むせるような咳でつらい。原因や考えられる病気
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)

むせるような咳が続くと、咳が出るたびに喉が痛くなったり、呼吸が苦しく感じたりして、夜もぐっすり眠れないこともあるかもしれません。
「ただの風邪かな?」と思っても、なかなか治らないと不安がつのり、日常生活にも支障が出てしまうこともあるでしょう。
むせるような咳は、単なる風邪や一時的な刺激によるものだけではなく、何かしらの原因が隠れていることもあります。放置していると症状が悪化し、思わぬ合併症を引き起こす可能性もあります。
この記事では、むせるような咳が出る原因や考えられる病気、どの診療科を受診すべきか、呼吸器内科でどんな検査が行われるのかなどをご説明します。
1. むせるような咳が出る原因とは
むせるような咳は、気道や肺に異物が侵入した際に起こる体の防御反応です。
例えば、飲食物が誤って気管に入ったときや、細菌やウイルスによる感染、アレルギー物質による刺激などが原因です。それらが咳を引き起こします。
また、気道や食道の機能異常、脳や神経系の異常などもこのような咳の原因となることがあります。
とくに、咳が頻繁に出たり長期間続いたりする場合は、何らかの病気が背景にある可能性が高いため、専門医の診察が必要です。
2. 急激にむせるような咳が出る病気
むせるような咳が急に出て咳以外の症状も伴う場合、以下のような病気が考えられます。
2-1. 気管支炎、肺炎
気管支炎は、気管支に炎症が生じる病気です。風邪などのウイルスや細菌感染が原因となります。とくに、空気が乾燥しやすい秋から冬にかけて発症しやすいです。
気管支が狭くなるため、呼吸がしにくく、むせるような咳が出やすくなります。主な症状は以下の通りです。
・むせるような咳
・痰が絡むことが多い
・発熱
・息苦しさ
肺炎は、さらに進行した感染症で、肺全体に炎症が広がる病気です。
高齢者の方や体力が低下している方、お子様など免疫力が弱い方はとくに注意が必要です。肺炎の特徴的な症状は以下の通りです。
・強いむせるような咳
・高熱
・息切れ
・胸の痛み
気管支炎も肺炎も、咳が続く場合は早めに受診することで悪化するのを防げます。
2-2. 新型コロナウイルス感染症
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的なパンデミックを引き起こしたウイルス感染症です。
むせるような乾いた咳が主な症状の一つであり、他にも以下の症状が現れます。
・乾いたむせるような咳
・発熱
・倦怠感(疲れやすさ)
・味覚・嗅覚の異常
新型コロナウイルス感染症は軽症で治る方もいますが、重症化する場合も少なくありません。とくに息苦しさを感じる場合や咳が長引く場合は、すぐに医療機関へ連絡し、指示を受けることが大切です。
◆『新型コロナは咳が出る?対処法や後遺症、受診の目安も解説』>>
【参考情報】WHO “Coronavirus disease (COVID-19)”
https://www.who.int/health-topics/coronavirus#tab=tab_1
2-3. マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎は、マイコプラズマという細菌による感染症です。症状が軽度であることが多いため「歩く肺炎」とも呼ばれます。
むせるような咳が続くことが特徴で、とくに以下の症状がみられることが多いです。
・夜間に悪化するむせるような咳
・微熱または中等度の発熱
・倦怠感や疲労感
・喉の痛み
マイコプラズマ肺炎は、学童期のお子様や若い年齢の成人に多く見られます。そのため、学校や職場での集団感染にも注意が必要です。
◆『マイコプラズマ肺炎の症状や治療、検査、予防について』>>
【参考情報】厚生労働省『マイコプラズマ肺炎』
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mycoplasma.html
2-4. 百日咳
百日咳は、ボルデテラ・ペルタシスという細菌によって引き起こされる感染症です。特徴的な症状として、むせるような激しい咳発作があり、とくに夜間に悪化します。
・激しい咳発作
・咳の後に「ヒュー」と音がする呼吸音
・嘔吐を伴うことがある
・軽度の発熱
注意が必要なのは、乳児の感染です。乳児の場合、重症化のリスクが高く、生命にかかわることもあるため、予防接種が重要です。
近年では、大人の患者さんも増加しており、2010年には患者の56%が20歳以上の成人だったという報告もあります。
大人の場合、症状が軽いことが多いですが、気づかないうちに子どもに感染させてしまう危険性があるため、注意が必要です。
【参照文献】国立感染症研究所『百日咳とは』
https://www.niid.go.jp/niid/ja/from-idsc.html
3. むせるような咳が長く続くときに疑われる病気
むせるような咳が長期間続く場合は、感染症以外の疾患も考えられます。ここからは、長期にわたる咳の原因となる病気をご紹介しましょう。
3-1. 感染症以外の呼吸器疾患
急性の感染症ではないものの、むせるような咳が長期間続く呼吸器疾患として、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などが挙げられます。
・喘息
気道の慢性的な炎症による疾患です。喘息では、むせるような咳が夜間や早朝に悪化することが多く、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)音が特徴的です。
環境やアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)によって症状が悪化するため、原因を特定して適切な治療を行うことが大切です。例えば、ホコリや花粉、ペットの毛などが原因で咳がひどくなることが多いので、それらを避ける生活習慣や薬による治療が効果的です。
◆『喘息とはどんな病気か?症状・原因・治療方法を解説!』>>
・COPD
主に長年の喫煙によって引き起こされる肺疾患で、咳や痰、息切れが主な症状です。
朝方にむせるような咳が出やすく、進行すると呼吸困難が増します。とくに喫煙歴がある方は、早期の診断と治療が必要です。
3-2. アレルギー疾患
アレルギーも、むせるような咳の原因となることがあります。代表的なものには気管支喘息や花粉症、アトピー咳嗽が挙げられます。
・気管支喘息
気道の慢性的な炎症によるアレルギー疾患です。主な症状として、発作性の呼吸困難、喘鳴、咳、胸苦しさなどが現れます。
これらは、夜間や早朝に悪化することが多いです。気道過敏性が亢進しているため、さまざまな刺激に気道が過剰に反応し、気道の狭窄を引き起こします。
・花粉症
花粉に対するアレルギー反応で、咳や鼻水、目のかゆみなどの症状が出ます。春や秋など、花粉が飛ぶ季節によって症状が強くなります。
・アトピー咳嗽
アトピー咳嗽は、アレルギー体質の方に多く見られる慢性的な咳で、夜間にむせるような乾いた咳が続くことが特徴です。
咳は長期間にわたることが多く、日中はあまり症状が出なくても夜になると強く現れることがあります。喘息とは異なり、呼吸困難や、ゼーゼーとした喘鳴がほとんど見られない点が特徴です。
アトピー咳嗽は通常の気管支拡張薬があまり効果を示さないことも多く、治療には抗アレルギー薬やステロイドが使われることがあります。
3-3. 耳鼻咽喉科系の疾患
耳鼻咽喉科系の疾患もむせるような咳の原因となることがあります。代表的なものには副鼻腔炎が挙げられます。
・副鼻腔炎
鼻腔周囲の空洞(副鼻腔)が炎症を起こす病気で、後鼻漏と呼ばれる鼻水が喉に流れ込むことで、むせるような咳が出やすくなります。鼻づまりや顔の圧迫感も併発することがあります。
3-4. のどの筋力低下による誤嚥
加齢や神経疾患などにより、喉の筋力が低下すると、食べ物や飲み物が誤って気管に入りやすくなり、誤嚥が引き起こされます。この場合、むせるような咳が頻繁に出ることがあります。
誤嚥が原因でむせるような咳が続く場合、誤嚥性肺炎などの合併症を引き起こすリスクがあるため、早めの診察と適切な治療が重要です。
【参考情報】日本呼吸器学会『誤嚥性肺炎』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-12.html
3-5. 脳や神経の疾患
脳梗塞やパーキンソン病などの神経疾患は、嚥下機能を低下させることがあり、これにより誤嚥のリスクが高まります。
誤嚥とは、前述の通り食べ物や飲み物が誤って気管に入り、むせたり咳き込んだりする状態です。こうした誤嚥は、食事中や食後に頻繁に起こり、むせるような咳や痰が絡んだ咳の原因となります。
神経疾患に関連する咳や誤嚥の主な症状には、次のようなものがあります。
・食事中や食後のむせ
食べ物や飲み物が気管に入ることで、食事中や食後にむせることが頻繁に起こります。
・痰が絡んだ咳
誤嚥が繰り返されることで、痰が溜まりやすくなり、痰が絡んだ咳が続くことがあります。
・声のかすれ
嚥下機能の低下や誤嚥によって声帯に負担がかかり、声がかすれることがあります。
・飲み込みにくさ
食べ物や飲み物がうまく飲み込めない感覚(嚥下困難)があり、飲み込みに時間がかかる、あるいは食事が不安になることもあります。
3-6. 胃食道逆流症
胃食道逆流症は、胃の内容物が食道に逆流する疾患です。逆流が喉まで達すると、むせるような咳の原因となることがあります。
主な症状には以下のようなものがあります。
・むせるような咳(特に夜間や食後に悪化)
・胸やけ
・喉の違和感や痛み
・嗄声(声がかすれる)
胃食道逆流症による咳は、ほかの呼吸器症状を伴わないことが多いため、診断が難しいことがあります。
3-7. 心因性咳嗽
ストレスや心理的な要因が原因で、むせるような咳が出ることがあります。これを心因性咳嗽と呼び、特定の状況で咳が悪化することが特徴です。
心因性咳嗽の特徴には以下のようなものがあります。
・むせるような乾いた咳
・他の身体的な症状がない
・ストレスや特定の状況で悪化する
・通常の咳止め薬が効きにくい
心因性咳嗽の診断は、ほかの原因を慎重に除外した上で行われます。治療には、ストレス管理や心理療法を用います。
4. 何科を受診すればいい?
むせるような咳が続く場合、原因に応じた診療科の受診が必要です。咳の原因はさまざまであるため、症状や関連する状態に応じて適切な科を選ぶことが大切です。
ここからは、むせるような咳の症状に対して、受診先として考えられる診療科についてご紹介しましょう。
4-1. 呼吸器内科
むせるような咳で何科を受診すべきか迷った場合、まずは最初に受診を考えるべき診療科は呼吸器内科です。呼吸器内科は、気管支や肺など呼吸器系全体に関わる疾患を専門に扱っています。
咳が2週間以上続く、呼吸が苦しい、胸の痛みがあるなどの症状がある場合、呼吸器内科での診察を検討するといいでしょう。呼吸器内科では、胸部のレントゲンやCT、呼吸機能検査などを用いて咳の原因を総合的に評価し、適切な治療をすることが可能です。
4-2. アレルギー科
咳がアレルギー反応によるものである可能性がある場合は、アレルギー科の受診が適しています。アレルギー持ちの方や、花粉症などが疑われる場合に有効です。
アレルギーによるむせるような咳は、季節や環境によって悪化することが多いため、適切な治療を受けることで症状のコントロールが可能です。
4-3. 耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科は、鼻や喉、耳の症状に対応する診療科です。むせるような咳とともに鼻づまりや副鼻腔の症状がある場合は、耳鼻咽喉科の受診が適しています。
耳鼻咽喉科で対応できる主な疾患や症状には以下のものがあります。
・副鼻腔炎(蓄膿症)による後鼻漏が原因で起こる咳
・喉や声帯の炎症による咳
・鼻水が喉に流れ込むことで引き起こされるむせるような咳
耳鼻咽喉科では、喉や鼻の内視鏡検査を行い、炎症や副鼻腔の状態を確認しながら治療が進められます。
4-4. 消化器内科
むせるような咳とともに、胸やけや胃の不快感を感じる場合、消化器内科の受診が適しています。この場合、胃食道逆流症が原因となっている可能性があります。
消化器内科医は消化器疾患による咳の原因を特定し、適切な治療を行うことが可能です。
5. 呼吸器内科で行う検査
呼吸器内科では、むせるような咳の原因を特定するためにさまざまな検査が行われます。主な検査方法について詳しく説明します。
5-1. 感染症の検査
咳の原因が感染症によるものであるかを確認するため、以下のような検査が行われることがあります。
・インフルエンザ迅速検査:鼻腔や喉から採取した検体を用いて、インフルエンザウイルスの有無を短時間で判定します。
・新型コロナウイルス検査:PCR検査や抗原検査によって、新型コロナウイルス感染の有無を確認します。
・喀痰培養検査:咳とともに出る痰を培養し、細菌感染の有無や原因菌を特定します。
これらの検査を通じて感染症の有無を確認し、早期に適切な治療が行われます。
5-2. 画像検査
呼吸器の状態を詳しく確認するために、画像検査が行われます。
・胸部X線検査:肺や気管支の状態を大まかに確認し、肺炎や気胸などの診断に役立ちます。
・胸部CT検査:X線検査よりも詳細に肺や気管支の状態を確認し、間質性肺炎や肺がんの早期発見に役立ちます。
これらの検査を通じて、むせるような咳の原因となる構造的な異常や病変を特定することができます。
5-3. 血液検査
血液検査では、以下のような項目を調べて咳の原因を探ります。
・炎症マーカー(CRPなど):体内の炎症の程度を確認します。
・白血球数:感染症の有無や重症度を判断します。
・アレルギーマーカー(IgEなど):アレルギー性疾患が疑われる場合に、アレルギーの可能性を評価します。
血液検査により、感染症やアレルギーの有無を把握し、適切な治療方針を決定します。
5-4. 呼吸機能検査
呼吸器内科でよく行われるのが、呼吸機能検査です。呼吸機能検査では、肺や気道の働きを評価します。
・スパイロメトリー:肺活量や1秒量などを測定する基本的な呼吸機能検査です。喘息やCOPDなどの診断に有効です。
・モストグラフ:通常の呼吸をしながら気道抵抗を測定する検査で、喘息などの診断や経過観察に役立ちます。
これらの検査を通じて、むせるような咳の原因となる呼吸器疾患を客観的に評価し、治療方針を立てることができます。
6. おわりに
むせるような咳は、軽度なものから深刻な疾患まで、幅広い原因で引き起こされます。
咳は体からのサインであり、無視することはできません。適切な医療を受けることで、症状の進行を防ぐことが可能です。特に、咳が2週間以上続く場合は、呼吸器内科の受診を早めに検討しましょう。