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喘息発作が起きたときの対処法と予防について

医学博士 安齋 千恵子
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

突然起こる喘息発作は、適切な応急処置を行うことで症状の悪化を防ぐことができます。

喘息の方にとって突然の発作はとても不安で、どなたでもパニックになってしまう可能性があります。どのように応急処置をするかを事前に知っておくことが、ご自身や周りの大切な方を守る第一歩です。

この記事では、発作が起きたときに慌てず対処するための方法や、日常生活で気をつけるべき予防策についてご説明いたします。とくに、どの段階の発作であっても「何をすればいいか」をしっかり押さえておくことが大切です。

1. 喘息発作の種類と特徴


喘息発作は、大きく分けて「小発作」「中発作」「大発作」の3つの段階に分類されます。

それぞれの発作には特徴があり、適切な対応をすることで、症状の悪化を防ぎ早期の回復を目指すことができます。

ここからは、それぞれの発作の特徴や適切な対処法についてご説明しましょう。

1-1. 小発作

小発作は、喘息発作の中では比較的軽度の症状です。息苦しさは感じるものの、横になれる状態で、日常生活に大きな支障はありません。

【小発作の主な特徴】
・軽い息切れや喘鳴(「ゼーゼー」や「ヒューヒュー」といった音)が聞こえる
・会話や日常動作には問題がない
・苦しいが横になれる
・血中酸素飽和度(SpO2)が96%以上

【小発作の対処法】
1. 安静にする
息苦しさを感じたら、まずは座ったり横になったりしてからだを落ち着かせましょう。

2.気管支拡張薬を吸入する
医師から処方された短時間作用性β2刺激薬(一般的に「吸入薬」と呼ばれるもの)をすぐに使用します。

3.様子をみる
薬を吸入後、楽な姿勢で15〜20分程度様子をみます。多くの場合、この時点で症状は改善します。

4.症状が改善しない場合
20〜30分経っても改善しない場合は、再度吸入を行います。それでも効果がない場合は中発作への進行が疑われるので、医療機関を受診しましょう。

1-2. 中発作

中発作は、小発作よりも重い状態で、日常生活に支障が出るレベルの息苦しさを伴います。

【中発作の主な特徴】
・呼吸が非常に苦しく、横になれない。楽な姿勢を取る必要がある
・会話が途切れがちになる
・日常の動作が困難になる
・SpO2が91〜95%に低下する

【中発作の対処法】
1.楽な姿勢を取る
椅子に座って机に腕を置き、前かがみになるような体勢を取ると呼吸が楽になります。腹部を圧迫しないように注意しましょう。

2.気管支拡張薬を使用する
短時間作用性β2刺激薬を20分おきに2〜3回吸入します。

3.改善しない場合
薬で症状が改善しない場合や、悪化する兆候がある際は、すぐに医療機関を受診します。とくに自力で移動が困難な場合は、迷わず救急車を呼びましょう。

1-3. 大発作

大発作は最も重症な状態で、放置すると命に関わる危険があります。

【大発作の主な特徴】
・呼吸が非常に困難で、動けない。話すことも難しい
・意識がもうろうとする場合がある
・SpO2が90%以下に低下する

【大発作の対処法】
1.救急車を呼ぶ
ただちに119番通報を行い、救急車を要請します。

2.気管支拡張薬を吸入する
救急車が到着するまでに、可能であれば薬を吸入します。

3.呼吸が止まった場合
呼吸が止まったり意識がない場合は、心肺蘇生を開始します。周囲に人がいれば協力を求め、できるだけ迅速に対応します。

【参照文献】環境再生保全機構 『成人喘息  発作が起こったら…』
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/attack.html

【参考文献】”Asthma attack” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma-attack/symptoms-causes/syc-20354268

◆喘息発作が起きたらどうする?段階別の対処法>>

2. 発作時の応急処置


発作が起きたときの適切な応急処置を知っていると、症状を和らげることが可能です。

パニックにならないためにも、あらかじめ準備しておくことが大切です。状況に応じた応急処置について、ご説明いたします。

2-1. 気管支拡張薬がある場合

医師から処方されている気管支拡張薬は発作時に非常に有効です。

【応急処置の手順】
1.落ち着いて安静にする
息苦しさを感じたら、まず深呼吸をし気持ちを落ち着けます。

2.薬を使用する
短時間作用性β2刺激薬を吸入します。

3.様子をみる
吸入後、楽な姿勢で15〜20分ほど症状の経過を観察します。

4.再吸入する
症状が改善しない場合は、20分おきに最大3回まで吸入を繰り返します。それでも改善しない場合は医療機関を受診しましょう。

2-2. 気管支拡張薬がない場合

喘息発作のときに気管支拡張薬がない場合は、下記のような方法で症状を楽にすることが可能です。

これらはあくまでも一時的な対処法であり、症状が改善しない場合や悪化する場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。

【応急処置の手順】
1. 安静にする
まずは焦らず、安静を保つことが大切です。息苦しさを感じたら、からだが楽な姿勢をとりましょう。
寝ている場合は横向きになり、座っている場合は背もたれに軽く寄りかかったり前かがみになったりなど、自分が最も呼吸しやすい姿勢を見つけましょう。

2. 腹式呼吸を試す
呼吸を整えるために、腹式呼吸を行います。

・鼻からゆっくり息を吸い、お腹を膨らませます
・その後、口をすぼめてゆっくりと息を吐き切ります

この繰り返しにより、呼吸を落ち着かせることができます。発作時は恐怖心から呼吸がさらに乱れやすくなりパニックになりやすいため、呼吸法を意識することが役に立ちます。

落ち着いた音楽をかけたり、静かな環境を作ることで、気持ちを落ち着けましょう。

【参考文献】”How to use breathing exercises to improve asthma” by UCLA Health
https://www.uclahealth.org/news/article/how-use-breathing-exercises-improve-asthma

3. 常温または温かい飲み物で水分補給
喉や気道を潤すことで、呼吸を少し楽にすることができます。

・常温または温かい飲み物を少しずつ飲みましょう。お茶や紅茶、コーヒーといったカフェインを含む飲み物は、交感神経を刺激することで気道を一時的に広げる作用が期待できます。ただし、冷たい飲み物や炭酸飲料は気道の粘膜を刺激するため避けてください。

4. 刺激物を避ける
発作中はタバコの煙や強い香り、ホコリなどの刺激物が症状を悪化させる可能性があります。そのような場所は避け、窓を開けて新鮮な空気を取り入れるようにしましょう。

5. 温かいタオルやスチームを活用
首や胸に温かいタオルを当てたり、お湯を沸かして湯気を吸い込んだりすることで気道が広がり、呼吸が少し楽になることがあります。

6.加湿する
空気が乾燥している場合は加湿器を使ったり、お湯を沸かして湿度を上げると気道が楽になることがあります。

3. 喘息発作の予防方法


喘息の発作を防ぐためには、日頃からの予防がとても大切です。簡単にできる生活習慣の改善や、周囲の環境を整えることで、発作のリスクを大幅に減らすことができます。

ここからは、具体的な予防方法についてご説明します。

3-1日常生活でできる予防策

1. 毎日の服薬を忘れない
喘息治療で最も基本となるのが、医師から処方された長期管理薬の継続的な使用です。これらの薬は、気道の炎症を抑え発作を予防する効果があります。

【対策方法】
・「症状が落ち着いているから」といって自己判断で薬を中断しないこと
・使用法や吸入器のメンテナンス(洗浄など)を正しく行う
・薬の残量を定期的に確認し、切らさないように注意する

2. アレルゲンを避ける
喘息発作の引き金となるアレルゲン(ハウスダスト、花粉、ペットの毛など)を把握し、できる限り接触を避けることが重要です。

【対策方法】
・掃除をこまめに行う
掃除を定期的に行いましょう。掃除機の使用後は、床拭きを行うと効果的です。カーテンやソファなどの布製品も定期的に洗濯しましょう。

・寝具の清潔を保つ
布団や枕カバーは週に1回以上洗濯し、しっかり乾燥させましょう。ダニやカビの発生を防ぐために、湿気対策も重要です。

・ペットの管理
ペットを飼っている場合は、毛が散らないように掃除を徹底し、寝室に入れないようにしましょう。

◆ペットの飼育と喘息の関係>>

【参考文献】”Cleaning Tips for Allergy and Asthma Sufferers” by Allergy Asthma&lmmunology
https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/conditions-library/allergies/cleaning-tips-for-allergy-and-asthma-sufferers

◆アレルギーと喘息>>

3. 禁煙・受動喫煙を避ける
喫煙や周囲のタバコの煙は、気道を強く刺激し喘息を悪化させる大きな要因です。

【対策方法】
・喘息を持っている方は完全禁煙を目指しましょう
・ご家族やご友人が喫煙者の場合も、室内での喫煙を控えてもらうようお願いする

【参考文献】”The Health Effects of Smoking with Asthma” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/asthma/learn-about-asthma/what-causes-asthma/smoking-with-asthma

4. 規則正しい生活
十分な睡眠と適度な運動を心がけ、体調を整えることで発作のリスクを減らします。

・睡眠
睡眠不足や寝る時間が不規則になると免疫力が低下し、喘息が悪化しやすくなります。

・運動
激しい運動は控え、無理のない範囲で軽いウォーキングやストレッチなどを取り入れると良いでしょう。

【感染症の予防】
風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症は、喘息発作の大きな引き金になります。感染症を防ぐための基本的な対策を徹底しましょう。

1. 手洗い・うがいを徹底する
外出先から帰宅したら、まず手洗い・うがいを行いましょう。とくに冬場や感染症が流行している時期は重要です。

2. 予防接種を受ける
感染症対策のワクチンを適切に接種することで、感染リスクを大幅に減らせます。主治医に相談の上、必要な予防接種を受けましょう。

3. マスクの着用
風邪が流行している季節や、人混みが多い場所ではマスクを着用して感染を防ぎます。寒い時期の外出時には、冷たい空気から気道を守る効果も期待できます。

◆喘息発作予防とマスクの種類について>>

【適切な運動習慣】
適度な運動は喘息のコントロールに有効ですが、運動の方法には注意が必要です。

1. ウォーミングアップをする
運動の前に準備運動を行うことで、急激な呼吸の乱れを防ぎます。

2. 運動中の注意
運動中に息苦しさを感じた場合は、すぐに中断して安静にしましょう。

3. 医師に相談する
運動誘発性喘息の傾向がある場合は、主治医と相談し、自分に適した運動方法や頻度を決めましょう。

◆喘息と運動について>>

【健康的な生活習慣の維持】
喘息の発作を防ぐためには、生活習慣を整え、免疫力を高めることが必要です。

1. バランスの取れた食事
栄養バランスを考えた食事を心がけましょう。とくに、新鮮な野菜や果物、魚類に含まれるオメガ3脂肪酸などを積極的に摂取すると良いでしょう。逆に、加工食品や高脂肪食品の摂取は控えるのがおすすめです。

2 ストレス管理
ストレスは喘息を悪化させる大きな要因です。自分に合ったリラクゼーション法(音楽を聴く、ヨガをするなど)を取り入れて、日常的にストレスを軽減しましょう。

喘息発作の予防には、一つひとつの取り組みが重要です。無理なく続けられる方法から始めて、ご自分に合った生活習慣を整えていきましょう。予防の積み重ねが、発作を予防するのに役立ちます。

◆喘息発作を起こさない為の大切6つの習慣>>

4. 喘息管理のための定期的な医療サポート


喘息と上手に付き合っていくためには、日々の自己管理だけでなく、医師と協力した定期的な医療サポートが欠かせません。

喘息は「症状が出ていないときこそ油断してしまいやすい病気」ですが、これが悪化の原因になることもあります。症状が出ていなくても、定期的に医療機関を受診することで、発作のリスクを減らし、健康を保つことができます。

一方で、喘息の症状がある方の中には、定期的に通院していない方もいらっしゃるのが現状です。これは、「症状が改善したからもう大丈夫」と考えてしまう方が多いからかもしれません。

実際には気道の炎症が残っている場合があります。この炎症を抑えないと、突然の発作や症状悪化のリスクが高まるのです。繰り返しにはなりますが、症状がないからといって安心せず、定期通院を続けることが重要です。

医療機関での定期的な診察では、喘息の状態を総合的に評価し、より良いコントロールを目指すための治療を行うことが可能です。代表的な内容としては、以下のようなものがあります。

1. コントロール状態の評価
・呼吸機能検査(スパイロメトリーなど)を実施し、肺の状態を数値で確認します。
・「喘息コントロールテスト」などの質問票を使って、患者さんご自身の体調や症状について評価します。これにより、症状が現れていない場合でも、問題が隠れていないかをチェックできます。

2. 継続的な薬物療法
・長期管理薬として吸入ステロイド薬(ICS)やロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)などが処方されます。これらは気道の炎症を抑えるための基本的な治療薬です。
・症状の変化に応じて薬の量や種類を調整します。これにより、必要以上の薬を避けつつ、適切な治療が行えます。

3. 喘息講座
・喘息に関する正しい知識を医師や看護師から学べます。たとえば、「症状がなくても炎症は残っている可能性がある」ことや、「薬を止めると発作リスクが高まる」という事実を理解することで、自己管理への意識が高まります。
・発作を予防するための生活習慣や環境整備についてのアドバイスを受けられます。

4. 発作予防と特定症状への対応
・季節ごとの症状悪化(冬や春は特に注意)の事前対策を立てられます。
・夜間の咳や特定の症状への対応方法を教わることで、不安を減らせます。

5. 定期的な肺機能検査
・肺機能検査を定期的に行うことで、気道の状態を詳しく把握できます。喘息がどの程度コントロールされているかを客観的に知ることができるため、次の治療計画に役立ちます。

また、医師と一緒に喘息管理を行うことで、以下のような大きなメリットがあります。

・喘息発作のリスクを低減
定期的な通院により、発作の引き金となる原因を早期に発見・対処できます。

・発作時の重症化を回避
発作が起きた場合でも、適切な治療を受けていることで症状を軽減できる可能性が高まります。

・生活の質(QOL)の向上
症状が安定することで、日常生活や仕事、趣味をより安心して楽しむことができます。

このような理由から、喘息管理を自己判断に頼るのは危険です。

医師の指導のもと、定期的にサポートを受けることで、現在の治療がご自分に合っているのかを確認し、必要に応じて調整を加えることができます。

これにより、長期的な喘息管理が可能となり、患者さんの健康と生活の質が大きく改善します。

喘息管理は「自分一人ではなく、医療チームと一緒に取り組むこと」が大切だといえるでしょう。

【参照文献】厚生労働省『成人喘息の疫学・診断・治療と保健指導・患者教育』
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-07.pdf

◆喘息治療の定期的な通院ついて>>

5. まとめ

喘息は適切な管理で症状の安定が可能ですが、発作時の対処を誤ると命に関わる危険があります。

日常的な予防と発作時の冷静な対応が、患者さんご自身と周囲の方にとって非常に重要です。発作時には冷静に対応できるよう準備を整えておきましょう。

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