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咳が止まらない高齢者に注意!熱がなくても危険な隠れ肺炎とは?

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

咳がなかなか治まらない…そんな高齢者の方に多いのが、熱もなく自覚症状も少ない「隠れ肺炎」です。

放置すると命に関わる危険もあるため、早めの気づきと対策が重要です。

本記事では、見逃されがちな理由や早期発見のポイントをわかりやすく解説し、日常生活でできる予防の工夫もご紹介します。

1. 咳が長く続く高齢者の不安と見逃されがちな肺炎


高齢になると体の免疫力が弱くなり、ちょっとした風邪でも咳が長引くことがあります。特に60代以上の方やそのご家族は、「熱がないし本人も元気そうだから大丈夫」と安心しがちです。

しかし、肺炎は高齢者にとって重大な病気であり、時には熱がほとんど出ずに症状が隠れてしまうことも少なくありません。

例えば、ある70代の女性は2週間以上続く咳が気になっていましたが、熱もなく本人も普段通りに見えたため家族は特に心配しませんでした。

しかし、徐々に食欲が落ちてきて、やや呼吸が苦しそうになったころに病院を受診すると肺炎が見つかりました。このように、高齢者の肺炎は見た目や熱だけで判断できないことが多いのです。

◆『肺炎の基本情報』について>>

1-1. なぜ高齢者の肺炎は発熱が出にくいの?

一般的に肺炎になると発熱や寒気、だるさといった症状が現れますが、高齢者は免疫機能が衰えているため、体の炎症反応が鈍くなっています。

結果として、熱が出にくかったり、軽度の発熱で済んでしまうことが多いのです。

また、体温調節機能も弱くなっているため、熱が出ても気づきにくい場合もあります。これにより、肺炎のサインが咳や微妙な体調の変化だけになることが多く、「熱がない=肺炎ではない」と誤解しやすいのです。

【参考文献】”Respiratory Infections in the Aging Lung: Implications for Diagnosis” by National Institutes of Health (via PubMed Central)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10389836/

1-2. 咳以外に注意したい初期症状とは?

咳が続く以外にも、以下のようなサインに気をつけてください。

・呼吸の変化:息が少し速くなったり、浅くなることがあります。

・食欲の低下:いつもより食べる量が減ったり、飲み込みがしづらそうに見えることも。

・倦怠感や元気のなさ:普段より疲れやすく、だるそうにしていることがあります。

・意識の変化:ぼんやりする、返事が遅くなる、会話がうまくできないことも肺炎の初期症状です。

これらは風邪や年齢のせいだと思われがちですが、肺炎の可能性も考え、早めに医療機関に相談することが大切です。

また、咳が長く続く場合は、乾いた咳か痰が出る咳かも観察してください。特に痰が絡む咳や、咳の後に息苦しさを感じる場合は受診の目安です。

◆『咳が続いている時、生じている炎症』とは?>>

2. 高齢者に多い隠れ肺炎(誤嚥性肺炎など)の特徴とリスク


肺炎は誰にでも起こり得る病気ですが、高齢者に特に多いのが「隠れ肺炎」と呼ばれるタイプです。

隠れ肺炎とは、熱や痛みなどのはっきりした症状が現れにくいため、気づきにくい肺炎のことを言います。

特に「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」は、高齢者の肺炎の中でも大きな割合を占めており、注意が必要です。

2-1. 隠れ肺炎とは?

隠れ肺炎は、症状があまり目立たないため、本人や家族が気づきにくいのが特徴です。

一般的に肺炎というと高熱や激しい咳、胸の痛みを思い浮かべますが、高齢者の場合はこうした症状がはっきり出ず、軽い咳や倦怠感だけで終わってしまうことがあります。

そのため、肺炎が進行しても気づかず、重症化するリスクが高まるのが隠れ肺炎の怖いところです。

2-2. 誤嚥性肺炎が起こる仕組み

誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液、胃の内容物が誤って気管や肺に入り込むことで発生します。

普段は飲み込むときに気管をふさぐ反射が働き、食べ物が肺に入らないようになっていますが、高齢になるとこの反射機能が低下することがあります。

さらに、嚥下(えんげ=飲み込むこと)機能が衰えたり、脳の病気で嚥下障害がある場合も誤嚥のリスクが高まります。

誤って肺に入り込んだ異物が細菌の繁殖場所となり、肺炎を引き起こすのです。

【参考資料】『誤嚥性肺炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-12.html

【参考文献】”Aspiration Pneumonia Risk Factors” by MedlinePlus (U.S. National Library of Medicine)
https://medlineplus.gov/ency/article/000121.htm

2-3. 高齢者がかかりやすい理由

加齢に伴う筋力低下や神経の働きの衰え、また口腔内の清潔が保たれていないと細菌が増えやすくなります。これらが重なり、誤嚥性肺炎の発症リスクを高めています。

たとえば、食事中にむせやすい、飲み込みが遅いと感じる場合は要注意です。また、歯磨きやうがいを怠ると口の中の細菌が増え、肺炎を引き起こしやすくなります。

日常生活での口腔ケアや食事時の姿勢にも注意し、家族が普段から見守ることが肺炎予防に繋がります。

◆『高齢者は要注意!誤嚥性肺炎とは』について>>

3. 咳や呼吸・体調の変化に気づくためのチェックポイント


高齢者の肺炎は症状があいまいなことが多いため、家族が日々のちょっとした変化に気づくことが大切です。

ここでは、どんなポイントに注目して観察すればよいかをわかりやすく解説します。

3-1. 咳の種類と続く期間の目安

咳には乾いた咳(空咳)や痰が絡む咳などがあります。

乾いた咳が2週間以上続く場合は注意が必要です。また、痰が黄色や緑色に濁っている場合や、咳の後に息苦しさや胸の痛みを感じる場合も肺炎の可能性があります。

咳が続く期間の目安としては、1週間を超えて咳が改善しない場合、医療機関への相談をおすすめします。特に高齢者は早めの対応が必要です。

◆『1週間以上咳が止まらない時はどうすればいい?』について>>

3-2. 食欲や反応の鈍さの見逃せないサイン

咳だけでなく、食欲不振や疲れやすさ、会話への反応が鈍くなることも肺炎の初期症状です。

いつも元気だった方が急に元気がなくなったり、ぼんやりする時間が増えたら注意しましょう。

家族が気づきやすいのは、食べる量が減ったことや、普段と違う様子で話しかけても返事が遅れるなどです。こうした変化は見逃されがちですが、肺炎を早期発見する大切な手がかりになります。

◆『咳・倦怠感が強いときに考えられる病気や対処法、病院受診の目安』について>>

3-3. 家族ができる簡単チェック方法

日常生活の中で、以下の点をチェックすると良いでしょう。

・食事量の変化:いつもと比べてどれくらい食べているか。

・会話や反応:普段の様子と違いはないか。

・トイレや排泄の回数:脱水や体調不良のサインを見逃さないため。

・呼吸の状態:息遣いが荒い、呼吸が速い、息切れがあるか。

こうした変化をメモに残しておくと、医療機関に相談する際に役立ちます。

【参考情報】『肺炎を早く見つけるために(p37~)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/stop_pneumonia2024.pdf

4. 早期受診のために知っておきたい受診体制とタイミング


高齢者の肺炎は症状があいまいなため、見逃しやすく、進行も早いことがあります。

だからこそ、体調の変化に気づいたら、なるべく早く医療機関に相談し、適切な治療を受けることが重要です。

ここでは、家族が知っておきたい受診のポイントや体制についてお伝えします。

◆『咳を止める方法は?しつこい咳、長引く咳から疑われる病気と受診の目安』について>>

4-1. 土日祝日も受診できる医療機関の活用法

急な体調不良は平日だけでなく、土日祝日にも起こります。高齢者の体調は急変しやすいため、休日でも診察が可能な医療機関をあらかじめ調べておくことが安心につながります。

市区町村の医療情報センターやかかりつけ医、地域の病院のホームページなどで休日診療や夜間診療の情報を確認し、連絡先を控えておきましょう。これにより、いざというときの受診がスムーズになります。

4-2. 緊急性を見極めるポイント

次のような症状が見られた場合は、すぐに救急外来や119番に連絡してください。

・呼吸が速くなり、息苦しさが強い

・顔色が青白い、唇や指先が紫色になっている

・意識がもうろうとしている、反応が鈍い

・高熱(38度以上)が急に出た場合

こうした症状は重症化のサインです。迷わず緊急対応をすることが命を守ることにつながります。

4-3. かかりつけ医との連携をすすめる理由

普段からかかりつけ医と良好な関係を築き、日頃の健康状態や持病について情報共有をしておくことが重要です。

かかりつけ医は患者さんの体質や病歴をよく知っているため、急な体調変化にも迅速かつ適切に対応できます。

また、肺炎の予防接種の案内や健康管理のアドバイスをもらえるので、定期的な受診をおすすめします。

【参考情報】『かかりつけ医ってなに?』厚生労働省
https://kakarikata.mhlw.go.jp/kakaritsuke/motou.html

5. まとめ:咳が続く高齢者を家族が見守るために大切なこと


咳が長く続く高齢者は、熱がなくても肺炎の可能性があることを忘れてはいけません。

特に「隠れ肺炎」は目立つ症状が少なく、見逃しやすいため家族の細やかな観察と早期受診が何より重要です。

まず、日常生活の中で咳の様子や呼吸の変化、食欲や元気の有無などを注意深くチェックしましょう。小さな変化でも見逃さず、気になったら医療機関に相談することが早期発見につながります。

また、食事中のむせや飲み込みの困難さは誤嚥性肺炎のリスクを高めるため、食事の際は姿勢に気をつけ、ゆっくり食べるよう促しましょう。口腔ケアも普段からしっかり行うことで肺炎予防になります。

【参考情報】『肺炎予防に対する口腔ケアの効果』日本歯科医師会
https://www.jda.or.jp/park/dentistwork/carerecipients.html

さらに、急な体調変化があった場合には土日祝日でも受診できる医療機関の情報を把握しておくことが大切です。

かかりつけ医との連携も強化し、普段から健康管理を行うことで安心して生活が送れます。

家族が「見守る視点」を持ち続けることで、高齢者の肺炎を早期に発見し、重症化を防ぐことができます。日々のケアと観察を大切にし、安心できる毎日を支えましょう。

◆『合併しやすい、喘息と鼻炎』について>>

6. おわりに

咳が長く続く高齢者は、たとえ発熱がなくても肺炎の可能性があります。

特に「隠れ肺炎」は症状が分かりにくく、気づかないうちに重症化してしまうことも少なくありません。そのため、ご家族が日頃から小さな変化に気を配り、早めに医療機関へ相談することが重要です。

ご本人の健康を守るためには、日頃の観察と早期対応が何よりの予防策です。ご家族の温かい見守りこそが、安心して過ごせる毎日を支える大きな力となります。

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