気管支炎ってなに?
(横浜日ノ出町呼吸器内科・内科クリニック院長)
気管支炎は、気管支の内壁が炎症を起こす状態です。悪化した場合、さらに気管支の奥で炎症がおこり肺炎となる可能性も考えられます。とくに高齢者の方や免疫力が落ちている方は注意が必要です。
症状は、咳、痰、ときには呼吸困難になることもあり、病状によって急性気管支炎と慢性気管支炎に分類されています。
この記事では、それぞれの気管支炎の症状と原因、治療法をご説明します。
1.気管支炎はどんな病気?
気管支炎は、呼吸器系の病気のひとつで、気管や気管支に炎症が生じている状態です。
一般的な風邪(上気道炎)が鼻や喉の周辺で発生するのに対し、気管支炎はそれよりも深い気道部分に炎症が起こります。
気管支炎の主な症状は呼吸器症状です。咳や痰、呼吸する際に「ゼーゼー」と音がする喘鳴(ぜいめい)、場合によっては息苦しさや息切れがみられます。
気管支炎はその経過によって、以下のふたつに大別されます。
<急性気管支炎>
急性気管支炎はウイルス感染が原因であることが多く、風邪やインフルエンザの後に発症することもあります。一般的に短期間で発症し、数週間以内に自然に改善することが多い気管支炎です。
<慢性気管支炎>
気管支炎の症状が3か月以上2年連続で続く場合、慢性気管支炎とされます。
原因としては、喫煙や大気汚染、職業的に有害な物質に触れる機会が多い状況などです。慢性気管支炎は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の一形態とも考えられています。
【参考文献】❝bronchitis❞ by mayo clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/bronchitis/symptoms-causes/syc-20355566#:~:text=
2.急性気管支炎とは
急性気管支炎について症状や原因、治療法についてご紹介します。
2-1.症状
以下は、急性気管支炎の主な症状です。
<咳>
最も一般的な症状で、初めは乾いた咳が多いです。時間が経つにつれて痰を伴う咳に変わります。
<痰>
色がついている(黄色や緑色)、または透明な痰がでます。
<発熱>
初期段階で発熱する場合があります。
<息苦しい>
とくに深く呼吸をするときに息苦しさを感じることがあります。
<胸部の違和感>
咳き込むことで胸に痛みを感じることがあります。
赤ちゃんや子供が急性気管支炎にかかった場合には、重症化する可能性があります。とくに乳幼児がRSウイルスなどの原因で気管支炎にかかった場合は重症化しやすいとされています。
気管支が狭くなることで、ヒューヒュー、ゼーゼーといった苦しそうな呼吸音が聞こえることがあります。これは、気管支の通り道が炎症によって狭まっているためで、十分に空気を吸い込めていない状態です。
さらに、食欲不振や活動量の減少もみられることがあります。元気がない、いつもよりもおとなしい、大好きなおもちゃに興味を示さない場合は、注意が必要です。
病院の受診判断には、次のような症状を目安にしましょう。
症状が数日以上にわたって改善しない場合や、高熱(特に38℃以上)が続く場合、また、呼吸困難が見られる場合、ヒューヒュー、ゼーゼーといった呼吸音が聞こえる状態は、早急に医療機関を受診する必要があります。
2-2.原因
急性気管支炎は多くの場合、ウイルス感染が原因となります。
とくに、インフルエンザウイルス、ライノウイルス、RSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)など、呼吸器系に影響を与えるウイルスです。
一方で、細菌による感染症が急性気管支炎の原因となる場合もあります。
たとえば、マイコプラズマ肺炎菌や肺炎球菌などです。ウイルス感染に続いて細菌感染が併発する場合もあります。
加えて、防カビスプレーや家庭用洗剤、塗料などの化学物質が原因で起こるケースもあります。これらは、呼吸器系に刺激を与え、気管支の炎症を引き起こす可能性があります。
とくに、揮発性有機化合物(空気中の有機化合物の総称)やアンモニア、塩素などが含まれる製品の使用時には注意が必要です。
化学物質を含む製品を使用する際は、適切な換気を行い、可能な限りマスクや手袋を着用しましょう。
2-3.急性気管支炎の治療
急性気管支炎の治療は、主に症状の緩和と自然な回復力をあげることを目的とします。
原因がウイルスによるものである場合は抗生物質は効果がなく、細菌による感染が明確に診断された場合を除き、抗生物質は処方されません。正確な原因の鑑別が非常に重要で、正しい治療方法を選択していく必要があります。
ウイルスが原因である場合、主な治療は以下のような対症療法です。
安静にすることで体力を温存し、自然治癒力を高める
十分な水分補給を行い、脱水を防ぐ
解熱剤や鎮痛剤(アセトアミノフェンやイブプロフェンなど)を使用して、発熱やからだの痛みを和らげる
咳止め薬や吸入薬を使用して、呼吸を楽にし、咳の症状を緩和する
細菌による感染が原因である場合、適切な抗生物質が処方されます。
抗生物質は、原因と考えられる細菌の種類に基づいて行われます。一方で原因を特定することが困難な場合も多く、抗ウイルス薬や抗生物質が使えないという場合も多々あります。
そのため、安静と十分な栄養によって免疫力を上げていくことも重要です。
3.慢性気管支炎とは
急性気管支炎について症状や原因、治療法についてご紹介します。
3-1.症状
慢性気管支炎の主な症状を以下にご説明します。
<咳>
慢性気管支炎の最も一般的な症状です。とくに朝方がひどくなることが多いです。
<痰>
咳とともに、透明、白、黄色、または緑色の痰が多量にみられることがあります。
<息切れ>
早歩きや階段の上り下りなどをはじめとした活動時にとくに顕著になります。
<胸部の圧迫感や不快感>
気道の炎症と痰により、胸部に圧迫感や不快感を感じることがあります。
<頻繁な呼吸器感染症>
慢性気管支炎の方は、風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症にかかりやすい場合が多いです。
診断上は、原因不明の咳や痰が1年のうち3か月以上続き、さらにそれが2年以上続く場合に慢性気管支炎の可能性が検討されます。
3-2.原因
以下が慢性気管支炎の主な原因です。
<喫煙>
喫煙は慢性気管支炎の最も一般的な原因です。タバコの煙に含まれる有害物質が気管支の炎症を引き起こし、痰の過剰な産生を促します。
<大気汚染>
工場の排気ガスや自動車の排気、さらには室内の空気汚染も、慢性気管支炎のリスクを高めます。
<職業的曝露>
化学薬品や粉塵、有害ガスなど、特定の職業における曝露も原因となることがあります。
<頻繁な呼吸器感染症>
繰り返し発生する呼吸器感染症は、気管支の炎症を悪化させ、慢性気管支炎を引き起こすことがあります。
<遺伝的要因>
特定の遺伝的要因が、慢性気管支炎の発症リスクを高める場合があります。
慢性気管支炎患者さんの中には、気道から肺にかけて広範囲に炎症が発生し、肺機能検査で気流閉塞の証拠が見られる場合があります。このような場合、「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」と診断される場合が一般的です。
慢性閉塞性肺疾患とは、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれる病気の総称です。たばこの煙を主とする有害物質を長期的に吸い込むことが原因とされています。
3-3.治療
慢性気管支炎の治療は、症状を緩和し、進行を遅らせるためにさまざまな方法が取られます。
<禁煙>
喫煙は慢性気管支炎の主要な原因で、症状を悪化させる最大のリスク要因です。喫煙者の方の場合、治療において禁煙が最も重要といえるでしょう。
<吸入薬の治療>
症状の緩和のため、吸入ステロイドや気管支拡張薬などの吸入薬を用います。
<酸素療法>
症状が重症化し血中の酸素レベルが低下した患者さんには酸素療法が検討されます。
自宅など病院以外の場所で、酸素供給機器を使用し不足している酸素を吸入することで行われます。
<呼吸器リハビリテーション>
呼吸法の指導、運動のサポート、栄養相談などを通じて、患者さんの生活の質を改善します。
<予防接種>
インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの予防接種も治療として有効です。 呼吸器感染症を予防し、慢性気管支炎の悪化を防ぎます。
【参照文献】一般社団法人 呼吸器学会『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
4.おわりに
気管支炎は、気管支の炎症を引き起こす病気で、原因や治療方法は多岐にわたります。
予防と治療には、日々の生活習慣の改善が非常に重要です。規則正しい生活を心がけ、手洗いやうがいを習慣にしましょう。また、禁煙は呼吸器の健康を守る上で欠かせない対策の一つです。