季節の変わり目は喘息が悪化?春秋に咳込む・息苦しくなる原因と対処法
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
 
					季節の変わり目になると毎年決まって咳が続いたり、息が苦しくなる…そんなお悩みはありませんか?
「花粉症かな?」「風邪が長引いているのかも」と思って様子を見ていても、市販薬ではなかなか良くならない場合、それは季節性の喘息症状かもしれません。
季節の変わり目に現れる咳やヒューヒューゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)は、気管支の慢性的な炎症のサインです。
本記事では季節性の喘息症状の原因や症状、花粉症との関係、季節ごとの原因と対処法についてわかりやすく解説します。
早めに対策して、毎年繰り返すつらい症状を予防しましょう。
1. 季節性の喘息症状はどのようなものか

春や秋など季節の変わり目には喘息症状が悪化します。
気管支喘息(きかんしぜんそく)は、気管支(気道)の慢性的な炎症によって起こります。
気管支喘息では気道が常に過敏な状態になっており、ちょっとした刺激で狭くなるため、咳や息苦しさ、ゼーゼー・ヒューヒューという喘鳴を引き起こします。
季節の変わり目や天候の急変時には症状が出やすい傾向があり、一般に春先(5~7月)や秋口(10~11月)に喘息発作の頻度が増すことが知られています。
◆「咳が止まらない。アレルギーが原因かも?」について詳しく>>
【参考情報】『成人ぜん息Q&A』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/qa/sick.html
1-1. 気道の炎症と過敏性がポイント
喘息による炎症を起こしている気道は、粘膜が荒れて狭くなり、刺激に対して非常に敏感な状態になっています。
そのため、健康な人なら何でもないようなホコリや冷たい空気でも、喘息のある人では気道が収縮してしまい、激しい咳込みや呼吸困難を引き起こすのです。
このように喘息では「気道が敏感になっている」ことが症状悪化の土台にあります。
また、一度炎症が起きた気道は放置するとさらに分厚く固くなって、どんどん狭くなっていきます。これを気道のリモデリングといい、喘息が長引く原因になります。
喘息を完治させることは難しいですが、早めに治療を受けて炎症をコントロールすれば、こうした症状悪化を防ぐことができます。
症状が季節的に現れる方でも、「症状が出ていない季節は治った」と自己判断せず、炎症を抑える治療を継続することが大切です。
1-2. 季節の変わり目に症状が出やすい理由
喘息の症状は、一年を通じて一定ではなく季節によって変動することがあります。
特に春と秋は気温・気圧の変化が大きく、環境中のアレルゲン(花粉やハウスダストなど)量も増減するため、気道の炎症が悪化しやすい季節です。
春先や秋口に喘息症状が出やすい背景には、気温の寒暖差や天候の急変に加えて、季節特有のアレルギー誘因が関与しています。
こうした環境の変化が重なることで、気道の炎症が悪化して毎年同じ時期に症状が繰り返すという季節性の喘息悪化パターンにつながるのです。
また、秋や春先はウイルスが活発で、インフルエンザなどの呼吸器感染症にかかりやすい時期でもあります。
喘息患者さんは、風邪やインフルエンザにかかると、喉や気管支に炎症が広がり、喘息発作を誘発しやすくなるため症状が悪化するのです。
2. 花粉症やアレルギーとの関係

季節によって喘息症状が悪化する方の中には、「花粉症の影響で咳が出ているのかも」と考える方も多いでしょう。
花粉症(アレルギー性鼻炎)と気管支喘息は、一見すると症状や影響する場所が異なりますが、実は密接な関係があります。
ここからは花粉症などアレルギーとの関連性と、鼻炎の症状との違いについて解説します。
【参考情報】”Allergens and Pollen | Climate and Health” by Centers for Disease Control and Prevention (U.S.)
https://www.cdc.gov/climate-health/php/effects/allergens-and-pollen.html
2-1. 気管支喘息はアレルギーが原因のことも多い
喘息には、ホコリやダニ、花粉などアレルゲンが引き金となるアレルギー型の喘息と、タバコの煙やストレスなどアレルギー以外の要因で起こる非アレルギー型の喘息があります。
大人の喘息患者さんの約半数はアレルギーが関与しているとされ、ダニ(ハウスダスト)が最も頻度の高い原因です。
しかし花粉によるアレルギーも見逃せません。花粉症のある方は、気道の炎症が悪化して喘息症状も出やすくなることが知られています。
花粉は比較的大きいため肺に直接入りにくいと考えられていましたが、近年では花粉の表面から微粒子状のアレルゲンが放出され、気道に達して炎症を起こす可能性が指摘されています。
つまり、花粉症と喘息はお互いを悪化させる関係にあり、両方の治療・対策が必要なのです。
【参考情報】『ぜん息との合併に気をつけたい病気』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/complications.html#nasal
2-2. アレルギー性鼻炎(花粉症)と喘息の症状の違い
花粉症(アレルギー性鼻炎)と気管支喘息では、症状が現れる場所が異なります。
花粉症は鼻や目の粘膜のアレルギー反応で、くしゃみ・鼻水・目のかゆみが主な症状です。
一方、喘息は気管支(気道)で起こる炎症のため、咳やゼーゼーヒューヒューという喘鳴、胸の圧迫感、呼吸の苦しさが現れます。
しかし、鼻と気管支はつながっているため、鼻炎と喘息は互いに影響し合うことがわかっています。
実際に、喘息患者さんが鼻炎(花粉症)を合併していると喘息症状が悪化しやすく、治りにくいことが報告されています。
そのため、花粉症シーズンに喘息が悪化する方は、鼻の症状も含めてトータルで対策することが重要です。
「咳だけだから花粉症とは無関係」と決めつけず、鼻の症状と咳が同時に出ている場合は早めに医師に相談しましょう。
3. 春に悪化しやすい誘因と対処法

春先は寒い冬から暖かい季節へ移行する時期で、環境が大きく変わります。
春に喘息症状が悪化する主な誘因としては、スギやヒノキなどの春の花粉、中国大陸から飛来する黄砂やPM2.5が挙げられます。
ここでは春に注意すべき誘因と、その対処法について解説します。
3-1. スギ・ヒノキなど春の花粉
春の花粉といえばスギやヒノキが代表的です。
スギ花粉は毎年2~4月頃に飛散し、多くの人が花粉症の症状に悩まされます。
花粉症の症状は主に鼻や目に出ますが、喘息を持つ方では花粉が気道に入って気管支の炎症を悪化させることがあります。
春は他の季節に比べて大気中の花粉量が非常に多くなるため、花粉症の有無にかかわらず気道への影響に注意が必要です。
対策としては、花粉の多い日の外出を控える、外出時はマスクを着用する、帰宅後すぐに衣服を脱ぐ、うがい・洗顔をする、といった方法が有効です。
また毎年春に症状が出る方は、早めに花粉症の検査を受けてみるのもよいでしょう。
【参考情報】『森林・林業とスギ・ヒノキ花粉に関するQ&A』林野庁
https://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/qanda.html
3-2. 黄砂・PM2.5など大気中の微粒子
春先には、中国大陸から飛んでくる黄砂や、大気汚染物質であるPM2.5の上昇が見られます。
黄砂は粒径が比較的大きい砂ぼこりですが、移動中にPM2.5など有害物質を吸着して日本に飛来します。
PM2.5は直径2.5μm以下の非常に細かい粒子で、肺の奥(肺胞)まで入り込むため健康への影響が大きい物質です。
この黄砂やPM2.5が気道を刺激して炎症を悪化させ、喘息の発作を誘発します。
また、花粉が黄砂やPM2.5に触れると表面に傷が付き、中のアレルゲンが飛び出して花粉粒子が細かく砕ける「花粉爆発」にも注意です。
砕けた花粉は鼻だけでなく気管支の奥深くまで達するため、通常より強いアレルギー反応を引き起こし、喘息を重症化させる原因になり得ます。
こうした微粒子対策としては、大気汚染の予報を確認し、濃度が高い日は外出を避けることが大切です。
外出する場合は高性能マスクで粒子の吸入を防ぎ、帰宅後は洗顔やシャワーで付着した物質を洗い流しましょう。
◆「対策しよう!咳の原因はPM2.5かもしれません」について詳しく>>
4. 秋に悪化しやすい誘因と対処法

秋は一年の中でも特に喘息症状が悪化しやすい季節とされています。
夏から秋への移り変わりで気候や生活環境が大きく変化し、喘息の誘因となる要素がいくつも重なるためです。
ここでは、秋に注意すべき誘因とその対処法について見ていきましょう。
4-1. 秋の花粉(ブタクサ・ヨモギなど)
春だけでなく秋にも花粉症の原因となる植物があります。
代表的なのがブタクサやヨモギといった草の花粉で、これらは8~10月頃に飛散ピークを迎えます。
秋の雑草花粉はスギ花粉に比べて粒子が小さいため、鼻だけでなく気管の奥まで入り込み咳や喘息発作を起こしやすいことが特徴です。
対策としては春の花粉と同様、花粉情報をチェックして飛散が多い日は外出を控えるのが基本です。
外出する場合はマスクで花粉をブロックし、帰宅時には玄関前で衣服や髪についた花粉を払い落とす習慣をつけましょう。部屋に花粉を持ち込まないことが大切です。
4-2. ダニやハウスダストの増加
秋はダニアレルゲンにも注意が必要です。
ダニは高温多湿を好み、夏に繁殖のピークを迎えます。
気温が下がる秋になるとダニの数自体は減っていきますが、その死骸やフン(ハウスダスト)が家中に蓄積し、秋〜初冬にかけて室内のアレルゲン量が最大になるとされています。
ダニアレルギー体質の方では、生きているダニよりも粉砕されたダニの死骸や糞のほうが気道への刺激となり、喘息発作の引き金になります。
秋は布団やカーペットにダニの死骸が溜まりやすい時期ですので、こまめに洗濯・乾燥したり、掃除機をかけたりして清潔に保つことが大切です。
また、室内のダニ・ホコリ対策としては、湿度管理も有効です。
湿度が60%以上になるとダニやカビが繁殖しやすくなるため、梅雨時や秋雨の時期には除湿機やエアコンの除湿機能を使って湿度を下げましょう。
このように室内環境を整えることで、秋の発作リスクを大きく減らすことができます。
◆「喘息やアレルギー症状の悪化を防ぐ!カビの掃除で気を付けること」について詳しく>>
5. 受診のタイミングと検査・治療方法

季節の変わり目ごとに咳込んだりゼーゼーする状態が続く場合、早めに医療機関(呼吸器内科)を受診することをおすすめします。
以下のような場合は気管支喘息の可能性があるので、自己判断せず医師に相談してください。
・咳が長引いている(2週間以上続く)、市販の咳止めや喘息用吸入薬を使用しても改善しない
・「ヒューヒュー」「ゼーゼー」といった喘鳴が聞こえる、または胸が締め付けられる感じがある
・毎年同じ季節になると決まって症状が出る(季節的な繰り返しがある)
・夜間から明け方にかけて咳込んで眠れない日がある
・花粉症やアレルギー体質で、鼻症状と共に咳や息苦しさも出ている
5-1. 気管支喘息の診断と検査
医療機関では、いくつかの検査を行うことで喘息かどうかを調べます。代表的な検査が呼吸機能検査(スパイロメトリー)です。
スパイロメトリーでは大きく息を吸ったり吐いたりすることで気管支の空気の通りを測定し、気道が狭くなっていないかを確認します。
さらに、気管支拡張薬を使用した後に再度呼吸機能を測定し、値が改善すれば喘息の可能性が高いと判断できます。
また、気道の炎症の程度を調べる呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)測定や、アレルギー体質かどうかを検査する血液検査、好酸球という炎症細胞が多いかどうかを確認する痰の検査も行う場合があります。
これらの検査結果や症状の経過を総合して、季節性の喘息症状なのか、他の病気なのかを診断します。
例えば、気管支炎は感染が原因で一過性に起こることが多く、長期間毎年繰り返すことはあまりありません。
一方、喘息は慢性的な炎症なので適切な治療をしない限り毎年悪化を繰り返す恐れがあります。このような気管支炎との違いも、医師が検査と診察を通じて判断してくれます。
【参考情報】『気管支ぜんそく』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html
5-2. 季節性の喘息症状の治療方法
季節性の喘息症状であっても、基本的な治療法は通常の気管支喘息と同じです。
気道の炎症を鎮めて発作を予防するために、吸入ステロイド薬を中心とした治療が行われます。
吸入ステロイド薬などの長期管理薬(コントローラー)を毎日吸入することで、気道の炎症を抑えて過敏な状態を改善していきます。
季節性の喘息症状の場合も、症状がない時期から炎症をコントロールしておくことが重要です。
発作時や症状が辛いときには、短時間作用性の気管支拡張薬(β2刺激薬)の吸入で気管支を拡げて呼吸を楽にします(これをリリーバーといいます)。
ただし、対症療法の吸入薬だけに頼るのではなく、根本的にはステロイド薬で炎症を抑える治療を続けることが、長期的な喘息コントロールにつながります。
アレルギーがある方は原因アレルゲンを避ける生活習慣も治療の一環です。花粉症の治療やダニ対策、禁煙など、できることはしっかり行いましょう。
【参考情報】”2020 Focused Updates to the Asthma Management Guidelines” by National Heart, Lung, and Blood Institute (NIH)
https://www.nhlbi.nih.gov/health-topics/asthma-management-guidelines-2020-updates
6. まとめ
季節の変わり目に毎年繰り返すしつこい咳やゼーゼーヒューヒューという呼吸音は、季節性の喘息悪化である可能性があります。
春や秋は気温・気圧の変化や花粉・黄砂の飛散などが重なり、喘息症状が悪化しやすい時期です。
季節によって喘息が悪化する場合、症状のない時期も含めて長期的にコントロールすることで、季節が巡っても発作を起こさないようにできる可能性が高まります。
毎年同じような症状に悩んでいる場合は早めに呼吸器内科を受診し、適切な検査と治療を受けましょう。



 
	 
	