寒暖差で咳が止まらない?実は咳喘息かもしれません
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
朝晩の冷え込みや日中の暖かさなど、季節の変わり目になると咳が止まらなくない。そんな症状を「風邪かな」と思っていませんか?
実はそれ、寒暖差によって起こる「咳喘息」かもしれません。放っておくと本格的な喘息へ進行することもあるため、早めの気づきと対応が大切です。
1. 「風邪だと思っていたら咳喘息だった」ケースとは

季節の変わり目に咳が長引くと、ほとんどの人はまず風邪を疑います。
しかし、熱や喉の痛みがないのに咳だけ続く場合、それは「咳喘息」の可能性があります。
1-1. 咳喘息とはどんな病気?
咳喘息は、喘鳴(ぜーぜー・ひゅーひゅー)を伴わず、咳だけが長期間続く喘息の一種です。
通常の風邪であれば2週間ほどで治まりますが、咳喘息では3週間以上続くことが多く、夜間や明け方に悪化するのが特徴です。
特に空気が乾燥する季節や寒暖差の激しい時期に発症しやすく、呼吸器が敏感な人は再発を繰り返すこともあります。早期に診断し、炎症を抑える治療を行うことが重要です。
【参考情報】『ぜん息とは』独立行政法人 環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/index.html?utm_source=chatgpt.com
【参考情報】”Asthma — What Is Asthma?” by National Heart, Lung, and Blood Institute (NIH)
https://www.nhlbi.nih.gov/health/asthma
◆『咳を止める方法は?しつこい咳、長引く咳から疑われる病気と受診の目安を紹介』>>
1-2. 風邪との見分け方
風邪は発熱や鼻水、喉の痛みを伴いますが、咳喘息ではこれらの症状が目立ちません。むしろ「咳だけが止まらない」「季節の変わり目に毎年出る」といったパターンが特徴的です。
さらに、気温や湿度の変化、冷たい空気を吸い込んだときに咳が強くなるのもポイントです。
市販の咳止めで一時的に楽になっても、またすぐに再発する場合は、呼吸器内科での診察を検討しましょう。
【参考情報】『呼吸器Q&A Q1.からせき(たんのないせき)が3週間以上続きます。』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q01.html
【参考情報】『長引くせきの原因はなに?』独立行政法人 環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/42/feature/feature02.html
2. 寒暖差が咳を引き起こすメカニズム

咳喘息の発症には、気温の変化が深く関係しています。特に、秋から冬・春先などの「寒暖差が大きい時期」は、気道が敏感に反応しやすくなります。
2-1. 気温差が気道を刺激する仕組み
人の気道は外気温に合わせて湿度と温度を調整しています。
急な寒暖差があると、この調整機能が追いつかず、気道の粘膜が乾燥・炎症を起こしてしまいます。その結果、軽い刺激でも咳が出やすくなるのです。
また、冷たい空気を吸い込むことで気道が急激に収縮し、微小な炎症反応が起こることもあります。特に早朝や夜の外出時は注意が必要です。
【参考情報】”Evaluation of the Onset and Duration of Response to Cold Air Inhalation Challenge” by Centers for Disease Control and Prevention (U.S.)
https://stacks.cdc.gov/view/cdc/204702/cdc_204702_DS1.pdf
2-2. 自律神経との関係
寒暖差は自律神経にも影響を与えます。急な温度変化で交感神経が優位になると、気道が収縮し、呼吸がしにくくなります。
こうした自律神経の乱れも、咳を誘発する一因です。さらに、ストレスや睡眠不足によっても自律神経のバランスが崩れやすく、寒暖差の影響を受けやすくなります。
体調を整えるためには、規則正しい生活リズムを意識することも大切です。
2-3. 室内外の温度差も油断できない
屋内は暖房で暖かくても、外出時に冷たい空気を吸い込むことで気道が刺激され、咳が出ることもあります。特に朝の通勤・通学時は、マスクで口元を温めるなどの対策が有効です。
さらに、暖房の効いた室内でも空気が乾燥していると気道がダメージを受けやすいため、加湿や換気を組み合わせて快適な環境を保ちましょう。
3. 放置するとどうなる?咳喘息のリスク

「毎年のことだから」と放置していると、咳喘息は慢性化し、より深刻な喘息へ進行する可能性があります。
進行を防ぐには、早期診断と適切な治療が欠かせません。
3-1. 喘息への移行
研究では、咳喘息の約30〜40%が気管支喘息に進行すると報告されています。
喘息になると、咳だけでなく「ゼーゼー」「息苦しい」などの呼吸困難を伴うようになり、生活の質が大きく低下します。
進行してからの治療は時間がかかるため、「いつもの咳」と軽視せず、早期受診を心がけましょう。
【参考情報】『「もしかしてぜん息?」と思っている方へ』独立行政法人 環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/check.html
3-2. 睡眠や仕事への影響
咳が夜間に悪化するため、睡眠不足に陥りやすくなります。寝不足は免疫力の低下にもつながり、症状が悪化する悪循環を生み出します。
さらに、集中力の低下や倦怠感が仕事や家事にも影響し、日常生活のパフォーマンスを落とすことがあります。
慢性的な咳は精神的なストレスの原因にもなるため、早めの対策が必要です。
3-3. 市販薬で改善しない理由
市販の咳止めは、一時的に咳の反射を抑えるだけで、根本的な炎症を治すものではありません。
気道の炎症が残ったままだと、再発や慢性化を招くおそれがあります。特に咳喘息では、炎症を鎮める吸入治療が重要です。
長引く咳は「風邪ではないかもしれない」と意識を切り替えることが大切です。
4. 早めの受診が大切な理由

咳喘息は、早期に治療を始めれば十分にコントロールできます。
放置期間が長くなるほど治りにくくなるため、2週間以上咳が続いたら医療機関の受診を検討しましょう。
4-1. 受診の目安
以下のような場合は、呼吸器内科での診察をおすすめします。
・咳が3週間以上続いている
・夜間や明け方に咳き込む
・会話中や冷気に触れたときに咳が出やすい
・市販薬で改善しない
これらのサインがある場合、早めに医師へ相談することで重症化を防げます。
◆『咳が止まらない!市販薬が効かない長引く咳の原因と受診の目安』>>
4-2. 検査と診断の流れ
診察では、まず問診と聴診を行い、必要に応じて「呼吸機能検査」や「気道過敏性テスト」を実施します。これにより、咳喘息かどうかを判断します。
さらに、アレルギー検査を併用することで、ハウスダストや花粉などの誘因を特定することも可能です。
原因を明らかにしたうえで、生活習慣や環境要因の改善を行うことが再発予防につながります。
◆『喘息とはどんな病気か?症状・原因・治療方法を解説!』>>
4-3. 治療の基本
治療の中心は、吸入ステロイド薬を用いた「気道の炎症コントロール」です。重症度に応じて、気管支拡張薬を併用することもあります。
これらの治療は、症状を抑えるだけでなく、再発防止にも有効です。医師の指示を守って継続的に治療を行うことが、改善への近道となります。
5. 寒暖差による咳を防ぐ生活の工夫

日常生活でも、少しの工夫で寒暖差による咳を予防できます。
体温や湿度の管理がポイントです。日中と朝晩の気温差を意識して服装を選ぶことも、発作予防につながります。
5-1. 外出時の温度差対策
外気温との差を和らげるために、マフラーやマスクで口元を保温しましょう。
就寝時は首元を冷やさないようにすることも重要です。特に高齢者や子どもは体温調節が苦手なため、外出時の重ね着や寝具の工夫で冷えを防ぐようにしましょう。
5-2. 室内環境を整える
加湿器を使って湿度を40〜60%に保ち、空気の乾燥を防ぎます。
エアコンの風が直接当たらないようにするのもポイントです。
また、定期的な換気で空気中のハウスダストや花粉を減らすことで、気道への刺激を減らせます。
5-3. 規則正しい生活リズム
寒暖差が大きい季節は自律神経が乱れやすいため、睡眠・食事・運動のリズムを整えることが大切です。
栄養バランスの取れた食事や十分な休養も、気道の健康維持に役立ちます。
ウォーキングなど軽い運動を習慣にすることで、ストレス軽減や免疫力の向上にもつながります。
【参考情報】『日常生活の工夫』独立行政法人 環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/pamphlet/form/01/pdf/archives_24914.pdf
6. おわりに
寒暖差による咳は、単なる風邪ではなく「咳喘息」のサインであることがあります。
長引く咳を放置すると、喘息へ進行するおそれもあるため、早めの受診と正しいケアが重要です。
気温差の大きい季節は、体調の変化に注意しながら、無理をせず過ごしましょう。小さな気づきが、あなたの呼吸を守る第一歩になります。
毎年同じ時期に咳が出る方は、生活習慣や環境を見直すことも予防につながります。



