診療時間
ご予約・ご相談はこちらから

ゴールは?喘息患者の喘息治療

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

喘息治療を続けていると「いつまで続ければいいのだろう」、「治療のゴールはあるのかな」と不安に思うでしょう。

喘息治療のゴールは、「発作を起こさないこと」と「健常者と変わらない生活が送れるようになること」です。

そのためには根気よく治療を続けることが大切です。しかし、モチベーションが続かない場合もあるでしょう。

今回の記事では、喘息治療のゴールについて、治療目標や治療方法について詳しく解説します。

治療を続けていくと、モチベーションが下がったり不安になったりしますね。そのような方は、前向きに治療に取り組めるよう、ぜひ参考にしてください。

1. 喘息治療のゴールについて


喘息は、気道に慢性的な炎症が起き、呼吸が苦しくなったり咳が止まらなくなったりする病気です。

記事の冒頭でも述べたように、喘息治療の最終的なゴールは、「発作を起こさないこと」と「健常者と変わらない生活が送れるようになること」です。

喘息をコントロールし、生活の質を向上させるために、正しい治療を続けていきましょう。しかし、治療を続けるためには目標がないと継続することが難しいです。

ここでは、喘息治療のゴール(目標)について解説します。

◆喘息とは?について>>

1-1.喘息治療の目標とは

患者さんが喘息発作を起こさず、日常生活を快適に過ごせるようにすることが喘息治療の最終目標といえます。

そのためには、次のような具体的な目標が設定されます。

・発作を起こさず症状をコントロールすること
・薬を正しく使用し副作用を最小限にすること
・肺機能を維持すること

それぞれ詳しく内容を紹介します。

【発作を起こさず症状をコントロールすること】
発作を起こさず症状をコントロールすることは、日常生活を快適に過ごすために非常に重要です。

喘息の発作が起きると、気道がかなり細くなり、呼吸が困難になります。

夜間の喘息の症状が原因で睡眠が損なわれ、日中も快適に活動できなくなります。仕事や学校、趣味など日常生活に支障が出るでしょう。

そのため、治療の一番重要な目標は、「発作を予防し、快適な日常生活を確保すること」です。

また、喘息発作を繰り返すことで、気道のリモデリングが起こる可能性があります。

気道のリモデリングとは、気道の炎症が慢性的に続くことで、気道壁が肥厚し内腔がさらに狭くなる状態です。リモデリングは不可逆的なため、気道は元の状態には戻りません。そのため、喘息の状態も悪化していきます。

喘息の発作を起こさないようコントロールすることは日常生活を快適に過ごすだけでなく、喘息の悪化予防のためにも大切です。

◆喘息発作が起きたときの対処法について>>

◆喘息発作を起こさない為に大切な習慣>>

【薬を正しく使用し副作用を最小限にすること】
薬を正しく使えば、「喘息の発作を起こさないようコントロールすること」や「喘息の悪化を防ぐこと」ができます。

薬を正しく使用するために、以下のポイントを押さえておきましょう。

・医師の指示通り薬を使用する
・症状が落ち着いていても独断で中止や減薬しない
・定期的に受診する

処方された薬はすべて医師の指示通り服用しましょう。

「症状が落ち着いているから減らしてみよう」「発作も出なくなったし薬やめてしまおう」など、独断で調整してはいけません。

必ず医師に体調や発作の状況を伝え、医師と相談しながら薬の調整をすることが大切です。

また、薬には必ず副作用があります。特に、炎症を抑える効果があるステロイド薬は副作用に注意しましょう。

経口ステロイド薬や注射薬の使用は、全身に影響を及ぼすため、体重増加や高血圧、糖尿病、脂質異常症、感染症、骨粗しょう症など起こしやすくなります。

定期的な検査を受け、副作用の早期発見に努めましょう。

吸入ステロイド薬は、気道のみに作用する薬のため、副作用も最小限に抑えられます。しかし、副作用が全くないわけではなく、声枯れや口の中にカンジダと呼ばれるカビが発生するケースがあります。

これらの副作用は、吸入後にうがいをすることで予防が可能です。

【肺機能を維持すること】
肺機能を維持するためには、生活習慣の改善や感染症の予防が大切です。

生活習慣の改善には、以下のポイントがあります。

・禁煙する
・ストレスをためない
・十分な睡眠
・適度な運動
・アレルゲンの排除

また、風邪やインフルエンザなどの感染症の予防は、肺機能を維持し喘息悪化の予防には重要です。

感染症流行時期には、手洗いやうがい、マスクの着用、予防接種など、感染症にかからないよう心掛けましょう。

◆喘息予防に有効なマスクの種類について>>

◆インフルエンザについて>>

◆風邪について>>

【参考情報】『成人ぜん息の治療、治療の全体図』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/index.html

1-2.喘息治療。いつまで続けるべき?

喘息治療は、いつまで続けるべきかと不安に感じる方もいるでしょう。

高血圧や糖尿病と同様で、喘息は慢性的な病気のため完治することはありません。しかし、症状が全く出ない場合や検査で問題がない場合は、症状のコントロールができていると考えられます。

良好な状態が維持できていれば、薬を減らしたり治療の中止が検討できたりするケースがあります。

症状を良好にコントロールするためには、医師の指示に従い継続した治療が大切です。

症状が落ち着いていても自己判断で服薬を中断してはいけません。症状の悪化を招く可能性があります。

薬を減らしたい場合には、必ず医師に相談しましょう。

2.主な喘息の治療法3つ


喘息治療は、主に以下の3つの方法で治療を進めていきます。

・薬物療法
・運動療法
・心理療法

それぞれの治療法について解説します。

2-1.薬物療法

喘息の薬は、「長期管理薬(コントローラー)」と「発作治療薬(リリーバー)」に分けられます。

【長期管理薬(コントローラー)】
長期管理薬とは、気道の炎症を抑え、発作が起こらないようにする薬です。長期間使うことで効果があらわれるため継続した服薬が大切です。

長期管理薬には以下のような種類があります。

・副腎皮質ステロイド薬
・長時間作用性β2刺激薬
・吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬配合剤
・ロイコトリエン受容体拮抗薬
・テオフィリン徐放製剤
・長時間作用性抗コリン薬
・ロイコトリエン受容体拮抗薬以外の抗アレルギー薬

これらの薬は、吸入薬や内服薬、貼付薬など、形状はさまざまで、状態に合わせ使用する薬を選びます。

長期管理薬を長期間使用しても効果ないときは、喘息以外の病気が考えられます。そのような場合は、医師に相談しましょう。

【発作治療薬(リリーバー)】
発作治療薬とは、発作が起きた際、気管支を広げ発作を鎮めるために使用する薬です。使用後、効果はすぐにあらわれます。

発作治療薬には以下のような種類があります。

・短時間作用性β2刺激薬
・テオフィリン薬

薬の形状は、吸入薬と内服薬です。

長期管理薬を使わず発作治療薬だけで対処していると、気道の炎症が進み喘息が悪化するため、注意しましょう。

【参考情報】『成人ぜん息の基礎知識 治療』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/medicine.html

【参考文献】”Asthma medications: Know your options” by MayoClinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/in-depth/asthma-medications/art-20045557

2-2.運動療法

喘息の方は、心肺機能の維持と基礎体力向上のため、適度な運動を行いましょう。

適度な運動は、喘息発作の予防につながります。

運動療法を取り入れる場合、以下のことに注意してください。

・運動の種類や強度は自身に合った段階から始める
・ウォーミングアップを行い急に運動を始めない
・合間に水分摂取と休憩を忘れない
・運動療法を始める前には医師に相談する

喘息の方には、水泳やウォーキングがおすすめです。

水泳は、湿度が保たれた環境のため、気道への刺激が少なく発作が出にくいとされています。また、ウォーキングは運動強度を調整しやすく、適度な有酸素運動ができます。

そのほか、ヨガやピラティス、ゆっくりとしたサイクリングなども良いでしょう。

ただし、運動誘発喘息(EIA)には注意が必要です。

運動誘発喘息とは、激しい運動により一時的に気道が収縮し、喘息発作を起こします。

以下は運動誘発喘息の特徴です。

・運動をすると咳が出る
・運動すると息苦しくなる
・運動を始めるとヒューヒューする

運動中に症状が出はじめるケースと運動後しばらくしてから症状があらわれるケースがあります。

症状があらわれた場合、発作止めの薬を吸入し、楽な姿勢で休みましょう。

【参考情報】『気管支ぜん息と運動療法』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/local_government/pdf/swimming_man3.pdf

【参考文献】”Exercise-induced asthma” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/exercise-induced-asthma/diagnosis-treatment/drc-20372306

◆喘息と運動について>>

2-3.心理療法

過労や過度のストレスは喘息発作を起こしやすくすることがわかっており、喘息発作と心理的な状態は密接に関連しています。

そのため、薬物療法や運動療法と併用して、心理療法も重要な喘息治療のひとつです。

たとえば、仕事や学校でのプレッシャー、人間関係の悩みなど、心の負担が大きい場合には喘息の症状が強くあらわれるケースがあります。

また、喘息発作への不安や恐怖、息苦しさへの過剰な意識が症状を悪化させる悪循環が起こることも少なくありません。

このような場合、心理療法が精神的な状態を整え、喘息の症状を軽減するのに役立ちます。

以下は心理療法の種類です。

・認知行動療法
・ストレス管理
・心理カウンセリング

これらの治療を組み合わせ、心理的なサポートを行います。

ストレスや不安を軽減し、症状への正しい対処法を身につけることで、喘息の症状をコントロールし、良い状態を維持できます。

「ストレスや心理的な負担が喘息に影響しているかも」と感じる方は、カウンセリングや心理療法を検討してみましょう。

【参考文献】”Stress & Asthma” ClevelandClinic
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/9573-stress–asthma

3.おわりに

喘息の治療中、「ゴールはどこなのか」「終わりはあるのか」と不安になる方もいるでしょう。

喘息治療のゴールは、「発作を起こさないこと」と「健常者と変わらない生活が送れるようになること」です。

喘息は慢性的な病気のため完治することはありません。

しかし、症状のコントロールができていれば、薬を減らしたり治療の中止が検討できたりするでしょう。そのためには、医師の指示を守り、根気よく治療を続けることが大切です。

喘息治療に対し、不安や疑問がある場合には早めに担当医師へ相談しておくと安心です。

記事のカテゴリー

診療時間
アクセス