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運動がしたい!喘息患者が注意すべきこと

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

運動は心とからだの健康に欠かせない要素ですが、喘息の患者さんにとっては特別な配慮が必要な場合があります。運動による温度の変化や激しすぎる運動は発作を引き起こすことがあるためです。

この記事では、喘息の患者さんが安全に運動を行うための注意点を解説いたします。医師としっかり相談し、適切な準備とアフターケアを行いながら運動をしましょう。

運動による喘息発作を予防し、活動的な生活を送るためのポイントを守ることが大切です。

1.喘息患者にとって運動をするとはどういうこと?


喘息の患者さんにとって運動は、体力の向上やストレスの軽減に役立つ一方で、注意が必要です。

喘息は気道が過敏になって炎症を起こしやすい状態になっています。

運動すると呼吸が激しくなる場合があり、増加した呼吸は気道を刺激して、収縮や炎症を引き起こす可能性があります。

冷たい空気は気道を冷やし、気道が反応して狭くなることがあり、喘息発作の一因となり得ます。とくに冷たく乾燥した空気には注意しましょう。このため、運動時には気道を保護し、喘息のコントロールができるよう対策が必要です。

運動時に喘息発作が起こる仕組みを理解することは、適切な準備と対処のために不可欠です。

【参考文献】❝ Being Active with Asthma❞ by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/asthma/managing-asthma/asthma-and-exercise#:~:text=Generally%2C%20people%20with%20asthma%20can,with%20a%20warm%2Dup%20period.

2.運動をするときの注意すべきこと


喘息の患者さんが運動をする際には、以下の点に気をつけましょう。

気温が低い場合や、寒い屋外での運動を行う際には、とくに注意が必要です。その場合は気道を冷やさないようにする対策をします。

暖かい服装をしたり、マフラーやネックウォーマー、マスクで口と鼻を覆ったりして気道が冷えないようにするのがおすすめです。首を温めることにより冷たい空気が直接気道に触れるのを防ぎ、喘息の悪化や発作を抑えることが可能です。

また、運動前には必ず準備運動をしましょう。準備運動をしっかりすると、体温を徐々に上げられるので、気道への刺激を減らすことが可能です。

準備体操は軽いストレッチやゆっくりとした歩行から始めます。ゆっくりと運動の強度を上げていくことで、体と気道が運動に適応する時間を確保できます。

突然激しい運動を始めてはいけません。急激な体の反応が起こり、喘息発作のリスクが高まります。

3.運動で起こることもある喘息発作


運動が引き金となっておこる喘息の発作があり、運動誘発性喘息といわれます。

即時型反応として運動中や直後に症状が現れることがあります。また、遅延型反応として、運動後6〜12時間後に症状が出ることがあります。

運動誘発性喘息の主な症状は、咳、息切れ、息苦しさ、または喘鳴(呼吸時にヒューヒューと音がする)などです。

とくに激しい運動後に気道が乾燥し、空気中の汚染物質やアレルギー物質にさらされた場合に発症しやすくなります。

寒い環境での運動はとくにリスクが高く、冷たい空気が気道を刺激して症状を引き起こす可能性が高くなります。

運動誘発性喘息が起こりやすい条件は、運動の種類や時間、喘息の状態、運動する環境が関係しています。以下で、リスクが高まる条件をご説明いたしましょう。

運動の種類や時間

・激しい運動
急激に心拍数が上がる運動は、気道に大きな負担をかけ、喘息発作をひき起こしやすくなります。

・長時間の運動
持続的な運動は体にストレスを与え、喘息発作を誘発することがあります。

・特定の運動
歩行や水泳は比較的喘息発作が起きにくいとされていますが、ランニングなどの高強度の運動では発作が起こりやすくなります。

喘息の状態

・発作の頻度
普段から喘息発作が多い方は、運動によっても発作を引き起こしやすいです。

・気道の過敏性
軽い刺激にも反応して発作が起こる、気道が過敏な状態の方は、運動時にも発作を起こしやすくなります。

・薬の使用忘れ
普段使用している喘息の薬を飲み忘れた場合、発作を引き起こしやすくなります。

運動する環境

・冷たく乾燥した空気
とくに冬場の温度の低い乾燥した空気は、気道を刺激しやすく、喘息発作のリスクを高めます。

運動誘発性喘息の発作が起こったときには迅速に対処することが重要です。

まずは運動を直ちに中止し、からだに余計な負担をかけないよう安全な場所に移動して休みます。

水分を補給して、リラックスできる楽な姿勢で休息を取ります。これにより、呼吸を安定させることができるでしょう。

次に、持っている短時間作用性β2刺激薬(発作止めの薬)を吸入します。気管支を素早く拡張させて、呼吸を楽にすることが目的です。喘息患者さんは常に携帯しておきましょう。

これらの対策によって症状が改善されない場合や症状が重い場合は、直ちに呼吸器内科などの医療機関を受診、場合によっては救急車を呼び、治療を受けましょう。

【参照文献】独立行政法人 環境再生保全機構 『 さまざまなぜん息 運動誘発ぜん息』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/exercise.html

4.運動したい喘息患者におすすめ!


喘息の患者さんにとって、運動は健康管理の一つとして重要ですが、発作のリスクに注意が必要です。

基本的に喘息があるからといって運動を制限する必要はありません。

もし、発作が頻繁に起こる場合や運動をしても良い状態にないと医師が判断した場合は、その指示に従いましょう。

喘息の患者さんにおすすめの運動としては、心肺機能を向上させることができ、呼吸が穏やかに保たれるものです。たとえば、水泳や、ヨガ、ウォーキングなどが挙げられます。

水泳はとくに温かく湿った空気が気道にやさしく、喘息発作のリスクが低くなります。

ヨガやピラティスは、呼吸法を改善しリラックス効果も高いため、喘息の管理に効果的です。

また、ゆっくりとしたサイクリングやウォーキングも、適度な有酸素運動ができるうえに、喘息発作のリスクを低く保つことが可能です。

一方で、ジョギングやマラソン、サッカーやバスケットボールのように持久力を必要とし、休むことなくからだを動かす必要のある運動は、発作を引き起こしやすいとされています。

とはいえ、これらの運動を絶対に避けなければならないというわけではありません。予防治療によって症状が安定しており、発作が起きにくい状態であれば、医師の許可のもとでこれらの運動を行うことも可能です。

運動をする前には、ストレッチやウォーミングアップを念入りに行い、からだを運動に慣らしてから始めることが重要です。

日頃から体力をつけるために、ウォーキングなどの軽い運動を継続的に行うことも、喘息発作のリスクを減らすのに役立ちます。

運動の種類を選ぶ際には、ご自身の体調や喘息のコントロール状態をよく考えて、急激にからだを動かすことを避け、徐々に運動強度を上げていくことを心掛けましょう。

【参照文献】日健 診誌 JMHTS Vol.17 No.3 1990年『喘息の運動療法 に関す る文献的考察』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jhep1985/17/3/17_3_297/_pdf

5.おわりに

喘息の患者さんが新たに運動を始める前には、必ず医師と相談することが重要です。

医師は、健康状態や喘息の重症度を考えて、安全で適切な運動の内容を提案できます。喘息を管理しながら運動をすることにより、生活の質の向上と健康の維持が期待できるでしょう。

適切な準備と予防策により喘息の安定と発作の予防が可能です。運動を生活に取り入れることで、喘息と共により活動的で健康的な生活を送ることができるでしょう。

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