アトピー咳嗽の症状や検査、治療について
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

咳が出る病気は、風邪や新型コロナウイルス感染症、マイコプラズマ肺炎などの呼吸器感染症から、喘息などの慢性呼吸器疾患まで様々です。
乾いた咳だけが2週間以上続き他の症状がない場合、「アトピー咳嗽」も疑われます。他にも、アトピー咳嗽と似ている病気として、喘息や咳喘息の可能性も考えられます。
「咳だけだから」と放置していると重症化してしまう場合もあり、早めに治療を開始することが大切です。
この記事では、アトピー咳嗽の症状や検査、治療、似ている病気について詳しく説明します。
1.アトピー咳嗽とは?
アトピー咳嗽は、咳受容体(異物を認識して咳を引き起こすセンサー)の感受性が亢進することで、乾いた咳や喉の違和感が長期間続く病気です。
例えば会話や運動のような、通常はあまり気にならないような弱い刺激でも咳が出やすくなってしまいます。
あまり聞いたことがない病名かもしれませんが、日本における慢性咳嗽(8週間以上持続する咳)の三大原因疾患は、副鼻腔気管支症候群、咳喘息、アトピー咳嗽と言われており、それほど珍しい疾患ではありません。
【参考情報】『医学と医療の最前線 咳喘息とア トピー咳嗽』藤村 政樹
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika1913/93/6/93_6_1200/_pdf
年齢や性別問わず発症しますが、「アトピー素因」を持つ人に多く、中でも中高年の女性に多いと言われています。
アトピー素因とは他のアレルギー疾患(アトピー性皮膚炎や食物アレルギー、アレルギー性鼻炎など)に罹ったことがある方や、家族にアレルギー疾患の方がいて、アレルギー疾患を発症しやすい体質のことです。
2.アトピー咳嗽の症状
アトピー咳嗽の症状は、長期間続く乾いた咳と、イガイガとした喉の違和感です。
アトピー咳嗽では、「好酸球」というアレルギー反応に関与する白血球が気道に集まって炎症を起こします。
そのため、排出された痰を調べる「喀痰検査」を行うと、痰の中から好酸球が検出されます。
一方で、気管支肺胞洗浄液では好酸球は検出されません。これは、炎症が中枢気道に限局していて、末梢気道には炎症が及んでいないためです。
つまり、病理学的には、中枢気道(気管や気管支のような、気道の中心部分)だけに限局して炎症が起こっている状態です。
この炎症によって気道の咳受容体が敏感になり、わずかな刺激でも咳が出やすくなってしまうのです。
咳を誘発する原因としては次のようなものが挙げられます。
・会話
・運動
・ホコリ
・冷たい空気、温度変化
・タバコの煙
・香水
・風邪
・ストレス、緊張
特に夜間や早朝に症状が出やすい傾向にあり、咳が2週間以上続くのも特徴です。
咳が2週間以上続く場合は、他の呼吸器疾患の可能性もあります。
アトピー咳嗽と似ている喘息や咳喘息との違いについては、5章で詳しく説明します。
◆『2週間続く咳の原因を探る!あなたの咳はただの風邪?それとも…?』>>
◆『この咳はただの風邪じゃない?呼吸器内科を受診する目安』>>
3.アトピー咳嗽の検査
「2週間以上咳や喉の違和感が続いている」、「喘息の既往がない」、「アトピー素因がある」などアトピー咳嗽が疑われる場合は、次のような検査を組み合わせて行います。
3-1.画像検査
アトピー咳嗽の場合、胸部X線検査やCT検査のような画像検査では異常が見られません。
しかし、咳の原因が他の呼吸器疾患(肺炎、肺がんなど)の可能性もあります。
そのような可能性を除外するために、画像検査を行うことがあります。
3-2.血液検査
アトピー咳嗽が疑われる場合、アレルギーの有無を調べたり、アレルゲンを特定したりするために血液検査を行います。
具体的には、次の項目について調べます。
①好酸球増加
:好酸球は白血球の一種で、アレルギーや寄生虫感染症が原因で増加します。
②血中総IgE値の上昇
:IgEは、アレルゲンと結合してアレルギー反応を起こす免疫グロブリンの一種です。
そのため、血液中のIgE値が高いと、アレルギー反応が起こりやすい状態といえます。
ただし、IgE値が高いからといって必ずアレルギーが起こるとは限りません。
③特異的IgE検査陽性
:特異的IgE検査は、アレルゲンを特定するための検査です。
卵、小麦、エビ、ハウスダスト、花粉など、アレルゲン別の項目があり、それぞれのIgE値によってクラス判定を行います。
クラス0は陰性、クラス1は偽陽性で、症状が出ない場合もあります。
クラス2~6は陽性で、数字が大きくなるほど重篤なアレルギーを引き起こす可能性が高くなります。
※個人差があり、検査結果と実際の症状の重さが一致しないこともあります。
この検査でいずれかのアレルゲンが陽性であれば、アトピー咳嗽を疑う手がかりになります。
3-3.呼吸機能検査
呼吸機能検査は肺の機能や気道の状態を調べる検査で、スパイロメトリー、モストグラフ、呼気NO検査などがあります。
①スパイロメトリー
:スパイロメトリーは、「スパイロメーター」という機械を使って肺の換気能力を調べる検査です。
息をゆっくり吸い込んだ後、力いっぱい吐き、肺活量(VC)や努力肺活量(FVC)、1秒量(FEV₁)などを測定します。
喘息の場合は1秒量などが低下しますが、アトピー咳嗽の場合は気道の閉塞がないため正常値になります。
②モストグラフ
:モストグラフは、通常の呼吸から気道の状態を調べることができる検査です。
スパイロメーターを使った検査では、意識的に息を力いっぱい吐く動作が必要なため、高齢者や小さいお子さんには難しい場合があります。
その点、モストグラフはマウスピースを口にくわえて普通に呼吸をするだけで「気道抵抗(息の吐き出しにくさを表した数値)」を調べることができます。
喘息の診断や治療効果の確認の際に行われる検査ですが、アトピー咳嗽では異常は見られません。
③呼気NO検査
:呼気(吐いた息)の中に含まれる一酸化窒素(NO)の濃度を測定する検査です。
気道で炎症が起こると、体が炎症を起こした部分を守るために「炎症性サイトカイン」という物質を放出します。
炎症性サイトカインの作用によってNOが大量に作られるため、呼気中のNO濃度が高いほど、強い炎症が起きている可能性が高いということになるのです。
喘息もアトピー咳嗽も、気道に炎症が起きているため、呼気NO検査ではどちらも異常を示しますが、喘息の方がより高値になります。
4.アトピー咳嗽の治療
検査の結果、他の呼吸器疾患の可能性を排除できれば、アトピー咳嗽と推定して薬物治療を行います。
喘息や咳喘息に使用する気管支拡張薬が無効で、ヒスタミンH1拮抗薬が有効であれば、アトピー咳嗽と治療的診断することができます。
治療的診断とは、診断と治療を同時進行で行い、経過を観察しながら診断を確定させる方法のことです。
では、ヒスタミンH1受容体拮抗薬とは何でしょうか。
アレルゲンが体内に入ると「ヒスタミン」という神経伝達物質が放出されます。そして、ヒスタミンH1受容体と結合することでアレルギー症状を引き起こします。
この結合を阻害し、アレルギー反応を抑えるのがヒスタミンH1受容体拮抗薬です。
商品名としては「アレグラ」や「アレジオン」という名前の薬で、花粉症の薬として聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
また、ヒスタミンH1拮抗薬だけでは治療効果が弱い場合には、気道の炎症を抑える「吸入ステロイド薬」を併用することもあります。
喘息に移行することはないため、服薬によって咳が治まれば、医師の判断で薬の減量・中止を行います。
アレルギー体質が根本にあるため再発することも多いですが、その都度同じように薬で対処することで咳は治まります。
◆『咳を止める方法は?しつこい咳、長引く咳から疑われる病気と受診の目安を紹介』>>
【参考情報】日本内科学会雑誌第109巻第10号『アトピー咳嗽/喉頭アレルギー』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/10/109_2137/_pdf
5.アトピー咳嗽と似ている症状のある疾患
アトピー咳嗽と似ている疾患として、喘息や咳喘息などが挙げられます。
それぞれの特徴や共通点、相違点について説明します。
5-1.喘息
喘息患者さんの気道は、症状が落ち着いている時でも慢性的な炎症が起きているため、わずかな刺激でも反応しやすい状態です。
そこに風邪や冷たい空気、アレルゲン、タバコの煙などの刺激が加わることで、さらに炎症が悪化して喘息症状が起こります。
アレルギーと深い関わりがある点は、喘息とアトピー咳嗽の両方に共通しています。
症状としては、2週間以上続く咳や呼吸困難感、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」のような喘鳴が見られます。
一方、アトピー咳嗽の場合、気道狭窄は見られず、息苦しさや喘鳴は見られません。
また、喘息は完治が難しく長期的に付き合っていかなければならない病気で、重症化すると命に関わることもあります。
一方でアトピー喘息は、喘息ほど重い症状になることはありません。
◆『喘息とはどんな病気か?症状・原因・治療方法を解説!』>>
【参考情報】Mayo Clinic “Asthma”
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653
5-2.咳喘息
咳喘息は、喘鳴を伴わない乾いた咳が長期間続く病気で、いわば喘息の前段階です。
夜間から早朝にかけて症状が悪化しやすい点や、アトピー素因を持つ人がかかりやすいという点は、喘息・咳喘息・アトピー咳嗽に共通しています。
咳喘息の約30%は喘息に移行すると言われており、早めに治療を開始することが大切です。
【喘息】
・症状
長期間続く乾いた咳
喘鳴
呼吸困難感
・気道の状態
中枢気道~末梢気道の好酸球性炎症
気道過敏性亢進
気道狭窄あり
・呼吸機能検査
1秒量、1秒率低下
・治療
気管支拡張薬
吸入ステロイド
・予後
長期間治療が必要
【咳喘息】
・症状
長期間続く乾いた咳
・気道の状態
中枢気道~末梢気道の好酸球性炎症
気道過敏性亢進
気道狭窄なし
・呼吸機能検査
正常
・治療
気管支拡張薬
吸入ステロイド
・予後
約30%は喘息に移行
【アトピー咳嗽】
・症状
長期間続く乾いた咳
喉の違和感
・気道の状態
中枢気道に限局した好酸球性炎症
気道過敏性は正常
気道狭窄なし
・呼吸機能検査
正常
・治療
H1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)
吸入ステロイド
※気管支拡張薬では効果が見られない
・予後
予後良好
【参考情報】”Cough-Variant Asthma” by ClevelandClinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/25200-cough-variant-asthma
6.おわりに
アトピー咳嗽は乾いた咳が長期間続きますが、息苦しさや喘鳴はなく、喘息ほど重い症状にはなりません。
しかし、咳が長期間続くだけでも十分つらいため、夜間の咳による睡眠不足など日常生活に支障をきたしてしまう場合もあります。
また、近年ではCOVID-19やマイコプラズマ肺炎などの呼吸器感染症が流行しているため、電車や学校、職場などで咳をすることに抵抗がある方も多いのではないでしょうか。
マスクなどの咳エチケットをしっかり行い、気道への刺激になるようなもの(冷たい空気やアレルゲンなど)を避けるようにしましょう。
症状を早く緩和するためにも、まずは咳の原因を突き止めることが大切です。
特にアトピー咳嗽と喘息、咳喘息は症状がよく似ているため、専門医に相談するのが安心です。
咳が2週間以上続いている場合は、呼吸器内科を受診しましょう。