喘息は肥満が原因で発症・悪化することがある
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

喘息は、気道が慢性的に炎症を起こし、息苦しさや咳などの症状が出る呼吸器の病気です。
最近の研究では、肥満が喘息に深く関わっていることがわかってきました。
肥満の状態になると、喘息が起こりやすくなるだけでなく、症状が悪化しやすくなったり、治療の効果が出にくくなったりすることがあります。
つまり、体重の管理は喘息の症状を軽くし、日々の生活をより楽にするためにも大切なのです。
この記事では、喘息と肥満の関係についてご説明し、健康的な生活習慣がいかに重要かを解説いたします。毎日の食事や運動の工夫で無理なく健康を守りましょう。
1.喘息の症状や原因
喘息は、気道の慢性的な炎症によって引き起こされる呼吸器の病気です。炎症により気道が過敏になり、さまざまな刺激に対して過剰に反応してしまいます。
その結果、主に以下のような症状が現れます。
1.咳
喘息特有の咳は、とくに夜間や早朝に悪化する傾向があります。喘息の咳は、通常の風邪とは異なり、長期間(8週間以上)続くことがあります。
2.喘鳴(ぜんめい)
呼吸時に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音が聞こえます。これは、狭くなった気道を空気が通過する際に発生する音です。
3.息切れ
とくに息を吐く時に強く感じられる息苦しさです。
4.胸の圧迫感
胸が締め付けられるような不快感を感じます。
5.呼吸困難
重症の場合、十分な酸素を取り込めずに、チアノーゼ(皮膚や粘膜が青紫色に変化)や意識障害を引き起こすこともあります。
喘息の原因は複雑で、複数の要因が関与していますが、主なものには以下があります。
・アレルギー反応:ハウスダスト、花粉、動物の毛、カビなどのアレルゲンが気道の炎症を引き起こします。
・気道感染:風邪やインフルエンザなどのウイルス感染、細菌感染が喘息を悪化させることがあります。
・運動:とくに冷たく乾燥した空気を吸い込む運動(冬のジョギングなど)で症状が誘発されることがあります。
・ストレス:精神的なストレスが喘息症状を悪化させることがあります。
・大気汚染:排気ガスや工場からの煙などの大気汚染物質が気道を刺激します。
・気象条件:季節の変わり目や気圧の変化、寒暖差の大きい日などに症状が悪化しやすくなります。
・喫煙・受動喫煙:タバコの煙は強力な気道刺激物質です。
・職業性因子:特定の職業環境(例:化学物質を扱う仕事)で曝露される物質が原因となることがあります。
・遺伝的要因:喘息には遺伝的な傾向があり、家族歴のある人はリスクが高くなります。
◆『運動をする時に喘息患者が注意すべきこと』について詳しく>>
喘息の症状の特徴として、症状の変動性が大きいことが挙げられます。
つまり、症状が現れたり消えたりを繰り返し、症状の強さも時間とともに変化します。また、夜間や早朝に症状が悪化しやすいのも特徴的です。
さらに、喘息の重症度は患者さんごとによって大きく異なり、軽度から生命を脅かす重度まで幅広く存在します。
軽度の場合は、時々軽い咳や息切れを感じる程度ですが、重度の場合は日常生活に大きな支障をきたし、緊急の医療処置が必要になることもあります。
このような喘息の症状をコントロールするためには、適切な治療と生活管理が不可欠です。
医師の指示に従って、長期管理薬(主に吸入ステロイド薬)と発作治療薬(短時間作用性β2刺激薬など)を正しく使用することが重要だといえます。
また、症状を悪化させる要因を特定し、可能な限り避けることも大切です。
定期的な通院と自己管理を組み合わせることで、多くの喘息患者さんは症状をコントロールし、健康的な生活を送れます。
しかし、症状が持続したり悪化したりする場合は、速やかに呼吸内科をはじめとする医療機関を受診しましょう。
【参照文献】環境再生保全機構『「もしかしてぜん息?」と思っている方へ』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/check.html
【参考文献】”Asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653
2.肥満とはどんな状態?
「肥満」という言葉はよく耳にしますが、具体的にどのような状態を指すのでしょうか?
実は、肥満は単に体重が多いことではなく、体脂肪が過剰に蓄積している状態を意味します。肥満は健康にさまざまな悪影響を及ぼし、喘息の症状を悪化させる要因のひとつです。
ここでは、医学的な肥満の定義と、その主な原因についてご説明します。
2-1. 医学的な肥満の定義
医学的には、肥満は体脂肪が過剰に蓄積した状態と定義されます。肥満度を判断する指標として最もよく使われるのが、BMI(Body Mass Index:体格指数)です。
BMIは以下の式で計算されます。
BMI = 体重(kg) ÷ (身長(m) × 身長(m))
日本肥満学会の基準では、以下のようにBMIによって体型が分類されます。
・低体重(やせ):18.5未満
・普通体重:18.5以上25未満
・肥満(1度):25以上30未満
・肥満(2度):30以上35未満
・肥満(3度):35以上40未満
・肥満(4度):40以上
BMIが25以上の場合、肥満と判定されます。
ただし、BMIだけでは体脂肪の分布や筋肉量を正確に反映できないため、ほかの指標と併せて総合的に判断することが重要です。
また、年齢によってBMIの目標値は異なります。たとえば、高齢者の方の場合は若年者の方よりもやや高めのBMIが望ましいとされています。
これは、加齢に伴う筋肉量の減少や骨密度の低下を考慮しているためです。
【参考文献】”Overweight & Obesity Statistics” by National Institute of Digestive and kidney Diseases
https://www.niddk.nih.gov/health-information/health-statistics/overweight-obesity
2-2. 主な原因
肥満の主な原因は、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスの崩れです。具体的には以下のような要因が挙げられます。
・過食:必要以上のカロリーを摂取すること
・運動不足:日常的な身体活動量が少ないこと
・遺伝的要因:体質や代謝に関わる遺伝子の影響
・環境要因:食生活の乱れや、座りがちな生活様式など
・ストレス:ストレス解消のための過食や、ストレスによるホルモンバランスの乱れ
・睡眠不足:睡眠不足による食欲調整ホルモンの乱れ
・薬物の副作用:一部の薬(ステロイド薬など)による体重増加
とくに現代社会では、加齢により運動量が低下して肥満になることが多くみられます。この傾向には、以下のような要因が関係しています。
・基礎代謝の低下
年齢を重ねるにつれて、基礎代謝量が徐々に低下します。これは主に以下の理由によるものです。
1.筋肉量の減少:加齢に伴い、代謝活性の高い筋肉組織が減少します。
2.臓器の代謝率低下:各臓器における代謝率も年齢とともに低下する傾向があります。
例えば、20歳代の男性(体重70kg)の基礎代謝量が約1680kcalであるのに対し、50歳代では約1505kcalと、1日あたり約175kcalの差が生じます。
このような基礎代謝の低下により、同じ食事量でもエネルギーが余ってしまい、脂肪として蓄積されやすくなります。
・身体活動量の減少
加齢に伴い、全体的な身体活動量も低下する傾向にあります。
1.仕事や家事の忙しさ:現代社会の忙しさから、運動のための時間を確保することが難しくなっています。
2.体力の低下:加齢による筋力や持久力の低下が、活動量の減少につながります。
3.生活様式の変化:自動車での移動増加や外出控えなどにより、日常的な身体活動が減少しています。
研究によると、年齢が上がるにつれて1日のエネルギー消費量(体重当たり)が減少し、身体活動レベル(PAL)も低下する傾向が見られます。
・肥満のリスク増加
これらの要因が複合的に作用することで、高齢者の肥満リスクが高まります。
1. エネルギーバランスの崩れ:基礎代謝の低下と活動量の減少により、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回りやすくなります。
2. サルコペニア肥満:筋肉量が減少しながら脂肪が蓄積される「サルコペニア肥満」のリスクが高まります。
3. 健康リスクの増大:肥満は、喘息以外にもメタボリックシンドローム、転倒、尿失禁、腰痛、膝痛などのリスクを高めます。
【参照文献】日本肥満学会『あなたの肥満、治療が必要な「肥満症」かも!?』
http://www.jasso.or.jp/contents/wod/index.html
【参照文献】厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト『 加齢とエネルギー代謝』
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-07-002.html
3.肥満が喘息に与える影響とは
肥満は喘息の発症リスクを高めるだけでなく、すでに出ている喘息の症状を悪化させる可能性があります。
肥満が喘息に与える主な影響と、発症リスクを高める具体的なメカニズムには以下のようなものがあります。
1.気道の炎症増強
肥満になると、全身に慢性的な炎症が起こりやすくなり、その炎症が気道の炎症をさらに悪化させることがあります。
過敏になった気道は、わずかな刺激でも喘息症状が誘発されやすくなります。
これは、脂肪細胞からはレプチンなどの物質(アディポサイトカイン)が分泌され、炎症反応(好中球性炎症と好酸球性炎症の両方を増強)を引き起こすためです。
とくに、レプチンが増えると、好酸球という炎症細胞の活動が活発になり、気道の炎症が進んでしまいます。これによって、喘息の症状が悪化しやすくなるのです。
2.呼吸機能の低下
体重が過剰になると、胸やお腹周りに圧力がかかりやすくなり、これが呼吸をしにくくする原因になります。具体的には、肥満によって胸郭(胸の骨格)や横隔膜が圧迫され、肺が十分に膨らまなくなります。
さらに、お腹の脂肪が増えると、横隔膜が押し上げられてしまい、呼吸機能が物理的に低下してしまうのです。
こうした影響により、肥満は呼吸のしづらさを引き起こし、喘息の症状を悪化させる要因になります。
4.合併症のリスク増加
肥満は睡眠時無呼吸症候群や胃食道逆流症などの合併症のリスクを高めます。
睡眠時無呼吸症候群を合併している喘息患者さんでは、非合併患者さんと比べて1年間の重症喘息発作の回数が多いことが示されています。
胃食道逆流症を合併した喘息患者さんにおいても、非合併の喘息患者さんよりも喘息増悪の頻度が高いことが報告されています。
5. 治療効果の低下
肥満は、ステロイド吸入薬が効きにくくなるため喘息のコントロールが難しくなります。これは、脂肪組織がステロイドの代謝に影響を与えるためと考えられています。
6.内臓脂肪型肥満の影響
とくに内臓脂肪型肥満が喘息の悪化につながることが知られています。
前述のとおり内臓脂肪から分泌される炎症性物質が、全身の炎症を促進し、気道の炎症も悪化させる可能性があることに加え、気管支周辺の脂肪細胞のすき間に炎症を引き起こす細胞が集まり、喘息を悪化させる可能性があります。
7.気道の構造的変化
お腹の脂肪が増えることで肺の空気の量が少なくなり、気道の筋肉が短く・少なくなることで気道が狭くなるなどの構造的な変化が起こります。
8.酸化ストレスの増加
肥満の人は、体の中で酸化ストレス(体を傷つける物質)が増えやすくなっています。
この酸化ストレスが原因で気道の炎症が悪化したり、ステロイド薬が効きにくくなったりすることがあります。その結果、喘息の症状が重くなりやすくなります。
これらの要因が複合的に作用し、BMIが高くなるほど喘息の発症リスクが高まることが報告されています。
研究によると、BMIが25kg/m2未満の人と比較すると、BMIが25〜30kg/m2の人の喘息発症リスクは1.38倍、30kg/m2より高い場合は1.92倍となり、肥満がすすむほど喘息の発症リスクは高くなっています。
したがって、喘息患者さんにとって適切な体重管理は、症状のコントロールや生活の質の向上において非常に重要です。減量を目指すことで、気道の炎症が治まり、喘息症状の改善が期待できます。
【参照文献】日呼吸誌 8(6),2019『肥満を有する成人喘息患者の病態と治療への展望』
https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/008060365j.pdf
4.生活習慣を見直し肥満を改善しよう
肥満を解消し、喘息症状の改善につなげるためには、日々の生活習慣を見直すことが大切です。ここからは、食事と運動の面から具体的な改善策をご紹介しましょう。
<食事面での改善>
・バランスの良い食事を心がける:主食、主菜、副菜をバランスよく摂り、栄養バランスを整えましょう。
・適切な食事量を守る:一回の食事量を控えめにし、ゆっくりよく噛んで食べることで満腹感を得やすくなります。
・砂糖が多いものを過剰摂取しない:清涼飲料水やスイーツなど、糖分の多い食品を控えめにしましょう。
・食物繊維を積極的に摂取する:野菜、果物、全粒穀物などの食物繊維は、満腹感を与え、消化を助けます。
・睡眠3時間前には食事や間食をしない:夜遅い食事は体重増加につながりやすいため、避けるようにしましょう。
・水分をこまめに摂取する:水やお茶などの糖分を含まない飲み物を積極的に摂りましょう。
<運動面での改善>
・日常生活でからだを動かす機会を増やす:階段を使う、近距離は歩くなど、日常的な活動量を増やしましょう。
・有酸素運動を取り入れる:ウォーキング、ジョギング、水泳など、自分に合った有酸素運動を定期的に行いましょう。
・筋力トレーニングを行う:筋肉量を増やすことで基礎代謝が上がり、脂肪が燃焼しやすくなります。
・継続できる運動を選ぶ:無理のない範囲で、楽しみながら続けられる運動を見つけることが大切です。
・運動前後の準備運動とクールダウンを忘れずに:怪我を防ぎ、効果的に運動するために重要です。
生活習慣の見直しには、以下のような点にも注意が必要です。
・十分な睡眠をとる:睡眠不足は食欲を増進させ、代謝にも悪影響を与えます。
・ストレス管理:ストレスによる過食を避けるため、適切なストレス解消法を見つけましょう。
・アルコールを控える:アルコールは高カロリーで、過剰摂取は肥満につながります。
・定期的に体重を測定する:体重の変化を把握することで、モチベーションの維持につながります。
これらの生活習慣の改善は、一朝一夕には難しいかもしれません。しかし、小さな変化から始めて徐々に習慣化していくことで、長期的な効果が期待できます。
【参考文献】”Obesity” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/obesity/diagnosis-treatment/drc-20375749
5.おわりに
肥満は喘息の発症や症状悪化のリスクを高めますが、適切な生活習慣の改善で症状のコントロールが期待できます。
無理のない食事や運動などの健康的な生活習慣で少しずつ体重を管理し、医師の指示に従った治療や服薬を続け、ご自分に合った方法で健康を目指しましょう。