知っておきたい、咳止め薬の種類
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

「咳が続いてつらい…」そんな経験はありませんか?
咳は体を守るための重要な防御反応ですが、長引くと体力や気力を消耗し、生活の質を大きく損なうことがあります。
特に夜間の咳は眠りを妨げ、翌日の仕事や家事にも悪影響を及ぼします。
そんなとき頼りになるのが咳止め薬ですが、咳止めの選び方や使い方にはいくつかのポイントがあります。
この記事では、市販薬と処方薬の違いや効果的な使い方、気をつけたい注意点をご説明いたします。
1. 処方箋不要。市販の咳止め薬
市販の咳止め薬は、薬局やドラッグストアで手軽に購入できるため多くの方に利用されています。
しかし、自己判断で服用することは避け、必ず医師や薬剤師に相談してから使用することが大切です。ここでは、代表的な市販の咳止め薬をご紹介いたします。
1-1.プレコール持続性カプセル
プレコール持続性カプセルは、風邪やインフルエンザによる咳や痰を和らげるために使用される総合感冒薬です。主な有効成分には、以下のものがあります。
・デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物(鎮咳成分)
・dl-メチルエフェドリン塩酸塩(気管支拡張成分)
・グアイフェネシン(去痰成分)
これらの成分が組み合わさることで、咳を抑えるだけでなく痰を出しやすくする効果も期待できます。
最大の特徴は、1日2回の服用で効果が持続する点です。そのため、忙しい方や夜間に咳が出やすい方にとって、便利な選択肢となります。
また、持続性カプセルなので、一度服用すれば長時間にわたって効果が期待できるため、仕事や学業で忙しい方におすすめです。
服用する際には箱に記載されている注意点を確認し、用量・用法を守って服用しましょう。
【参照文献】第一三共ヘルスケア株式会社『一般用医薬品 : プレコール持続性カプセル』
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_otc?japic_code=K1103000016
【参考文献】”OTC Cough Medicines: What’s Your Best Choice?” byCleveland Clinic
https://health.clevelandclinic.org/cough-syrup-cough-drops-menthol-rub-whats-best-for-my-cough
1-2. 麦門冬湯
麦門冬湯(ばくもんどうとう)は、以下の症状に効果がある漢方薬として知られています。
・空咳
・気管支炎
・気管支喘息
・咽頭炎
・しわがれ声
特に、痰が切れにくく、喉が乾燥しているような状態に適しています。
麦門冬湯は主に6種類の生薬で構成されています。それぞれが異なる作用を持ち、組み合わせることで相乗効果を発揮します。
・麦門冬:喉の乾燥感を和らげ、痰を出しやすくする。
・半夏(はんげ):去痰作用。
・粳米(こうべい):消化機能を助ける。
・大棗(たいそう):滋養強壮作用。
・人参(にんじん):体力を補う。
・甘草(かんぞう):炎症を抑え、全体の調和を図る。
上記の生薬により、気道や喉を潤し、粘膜を保護することで咳を鎮め、痰の切れを良くします。体全体のバランスを整えることで、自然な治癒力を引き出す漢方特有のアプローチです。
体力が中等度以下で、痰が切れにくく、咳が強い方が適応する方です。また、喉の乾燥感を伴う症状がある方にも効果が期待できます。
妊娠中や授乳中の方、高齢者、体力が低下している方、持病がある方、他の薬を服用中の方は、服用前に必ず医師や薬剤師に相談しましょう。
副作用として、発疹や胃部不快感などの症状が現れることがあります。このような場合は、速やかに服用を中止し、医療機関を受診してください。また、生後3カ月未満の乳児には使用できません。
空咳の症状改善を目的としては、1週間を目安に服用するのが効果的です。もし症状が改善しない場合や悪化した場合には、医師や薬剤師に相談しましょう。
なお、効果が現れるまでに時間がかかることがあるため、急性の症状には適さない場合もあります。状況に応じて使用を検討することが重要です。
【参照文献】株式会社ツムラ2023年12月改訂(第 1 版)『漢方製剤バク モン ドウ トウ ツムラ麦門冬湯エキス顆粒(医療用)』
https://medical.tsumura.co.jp/products/029/pdf/029-tenbun.pdf
1-3. アネトン咳止め液
アネトン咳止め液は、さまざまな原因で起こる咳を鎮め、痰を切れやすくする医薬品です。爽やかなレモンティー風味で飲みやすい液剤として、多くの方に利用されています。
特徴は以下になります。
・効果的な成分配合
コデインリン酸塩水和物を配合し、強力な鎮咳効果を発揮します。
・飲みやすい液剤
レモンティー風味の淡褐色透明の液剤で、味わいがよく服用しやすいのが特徴です。
・計量カップ付き
正確な量を測りやすい計量カップが付属しているので、使い勝手が良いです。
【効能・効果】
咳・たんの症状を改善します。
用法・用量
年齢に応じて、以下の量を服用してください。
成人(15歳以上)
・1回10mLを服用。
・1日3回が基本。症状に応じて約4時間の間隔を空け、1日最大6回まで服用可能。
12歳以上15歳未満
・1回6.5mLを服用。
・1日3回が基本。症状に応じて約4時間の間隔を空け、1日最大6回まで服用可能。
12歳未満
・服用できません。
【注意事項】
用法・用量を必ず守って服用してください。
小児に服用させる場合は、保護者の指導監督のもとで行ってください。
【成分と働き】
以下が、主な成分と働きです。
・コデインリン酸塩水和物(50mg)
咳中枢に作用し、咳を鎮める優れた効果があります。
・dℓ-メチルエフェドリン塩酸塩(75mg)
気管支を拡張し、気管支のけいれんを抑えることで咳を和らげます。
・クロルフェニラミンマレイン酸塩(12mg)
抗ヒスタミン作用により、アレルギー性の咳を改善します。
・無水カフェイン(60mg)
頭痛や不快感を軽減し、眠気を抑える働きがあります。
・セネガ流エキス(1500mg)
気道粘液の分泌を促進し、たんを薄くして出しやすくします。
【注意事項】
服用した場合、糖尿病の検査値に影響を与える場合があるので、検査を受ける際には医師に相談してください。
【参照文献】アリナミン製剤株式会社『アネトンせき止め液の特徴・効能』
https://alinamin-kenko.jp/products/chingai_kyotan/aneton_liq.html
【参照文献】日経メディカル『鎮咳薬(非麻薬性)』
https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/drugdic/article/556e7e5c83815011bdcf82f2.html
2. 処方箋が必要な咳止め薬
処方箋が必要な咳止め薬は、市販薬よりも強力な効果が期待できる反面、副作用も高くなる可能性があります。ここからは、代表的な処方薬を紹介しましょう。
2-1. リン酸コデイン
リン酸コデインは、中枢神経系に作用して強力な鎮咳効果を持つ麻薬性鎮咳薬です。主な効能として、激しい咳を抑えることと疼痛緩和があります。このため、一部では痛み止めとしても使用されます。
以下に、詳しくご説明いたします。
【効能・効果】
・各種呼吸器疾患における鎮咳・鎮静
・疼痛時における鎮痛
・激しい下痢症状の改善
【作用機序】
リン酸コデインは以下のように作用します。
・延髄の咳嗽中枢に直接作用して咳反射を抑制
・鎮痛作用を示す
・腸管ぜん動運動を抑制し、下痢を抑える
【用法・用量】
通常、成人では、1回あたり2g(主成分として20mg)、1日あたり最大6g(60mg)です。ただし、疾患の種類や症状の程度、患者の年齢などに応じて適宜調整される場合があります。
【重要な注意事項】
・喘息発作時には禁忌
・依存性:連用により薬物依存が生じる可能性があります。急激な減量や中止により退薬症候が現れることがあるため、徐々に減量する必要があります。
・呼吸抑制:重大な副作用として呼吸抑制があります。息切れや呼吸異常が現れた場合は直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
・12歳未満の小児への使用制限:重篤な呼吸抑制のリスクが高まるため、12歳未満の小児には投与できません。
・妊婦・授乳婦への注意:妊婦または妊娠の可能性がある女性には、治療上の有益性が危険性を上回る場合にのみ投与します。授乳中の女性は授乳を避ける必要があります。
・アルコールとの相互作用:アルコールとの併用で呼吸抑制、低血圧、顕著な鎮静または昏睡が起こる可能性があります。
【副作用】
主な副作用には以下のものがあります。
・循環器系:不整脈、血圧変動、顔面潮紅
・精神神経系:眠気、めまい、視調節障害、発汗
・消化器系:悪心、嘔吐、便秘
・そのほか:発疹、そう痒感、排尿障害
重大な副作用
・錯乱、せん妄
・無気肺、気管支痙攣、喉頭浮腫
・麻痺性イレウス、中毒性巨大結腸(特に炎症性腸疾患の患者さんの場合)
リン酸コデインの使用にあたっては、これらのリスクと効果を十分に理解し、医師の指示に従って適切に服用することが重要です。
とくに、運転や機械操作時の注意、アルコールとの併用を避けること、長期使用による依存性のリスクに注意が必要です。
【参照文献】日医工株式会社『コデイン系製剤 劇薬 日本薬局方 コデインリン酸塩散1% リン酸コデイン散1%「日医工」』
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00060833.pdf
2-2. チペピジン(商品名:アスベリン)
チペピジンは、非麻薬性の鎮咳去痰薬であり、咳を抑える効果と痰を切りやすくする効果を併せ持っています。
そのため、風邪や気管支炎など、幅広い呼吸器疾患に使用されます。呼吸抑制のリスクが低く、赤ちゃんから成人まで幅広い年齢層に使用可能です。
以下に、詳しくご説明いたします。
【効能・効果】
・各種呼吸器疾患における鎮咳・去痰
・適応症:風邪、気管支炎、肺炎、肺結核、上気道炎、気管支拡張症など
【作用機序】
チペピジンは以下のように作用します。
・鎮咳作用:咳中枢の活動を抑制し、咳反射を軽減します。
・去痰作用:気道分泌物を増加させ、気道粘膜の線毛運動を促進することで痰を切りやすくします。
【用法・用量】
通常、成人の場合は以下の量が用いられます。
1日60mg〜120mg(チペピジンヒベンズ酸塩として66.5〜132.9mg)を3回に分けて経口投与します。
年齢や症状に応じて、適宜増減されます。
【剤形と用量】
錠剤
・アスベリン錠10:成人1回2〜4錠
・アスベリン錠20:成人1回1〜2錠
ドライシロップ(アスベリン散10%)
・1歳未満:1日0.05〜1.2g
・1歳以上3歳未満:1日0.1〜0.25g
・3歳以上6歳未満:1日0.15〜0.4g
・成人:1日0.6〜1.2g
シロップ
・1歳未満:1日1〜4mL
・1歳以上3歳未満:1日2〜5mL
・3歳以上6歳未満:1日3〜8mL
・成人:1日12〜24mL
【特徴】
非麻薬性であるため、呼吸抑制のリスクが低い安全な薬です。赤ちゃんから成人まで、幅広い年齢層に使用されます。
【副作用】
主な副作用には以下があります。
・精神神経系:眠気、興奮
・消化器系:便秘、下痢、胃の不快感
【重要な注意事項】
・服用量を守ること:過剰服用は副作用を引き起こす可能性があるため、用量を厳守してください。
・妊娠中・授乳中:使用前に医師へ相談が必要です。
・シロップ剤の扱い:使用前にゆっくり振ってから服用してください。
・尿の変色:服用により尿が赤くなることがありますが、これは一時的で心配不要です。
チペピジンは、リン酸コデインなどの麻薬性鎮咳薬と比較して依存性がなく、呼吸抑制のリスクが低い安全性の高い薬です。特に、乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層に使用できる点が特徴です。医師の指示を守り適切に使用してください。
【参照文献】ニプロ株式会社 『鎮咳剤 日本薬局方 チペピジンヒベンズ酸塩錠』
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00050617.pdf
2-3. デキストロメトルファン(商品名:メジコン)
デキストロメトルファンは、非麻薬性の鎮咳成分で、咳を抑える作用があり、依存性が低いことが特徴です。以下に、詳しくご説明いたします。
【効能・効果】
・各種呼吸器疾患における鎮咳
・感冒、急性気管支炎、慢性気管支炎、肺炎、肺結核などに伴う咳の改善
【作用機序】
延髄の咳中枢に直接作用し、咳反射を抑制することで鎮咳効果を発揮します。
【特徴】
・非麻薬性のため、依存性が少ない。
・比較的穏やかな作用で便秘などの副作用が少ない。
・痰を伴う咳にも適している。
【用法・用量】
成人の場合、通常1日60〜120mgを3回に分けて経口投与します。症状や年齢に応じて適宜調整が必要です。医師の指示に従い服用してください。
【副作用】
主な副作用には以下があります。
・精神神経系:眠気、頭痛、めまい
・消化器系:悪心、嘔吐、便秘
・皮膚:発疹
【重要な注意事項】
服用中の注意
デキストロメトルファンを服用中は、自動車の運転や危険を伴う機械操作を控えてください。
薬物相互作用
・CYP2D6阻害薬(キニジン、アミオダロン、テルビナフィンなど)との併用により、血中濃度が上昇する可能性があります。
・セロトニン作用薬(抗うつ薬など)との併用により、セロトニン症候群のリスクがあるため、併用時は医師に相談してください。
【参照文献】シオノギファーマ株式会社『鎮咳剤 デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物製剤』
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00052400.pdf
4. おわりに
咳止め薬には市販薬と処方薬があり、それぞれ特徴があります。市販薬は手軽に入手できますが効果が緩やかで、処方薬は強力な効果が期待できる反面、副作用に注意が必要です。
市販薬で症状が改善しない際や長引く場合は、早めに呼吸器内科への受診を検討しましょう。適切な診断と治療を受けることで、症状の早期改善が期待できます。自己判断せず、医師や薬剤師と相談しながら治療を進めることが大切です。