
・マイナ保険証 または 資格確認書
・お薬手帳(または現在使用中の喘息治療薬のリスト)
・吸入薬(普段使用している発作止めの吸入薬)
・マスク(院内感染予防のため必須)
医師に伝えるべき情報
・喘息の治療状況(コントロール状態、最近の発作の有無)
・現在使用中の薬剤名(吸入ステロイド薬、気管支拡張薬など)
・症状の経過(発熱した時間、体温の推移、咳・息苦しさの程度)
4-3. 家族・職場への連絡と今後の備え
インフルエンザと診断されたら、周囲への連絡と協力も必要です。 職場や学校には速やかに報告し、自宅療養に入りましょう。
学校では「発症後5日、かつ解熱後2日(幼児は3日)経過するまで出席停止」という規定があります。
職場の出勤再開については職種や勤務先の規定によって異なるため、医療機関の指示を踏まえつつ、職場と相談して決めるようにしましょう。
家族が同居している場合、看病する方以外はなるべく別室で過ごすようにし、看病者はマスク・手洗いを徹底して下さい。
特に乳幼児や高齢者、基礎疾患を持つ家族がいる場合は感染防止に最大限配慮しましょう。
5. 合併症に注意すべきサイン(呼吸困難、胸痛、高熱持続 など)

インフルエンザに伴う合併症の中でも、特に注意すべきは肺炎や脳症です。
持病のない健康な成人ではインフルエンザも多くは数日~1週間程度で回復しますが、喘息患者さんや高齢者では症状が長引いたり、あるいは一時改善した後に再び悪化する場合があります。
それは肺炎などの二次感染や、喘息発作の重症化が起きているサインかもしれません。
以下に合併症を疑うべき要注意サインをまとめます。
呼吸困難:息切れや、チアノーゼ(唇や爪が紫色に変色)、呼吸が速く浅い、会話が困難なほど息苦しいなどの症状は一刻も早く救急受診が必要です。
胸の痛みや強い咳:息を吸うと胸が痛む、胸に刺すような痛みを感じる時は肺炎を起こしている可能性があります。
高熱が下がらない・ぶり返す:高熱が続く場合や、一度下がった熱が再び39℃前後まで上昇してきた場合は、細菌性肺炎の二次感染が疑われます。熱が長引くほど体力も奪われ危険です。
意識障害:高熱により意識がもうろうとする、受け答えがおかしい、といった場合は脳症の可能性があります。子どもに多く、死亡や後遺症につながる重篤な合併症です。症状があらわれたら直ちに救急車を呼びましょう。
以上のような合併症サインに一つでも当てはまる場合、「もう少し様子を見る」は禁物です。
ためらわず医療機関へ連絡・受診し、必要なら救急車を呼んでください。特に肺炎は高齢の喘息患者さんにとって命に関わる重大な合併症です。
早期に胸部X線や血液検査で肺炎を確認し、必要なら抗菌薬治療を始めることが重篤化の防止につながります。
◆「咳喘息・気道過敏性の原因と対策を解説」について詳しく>>
【参考情報】『インフルエンザの主な合併症(高齢者では肺炎)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-02.html
6. おわりに
お読みいただいたように、喘息をお持ちの方やご高齢の方、妊娠中の方などにとってインフルエンザは特に注意すべき感染症です。
重症化リスクを正しく理解し、ワクチン接種や日頃の対策を万全にしておくことが何よりの防御策になります。
万一かかってしまっても、初期対応のフローに沿って早めに対応することで重症化を防げる可能性が高まります。
持病や服薬状況、緊急時の連絡先などを整理し、ご家族や職場とも共有しておくことで、いざという時も落ち着いて対処できます。
日頃の喘息管理と適切な予防策で、インフルエンザの季節も安心して過ごしましょう。



